ベガーズ・イン・スペイン

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・ベガーズ・イン・スペイン
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プロバビリティ3部作で知られるSF作家ナンシー・クレスの中短編を7本収録。読み応えのある作品ばかりで満腹。

表題作の『ベガーズ・イン・スペイン』は21世紀初頭を舞台に、遺伝子改変技術によって睡眠を必要としない天才児たちの第一世代を描いた近未来SFだ。凡人の努力では到達できない資質を自然に身につけてしまう彼らは、一般人から妬まれ孤立する。

人生の3分の1を自由に使えるのだから、それだけでも無眠人は有利である。(そういえばドラえもんにもあったなそういう話が...。)。不眠不休の天才児達は少数であったが、成長するにつれ社会に大きな影響力を及ぼし始める。

「新しいテクノロジーは、解放的であると同時に危険でもある。しかし、長期的に見れば、社会的束縛は新しいテクノロジーに屈服するにちがいない。」というフリーマン・ダイソンの言葉(本書中の扉に引用されている)がある。自然を征服するつもりが技術に屈服するのが人間の運命なのかもしれない。

この作品はヒューゴー賞、ネビュラ賞ほかSF文学賞を総ナメにした。

『密告者』

社会的に共有された現実こそ真の現実であるという異星人たちのもうひとつのリアリティ「共有現実」というコンセプトに引き込まれた。バーチャルとリアルという軸ではなく、ソーシャルとパーソナルという軸に、真実をマッピングしたわけだが、その共有現実って結局、私たちの「常識」と同じものかもしれない。プロバビリティ三部作の原型になった作品。

『ダンシング・イン・エア』

遺伝子改良技術で華麗な演技を可能にするバレリーナ達の話。この世界で少女達は"能力強化"テクノロジーによって骨の形状を最適化し、一般人には不可能な舞踏を演じることができる。そんな時代にあっても敢えて能力強化を使わずオーガニックな芸術を指向するバレエ団の話。


このハードSF作品集は7本とも素晴らしかった。さすが早川。SFファンおすすめ。

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このページは、daiyaが2009年7月 7日 23:59に書いたブログ記事です。

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