2009年11月アーカイブ

・デジタルコンテンツをめぐる現状報告―出版コンテンツ研究会報告2009
41qp2e7579L__SL500_AA240_.jpg

出版コンテンツ研究会(座長:高野明彦 国立情報学研究所)がデジタルコンテンツの前線で人々はどう考えているのか?というテーマで、有識者5人にインタビューした。出版業界の状況を知る統計データも充実している。考える材料がいっぱいの本だ。5本のセミナーに参加したような読後感。

岩本 敏 小学館社長室顧問
佐々木 隆一 モバイルブック・ジェービー代表取締役会長
加茂 竜一 印刷会社勤務
境 真良 経済産業省情報経済課課長補佐
小林 弘人 インフォバーン代表取締役CEO

という顔ぶれ。

出版業界は、実は書籍の売り上げはそれほど減っていないが、新聞と雑誌がインターネットなどに食われて危機的な状況を迎えている。ニュースやひまつぶしのコンテンツならば、タダで手に入る状況にあって有料で情報を売る世界は厳しい。

無償コンテンツの時代は無償で書く人たちの時代でもある。インタビュー聞き手のポット出版 沢辺氏から、ブロガーなど「タダでも書く人たち」との連携が重要なのではないかという問題提起があり、小学館の岩本氏はそうした人たちを編集部が組織化してうまく活用できるようにすればいい、山登りの雑誌の編集などは昔からそうだと答えている。

この無償の書き手を、商業媒体が"組織化"して"活用する"という視点はまさに時代の方向性(メディアに読者ブロガーがぶら下がる)だと思うが、瀕死の雑誌 VS 勃興するブログメディアという力関係では、出版社を"活用する"のはおそらく無償の書き手の方だ。有志の無償投稿で成り立ってきた山登り雑誌と違うのは、書き手が半端な雑誌の読者数を超えるメディアを持ってしまったことだろう。主導権は書き手にある。発想は逆の方がうまくいくのではないかと思った。(無論、小学館ほどの大手で実力のある会社はまだまだ安泰なのだろうけれども。)

出版社には紙が大好きな人たちが入社するため、デジタルコンテンツへの展開力が弱いというイノベーションのジレンマみたいな話もあった。作り手のこだわりが変化を拒む。経産省の境氏は業界の体質を次のように指摘する。

「そもそもコンテンツ業界には一つおかしな特徴があって、出版から映像までどこまで行っても、みんな「ビジネスのやり方」について話すことをものすごくタブー視するんです。「いいモノを作れば売れる」という言い方で逃げてしまって、どうやってモノを作り、どうやって流通させればどうお金が回っていくか、お金にまつわる具体的な話は誰もしない。」

日本の製造業はかつて産業全体が上向きな時代には、モノづくりの職人気質が美徳とされた。職人の理想とするモノを作ることで会社が儲かった。職人はむしろ経営のことなんて考えない方がよかった。しかし、成長が減速する時代、消費が多様化した時代には、このやり方では機能しなくなった。同じことが出版業界にもいえるのだと思う。文化的な価値と経済的な価値の両立こそいいモノという発想転換。編集者にこそ起業家精神が必要になったのだと思う。

モバイルブック・ジェービー佐々木氏によると、日本の電子書籍市場で売れているのはアダルト系で7割だそうだ。まともなデジタルコンテンツ市場はまだ手つかずで、膨大な成長の余地を残している。本好きの起業家として、個人的にとても興味がある。最前線の人たちの言葉を読んで、いろいろとアイデアが湧いてきた。

・新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1055.html

・アメリカで大論争!! 若者はホントにバカか
wakamonohahontonibakaka.jpg

いかにデジタル・テクノロジーが若者の知性を奪い、国の将来を脅かすかを語り、全米で大議論を巻き起こした問題提起の本。

米国の少年少女の読書時間は1日平均たった7分しかないこと、読んだとしてもマンガであること。博物館や美術館には行かずに、ゲームやネットばかりの時間の使い方をしていること。ローマ法王はイギリスのパリにいると答えたり、アメリカ建国の経緯を知らなかったり63%がイラクの位置を知らないなど、山のように若者の無知を示すデータが並ぶ。

著者によるとデジタル・テクノロジーによって引きこもり環境をつくって閉じこもることが、若者がバカになった原因だと断言する。

「若者たちは世間の現実に無関心だ」と言うだけでは不十分である。若者たちはわざと現実との関係を断っているのだ。言いかえれば、身近な現実に閉じこもっていて、友人、勉強、ファッション、車、ポップミュージック、テレビ・ラジオの連続ホームコメディ、フェイスブック(友人などと交流するソーシャル・ネットワーキング・サービスの一つ)以外を遮断しているのだ。日々受け取っている情報や相互のやりとりは、ごく一部に限られていたり表面的であって、政府、外交、内政、歴史、芸術が入りこむことは絶対にない。」

ネットを使えば自分が知りたい情報だけに囲まれて生きることができる。

「ある討論会で16歳の女性パネリストはこう明言した。RSS(サイトの情報を配信するフォーマット)」ばかり頼っていれば「もっと広い世界」が見えなくなってしまうのではとの問いに、「もっと広い世界なんかみたくありません。自分が見たいものだけ見たいのです」。」

こうして視野が狭くなっていくことは確かに情報化時代の落とし穴だ。ネット世代の情報収集を、RSSに象徴させて問題提起をしたのは鋭いなと思った。

だが現在のサブカルチャーが次の世代のカルチャーになることを考えると、上の世代が知らない世界を若い世代は先取りしているのだとも言える。知っていることの総量が減った=バカという構図は必ずしも当たっていないのではないか?とも思える。

著者は読書に関する討論会での若者とのやりとりを次のように紹介している。

「きみたちは、今の下院議長が誰かより、『アメリカン・アイドル』で誰が選ばれたかのほうを6倍も知りたいんだ」と私があおってみたところ、1人の女子学生がこう切り返してきた。『アメリカン・アイドル』のほうが重要なんです。」

そして、若者は世界の指導者よりアイドルが重要だと考えるようなバカだと語る。

だが、これはどうだろうか。私は著者もバカであると思う。若者はある意味では正しい判断をしているのではないか。アメリカン・アイドルで彼らが投票で選ぶ同世代のスターは将来、ただのアイドルを超えて、若者世代の指導者になる可能性がある。少なくとももうすぐ引退の下院議長より、彼らの人生にとって重大な影響力を持つだろう。上の世代のリーダーは選べないが、次世代のリーダーは自分たちで選ぶことができるのだから。

若者はホントにバカか?。これはアメリカだけの問題ではない。日本でも同様のことを言う人たちがいる。

結局、バランスの問題なのだと思う。

老人が最近の若者はバカだ、けしからんと言い続けてきたのが人類の歴史だろう。それを検証しようと思って私は、

・「近頃の若者はなっとらん」と上の世代が下の世代を批判した最古の文献(石板や壁画含む)を教えてください。出典(URLが望ましい)をつけてください。
http://q.hatena.ne.jp/1259504330

という質問をネットに投げかけたのであるが(リンク先を読むと答えがわかる。同時に私がバカだったことが分かる)、数千年前の古代エジプトやアッシリアの石板にもそんなぼやきが書かれていたのだ。

だが実際に若者がバカで滅びたことは一度もなかった。むしろ優れていたから人類の歴史は進歩してきた。同時にそれは上の世代が若者はバカだと警鐘を鳴らし続けてきた歴史と見ることもできる。両世代のせめぎ合いによって、人類はなんとかなってきたのだ。だから、若者はバカではないが、若者バカ論が絶えてもいけないのだ。

そういう意味においてこの本は時代の抑制力であって、まるっきりバカでもないが極めて主張が一面的である。本書の対抗馬である『ダメなものは、タメになる』と一緒に読むとバランスがとれると思う。

・ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-937.html

・ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1015.html

・しゃべってみなはれ大阪弁
51i3zUKfvVL__SL500_AA240_.jpg

大阪弁ハンドブック。先日の大阪行きの新幹線で読んだ。

========================================
何だ、それは → なんやそれ?
例:何だ、それは? へんな髪型ですね
  なんやそれ? かわった髪型やなあ
========================================

のように標準ごとの対応と用例が示される。

あれほど言ったのに → せんどゆうたのに
触ってはいけません → いらいな
うまいこと騙された → いかれこれですわ
わるふざけしないで → てんごせんといて

など、雰囲気では理解できても、実はよくわかっていない項目もちらほらとあって、関西人を妻(と親戚)に持つ私としては勉強になるのであった。しかし、妻や親せきとの会話ではまず登場しない語彙というのもあるのだ。

まったくよくわからなかったのが、

ラブラブ、熱々 → ちんちんかもかも
例:あの二人ラブラブですね
  あの二人ちんちんかもかもや

である。まだまだ知らない領域が広がっているようだ。

今回の大阪の妻の実家への里帰り旅行では、いかにも大阪っぽいところへ行ってみようということになり、

・Seesmic For Windows
http://seesmic.com/
seesmicdesktop01.jpg

デスクトップで使いやすいTwitterクライアント。

Seesmic For Windowsのよいところはタイムラインをキーワードで監視できること。一度、検索したキーワードは保存されて、リストに加わっていく。名前だとかブログ名などを入れておくと、話題がでたときに素早く反応ができる。複数のアカウントや、Twitterリスト機能にも対応している。

Twitter用のWindowsデスクトップ・クライアントソフトはたくさんあるが、これは大量に押し寄せるリアルタイム情報を、いくつかもの小さな流れに分けて読むためのヘビーユーザー向けといえそう。

ここに面白い統計サービスがあって、

・Twitstatのクライアントソフト統計
http://www.twitstat.com/twitterclientusers.html

現在Twitterで使われているソフトを集計している。全体の統計、フォロー数が10-100人、100-1000人、1000人以上の各グループで、何が一番人気があるかがわかる。Twitter本家のWeb版をのぞくと

フォロー数が10-100人では Tweetie 、100-1000人及び1000人以上では TweetDeck という結果になった。ほかにも多数のクライアントがひしめきあっている。

Twitterツールはいろいろ試しているが、メールソフトが似通ったインタフェースになったように、Twitterクライアントもだんだん似たようなデザインに落ち着いてきたなあ、という感想。収束するには早すぎる、もっと斬新なものがあってもよさそうなのだが。

・雌と雄のある世界
31Sz77kCYfL.jpg

分子細胞生物学、分子遺伝学、発生生物学の最先端で、生物の生殖について解明されてきたことが、一般向けに整理されている。

「雌と雄のある生物では二種類の細胞、体細胞と生殖細胞がある。体細胞はひたすら同じ遺伝情報を分かち合いながら分裂増殖し、生殖細胞は遺伝情報の多様性をつくり出す。」という基本原則がある。

実は雌だけでもどうにかなるそうで、クローン技術を使えば雄がいなくても子供をつくることができてしまう。細胞が増えるというレベルではふたつの性は不要なのだ。しかも男性を決定するY染色体は、かなりの速さで衰えていて、これから10万年から20万年後には消えてしまう可能性があるらしい。

プラナリアという面白い生き物の特異な生殖が紹介されている。この生物は温度によって有性生殖と無性生殖を切り替える。餌によっても切り替わる。栄養条件がよいときは無性生殖でどんどん増え、栄養状態が悪くなると有性生殖で多様性のある個体を増やして、生き残る率を高める。

無性生殖のプラナリア個体に、有性生殖の個体を食べさせると有性化する。獲得形質が遺伝している例と見なす説もあるようだ。プラナリアはいわゆる下等生物なわけだけれど、こういうフレキシブルな性に人間も進化していくこともあるのかもしれない。男女がいつでも入れ替われるなら、かなり生き方も変わるだろうな。

結局、生物の世界で雄と雌の二つの性があるのは、その方がゲノムの多様性が生じやすく、進化の速度がより大きいということに尽きるようである。どのような経緯でそうなったのかはまだ解明されていない。多様性ということであれば200くらいの性があってもよかった気もするが。同じゲームをしている人同士がNintendoDSの"すれ違い通信"の如くちゃんとすれ違える確率みたいなものが影響しているのかもしれない。

忘年会議ですが、特別ゲストとして、

勝間和代さん
広瀬香美さん

の出演が決まりました。楽しみ!


忘年会議2009(最終回)開催のお知らせ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/2009-2.html

2009年12月7日(月)に東京大学安田講堂で第1回ウェブ学会シンポジウムが開催されます。。「世界に影響を与えるウェブ研究を行う」にはどうすればよいか、「世界に影響を与えるビジネスを生み出す」にはどうすればよいかを考えるイベントです。

私は、「セッション2: ウェブとコラボレーション -創造とコミュニケーションの相転移― 」で登壇します。「Webコラボレーションの先端事象」をお話しする予定です。

個人的には長尾 真氏(国立国会図書館 館長)の基調講演と、藤末 健三氏(参議院議員、早稲田大学客員教授)、東 浩紀氏(東京工業大学 特任教授)、津田 大介氏(メディアジャーナリスト)らが登場するセッション1: ウェブと政治 ― 民主主義の再発明 ― にも注目しています。

会場は1000人は収容可能ですが、ものすごいペースで申し込みが続いているそうです。年末にWeb系の研究者の皆さん、来年の新規事業アイデアを探しているビジネスマンの皆さん、大集合しましょう。

イベント概要と申し込みはこちら
http://web-gakkai.org/

参加費 1000円(研究者、学生、企業の方、一般の方、奮ってご参加ください。)
第1回ウェブ学会シンポジウム 開催のお知らせ

「ごあいさつ」 より

「 ウェブの社会的影響力は、この15年で圧倒的な存在感を増しています。しかもその傾向はますます強まるばかりです。ウェブの世界に国境はありません。しかし、国内からは、世界に影響を与えるような、革新的なウェブの学術研究やビジネスが生まれていないのも事実です。

ウェブは、技術、学術、ビジネス、制度、文化が一体となって進化します。「世界に影響を与えるウェブ研究を行う」にはどうすればよいか、「世界に影響を与えるビジネスを生み出す」にはどうすればよいかを、研究者、エンジニアをはじめ、経営者、投資家、法律家、行政・政策担当者など、さまざまな人が「高いレベルで」交流することが重要だと考えます。本シンポジウムは、学術に軸足をおいた相互交流の機会を提供し、世界に影響を与えるウェブ研究・ウェブビジネスを継続的に生み出す場となることを目的とします。皆様のご参加をお待ちしております。


シンポジウム開催概要

開催日 2009年12月7日(月)9:30~18:00
場所 東京大学 本郷キャンパス 安田講堂
主催 ウェブ学会準備委員会 」

イベント概要と申し込みはこちら
http://web-gakkai.org/

・100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図
41SKTv9X47L__SL500_AA240_.jpg

グローバルで物事を考えたいなら読む価値あり。ジャック・アタリあたり(洒落じゃないよ)が好きな人は必読。

#個人的には久々にむさぼるように読んだ本。

各国政府、軍機関、多国籍企業、ヘッジファンドなどを顧客に抱え、「影のCIA」と呼ばれるインテリジェンス企業ストラトフォーのCEOジョージ・フリードマンが書いた長期未来予測。文字通りの100年の計である。著者に言わせれば2008年の金融危機などありふれた景気循環の山にすぎない。

主な予測は以下の通り。

・21世紀はアメリカの時代になる。
・日本、トルコ、ポーランドが新たな覇権国として台頭する
・意外にも中国が世界的国家になることはない
・海洋、そして宇宙を制する者が覇者となる
・2050年頃に勃発する世界戦争は宇宙戦争である
・21世紀後半のアメリカの脅威は隣国メキシコである

10年先だって怪しいのに、100年後の予測など当たるわけがないというのが常識的な見方である。だが、著者の地政学的見地に基づく勢力地図の変化の予想は、結構な説得力がある。国の置かれた地理的な属性というのは不変であるし、水が高い場所から低い場所に流れるように、位置エネルギーは存在するように思えるからだ。攻めにくい国もあれば攻め込まれやすい国があるということは歴史が証明してきた。フランスとドイツのように歴史的に戦争を繰り返す隣国関係も多い。

「国家や政治家は、ちょうどチェスの名人がチェス盤、駒、ルールに制約されるのと同じように、現実の制約の中で、当面の目標を追求する。そのように取る行動が国力を高めることもあれば、国を破滅に導くこともある。」と著者は説明する。これは未来の国家の指導者や国民がどのような意思決定をするかではなくて、むしろチェス盤や駒、ルールに着目しての、枠組みから導かれる予想なのである。

基本的に人口が多く経済規模が大きい国が強いという原則があるようだ。

「一人当たり国民所得は確かに重要だ。だが国際的な影響力にとっては、経済全体の規模の方がより一層重要である。軍事関連費に充当できる原資の規模を決定するのは、経済規模なのだ。ソ連と中国は、どちらも一人あたり国民所得は低かったが、経済規模がとてつもなく大きかったために、強国になることができた。実際歴史を振り返れば、貧しくても巨大な経済と莫大な人口を併せ持つ国が、侮れない国になっている。」

島国で、人口が多く、経済規模が大きな日本は、だから今後も強いのである。2020年頃からアジア進出を目論むだろうと予想されている。平和主義を掲げる日本だが、増長するアメリカが日本の産業の原材料確保を脅かしたとき、軍事的に積極的な国家にガラッと変身するという不穏な内容だ。日本の現在の平和主義は永遠の原理ではなく順応性のあるツールに過ぎないと指摘している。

「日本が大きな社会変革を経ても基本的価値観を失わずにいられるのは、文化の連続性と社会的規律を併せ持つからである。短期間のうちに、しかも秩序正しいやり方で、頻繁に方向転換できる国はそうない。日本にはそれが可能であり、現に実行してきた。日本は地理的に隔離されているため、国家の分裂を招くような社会的、文化的影響力から守られている。その上日本には、実力本位で登用された有能なエリート支配層があり、その支配層に進んで従おうとする、非常に統制の取れた国民がいる。日本はこの強みを持つがために、予測不能とまでいかなくても、他国であれば混乱に陥るような政策転換を、何なく実行することができる。」

そして日本はトルコと同盟してアメリカに対抗する連合の盟主となると予言されている。本書には2050年代のアメリカとの宇宙戦争、その結末まで興味深い未来が記述されている。日本が軍国主義化するというのはともかく、21世紀の主要国家のひとつであり続けるという話はなんだか嬉しい内容である。

著者にかかると私たちが普段重視している経済、技術、文化などというソフトな問題は大局的にみると重要な問題ではないようにさえ思えてくる。地勢、軍事力、人口、制海権などハードな問題が本質にあるという考え方。読みながら何度もうならされた。

・21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/21-1.html

・未来ビジネスを読む 10年後を知るための知的技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/03/10-4.html

・二十年後―くらしの未来図
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/04/post-68.html

・歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000778.html

・22世紀から回顧する21世紀全史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000419.html

・「空気」と「世間」
41qPap9zgDL__SL500_AA240_.jpg

「空気を読め」の空気とは何か。「世間体」が悪いの世間とは何か。演出家 鴻上尚史が阿部謹也の「世間」論と山本七平の「空気」論を融合した。自分に関係のある世界のことを「世間」と呼び、自分に関係のない世界のことを「社会」と呼ぶ。「世間」が流動化してカジュアル化して現れたのが「空気」である、という定義をする。

欧米人は社会に属する人とつきあうことに比較的慣れている。日本人は見ず知らずの人に話しかけることが苦手だ。身内の空気の中に生きていると、冷たい水の社会(山本七平は水=通常性と呼んだ)の論理がわからなくなる。会社や日本を一歩出たら、そこは水の社会が広がっているのに。そこで空気の支配に対応するため「水を差す」役割の重要性が指摘されている。「王様は裸だ!」と指させる子供という、立ち位置が大切なのだ。

現代は地域共同体と会社という二つの世間の安定が壊れた。「世間と神は弱い個人を支える役割を果たしていた」という。だから、よりどころを失った日本人は、なお安心できる何かを求めている。テレビの仕事をしている鴻上尚史は、いまのお笑いブームに「共同体の匂い」への指向を読み取っている。

「お笑い番組が隆盛なのは、「笑って嫌なことを忘れたい」という理由が一番でしょうが、同時に、「他人と同じものを笑うことができる」という「共同体の匂い」に惹かれているからだと思います。 私は孤独じゃない。私たちはバラバラじゃない。なぜなら、同じものを見て、一緒に笑える人たちがいる。同じものを見て、腹から笑える人たちの中に自分がいる。それは「共同体の匂い」です。そして「共同体の匂い」を呼吸することは、人を安心させるのです。」

著者が言うように、インターネットの一番の肯定面は、自分で「共同体」を選べること、複数の共同体にゆるやかに所属すること。そこに著者は可能性を見る。「空気嫁」というジャーゴンがあるように、ネットのコミュニティにも濃密な空気があるが、複数のコミュニティに出入りができるなら縛られないという考え方もできる。

ただ、昔のコミュニティというのはひとつしか属せなかったはずだ。そうした閉鎖的な空気と、ネットのゆるい空気はまた別物かもしれないとも思う。空気というフレーム自体が進化するフェイズを迎えている気もする。いや人間はそう簡単には変わらない?。情報アーキテクチャーと同時に考えるべき重要なテーマだと思う。

空気と世間という伝統的な視点を、同時代の文脈で見事に読み替えていて、大変に面白く読む価値のある本だった。

・「空気」の研究
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/post-1115.html

・表現力のレッスン
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-855.html
・真実の言葉はいつも短い
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-787.html

・映画 THIS IS IT
http://www.sonypictures.jp/movies/michaeljacksonthisisit/

マイケル・ジャクソンの幻に終わったコンサートを、リハーサル映像編集から映画化。

満員の映画館で観てきました。

凄いです。

上映終了でライトがつくと、魅了された観客たちが、そこらじゅうでため息をついている。中には涙ぐんでいる人もいて、その一人が意外にも私だったりして。おかしいな、私はマイケル・ジャクソンの熱烈なファンだったわけじゃないのに。

世界中が注目するMJの10年ぶりの公演。厳しい選抜を潜り抜けた才能たちが、自分のキャリアをかけて憧れのMJとの共演という機会に挑みます。ケニー・オルテガら、プロデュースとパフォーマンスのプロに囲まれながらも、マイケルは映画中で何度となく、キューは自分が出す、と言う。創造の神MJのビジョンを実現させるために、大勢のアーティストとスタッフが総動員され、圧倒的なステージを作り上げていく。そこはリハーサルなのにフルボイスで歌わざるを得ない真剣勝負の世界。だからため息です。

記者会見で「みんなが聴きたい曲でやるよ」とマイケルが発言したように、ヒット曲ばかりで構成されたステージは、80年代の世界的ブームを生きた人ならば、つい手を打ったり、踊り出したくなるノリノリ感。少し違うのは、それがPVではなくて、ライブの緊張感、演出が未完成であるがゆえの生々しさを伴っているところでしょうか。

マイケルの音楽を15年以上聴いていなかったけれど、いまなお健在で、一層研ぎ澄まされていたのだなあと素直に感動します。ああ、この曲は好きだったなあ、こんな曲もあったっけとリハーサルは進んでいきます。そして爆発やクレーンが出てきて演出は派手になっていきクライマックスを迎えますが、Man in the mirrorがかかる頃に、私はとても悲しくなってしまったのです。偉大な才能がこの世から消えていくことへの悲しみ。人類は世界遺産の一つを失ったのだなあと。

・マイケル・ジャクソン THIS IS IT
515YY62B2BevL__SL500_AA240_.jpg

THIS IS ITは早くもCDが出ています。

私は映画を観た後、日本のファンが投票で選んだベスト盤のこちらを買いました。しばらくiPodはマイケルだけ聴くことになりそう。

・キング・オブ・ポップ-ジャパン・エディション
51WNbppUNIL__SL500_AA240_.jpg

1. ビリー・ジーン / Billie Jean (Single Version)
2. マン・イン・ザ・ミラー / Man In The Mirror (Album Version)
3. スムーズ・クリミナル / Smooth Criminal(Radio Edit/ Album Version)
4. スリラー / Thriller (Single Version)
5. 今夜はビート・イット / Beat It (Single Version)
6. バッド / Bad (Album Version)
7. ブラック・オア・ホワイト / Black Or White (Album Version)
8. ヒール・ザ・ワールド / Heal The World (7"Edit)
9. ロック・ウィズ・ユー / Rock With You (Single Version)
10. ヒューマン・ネイチャー / Human Nature (Album Version)
11. ウィ・アー・ザ・ワールド (デモ・ヴァージョン) / We Are The World (demo)
12. セイ・セイ・セイ / Say Say Say (Album Version)
13. スクリーム / Scream (Album Version)
14. リメンバー・ザ・タイム / Remember The Time (Album Version)
15. オフ・ザ・ウォール / Off The Wall
16. ベン / Ben (Single Version)
17. スリラー・メガミックス (ラジオ・エディット) / Thriller Megamix (Radio Edit)

・地域の力―食・農・まちづくり
3170bq2tzsL__SL500_AA240_.jpg

全国で市民と自治体が協力して魅力ある発信を行っている地域を、10か所以上も取材して豊かさの新しいモデルを追究したルポ。料理を彩る「つまもの」として、地元に落ちているもみじや南天の葉っぱを売るビジネスが成功した徳島県上勝町。58年ぶりに路面電車を開業させた富山県富山市。都市農業を広める東京都練馬区と神奈川県横浜市。多様な生き方を可能にする、多様な地域のくらしのモデルが示されている。

地元の声をたくさん紹介している。地域の雰囲気と住民が動くモチベーションの本質がみえてくる。いくつかピックアップしてみると、

「お金じゃないんよ。空いた時間に外へ出たいのもあるし、世の中の役に立ちたいのもあるし、みんなで集まりたいのもあるし。」

「人間にとって出番があることが一番大事。人を元気にするには出番と評価ですよ」

「みんな売上高より順位を気にしてますよ。田舎は隣に負けたくないという気持ちが強いけん。」

「とくに、若い女の子にはパワーとエネルギーがあるから、おっさんはすぐ動くんだよ(笑)」

問題意識や大義名分だけではなかなか人は動かないが、身近なところで楽しいということが重要。地域振興の秘訣としてよく語られる「よそ者、若者、バカ者」の活躍がやはり目立つ。

ここにでてくる地域に共通するのは、

1 地域資源に新たな光を当てて、暮らしに根ざす中小規模の仕事と雇用を発生させた
2 共創型のリーダーの存在
3 IターンとUターンが多い
4 メインの仕事で現金収入を得る傍ら地域の仕事をする人が多い

ということだと著者がまとめている。産業振興より住民のくらしの質を高めようという視点で考えると、結果としては経済的にも上向くみたいだ。

そして地域に根差す多様な地域づくりには、その数だけアイデアが必要である。アイデアマンやデザイナーを今本当に必要としているのは、地域なのだなと思った。

・「ふるさと」の発想―地方の力を活かす
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1075.html

・地域情報化 認識と設計
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/post-384.html

・Prish Image Resizer

http://prishcom.spaces.live.com/blog/cns!6A6A204ABDF15411!128.entry
prishimageresizer01.jpg

このブログの場合、画像を横500ピクセル以下におさえないとはみ出てしまうので、日常的に画像リサイズの作業は必要である。このソフトウェアを使うと、パソコン上の画像ファイルを右クリックから、任意の大きさにリサイズすることができる。

右クリックすると、変換候補の大きさの選択肢が出るので、選ぶだけ。サイズの選択候補は、ユーザー設定で追加することもできる。

1 画像をリサイズしてファイルに保存する
2 リサイズして画像情報をクリップボードに入れるだけ

の2つが選べる。複雑な処理作業に使うツールとしてはファイルを残さない2がなかなか便利である。

百式の田口さんと2003年以来続けてきた忘年会議を今年も開催することになりました。例年通り、ヤフー社の検索チームに協賛していただいて、東京ミッドタウンでの開催です。皆で集まって、今年最高のWebサイトを決める「究極のウェブ」ランキングと、ヤフー検索チームがデータで読み解く2009年のトレンド、そして全員参加で発想を競い合う「全体会議」。今年もまたご参加ください。一緒に楽しみましょう。

今年で7回目の忘年会議ですが、2000年代が終わる本年度をもちまして最終回です。業界の年末風物詩として、一部の皆様に大好評をいただいてきましたが、2010年代は新たな挑戦に向いたい、と主催の二人は考えました。ですから、これが最後、忘年会議の忘年会議ということになります。

以下、プログラムと開催概要です。

■ プログラム

【第一部 発表!究極ランキング!】

みなさんの投稿から読み解く「究極のウェブ」ランキングを発表します。みなさんの生活を変えた、ちょっと小粋なマイナーサイトのランキングを目指します。

【第二部 検索キーワードで読み解く2009年】

日本の検索サービス最大手のYahoo!検索チームから、検索キーワードのデータを使って2009年を振り返ってもらいます。彼らだけが持つ検索データと分析を披露していただき、来年に向けてのヒントをもらってしまいましょう。

【第三部 主催者2009~2010】

主催者の二人は2009年に何を考え、2010年に向けて何にチャレンジするのか。ここらへんは挨拶程度に軽くw。

【第四部 全体会議】

最後はもちろん全員参加の全体会議です。わいわいと交流しながら来年のトレンドを議論しましょう!

■ 開催概要

日時2009年12月12日(土)
15:00~18:00(忘年会議)
18:30~(忘年会)
場所Yahoo! JAPAN社内会議室(六本木ミッドタウン)
詳細は参加確定者にお知らせします。
費用忘年会議は無料。その後の忘年会は実費(3~4千円程度)。
定員抽選で100名程度
協力ranking.gif
備考全員参加の会議を実施します。筆記用具をお持ちください。

■ 事前課題

忘年会議へのご参加には事前課題への投稿が必須となります。お申し込みの際には下記の質問にお答えください。

Q1. 2009年、あなたにとっての「究極のウェブサイト」のURLを教えてください(あまりみんなが知らないようなサイトだとうれしいです)。

Q2. そのサイトが究極である理由を具体的に教えてください。あなたの生活が変わった、ビジネスに役に立った、悲しい日に元気づけてくれた等々、具体的なエピソードを交えて回答してください。

※ 投稿されたアイディアは主催者、参加者、協力・協賛企業によって自由に使用される可能性がありますのでご了承ください。

■ お申し込み


忘年会議のお申し込みは下記フォームにて11月27日(金)の正午まで受け付けます。お申し込みが多い場合、抽選結果は11月30日中にお知らせします。###諸事情により当初予定より早まりました。

» 「忘年会議2009」へのお申込はこちらから!

なお、忘年会議に参加できない方からも「究極のウェブ」投稿を受け付けています。投稿された方には忘年会議開催後に全投稿リストをプレゼントします。他の人がどんなウェブを究極だと思っているのか知りたい方は是非ご参加ください!

» 会議には参加できないけど「究極のウェブ」を投稿したい方はこちら!

それではあなたのご参加をお待ちしております!

・「空気」の研究
515P5VDD5VL__BO2.jpg

日本人に独特の伝統的発想「空気を読む」、「水を差す」とはどういうことか。近代日本社会の情況論理、状況倫理の徹底研究。山本七平、昭和52年初版の名著。負け戦を知りつつ戦艦大和を出撃させた軍部の「空気」は、現代社会、ネット社会でもいまだ根強く残っている。

「われわれの社会は、常に、絶対的命題をもつ社会である。「忠君愛国」から「正直ものがバカを見ない世界であれ」に至るまで、常に何らかの命題を絶対化し、その命題を臨在感的に把握し、その"空気"で支配されてきた。そしてそれらの命題たとえば「正義は最後には勝つ」そうならない社会は悪いと、戦前も戦後も信じつづけてきた。そのため、これらの命題まで対立的命題として把握して相対化している世界というものが理解できない。そしてそういう世界は存在しないと信じ切っていた。だがそういう世界が現実に存在するのである。否、それが日本以外の大部分の世界なのである。」

論理的判断の基準と空気的判断の基準のダブルスタンダードが日本の特徴である。自由な議論の場をつくるためには、必要に応じて話に「水を差す」ということが、実は重要なことなのだ。論理的な議論を重視する西欧社会においては、水こそ通常性なのである。水と空気の比率の違いは、民主主義や多数決原理のあり方にも表れてくる。

「多数決原理の基本は、人間それ自体を対立概念で把握し、各人のうちなる対立という「質」を、「数」という量にして表現するという決定方法にすぎない。日本には「多数が正しいとはいえない」などという言葉があるが、この言葉自体が、多数決原理への無知から来たものであろう。正否の明言できること。たとえば論証とか証明とかは、元来、多数決原理の対象ではなく、多数決は相対化された命題の決定にだけ使える方法だからである。」

今の日本で多数決というのは、責任を曖昧にするときにもよく使われる。失敗したときに誰かが責任を負わずにすむ意思決定方法として登場する。いわば全員で決めることで全員が責任を放棄する方法でもあるわけだ。そういう安易な多数決が日本を滅ぼしていくのだと思う。空気と多数決について、著者はこう続ける。

「これは、日本における「会議」なるものの実態を探れば、小むずかしい説明の必要はないであろう。たとえば、ある会議であることが決定される。そして散会する。各人は三々五々、飲み屋などに行く。そこでいまの決定についての「議場の空気」がなくなって、「飲み屋の空気」になった状態での文字通りのフリートーキングがはじまる。そして「あの場の空気では、ああ言わざるを得なかったのだが、あの決定はちょっとネー......」といったことが「飲み会の空気」で言われることになり、そこで出る結論は全く別のものになる。」

そして、日本で多数決をやるなら、会議で多数決をとったあと、同じメンバーで飲み屋で多数決をとって、2回の平均を答えとせよ、と結論している。飲みニケーションを大切にする日本組織的なボスの信頼感というのは、まさにそんな二重多数決を自然にやっていることにあったのだろう。

日本人の血が、程度の差はあれど、多くの読者に共感を生むだろう。面白い。阿部謹也の「世間」論と山本七平の「空気」論は、日本人の場を考える上で双璧をなす2大フレームワークだなあ、とつくづく思うのであった。


・世間の目
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002046.html
・タテ社会の人間関係 ― 単一社会の理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005254.html

・実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択
nudge_book.jpg

ナッジ(NUDGE)の本だ。ナッジとは、何らかの選択において、特定の選択肢を選ばせようとする示唆のことである。たとえば、カフェテリアではラインの最初の方に選ばれた料理が自然と多く選ばれる。選挙では投票用紙の一番上に名前が載っている候補者は有利になることが知られている(3.5%増えるそうだ)。特に複雑でまれにしか直面しないような重大な選択(医療や投資、結婚など)において、ナッジはよく効く。

「われわれの言う「ナッジ」は選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素を意味する。純粋なナッジとみなすには、介入を低コストで容易にさけられなければならない。ナッジは命令ではない。果物を目の高さに置くことはナッジであり、ジャンクフードを禁止することはナッジではない。」

行動経済学が明らかにしたアンカリング、利用可能性、代表制などのヒューリスティクスや認知バイアスが解説される。そして、そうした知識の活用法として、社会の重要な場面の選択アーキテクチャーに、人々を好ましい方向に導くナッジを配置することを、著者は提案している。人々の自由選択に任せるリバタリアンと、政府が最良を提供するパターナリズムの中間に、自由選択とナッジによる「リバタリアン・パターナリズム」という方法を提案する。

選挙の前日に投票するつもりかどうかを質問すると、その人が投票に行く確率を25%も高める。今後6カ月以内に新車を買うつもりですか?と質問すると、対象の購入率が35%も高まった。次の週に高脂肪食品を食べるつもりかと聞かれた人々がそうした食品を食べる量は減る。多くの人々はデフォルト(初期設定)をカスタマイズしない。ちょっとした選択アーキテクチャーの工夫で人々は簡単に誘導されていく。

良い選択アーキテクチャーをつくる6原則として、

・インセンティブ
・マップングを理解する
・デフォルト
・フィードバックを与える
・エラーを予期する
・複雑な選択を体系化する

の6つがあげられている(英語で書くと頭文字がNUDGEになる)。

本書では貯蓄、社会保障、信用市場、環境政策、健康・医療、結婚などのテーマで、最良のナッジのあり方が議論されている。社会政策において、ナッジすべき良い方向とはどっちかというのは、一概に決められないのではないかという気もする。だとすると、ナッジという方法論は、為政者のコントロールの道具にもなるものだ。政治の参謀が持つべき策略の知識であるともいえる。それを見破るための市民の持つべき見識でもある。

著者が最後に結論したように、「一定の原則に基づいた選択の自由が尊重されると同時に、緩やかなナッジ」があるような穏健な状況がベストな社会なのだろう。

・人は勘定より感情で決める
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/post-1111.html

・アニマルスピリット
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1036.html

・ねじれ脳の行動経済学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-980.html

・世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-955.html

・予想どおりに不合理
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-891.html

・人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-896.html

・オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-862.html

・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-411.html

死体の経済学

| | トラックバック(0)

・死体の経済学
516mMjMW3qL__AA240_.jpg

映画『おくりびと』をDVDで見た。感動。山崎努の名演が光る。

・おくりびと [DVD]
8753d0920ea087257f410210_L__AA240_.jpg

で、この『死体の経済学』は映画で予習してから読むとよくわかる本だ。葬儀業界に詳しいライターによる現代葬儀業界事情。

数年前に祖母が他界した際に、私ははじめて納棺師の仕事を見た。その15年くらい前の祖父の葬式では、そうした儀式はなかったはずで不思議に思っていたのだが、実際、この職業がスキマ産業として成り立ってきたのが10年ほど前からなのだという。葬儀の世界は意外にも"時代の流れ"で変化していくものであることがよくわかる本だ。

日本の葬儀費用は平均231万円だが我々はそれが高いのか安いのか判断ができない。棺桶やドライアイスや祭壇や会場費は、葬儀社のメニューにある金額を払うしかないが、本当の原価はいくらなのか。ちょっと驚いてしまう定価が、この本には書かれている。

「原価の数十倍を請求することが唯一許されたビジネス、それが葬儀なのだ。」

何もないことに意味を持たせるのが儀式であり、お金を払うからこそ意味が出てくるものともいえる。"知らない方がいい"という業者の声も引用されている。葬儀業界には「葬儀屋は月に1体死体がでれば食っていける。月に2体死体がでれば貯金ができる。月に3体死体がでれば家族揃って海外旅行ができる」という有名な格言があるそうだ。

近年は低価格帯の新規参入や、現代のニーズにこたえる新規サービスが次々に登場している。エンバーミング(遺体保存と死に化粧)業者、死臭消臭剤開発にかかわる人々、チェーン展開する遺品整理屋など、業界人へのインタビューと著者の考察がある。ぼろ儲けというわけにもいかなくなってきたのかもしれないが、高齢者の増加は確実で、今後も成長マーケットであることは間違いないだろう。

死体を扱う仕事というのは、必ず誰かがやらばければならないのだけれど、大多数の人はやりたくない仕事だ。この業界は遺族を満足させなければやっていけない。有望ビジネスという視点で参入するにせよ、結果として、遺族を慰めて幸せにする仕事が増え、それに従事してやりがいを感じる人が増えて、さらに関係者が儲かるビジネスが続くなら、いいことだなと思った。

・遺品整理屋は見た
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004753.html

暗黙知の次元

| | トラックバック(0)

・暗黙知の次元
515ZCXNMB6L__SL500_AA240_.jpg

ハイパーテキスト形式知の時代だからこそ読み返す意義がある、かなと思って再読。

言葉にできない知=暗黙知について書かれた古典。

「暗黙的認識をことごとく排除して、すべての知識を形式化しようとしても、そんな試みは自滅するしかないことを、私は証明できると思う。というのも、ある包括的存在、たとえばカエルを構成する諸関係を形式化するためには、まずそのカエルが、暗黙知によって非形式的に特定されていなければならないからだ。実際、そのカエルについて数学的に論じた場合、その数学理論の「意味」は、相も変わらず暗黙的に認識され続けるカエルと、この数学理論との、持続的な関係の中にあるのだ。」

ある理論が認識されるのは、それが内面化されて自在に活用されるようになってからだ、という。この考え方は、意識に上る0.5秒前に脳は準備をしているという、脳科学者ベンジャミン・リベットの意識の遅延論と符合するものなのかもしれない。

・マインド・タイム 脳と意識の時間
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005226.html
「自由で自発的なプロセスの起動要因は脳内で無意識に始まっており、「今、動こう」という願望や意図の意識的なアウェアネスよりもおよそ400ミリ秒かそれ以上先行していることを私たちは発見し、明らかにしました。」

ポランニーによれば、知識とは信念の一種である。信念は思いつきに先行する。だから発明や発見のプロセスは信念に導かれるように行われる。ポランニーによれば、

(1)問題を妥当に認識する。
(2)その解決へと迫りつつあることを感知する自らの感覚に依拠して、科学者が問題を追究する
(3)最後に到達される発見について、いまだ定かならぬ暗示=含意を妥当に予期する。
という3段階で、イノベーションを実現していく。

「すなわち、私たちは初めからずっと、手掛かりが指示している「隠れた実在」が存在するのを感知して、その感覚に導かれているのだ。」

アイデアを思いつくときの"神"が舞い降りてくる感覚を合理的に説明している。そしてそのエウレカ!な瞬間はどういう場所に訪れるのか?、ポランニーはこう答える。

「(1)発見を触発して導く場は、より安定した構造の場ではなく、「問題の場」である。(2)発見が起こるのは、自然発生的ではなく、ある隠れた潜在的可能性を現実化しようと「努力」するからである。(3)発見を触発する、原因のない行為は、たいてい、そうした潜在的可能性を発見しようとする「想像上の衝迫」である。」

形式知は暗黙知という巨大氷山の一角であり、たとえ自分の知識を書き出せる限り全部文字に書き出しても、なお知の本質的な大部分は隠れている。インターネット上に現れる知は膨大だがすべて形式知である。水面下にあるInvisibleな膨大な知をどう引き出すかが次の知の構造化の課題だ。「想像上の衝迫」はたぶん、活発なコミュニティの中にあるように思う。

・GoogleWave
http://wave.google.com/
googlewave.jpg

Googleがベータ公開しているアプリケーション Google Waveの招待メールがやっときたので、始めてみた。5月の終わりにこの記事で読んで以来、ずっと気になっていたのだ。

・【詳報】Google Waveとは何なのか?
http://www.atmarkit.co.jp/news/200905/29/wave.html

20人のInvitation権もついてきたのでIT業界の仲間たちを誘って使ってみた。独特のインタフェースに戸惑う人が多いようだが、これは一言で言うと"マルチプレイのワープロ"だ。チャットしながらワープロ画面を友達といじって遊ぶのだ。

他のユーザーと一緒に、Waveと呼ばれる空間を共有する。Waveはワープロ文書のようなもので、その上に自由にテキストや線を書いたり、画像を張り付けたりすることができる。誰でも編集権があるのは、Wikiと似ている。修正した履歴は残るので、誰がどこを書いたり直したかは記録されている。

実際にやってみると、わいわいがやがやと楽しい。ブレインストーミングや企画のひな型作りに向いている。しかし、ユーザーが自分の発言が目立つようにフォントの大きさや色を変えて"主張"を始めると、画面はにぎやかを通り越して、サンプル画面のようにうるさくなる傾向がある。声の大きい人をどう扱うかが問題になるかもしれない。

一緒に使っているユーザーにYES、NOの多数決を求める投票機能や、任意の場所の地図を張り付けるMap機能など、Wave内にさまざまなアプリを埋め込むことが可能。今後はこの拡張を使って、何でもできる万能アプリを指向しているのだろう。

情報を交換するだけでなく、共創することができるのが魅力だ。メーリングリストに代わるチームの情報インフラになるかもしれない。

なお、invitation権が後少しだけ余っているので、私とオフラインで面識のある方は、メールをいただければ、ご招待します。

・人は勘定より感情で決める
41N8OjMvkFL__SL500_AA240_.jpg

今年は行動経済学の本が大流行した。人間の不合理性を明らかにするものが多くてどれも興味深い。しかし多くは学者が書いたものだから、読んだあと仕事にどう活かす?が問題だった。その点、この本は日産の現役マーケターが書いている。行動経済学の諸理論を、実際のビジネスシーンにどう応用するか、実践のヒントが多数示されている。学者の本とは一線を画する実用指向が特徴。

たとえばメールの書き方。同じ事実を伝えるにしても、

「調査で4人に3人が選ばなかったことがわかった」
「調査で4人に1人は選んだことがわかった」

前者だとネガティブな印象、後者だとポジティブな印象になる。物は言いようである。人間の心理バイアスをうまく利用して、交渉を有利に進めたり、対立をうまないですます方法が、数十個の理論に基づいて、提案されている。オークションで同じものをより高く売る説明文の書き方(しかも詐欺的でない)なんてノウハウまで。

諸理論というのは、データの一貫性幻想、コントロール幻想、平均回帰、少数の法則、プロスペクト理論、損失回避性、参照点依存性、感応度逓減性、反転効果、フレーミング効果、属性フレーミング、ゴールフレーミング、リスク選択フレーミング、メンタルアカウンティング、利用可能ヒューリスティック、代表制ヒューリスティック、連言錯誤、アンカリングなどなど。

「それはこういったほうがいいよ、こういう理論があるから」という風に実践で使えば、なんだか賢そうである。(深く突っ込まれたらキビシイが)。営業交渉、宣伝広報などの現場で働くビジネスパースンが、行動経済学から学べるヒントを、手っ取り早く把握したいという人によさそうだ。

・人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則
513H4Y5e8VL__SL500_AA240_.jpg

面白い本だ。おすすめ。

「相手の役に立つこと」を社会心理学的に探究した「支援学」の大家の本。

著者によれば、助け合いの秘訣とは「社会経済」と「面目保持(フェイスワーク)」を理解することだ。社会において助ける人間は感情的に一段高い場所にいて、助けられる人間は一段低い場所にいる。この不均衡が互いの求めていることを見えなくするのだという。感情の帳尻合わせが良好な支援関係には必要なのだ。

「どんな種類にせよ、関係を築くためには、社会経済や面目保持という文化的なルールに敏感であることが求められる。人はそれぞれの関係から何かを得ており、それが適正だと確信できるように。人生という日々のドラマの中で、人は自分の面目や他人の面目がつぶれないように役を演じている。成長するにつれて、われわれは無数の状況への対処法を学ぶ。どの状況も役者や観客の役割を適切に果たすことを求めている。」

普通、人は困っていても、見知らぬ人に助けてもらうのは不安だ。防衛的になったり、事によっては恥辱を感じて憤慨する。依頼者は本当は助けてもらいたいのではなく、話を聞いてもらって安心したり、注目や評価をしてもらいたいだけかもしれない。あるいは差し伸べられる支援に対して、非現実的あるいはステレオタイプな期待を持っていて、それと違う支援を受けると不満を感じるかもしれない。

「要するに、そもそもどんな支援関係も対等な状態にはない。クライアントは一段低い位置にいるため、力が弱く、支援社は一段高い位置にいるため、強力である。支援のプロセスで物事がうまくいかなくなる原因の大半は、当初から存在するこの不均衡を認めず、対処しないせいだ。支援関係を当然なものと見なさずに、実際に築かなければならない理由は、不均衡なのが明らかなのに、それを正す社会経済が明らかでないからである。」

手を差し伸べることで、支援者の権力が強まり、相手の立場をさらに低いものにしてしまうような支援は有益ではない。不均衡な立場では本当のニーズが打ち明けられず、支援内容が不適切なものになりがちだ。有難迷惑なお節介の発生原因である。

支援者の役割は3つあると著者は話す。

1 情報やサービスを提供する専門家
2 さらに突っ込んだ診断と処方まで行う医師
3 クライアントとの関係を最適化するプロセスコンサルタント

である。そして、3を上手にこなすには、双方の本当のニーズを明らかにするための問いかけが大切だという。純粋な問いかけ、診断的な問いかけ、対決的な問いかけ、プロセス指向型の問いかけの4つがある。これらのツールを使って関係性を壊さずに社会経済をバランスさせることが支援学の秘訣なのだ。

チームでメンバーが互いの顔をつぶさずに、本質を批評しあうには、日本人の飲みニケーションも一考だと、米国MITの先生である著者が、高く評価しているのが興味深い。無礼講的空間が、互いの意見を受け入れやすくする。

「こうしたコミュニケーションを安全に生まれさせるには、「オフライン」として定義される、時間や空間が必要である。それによってグループは、対面という基準を棚上げにし、通常は強迫的と取られかねないことを言える雰囲気を作り出せるようになる。前に例としてあげたが、日本の管理職が上司と酒を飲みながら言いたいことを言うのは、この方法の一つである。」

相互作用のネットワークの中で生きる現代人にとって、支援学は必須のテーマだと思う。学校でもこういう話をどんどん教えたらいいのに。上司と部下、クライアントとコンサルタント、教師と生徒、親と子供、夫と妻など、多様な関係性で支援のケースが提示されていて、幅広い読者の役に立つ名著である。

・勝てる広告営業
41pdmYhoPFL__SL500_AA240_.jpg

この本は好きだなあ。全編に共感。

書店でぱらっとめくったページにあった文章にひかれた。

「クライアントでの会議で沈黙が3秒以上続いたら、広告営業が口火を切り、沈黙を破ること。 これは営業としてのマナーの問題です。」

ベテラン広告営業マンの著者が語るプロフェッショナルの流儀。

「もちろん、本来営業として一番良いのは、日々のコミュニケーションだけでアカウントを取り「戦わずして勝つ」ことです。その次に良いのが、プレゼンになったとしても「戦う前から自分たちの勝ちを確信できる状況」」に持っていけていること。「自分の会社にこの仕事が落ちてくる」という土壌がすでにできている状態です。」

広告営業は形のない物を売る。クライアント、メディア、クリエイティブなど関係者の調整が重要な仕事だ。ロジカルなだけではうまくいかない。ロジカルでありつつも、良好なコミュニケーションをベタに維持していくことが大切な世界。

「キャラで生きられるのは30まで」「嘘はいいが騙してはいけない」「勝敗は、プレゼンの前と後で決まる」「プレゼンで負けても、何か取ってくる」「企画書がなくても相手を説得する」など、行動力+交渉力+計算力=営業力。二十数年の経験から生まれた営業の50個のキーワード解説がある。見開きでひとつずつ形式で読みやすい。

この本は数年間営業を経験した人が読むと受け入れやすいのじゃないかと思う。一見、オーソドックスな箴言にもみえるが、奥が深い考察が多い。広告業界に限らず、あらゆる企画や営業の仕事をする人にとっての基本がある。

仕事を教えてくれる先輩がいないと感じている人に特にお勧め。

「今、この瞬間から、自分の行動すべてをマーケティングリサーチだと思ってみて、いつも通りの生活をしながら、ただほんの少し意識する。たとえ今は必要のないように思える情報もいつかきっと仕事に生きる場面があるはずです。」

共感しまくり。マーケティングは仕事と思ってやっている限りだめということだと思う。

・こころを動かすマーケティング―コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる
41mt0BJ2BUQL__AA240_.jpg

2001年から2006年まで日本コカ・コーラ代表取締役社長、2006年より取締役会長を務める"Mr.コカコーラ"魚谷雅彦氏直伝のマーケティング経営論。世界一のブランドを背負いながらも果敢にイノベーション創出に挑戦してきた同氏の話は、どんな学者や評論家の意見よりも、本物だ。本物である証拠に、論旨明快でわかりやすい。

新卒でライオンに入社した一人の若手マーケッターが、幾多の冒険と困難を乗り越えて、外資企業でトップに登りつめるまでの、経営者の履歴書としても読みどころが多い。常に現場を意識し、常識を疑い、逆境に燃える、そしてすべてを楽しむ、そんな生き方が魅力的だ。

日本コカ・コーラはグローバルな同グループの中でも異彩を放っている。単に炭酸飲料のコカ・コーラを販売するだけでなく、ジョージア、爽健美茶、紅茶花伝など日本独自のブランドを創造して、トップブランドに育て上げてきた輝かしい歴史を持つ。時代の精神を代弁するかのような「男のやすらぎ」「明日があるさ」といったCMキャンペーンは、何千万人もの日本人の共感と支持を得てきた。(男の安らぎキャンペーンは懸賞応募者4400万人!)。

日本コカ・コーラの製品を買う客は1日5000万人という。自動販売機で2000万人、スーパーコンビニで1600万人、ファストフードやレストランで900万人、残りがその他という内訳である。缶コーヒーのデザインや味を少し変えるだけでも、日本人の気分に影響を与えうる圧倒的ポジションに同社はいるのだ。そんな会社の舵取り役として著者は何を守り、何を変えようと考えたのか。

「実際、コカ・コーラという製品に関して言えば、「intrinsic value」=基本的な価値は100年以上変わっていないということになります。しかし、「extrinsic value」=付帯的情緒的な価値はどうか。コカ・コーラはまさにこれを時代に合わせて大きく変えてきたのです。」

同社は120年間、コーラの味は変えていないが、時代の変化に対応してブランドの中身を常に最適なものに変えてきた。では「付帯的情緒的ま価値」を創造するには?著者は「顧客は見えているか」「現場に足を運んでいるか」「飛びぬけた商品を展開しているか」という問いかけを忘れるなという。現場や対象に棲みこむことで、顧客の潜在的な心理やニーズ、インサイトを発見することがまず重要なのだ。

そして常に先取りで創造すること。部下に提案書に書いてほしいのは「何が新しい価値か。それだけ」。長たらしい"市場の背景""現状分析"が必要な企画ではお客の心を一瞬でとらえられない、だからだめだ、と教える。根っからの価値創造型マーケッターだ。

「市場の変化に対応することが重要だ、という話がよくされます。でも、それが意味しているのは、お客さまが変わったから、自分たちも変化する、というのではなく、何かそのヒントになるような現象を見て、自分たちからその変化を先取りするということです。 そうでなければ、お客さまは驚かない。もっと言えば、世の中にないものは生まれえない。自動車がないときに、自動車をつくった人がいたのです。ソフトドリンクがないときにコカ・コーラを作った人がいたのです。」

世界で最初に大西洋を横断したのはリンドバーグ、では2番目は誰?と著者は問う。一番手のイノベーターのブランド優位性は追随を許さないものがある。そういう意味でコカ・コーラはまさに王者だが、なお経営トップは新価値創造に挑戦しようとする。恐るべきマーケティングマインド、それが120年繁栄の原理なのだろう。

著者は現在は会長職と兼任して、ブランドヴィジョンという会社を創業し、マーケティングソリューションの事業を展開されているそうだ。NTTドコモなどを顧客に持つらしいが、日本政府やJALがブランド構築の仕事をここに頼むべきだなあ。

・ブランドヴィジョン
http://brandvision.co.jp/

・アフリカ 動きだす9億人市場
51N4V38M47L__AA240_.jpg

かつて暗黒大陸と言われたアフリカが、「施しの対象」としてではなく「世界で最も重要な新興市場の一つ」として、世界経済に台頭する勢いを見せ始めている。アフリカはかつての中国やインドのような、未来の成長市場に変わるという確信で書かれたアフリカ経済の展望の書。

急成長する市場のミドル層「アフリカ2」、人口マジョリティを占める若年層の「チーター世代」、ナイジェリア映画「ノリウッド」の勃興、人間性の経済「ウブントゥ市場」など、アフリカ経済のキーワードを学べる。現地で持続可能な経済を作り出すには、内部に棲みこんだ視点が重要だ。アフリカの国々の個別で特殊な事情は、発展のメリットにもデメリットにもなる。

たとえばアフリカは、通信も金融もインフラが未整備な地域だが、世界でもっとも成長の早い携帯電話市場であるという。2005年にはサハラ以南の人口の60%が携帯電話の通信圏内に入った。2010年には85%まで増える見込み。アフリカ10カ国で携帯電話市場は年間85%以上の成長率を示している。携帯が固定電話やFAXよりも先に来てしまったのだ。

「アフリカなど多くの発展途上地域では、携帯電話こそが初めて手に入れる通信インフラであり、零細企業に事業基盤を与え、地法と世界をつなぎ、知識を広める道具となる。一言でで言えば、携帯電話は経済発展の根幹なのだ。」

アフリカでは全家庭の20%しか銀行口座を持っていない。送金費用は高く、為替レートが不安定だ。金融インフラが未成熟な中で、人々はプリペイド式の通話時間を通貨として流通させているという。携帯で通話時間を購入したり、別の携帯に電子的に送る仕組みを使って、取引を実現しているのだ。携帯があれば銀行店舗やATMがなくてもビジネスができてしまう。

ローカルな習慣に合わせる、利用することが、アフリカ進出の成功の鍵のように見える。モロッコではハヌートと呼ばれる小さな家族経営の雑貨屋が8万店舗あり、地域住民と付け払い制度で信用取引をしているため、外部から大手資本のチェーン店が参入することができなかった。そこへ頭のいい起業家が「ハヌーティ」と名づけた近代的なハヌートのブランドチェーンを組織し、銀行の近代的な金融サービスの窓口として展開して成功している。

韓国のLG電子は、イスラームの犠牲祭という祭日に的を絞ったプロモーションを行った。敬虔なイスラム教徒が子羊を屠る日である。この期間中にLGは年間販売台数の30%を販売した。ラマダンという断食週間にテレビの新番組が始まることに目を付けて薄型テレビを宣伝すると年間売上25%が集中した。里帰りにも着目して成果を上げたりもする。それまで有力ブランドだったソニーを押しのけて年50%近い成長率で拡大してきているという。

インフラの未整備、古い伝統の残存、混沌とした市場環境など、アフリカ経済の特殊な事情は、すべてをアイデアで解決しようとする起業家の魂をくすぐるものがある。アフリカは全人口の41%が15歳以下で(インド33%、ブラジル28%、中国20%)世界でもっとも若い地域だ。現在の人口9億人は次の世代で倍増する見込みである。爆発的成長の素因はそろっている。この混沌とした闇市経済から21世紀後半の大企業が生まれてくるのかもしれない、そんな予感をさせる未来志向の一冊。

・クレイジーパワー 社会起業家―新たな市場を切り拓く人々
41SjkmYfSXL__SL500_AA240_.jpg

「常識のある人は、自分を世間に合わせようとする。非常識な人は、世間を自分に合わせようとする。ゆえに非常識な人がいなければ、この世に進歩はありえない。」。BOP(経済ピラミッドの底辺)市場でビジネスを興すことで世界を変えようとたくらむクレイジーな社会起業家たちの現状をまとめた本。

BOP市場はアジアだけでも低所得人口が人口28億6千万人で総所得3兆4700億ドル、世界では40億人で5兆ドルといわれる巨大市場だ。しかし、その消費者たちは貧困や飢餓、戦争やテロ、格差や差別、組織の腐敗に苦しむ国の人々であり、先進国の常識的ビジネスモデルはそのままでは通用しない。社会や政治の変革を伴う、非常識なビジネスモデルが必要とされるのである。

市場経済型のアプローチを使って持続可能な発展を作り出す社会起業家たちが30人以上も、次々に登場する。グラミン銀行のムハンマド・ユヌスやノーベル平和賞のワンガリ・マータイなど著名人もいるが、この本ではじめて知ったクレイジーも多い。

性の話がタブーだったタイで、ミーチャイ・ウィラワイタヤは「コンドーム膨らませ大会」や「ミス・コンドーム美人コンテスト」を企画して「コンドーム王」の異名をとり、人々がコンドームのことを「ミーチャイ」と呼ぶまでにもなった。そして、この間にタイの出生率は彼の思わく通り驚異的ペースで低下した。天才である。この事例では、「深刻な問題を早期に発見することと、その明るい面を示すこと」が重要であると著者は総括している。それには型破りな発想が必要なのだ。

起業家オルランド・リンコン・ボニーヤはコロンビアの貧困地域の若者をIT起業家集団に変身させるイノベーションパーク「パケルソフト」を立ち上げた。「パルケソフトで行われているのはあくまで社会的活動で、たまたまその手段に科学技術を使っているだけです。」。社会的な影響力を持つ仕事に従事しながら、起業のチャンスが与えられる環境に多くの有能な若者が群れている。

持続可能なビジネスを強く意識しているのが最近の社会起業家の特徴のようだ。クリーンテクノロジー投資会社の幹部は「ひと昔前の環境起業家を動かしていたのは『地球を救え』の精神でした。それが悪いわけではありませんが、彼らは起業家ならではの規律や厳格さ、投資利益率に対する意識などに欠けている傾向がありました。」と違いを言っている。

ビジネスを意識する人間は自らの報酬だって意識すべきである。「「持つ者」と「持たざる者」の格差は毎日のようにニュースになるが、営利企業と社会的企業の給与格差がニュースで取り上げられることはほとんどない。誰もが「見て見ぬふり」をしているのだ。」と著者が書いているが、報酬は起業家自身の持続可能性の大きな問題でもあるだろう。

新世代の社会起業家によって、システムの転換が行われている重点分野としては、透明性、説明責任、認証、土地改革、排出権取引、価値の評価・測定の6つが挙げられている。営利のビジネスモデルはやりつくされた感があり、新たなビジネスモデルを考案するのは至難の業だが、社会起業、環境起業の領域はまだ手つかずの領域が多いのかもしれない。アイデアが数年間で大きく実るケースが多いように思えた。

・最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/10-10.html

・絶対貧困 世界最貧民の目線
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1037.html

・世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/post-1105.html

・いつか、すべての子供たちに――「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-964.html

・未来を変える80人 僕らが出会った社会起業家
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/80.html

・誰が世界を変えるのか ソーシャルイノベーションはここから始まる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-821.html

・ビジョナリーカンパニー【特別編】
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/06/post-403.html

・グーテンベルクからグーグルへ―文学テキストのデジタル化と編集文献学
51sT326nrbL__SL500_AA240_.jpg

書名を見てもっと一般向けの本かな?と勘違いしたが、読んだら実際には「編集文献学」という、あまりなじみのない文学研究領域の専門書であることがわかった。著者はひたすらに、文学研究者にとって理想的な研究プラットフォームとしての電子テキストのシステムを追究している。それはただ出版された本をデジタル化しただけのグーグルブック検索とはちょっと違うぞと異論を述べる。

「つまり真に複雑で、持続的で、アクセス可能で、美しく、洗練された電子的な(再現能力を持つ)情報収蔵所を作ることが望ましいのは、編集文献学が、単なる物体として(あるいは電子としての)単語からなるテキストだけではなく、コミュニケーションの行為すべて(誰が、何をどこで、どのようなコンテキストで、誰に向かっていったのか)を発見、保存、提示しようとしているからなのだ」

編集文献学の研究者は、公表されたテキストは、著者を取り巻く社会関係や歴史的な前後の文脈や、編集や出版の技術と切り離せない関係にある、というインターテクスチュアリティの立場を取る。だから、最終版のテキストだけでは研究に不十分で、作品の全部のバリエーションや「メイキング」情報を保存し、検索できるようにせよ、と主張しているようだ。

プラトン的な伝統的テキスト観では、「正しい」読み方を知っている同質な精神を持つエリート解釈共同体が前提とされていた。だから唯一の無謬の原本の追求幻想があった。しかし多様な知が混沌と共存するインターネット時代には、テキストの前にそのような正解や権威は望めなくなっている。むしろ、ハイパーテキストの自在なリンク技術のある世界ならば、多様な読みを可能にする環境の方が生産的でさえあるだろう。匿名コミュニティによって編集された電車男みたいなテキストは、プロセス自体がテキストのようなものだ。

著者は技術者ではないから知らないようだが、CVSやSubversionのようなプログラム開発者向けバージョン管理システムは、その理想にかなり近い気がする。できる限り、あらゆるバージョンを残し、開発時の設定を保存していく。すべてのメイキング情報や著者のコンテクストを残す、という思想に近いものを感じる。

また、編集文献学アプローチの今後の最大の敵は、おそらくグーグルではなくて、テキストの書き手=著者だろうと思う。すべてが検索してたどれる時代だからこそ、ある種の書き手は、途中の版やメイキング情報を消して、最終版だけを残したいと願うのではなかろうか。執筆時のメモなんて見せたくない心理である。デジタルな資料は、紙以上に容易に消去できる。

編集文献学という極めてマニアックなテーマを哲学的に追究した専門書。読者はかなり限定されそうな本であるが、インターネット上で文学研究システムを開発したい人など読んでみるとよいかもしれない。

・大きなマウスカーソル

http://himajin.me.land.to/
bigcursorapp01.jpg

プレゼンでマウスカーソルがもっと大きかったらよいのにと思うことがあるが。、「大きなマウスカーソル」で簡単に実現できる。ホットキーで大きなマウスカーソルの表示、非表示を切り替えらるので、必要なときだけ呼び出せて使いやすい。大きなマウスカーソルはWindowsのカーソル画像を拡大しているので、処理待ちの砂時計アイコンなどもそのまま表示する。

bigcursorapp02.jpg

さらに設定ファイルを書き換えることで、実用上はありえないほど巨大化させることができる。画面いっぱいのマウスカーソルはを動かして見せるのは大迫力。ただし倍率が大きくなると描画に時間がかかるようになる。

プレゼンテーション、インストラクション業務の支援ソフトとしてなかなか使えそう。

・世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある
51aSEMrYoAL__AA240_.jpg

「ほとんどの現代デザイナーの仕事は、世界の大多数の人には何の影響も与えない」

メディアで話題の新型のiPodや高級車のデザインは世界の10%にすぎない豊かな人たちだけのものだからだ。世界の90%を占める人口は、生活に必要な基本的な製品を十分に買うことさえできていない。6人に1人にあたる11億人は1日を1ドル以下で生きている。

一部のデザイナーたちは、真に世界を変えるのは、貧しい90%のためのデザインであることに気がついた。そして貧困層のライフスタイルを革命的に変える製品のデザインに積極的に取り組み始めている。電気も電話もない場所で使われることを前提とせねばならない。手頃な値段、小型化、拡張性など、求められるデザインは先進国市場のニーズとはまったく異なる。貧困層は物を買うお金がないわけだから、それを持つことで稼げるようになる製品である必要もある。

社会的責任デザイナーの多くが世界を救う意欲に燃えているが、無償で慈善事業をするつもりはない。何十億人という貧困層を未来の巨大市場ととらえ、持続可能な発展を目指している。まずは経済的自立をサポートするための製品が中心になる。

この本は今起きている「デザイン革命」のレポートだ。本書にはたくさんのの先駆的なデザインプロジェクトが写真入りで解説されている。どれも日本ではまず見ることがない製品ばかりである。だが、これらが世界の何億、何十億人を救おうとしているデザインなのだ。

3つほど気になったモノを紹介すると、

・Qドラム
http://www.qdrum.co.za/

アフリカ諸国では、貧しい人々は毎日、頭の上に水の容器を載せて長い距離を運んでいる。そのためしばしば首を痛めてしまう。Qドラムはドーナツ状の容器に水を入れて、子供でも転がして運ぶことができるようなデザインにした。

・ライフストロー
http://www.vestergaard-frandsen.com/lifestraw-claims.htm
lifestraw-personal-product.jpg

ライフストローは泥水でも濾過して飲めるようにするストローである。700リットルの水の中の99.9999%のバクテリアと98%のウィルスを除去することができる。飲料水を確保するための水道がない地域でも、これがあれば生きていける。

・OLPC
http://laptop.org/en/
220pxLaptopOLPC_a.jpg

1台100ドルの超低価格PC。発展途上国の貧困層に政府が配布する。辺境にすむ子供たちに教育を与える一大プロジェクト。MITメディアラボ創設者ニコラス・ネグロポンテらが取り組む。手動充電やラップトップ自体が無線基地局となって無線スポットを拡大していくメッシュネットワーク機能などを搭載。

人々に心から喜ばれながらモノをつくることができる仕事。90%のためのデザインはさぞかしやりがいのある仕事だろうなあ。

・図説「愛」の歴史
51mgAMAVccL__SL500_AA240_.jpg

鑑賞に値する美しいビジュアルブック。『21世紀の歴史』を書いたフランス政府顧問のジャックアタリが、38億年前の単細胞生物の生殖から未来の複雑な男女関係まで、愛を視点に地球史を展望した。愛や結婚をモチーフにした美術作品や写真など合計200点を超えるカラー資料をまじえた豪華絢爛な絵巻。

今から8000年くらい前、富が集中した中国や中東で人間の寿命は30歳を超えた。男が生殖における自身の役割、すなわち精子の役割に気がついたのが、この頃だったとされる。それまでの人類はどうやら性交と生殖の具体的な仕組みを知らなかったらしい。だからカップルの関係は長く続かず、子供も両親と長く一緒には暮らさなかった。

寿命が延びたことで、男女は長期的な愛の関係を育むようになったのである。愛のかたちはそこからぐっと多様化、複雑化する。ギリシア人は愛をエロス、フィリア、アガペーの3つの形に区別した。ローマ人は結婚の形式を調停結婚、自発的結婚、ファール共祭式結婚、略奪の4つに分けていた。

愛もまた時代に翻弄される。アラビアやインド、古代ギリシア・ラテンの慣習の影響を受けた十字軍兵士たちの帰還がヨーロッパにエロティシズムと愛をもたらし、人口の3分の1を奪ったペストの惨禍によって人間の価値、愛の価値は高まった。

西欧ではキリスト教が、教会の監視の下で官能性を拒否し、生涯一人の配偶者を愛する一夫一婦制を広く普及させた。その影響下に今の私たち日本人はある。だがそれを当り前と思うなというのが本書の主旨である。アタリは実在する多くの愛の形のバリエーションの提示によって、現代の私たちの持つ愛のイメージを徹底的に相対化する。

キリスト教は愛に宗教的表現を与え、一夫一婦制にもとづく愛を制度化した。だが、このタイプの生殖と欲望と愛の関係は、人類史からみたらほんのわずかな時期の、一部の人たちの習慣にすぎないという。もっと自由な愛の形のバリエーション(生殖と欲望と愛の分離)があったし、今後も起きるはずだ、と。

そしてアタリの愛の未来をこう予想する。

「遠い将来には、根源に帰るかのように、新たな形の人間関係が生まれることが予想される。その関係は欲望の即時の満足を基礎にしたものであり、またしだいに繁殖という関心事から解放されていくものである。関係の起源を両者の間で前もって決めておく一時契約の結婚。それぞれが隠すことなく同時に複数の恋愛パートナーをもちうる多恋愛(Polyamour)。それぞれが同時に公然と複数の家族に属する多家族(Polyfamile)。それぞれがさまざまな性行動をとる集団内で、複数のメンバーに操をたてる多貞節(Polyfidelite)。子どもたちは両親がかわるがわる世話をしにくる安定した場で育つことになるだろう。」

ネットワーキングならぬネットラビングとでも呼ぶべき関係の登場と合法化が進むというのがだが、そして最も有望な関係性とは、なんと三者関係なのである。大統領顧問が三者関係推奨なのである、本当か?!

「ネットラビングの中でももっとも安定的で特別な形は、同性または異性の3人の人間が、ある場合には所帯をもって、同じ家で暮らし、全員または2人ずつ性的関係をもつような関係である。」

本書には具体的に3人で結婚した例が紹介されている。

「そうした3人組のケースはいくつか知られている。たとえば3人のオランダ人、ヴィクトル・ド・ブルゾンと2人の妻、ビアンカとミルジャムは一夫一婦婚と同じように一緒に暮らしている。この3人の関係は公証人立会いによる契約によって合法化されており、法的にも認められている。ビアンカとヴィクトルは18年間夫婦として過ごしていたが、その後この2人を愛したミルジャムが、最初の夫と離婚して人と一緒になったのである。」

名前で検索すると海外にニュースが見つかった。

・Dutch 'marriage':1 man, 2 women
Trio becomes 1st officially to tie the knots
http://www.wnd.com/news/article.asp?ARTICLE_ID=46583

この記事によると、ブルゾン(男性46歳)とビアンカ(女性31歳)の夫婦と、ミルジャム(女性35歳)はインターネットのチャットルームで知り合ったそうだ。女性二人の間には嫉妬がまったくばい。理由は二人の女性がバイセクシャルだから。ブルゾンは100%ヘテロセクシャル(一般的な異性愛者)であるから、4人目を加えると不倫になることになるので、追加はありえない、そうである(ロジックが実に複雑ですが、ま、そうか?)。

愛のかたちの歴史を振り返ると、意外にスピーディに進化してきたことがわかる。常に倫理も制度も後追いだ。実はキリスト教世界では1965年の第二ヴァチカン公会議で、結婚の目的はたんに生殖だけでなく、夫婦の愛情と幸福であることがようやく認められた、と書かれている。こうした今は奇抜な関係性だって、50年、100年で当たり前になる、のかもしれない。

・21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/21-1.html

読書術

| | トラックバック(0)

・読書術
41BTBX2XTVL__SL500_AA240_.jpg

読書というテーマ、10月27日の毎日新聞朝刊で、学校図書調査へのコメンテーターとして、私は写真入りのインタビュー記事を掲載していただきました。Webでもテキストだけ公開されています。

特集:第55回学校読書調査(その1) ブロガー・橋本大也さんに聞く
http://mainichi.jp/enta/book/news/20091027ddm010040173000c.html

私は基本的に面白いからたくさん読んでいるだけで、面白いと気づいていない若者に本の読み方を敢えて語るというのは難しいものです。それで、読書術についてこの本の紹介です。

文芸評論家、作家、元都立中央図書館長の加藤周一著。1962年初版、半世紀前に書かれた本だが内容はなお古びていない。端坐書見なんてとんでもない、本は寝て読めという著者が、ユーモアをたっぷり交えた文章で、楽しむ読書の極意を教える。

「私は学生のころから、本を持たずに外出することはほとんどなかったし、いまでもありません。いつどんなことでえらい人に「ちょっと待ってくれたまえ」とかなんとかいわれ、一時間待たせられることにならないともかぎりません。そういうときにいくら相手が偉い人でも、こちらに備えがなければいらいらしてきます。ところが懐から一巻の森鴎外(1862-1922)をとり出して読みだば、私ぼこれから会う人がたいていの偉い人でも、鴎外ほどではないのが普通です。待たせられるのが残念などころか、かえってその人が現われて、鴎外の語るところを中断されるのが残念なくらいになってきます。」

待たされる時間をポジティブな気持ちで読書時間にあてることで得した感じを味わう。この読書術には、本を必死になって読む、勉強のために読む、能力開発のために読むなんてシーンはほとんど登場しない。

このほか、いくつかのタイプ別の攻略法がある。

おそく読む「精読術」
はやく読む「速読術」
本を読まない「読書術」
外国語の本を読む「解読術」
新聞・雑誌を読む「看破術」 聖書(真理)と雑誌(事実)
むずかしい本を読む「読破術」

最後の「むずかしい本」というのは、難解さの攻略法ではなくて、むずかしい本なんて読むなという話である。むずかしく感じられる本というのは、著者自身が内容を十分に理解できていない「悪い本」か、いまの読者にとって「不必要な本」のどちらかなので、わからない本は読まないことが大切なのだよと説く。

読書をする人が減っているそうだが、読書の実利効用を説く方法と同時に、読むこと自体が快楽になる愉しい読書術こそ読書人口増加にはきっと重要である。


・読書論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-932.html

・読書について
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-913.html

・読書という体験
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-569.html

読書の歴史―あるいは読者の歴史
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1047.html

・Smartごみ箱
http://www2.pf-x.net/~rafysta/soft/smarttrash_outline.html
smartgomibako01.jpg

Windows標準のごみ箱に代替可能な高機能ごみ箱ソフト。ごみ箱に捨てた後、指定した日数が経つと自動的に削除するように設定する機能がある。また削除済みのファイルも含めてごみ箱に入れたファイルを検索するなど、標準のごみ箱にはない機能がある。

外見を自由にカスタマイズ(アイコン・大きさ・透明度)できるところが好きだ。

smartgomibako02.jpg

普通のアイコンよりも大きくすると、自然とファイルをドラッグしやすくなる。いつもより、捨てるファイルの量が多くった気がしている。部屋の片づけのノウハウ本に、物理的に大きなごみ箱を置くと、自然にたくさん捨てるようになるという話が書かれていたのを思い出した。バーチャルなデスクトップでも同じ効果があるようだ。

ごみ箱に限らず、よく使うアイコンは自然に大きくなるデスクトップなんてあったら便利かもしれないなあ。で、1年間くらいクリックしないと捨てられてしまう機能とかも?。「ひどい、ボクのお宝ファイルを捨てたね、ママ(涙)」「ばーか、あんた、長い間使ってなかったでしょ?」とか?。

・忘れられない脳 記憶の檻に閉じ込められた私
51PqO6DDtsL__SL500_AA240_.jpg

世界でも稀なハイパーサイメスティック・シンドローム(超記憶症候群)第1号認定患者の自伝。この症候群の患者は物事をすべて覚えていて、忘れることができない。著者の場合は8歳からの人生のすべての出来事を鮮明に記憶している。どんなことでも優劣をつけずにすべて保存しており、いつでも細部まで正確に呼び出すことができる。

想起は何かのきっかけで本人の意図しないときに始まることもあり、脳内の映像再生が止まらなくなるそうだ。その時、記憶に付随して当時の喜怒哀楽も追体験するため、心休まることがなく苦しい人生を過ごしてきた。自らを記憶の囚人と呼んでいる。悲しい思い出が芋づる式にでてきて止まらないのだ。またその記憶力は勉強の暗記ではまったく働かない。学校の成績に記憶能力は反映されなかったこともあって、大人になってから異常な能力が発見された。

彼女の記憶で実に不思議なのは、日付と曜日が想起のための鍵になっていることだ。

「たとえば、2007年7月4日の独立記念日は水曜日だった。その日の記憶を思い出そうとすると、それにつながって私のこれまでの人生のすべての7月4日の独立記念日のことが次々とよみがえってくる。しかもその日が水曜日である年が優先されて、1990年、1984年、1979年と浮かんでくる。」

人間がつくった文化であり後天的に学習するカレンダーが、自然に脳に組み込まれているのが奇妙だ。しかも彼女の脳内にはかなり風変りな屈折カレンダーがインストールされているそうで、そのかたちを絵に描いている。なぜか1970年を境に90度回転する。なぜなんだろうか?

そのほか著者にはかなりの度を越した収集癖と、異常なほど細部まで書きこむ日記の習慣がある。日記は記憶の補助ではなく(彼女には不要なのだ)、それを書いている間は平穏な気持ちでいられるから続けているという。

彼女と同じ症状の患者は世界にも数えるほどしかいないため、異常な記憶力の原因はまだ未解明だが、こうした症例の研究成果から、普通の人間も圧倒的な記憶力を持つ方法が見つかるかもしれない。事実、ネズミの実験では記憶力増強がすでに実現されているそうだ。

そして、想起に基づく生々しい追体験は彼女を苦しめてきたが、子供の面倒を見る仕事を得意にした面もある。いい先生をつくりだす技術としても発展する可能性があるのかもしれない。

「私の特異な記憶力は、私を扱いやすい娘や扱いやすい生徒にはしなかった。しかし、いつまでも子どもと同じ目線で、子どもの心に同化することができる感覚があることで、私は今、子どもと大人を結ぶパイプ役をつとめることができる。」

・書きたがる脳 言語と創造性の科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/02/e-eaeniew.html

・ぼくには数字が風景に見える
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-602.html

・共感覚者の驚くべき日常―形を味わう人、色を聴く人
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000533.html

このアーカイブについて

このページには、2009年11月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2009年10月です。

次のアーカイブは2009年12月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1