2004年08月06日

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怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか
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■ブランドマントラとしてのInspire The Next

音の持つ質感(クオリア)、サブリミナル効果についての本である。


「車の名前にはCがいい」(例・カローラ、クラウン、セドリック、シビック等)
「女性雑誌はNとMが売れる」(例・ノンノ、アンアン、モア等)
「人気怪獣の名前には必ず濁音が入っている」(例・ゴジラ、ガメラ、キングギドラ等)」

言葉を構成する音素にはそれぞれ固有の質感があって、それが聞くものの深層心理に影響を与えるのではないか?という仮説をこの著者は徹底的に研究した。ことばを構成する音素を解析して感性イメージ化するのだ。

たとえば日立のキャッチコピー「Inspire The Next」。著者のメソッドで音素分析すると「光の粒が胸の中に飛び込んできて、やさしい閃光を発する」イメージなのだという。こうしたキャッチはブランドマントラと呼ばれ、文章自体にたいした意味がなくとも、繰り返し聞かされるだけで、そのイメージが刷り込まれる、サブリミナル効果があるという。
そして、一般に濁音は若い男性を刺激すると結論している。たとえばB音を発生する際の口腔の動きは「閉じた唇から溜めた息を放出させ、両唇を震わせて出す音である。発音直前の溜めた息が唇を膨らますので、私たちの脳には、まず、膨張の印象が強くもたらされる。」である。この動作は膨張+放出+振動であり、貯めて放出し、増えて賑やかになる音なのだそうだ。男の生殖行為に近いイメージがある故に、若い男性を刺激する。だから怪獣の名前はガギグゲゴなのだという。

ドラゴングループというベンチャー企業がある。創業社長の甲斐さんと5年位前にお好み焼きを食べながら「なんでまたドラゴンという名前になったんですか?」と尋ねたことがあった。答えは「ゴジラとかドラエモンとか濁音が入った名前にしたかったんですよ」。数人だったこの会社は、その後も順調に若い男性社員を魅了して人員拡大、今も成長している。この本流にいえば、二つも濁音が入っている社名だったからだろう。その意味ではデータセクションもリンゴラボも有望であろう(これが言いたかったのですよ)。

■科学とマーケティング

発声する側の口腔内の運動が脳にもたらす質感(強いとか弱い、寒いとか暖かい、乾いている、粘り気があるとか)と、その響きがもたらす質感に注目したのはとてもユニークな視点だと感動した。特に日本語は母音と子音の組み合わせが明確な行列=五十音図として構成されるので、数値分析に持ち込みやすいらしい。著者はこうした要素をチャート化し、言葉の持つイメージを分析するマーケティングメソッドを開発してビジネスにしている。

・株式会社 感性リサーチ
http://www.kansei-research.com/
リサーチ例など情報がある。

世界の言語を広く調べると音素と意味の結びつきが発見できるという。たとえば英語の接頭辞「Co-」と「共」は言語の歴史をたどると同じ語源を持つらしい。そういえば英語の授業のときに日本語の「そう思う」の「そう」と英語の「So」が似ているという話を聞いた。口腔の動きの持つ質感は、人類に普遍のものだから、ことばの類似性が発声していると著者は言う。

この分析が科学といえるかどうかはかなり疑問が残る。口腔内の動きを文章化しているが、記述の仕方は他に何通りも考えられるはずだ。また仮に運動の客観記述ができたとしても、現在の脳科学の技術(MRIなど)ではミリ秒単位の活性化を検出できないので、動作と脳の反応の因果関係が証明できないだろう。言語の類似性は、ある程度は語源の共有例があるのだろうが、たまたま類似したものを取り上げて比べた部分のほうが多そうだ。

またことばの持つ他の効果、たとえば言葉の意味、字形、市場の競合製品名との関係など、他の要素と音素の効果を明確に切り分けることは難しい。音はゲシュタルトであり、全体のまとまりが微妙なはたらきをしているはずだ。音素だけ分析しても、効果の立証といえないと思う。この分析手法は科学的とは言えそうにない。

だが、マーケティングが科学である必要はないのではないか、とも考える。科学を装っても現実の企画実行に移すにはどこかで誰かが「エイヤッ」をやる必要がある。直感にもとづいた創造的跳躍。組織決定者は、ある程度のエイヤッの裏づけが欲しい。その段になって数値や論理の説明が、歓迎される。

このメソッドは科学的で普遍的かどうかはともかくとして、直感的にうなづける部分が多く、ツールとして効果もあるのではないかと感じた。ネーミングを考えるマーケッターには、考え方のひとつとして、とても有益だと思う。一応、理論があるからプレゼンしやすいですしね。

関連情報:

・苗字の最初の文字と名前の最初の文字を入れ替えてみました
http://homepage2.nifty.com/sledge_hammer_web/names.htm

名前と姓の一文字目を取り替えるとマヌケな響きになる

ハシモト ダイヤ → ダシモト ハイヤ
タグチ ゲン → ゲグチ タン
コイズミ ジュンイチロウ → ジュイズミ コンイチロウ

・フォント考、印象の良さ、強さ、周辺ビジネス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000526.html

フォントの持つ誘導場について


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Posted by daiya at 2004年08月06日 23:59 | TrackBack このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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Comments

以前とある講演会で、認知科学者の下條信輔氏がしていた話ですが……

未知の言語の単語を、人に文字で示しても意味を当てる率はきわめて低いが、音読して聞かせるとその率がグッと上昇するという実験があるんだそうです。

考えてみれば、動物の鳴き声でも、威嚇や警告みたいな強い意味(?)を持ったものなら私たちにもおおよその見当がつきますよね。

ある程度は、ガギグゲゴ仮説の成立する部分があるのかもしれないという気がしてきました。

Posted by: yabu at 2004年08月07日 13:14

2つの言語の単語を出して、
「音が似ているから語源は同じ。」というのは言語学ではご法度なんですがねぇ・・・
共-Coやそう-soの話は
「『坊や』とboyは音が似ているから語源が同じ」
っていうようなもんですよ。

Posted by: ishida at 2005年02月14日 09:30