刑務所の前

| | トラックバック(0)

・刑務所の前 (第1集)
510TXY8Y0GL__SL500_AA240_.jpg

猟奇的にして耽美的な作風で知られる異才の漫画家 花輪和一。私はこの人の漫画はほとんど保有している。花輪氏は90年代、モデルガンの趣味が高じて改造銃や実銃の所持で逮捕されたことはよく知られている。出所後に懲役3年の体験を漫画「刑務所の中」として描いたら、ヒットして映画にまでなったから。

「刑務所の中」は私も読んでいたのだが...。「中」でお腹いっぱいになり、「刑務所の前」という作品はもういいやと思って、買い忘れていた。ところが、むしろ、こちらの方がずっと花輪らしくて面白いのである。

・刑務所の前 (第2集)
keimushonomae02.jpg

もともと花輪作品の真骨頂は時代モノ。刑務所体験漫画などではない。江戸時代とか平安時代を舞台に、陰惨でドロドロした男と女の因縁や怨念を描くことにかけて、日本有数の凄い人なのだ。自分を主人公に獄中生活を綴った「刑務所の中」のようなドキュメント漫画は飽くまで余技のはずなのだ。

「刑務所の前」は、なぜ自分が銃刀法違反で捕まり懲役3年で投獄されたのかを説明する漫画である。それなのに、どういうわけか主な舞台は江戸時代である。主役は花輪ではなくて、鉄砲鍛冶の生真面目な父のもとで暮らす娘や、良家に生まれながら己の両親の浅ましさに宗教に救いを求める少女とかの話だ。長大な時代劇の幕間に、現代に戻って逮捕に至った状況説明が挟まる。

・刑務所の前 (第3集)
418AhgA2OHL__SL500_AA204_.jpg

ひと言で片付けると、逮捕は銃に魅入られるフェチシズムや規範意識の薄さが理由なわけだが、それを直接に言わずに、得意の時代劇ドラマに作品化した。要は世の中に対しての、物凄く迂回した言い訳作品なのだ。この方がなぜ刑務所に入るはめになったのかのわかりやすい説明になっている。業の深い作品を描けるのは花輪自身がドロドロの業を抱えているからなんだなあと納得させられるわけである。

「刑務所の中」は大ヒットだったが、本来の花輪作品らしい、こちらは一般人には受けないだろう。でも、こっちのほうがずっと面白いと思う。私も業が深いのか。ただの悪趣味なのか。

・「失踪日記」 「刑務所の中」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004916.html

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 刑務所の前

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/2292

このブログ記事について

このページは、daiyaが2008年11月20日 23:59に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「アイドルのウエストはなぜ58センチなのか―数のサブリミナル効果」です。

次のブログ記事は「リトル・チャロ Vol.1 ロスト・イン・ニューヨーク」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1