中空構造日本の深層

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・中空構造日本の深層
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元文化庁長官の心理学者 河合隼雄の論考。もはや古典。日本の神話、昔話の分析を通して日本人の深層構造を理論化した。

1 アメノミナカヌシとタカミムスヒとカミムスヒの、アメノミナカヌシ
2 アマテラスとツクヨミとスサノオの、ツクヨミ
3 ホデリとホスセリとホオリの、ホスセリ

古事記にはそれぞれ3柱がセットで生まれてきたのに、その後の神話にほとんど登場しない影の薄い神がいる。たとえばアメノミナカヌシは漢字で書くと天之御中主であり、まさに世界の中心に位置する重要な神のはずなのに、その他の二柱と違って、古事記冒頭の記述以降はちっとも出てこない。アマテラス(太陽神)、ツクヨミ(月神)、スサノオ(海神)の組では、多くの文化で太陽神と月神はセットで活躍するのに、日本神話ではツクヨミの登場場面はほとんどない。ホデリは海幸、ホオリは山幸で有名な兄弟の争いの物語があるのに、一緒に生まれたホスセリはチョイ役で目立たない。

そしてスサノオは神々の世界を追放された手のつけられぬ暴れん坊であると同時に、出雲に降りて偉大な神となる。アマテラスは実の兄弟のスサノオに翻弄されて戸惑う存在である。著者はこういった動きを、日本の神話では何かの原理が中心を占めるということがなく、中空のまわりを巡回していると表現している。

「つまり類似の事象を少しずつ変化させながら繰り返すのは、中心としての「空」のまわりを回っているのであり、永久に中心点に到達することのない構造であると思われる。このような中空巡回形式の神話構造は、日本人の心を理解する上において、そのプロトタイプを提示しているものと考えられるものである。」

日本人はひとつの原理に統合されることを嫌う。天皇は第一人者だが権力者ではないというように敢えて「無為の中心」としておく。そしてその周囲の対立者たちもまた完全な善や完全な悪という立場をとらず、一方が他方をやりこめると次は必ずゆりもどしがくるという風に、巧妙に中空構造を保つよう均衡を維持してきた。

「中空が空であることは、善悪、正邪の判断を相対化する。統合を行うためには、統合に必要な原理や力を必要とし、絶対化された中心は、相容れぬものを周辺部に追いやってしまうのである。空を中心とするとき、統合するものを決定すべき、決定的な戦いを避けることができる。それは対立するものの共存を許すモデルである。」

「わが国が常に外来文化を取り入れ、時にはそれを中心においたかのごとく思わせながら、時がうつるにつれそれは日本化され、中央から離れていく。しかもそれは消え去るのではなく、他の多くのものと適切にバランスを取りながら、中心の空性を浮かびあがらせるために存在している。」

中空構造論から、日本には、自らの力で全体を統率する大統領的なリーダーが出てこないのは人材がいないからではなく「リーダーというよりはむしろ世話役」として全体のバランスをはかる人がまとめ役として求められてきたからだというリーダーシップ論にも発展する。

今読むと、多様な思想を共存させるエコシステムとして、日本人の精神の深層にある中空・均衡構造は、ネットワーク時代の世界が持つべき構造のヒントになりえる気もする。欧米型の中心統合構造に対して日本は劣っているのではなく、むしろ中空・均衡構造という優れた構造を持っているのだと胸を張るべきなのだ。まあ、胸を張って言わないのが中空均衡構造のリーダーでもあるのだけれど。

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このページは、daiyaが2008年12月 4日 23:59に書いたブログ記事です。

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