2009年12月アーカイブ

1Q84

| | トラックバック(0)

大晦日。

それでは、そろそろ1Q84についても一言、言っておくか(笑)。

私も読みました。面白かった。今年のフィクション ベスト5には入る。でも1位ではないなあというのが感想。ノーベル賞候補になったが故の、7年ぶりの新作だった故の、バブルが入っている気がする。日本文学にとっては人気があって、それはそれでいいのだが、本来読者対象でない人も手に取ってしまうミスマッチが起きているような気もする。

・1Q84 BOOK 1
41wyR3LA5GL__SL500_AA240_.jpg

・1Q84 BOOK 2
41shjjawEPL__SL500_AA240_.jpg

オリコンの調べによると、2009年度に最も売れた本は『1Q84 BOOK1』で108万部だった。第3位に『1Q84 BOOK2』が89万部でランクインしている。流行のケータイ小説やライトノベルとは違って、なかなか難解な文学作品が合計で200万部も売れたことに驚く。

ところで本当に皆さん読みましたか?

このブログの読者は読んでいそうだけれども、そういう人は全体ではマイノリティなんじゃないだろうか。購入者のうち半分以上の人が読み終わっていないような気がするのだ。BOOK1とBOOK2は108:89と部数がきわめて近接している。同時発売だったので一緒に購入した人がほとんどだったのではないかと、私はにらんでいる。だから1Q84 BOOK2の部数がBOOK1の完読率というわけではないはずだ。私の周囲で買ったという人に感想を聞いて回ったけれど、ちゃんと返ってきたのは2人しかいなかった。

整理された短い文章の積み重ねで書かれているから、読むのは決して苦痛ではないが(っていうか相当に楽しいが)、話は後半にいくに従い錯綜している。多くのモチーフとメタファーに彩られているので、通読するには相当の知的労働を強いられる。

まずタイトルの『1Q84』が、ジョージオーウェルの『1984』が連想させる。リトルピープルというのが出てくるが、これはビッグブラザーに対応している。作品中に登場する新興宗教は実在の宗教団体とよく似ている、などなど、

作中の○○は□□であり、××は△△のことだ

を挙げ始めるときりがない。そうした関係性を指摘したり、事物の含意を説明していけば、いくらでも解説が長く書けそうである。そうした関係性を指摘したり、事物の含意を説明していけば、いくらでも解説が長く書けそうである。実際たくさんの解説本が出版されている。こうして話題が話題を呼ぶ。

・村上春樹『1Q84』をどう読むか

・「1Q84」村上春樹の世界

・村上春樹の『1Q84』を読み解く

・村上春樹「1Q84」の世界を深読みする本

・村上春樹・戦記/『1Q84』のジェネシス

・1Q84スタディーズ

100万部売れることやメディアで取り上げられること。こうした状況を含めて、この1Q84という作品は村上春樹によってプロデュースされているように感じた。作中で主人公のひとり天吾書いた小説「空気さなぎ」がメディアで話題になる場面があるが、天吾は村上春樹のアバターであり、「空気さなぎ」は「1Q84」のメタファーである。作中ですべての謎が明らかにされないことへの不満に、現実世界ではBook3の出版を発表した。1Q84はまだプロデュースが継続中のメタ・メディア小説なのである。書評は3の後に書くべきかもしれない。

自己言及の迷宮の中でパラレルワールドとしての20年前の日本が現れる。鍛え上げられた肉体の如く無駄のない文体、バッハのバロック音楽の如く緻密な構成に、村上春樹ってやはりすごい実力を持っているなあと、しびれる。ただ100万人が読んで感動する話かというとそれはちょっとどうかなと疑問に思う。

また、今年の小説では高村薫「太陽を曳く馬」が内容的に1Q84に近い内容である。宗教や実在論についての深み、凄味では1Q84よりもこちらに軍配を上げたい。

・太陽を曳く馬
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1080.html

とかなんとか書いているが、1Q84、現代文学の傑作であることに間違いないし、Book3が楽しみである。

今年このブログの紹介記事を経由してAmazonで販売された本の売り上げ冊数ランキングです。1位はもちろんアレなのですがどうもありがとうございました。

・2008年度 書籍売り上げランキング ベスト20
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/200820.html

・2007年度 書籍売り上げランキング ベスト20
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/12/200720.html

・2006年度 書籍売り上げ ベスト20
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/01/200620.html

・2005年度 書籍売り上げランキング ベスト20
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/12/200520.html

・2005年度 書籍売り上げランキング ベスト20
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/12/6-1.html


■1位 情報力
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-900.html

・情報力

johoryokubook01.jpg

自分の本が1位でした。当たり前ですが...。読んでいただいた皆様に感謝します。また2010年にも本を書きたいと思います。

私はこの本の冒頭で"ハイパー個人"という言葉を造りました。デジタルとネットワークで情報処理能力を飛躍的に増大させた人を意味します。圧倒的に大量の情報の中から自分の意志決定に必要な適合情報を抽出し、分析して仕事と生活に役立てること。それがハイパー個人のための情報術です。

■2位 人を幸せにする話し方―仕事と人生を感動に変える言葉の魔法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1070.html

・人を幸せにする話し方―仕事と人生を感動に変える言葉の魔法
5172oafdelL__SL500_AA240_.jpg

「たとえば、講演を聴き終わった人が、「今日の講演はすごかった。あんなすごい人がいるんだなあ」という感想を持ったとします。 この講演は、成功したと思いますか?それとも失敗したと思いますか?。 その講演の目的が「講師がすごい人であることを知らせること」なら別ですが、残念ながら、講演として成功したとは言えません。」

■3位 十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1087.html

・十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。

41myhxZJDJL__SL500_AA240_.jpg

遠藤周作が昭和35年に書いた原稿が、46年後に発見されてこの本(元は単行本)になった。手紙や文章の書き方をやさしく教える内容。病人への見舞いの手紙、彼女を上手くデートに誘うラブレター、告白されて断るときの心得(女性編)、お悔やみ、など、軽い読み物なのだが、遠藤周作がいかに人と違う文章、凡庸でない文体を確立することを大切にしていたかがよくわかる。

■4位 はじめて講師を頼まれたら読む本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1128.html

・はじめて講師を頼まれたら読む本
51AF7qKYVjL__AA240_.jpg

元吉本興業プロデューサー。年商1億円、年間300回以上の講演をする人気女性講師の「話し方のコツ」。そんな数字が示されているとつい計算してしまうのだが、基本は90分50万円で講演を引き受けているそうだ。「わたしは、五分のネタを180本以上持っています。180本くらいのネタのストックがあると、その日のお客さんの状況や年齢層などによって、話しをアドリブで組み替えることもできます。」

■5位 絶対貧困 世界最貧民の目線
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1037.html

・絶対貧困 世界最貧民の目線
512bbeBmMnL__SL500_AA240_.jpg

世界の5人に1人は1日1ドル以下で暮らしている。物乞い、物売り、ストリートチルドレン、売春婦...路上やスラムに暮らす世界最貧民の実情を生々しくレポートする。その貧困の悲惨さを強調するのではなく、彼らがどんな生活をして、日々何を考えているのか、を潜入取材による同じレベルの目線で明らかにしていく。

■6位 HEALTH HACKS! ビジネスパーソンのためのサバイバル健康投資術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/health-hacks.html

・HEALTH HACKS! ビジネスパーソンのためのサバイバル健康投資術
51nJGYPTBJL__SL500_AA240_.jpg

自称「健康オタク」であるこの先生は、世の中にあふれる健康情報を幅広く収集し、自身で体験し、エビデンス(科学的根拠)の有無を論じている。たとえば、水は沢山飲んだ方が良いとか、暗いところで本を読むと目が悪くなるとか、とにかくやせたほうがいい、沖縄県民は長寿だ、無理せず気持ちよく歩け、毛を剃ると剛毛になる、などは俗説でありエビデンスを欠いた眉唾健康情報だと切り捨てる。

■7位 世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-955.html

・世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
51Bp6zKjjLL__SL500_AA240_.jpg

高いワインほどおいしいと感じられてしまうハロー効果、占いがよく当たると思いこむバーナム効果、経験の強烈な部分と最後の部分が判断に影響を及ぼすピーク・エンドの法則など、私たちが陥りがちな認知バイアス=「脳の罠」とその回避法についてのエッセイ集。

■8位 儲かるオフィス 社員が幸せに働ける「場」の創り方
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-931.html

・儲かるオフィス 社員が幸せに働ける「場」の創り方
51jKEhO4LHL__SL500_AA240_.jpg

知識ワーカーがクリエイティブに働くためのオフィス論。多摩大学大学院教授(知識経営論)の紺野登先生の本。「クリエイティブなオフィスというとフリーアドレスを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、すでに指摘したように実は創造業務には向いていません。創造業務に必要なのは「対話」の質や密度、その背景となる組織の知の質であって、自由に座ることではないからです。ちなみにフリーアドレス制が向いているのは、営業部門のように在籍率が低い組織です。」「組織図をそのままオフィスレイアウトに反映させてしまうと、創造的な環境は生まれません。したがって、無思想なファシリティ・マネジメントは、「儲からないオフィス」のきっかけになりかねないのです。」

■9位 100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/100-3.html

・100年予測―世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図
41SKTv9X47L__SL500_AA240_.jpg

各国政府、軍機関、多国籍企業、ヘッジファンドなどを顧客に抱え、「影のCIA」と呼ばれるインテリジェンス企業ストラトフォーのCEOジョージ・フリードマンが書いた長期未来予測。文字通りの100年の計である。著者に言わせれば2008年の金融危機などありふれた景気循環の山にすぎない。主な予測は以下の通り。

・21世紀はアメリカの時代になる。
・日本、トルコ、ポーランドが新たな覇権国として台頭する
・意外にも中国が世界的国家になることはない
・海洋、そして宇宙を制する者が覇者となる
・2050年頃に勃発する世界戦争は宇宙戦争である
・21世紀後半のアメリカの脅威は隣国メキシコである

■10位 さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/5-8.html

・さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす
51A7ZKPW20L__SL500_AA240_.jpg

本は読まなくていいのです。1冊にひとつ付属するIDを使ってWeb上のテスト「ストレングスファインダー」を受験してください。180問の質問に答えるとぞれぞれの強みが5つわかるというものです。書籍はその説明書にすぎません。数十万人のビジネスパースンに対する調査データから、受験者の生来の資質を指摘するというもの。自分の美点を5つみつけてもらえます。そしてその美点がいかに素晴らしいものであるかを説明してくれます。読んでいてうれしくなります。

■11位 アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1023.html

・アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置
41ORJQE6dxL__SL500_AA240_.jpg

「創造手法の専門家たちは、これまでに、さまざまな「アイデア創出方法」を見いだしています。つまり「発想装置」を起動するための「スイッチ」が、実は存在しているのです。おもしろいことに、このスイッチには複数の種類があります。「即効系」のものは短時間で次々と発想させてくれますし、「深考系」のものはステップを踏んで確実に創造的なアイデアを発想させてくれます。」

■12位 シッダールタ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/post-708.html

・シッダールタ
51F1HKF483L__AA240_.jpg

「車輪の下」のヘルマン・ヘッセのもうひとつの代表作。アメリカ合衆国だけで500万部、全世界では43カ国で翻訳され、1000万部を超える大ベストセラーになった。和訳はいくつもあるが、これは2006年に草思社(がんばれ)から出た新訳版。現代人にわかりやすい文章。

■13位 科学する麻雀
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-758.html

・科学する麻雀
41T32FJA6YL__SL500_AA240_.jpg

もし私が麻雀現役だった学生時代にこの本を読んでいたら、こういう紹介文章なんて絶対に書かないで、知識を独り占めにしていたと思う。この本を読む前と後では、麻雀の強さが数パーセントは確実にアップしたんじゃないかと感じている。必勝法が書いてあるわけではないのだが、科学的に正しい情報を得て配牌に迷いがなくなるから、確実に余裕が生まれる。

■14位 傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1028.html

・傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学
41fNazNSm4L__SL500_AA240_.jpg

驚き。食品包装用ラップで傷が治る?。2001年よりインターネットで傷を消毒しない、乾かさない「湿潤治療」を啓蒙する医師の書いた本。コペルニクス的な転回が面白い。

■15位 [オーディオブックCD] 世界一おもしろい日本神話の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/cd-cd.html

・[オーディオブックCD] 世界一おもしろい日本神話の物語 (CD)

51nJCaJOk-L__SL500_AA240_.jpg

イザナミとイザナミに始まる日本神話の代表的エピソードを50本、朗読してCDに収録している。こうした神話は、古事記や日本書紀の現代語訳で読むこともできるが、日本神話は神様の名前がやたらとむずかしい。天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(アメニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギ)なんて読むこと自体が苦労である。だからこそ朗読を聴くといいのだ。

■16位 プロジェクトファシリテーション
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1089.html

・プロジェクトファシリテーション
projectfaci01.jpg

創業125年の老舗大企業 古河電工。人事総務部門の担当者とコンサルティング会社のコンサルタントが二人で書いた業務革新の一大プロジェクトの回顧ノンフィクション。構成のアイデアが素晴らしい。同じ場面を担当者の視点と、コンサルタントの視点が交互に描いている。それぞれの言動がそのとき相手の立場からはどのように見えていたか、そして何を考えていたかが明らかになる。

■17位 ヤンキー文化論序説
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-951.html

・ヤンキー文化論序説
51uKvRcuNXL__AA240_.jpg

そういわれてみればヤンキー的な生き方は実にオーソドックスな日本人的な生き方なのだ。であるがゆえに、日本では、品がない俗っぽい要素を効果的に取り込むことが大衆に受けるコツなのだ。彼らこそマスである。政治や選挙活動のスタイルがいつまでたっても"ベタ"な印象が強いのも、大衆がヤンキー的なものにひかれるからなのかもしれない。

■18位 借金の底なし沼で知ったお金の味 25歳フリーター、借金1億2千万円、利息24%からの生還記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/-251224.html

・借金の底なし沼で知ったお金の味 25歳フリーター、借金1億2千万円、利息24%からの生還記
41wbXha2B7SL__SL500_AA240_.jpg

25歳年収240万円のフリーターが、欲に目がくらんであっという間に1億2千万円、利息24%の借金を背負う。過酷な取り立てに追い込まれるが、自己破産することも許されない無間地獄の日々。生々しい。すべて著者の体験した実話だそうだ。借金体験記は世の中にいくらでもあるのだろうが、人気メールマガジンの作者なだけあって、リードから読ませるのがうまい。

■19位 裏方ほどおいしい仕事はない!
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1096.html

・裏方ほどおいしい仕事はない!

51kOfW6bKrL__SL500_AA240_.jpg

組織の中で権限なしに人を動かす方法論を述べた本。著者は裏方から会社のあらゆる人を動かす能力を「事務局力」と定義する。まず大切なのは人の置かれた立場でその人の感情を想像し、社長や社員の課題意識を明解な言葉にすること。事務局の仕事はコンサルタントの仕事と本質的に近いものだと述べられている。

■20位 落語論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1050.html 

・落語論
31kS65FkDzL__SL500_AA240_.jpg

落語を通して他者を魅了する芸とは何かの本質を論じている。芸人だけでなくプレゼン機会の多いビジネスマン、講師・教員、コンサルタントは必読の書である。ライヴの極意が書かれている。

2009年に書いた記事に限定して、各記事のはてなブックマーク数を調べました。アテンションエコノミーのネット空間上で目を引くタイトルとは何かを、毎年、このランキングを見て考えています。

1位 なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-1000.html

2位 傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1028.html

3位 裸体とはじらいの文化史―文明化の過程の神話
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1064.html

4位 借金の底なし沼で知ったお金の味 25歳フリーター、借金1億2千万円、利息24%からの生還記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/-251224.html

5位 セックスと科学のイケない関係
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-987.html

6位 世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-955.html

7位 脳はあり合わせの材料から生まれた―それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-973.html

8位 猿はマンキお金はマニ―日本人のための英語発音ルール
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-933.html

9位 人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1094.html

10位 2008年度 年間オススメ書籍ランキング ノンフィクション部門
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/2008-4.html

11位 他人と深く関わらずに生きるには
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-997.html

12位 文才がなくても書ける小説講座
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-991.html

13位 CSVをテキストの表に変換する テキストテーブル
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/csv-2.html

14位 ヤンキー文化論序説
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-951.html

15位 原稿用紙を印刷するソフト 原稿用紙自動作成 Genkou-PRI
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/-genkoupri.html

16位 印刷可能な文書をなんでもFlashに変換するPrint2Flash
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/flashprint2flash.html

17位 アブダクション―仮説と発見の論理
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-976.html

18位 ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1015.html

19位 はじめて講師を頼まれたら読む本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1128.html

20位 アマゾンでジャンル別に安い商品、割引率が高い商品を探す あま得
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-975.html

・クリック!「指先」が引き寄せるメガ・チャンス
51WG2WwYP1L__SL500_AA240_.jpg

Webマーケッターは一読の価値あり。

著者のビル・ダンサーが所属するHitwise社はISPのアクセスログなど1000万人のWebアクセスデータを収集して、インターネットユーザーのクリック動向を解析している。このデータを使うと、どんなプロフィールのユーザーが、どのようなサイトに、どれくらいの頻度でアクセスしているかが把握できる。またどのページからどのページへと移動しているのかも丸見えになる。

・HItwise
http://www.hitwise.com/us

海外中心のデータだが、現在のWebのトラフィック動向がよくわかる。たとえばCGMサイトに書き込みをする人と閲覧をする人の比率について、こんなデータが明かされている。

「ウェブ2.0的なサイトへの全アクセス数の1パーセント未満が、ユーチューブに自ら作成した動画を投稿するなど積極的に参加している人たち、9パーセント(この数字はそのサイトのオペレーションの「複雑さ」)によって、3パーセントから9パーセントの幅で変動する)が、項目を編集するかコメントを書き込みながら、消費者の生み出したコンテンツと相互に関わり合っている人たち、そして90パーセントが潜伏者であり、反応はせずに黙ってコンテンツをながめているだけ」

90%のマジョリティの気持ちはわかっても、1%や9%のの常連投稿者たちとコメント投稿者の気持ちが分かる人は少ないと思う。多くの企業によるCGMサイトが投稿者の不足で苦しむのは、広告経由で来訪するようなマジョリティ向けに作りこんでしまう結果なのではないか。個人やベンチャー発のCGMサイト(ミクシイもグリーも)は開発者がコア層の人間だったから成功したように思える。

もちろんマジョリティもいつまでもネット初心者ではなく、検索エンジンにおいて3語以上での検索が2003年では全検索数の14%にだったが2007年には23%にまで増加したという底上げ現象も起きているそうではあるが。

層と層のインタラクションという分析も興味深い。たとえばウィキペディアにアクセスする人は18歳から24歳の層が大きな割合を占めているが、書き込みをする人は45歳以上が41%を占めていて18歳から24歳は17%に過ぎない。年長者が若年層に教えているという図式になっているという。

そして大変面白かったのが、知られざるアダルトサイトの現状である。アダルトサイトへのアクセス数は72.6%が男性だが、テキスト主体の「エロ文学」サイトでは女性が65.5%を占める。( たとえば http://www.adultfanfiction.net/ だそうだが、英語力が相当ないと興奮できない(笑)。)

2007年頃から若年層でアダルトサイトの視聴時間が減って、SNSの視聴時間が上がった。異性の裸より友達との会話に時間を費やすようになったという。Twitterブームはその延長線上にあるのだろう。「フェイスブックで生身の人と接触できるチャンスが得られるのに、どうしてポルノが必要なのか」という利用者の声まで紹介されているが、実に健全なリテラシーの向上と言えそう。

本書はこうしたデータとその分析の話がひたすら続く。米国での出版は2008年度であるため、2009年の状況は入っていないのだが、Web2.0、3.0世界のトラフィックサマリーとしてはだまだ有効であろう。

日本のトラフィックに特化した本を誰か書いてくれないかなあ。Internet Survey MLの萩原代表が適任者だと思うのですが。

・Internet Survey Reference Room
http://masashi.typepad.jp/surveyml/

太陽の庭

| | トラックバック(0)

・太陽の庭
51-ec8umHHL__SL500_AA240_.jpg

『花宵道中』の宮木あや子の新作。

日本の上流階級だけが謁見を許される"神"永代院由継の屋敷に暮らす女たちの物語。そこは外界と接触を絶った閉鎖的な封建社会。正妻と多数の妾が相互監視下に同居している。男児が誕生すると妬まれ人知れず闇に葬られる母子、飼殺しにされる妾の子供たち。屋敷の住人達は日本の戸籍を持たずそこで一生を過ごす。由継の寵愛を得るものだけが存在を許されている。

一子相伝の永代院は日本の天皇制を連想させる。現実の天皇制はだいぶオープンになっているから、もはやそれはどこにもない制度なのだが、著者の日本の宗教と社会の関係性の解釈にいろいろと含みが読み取れる。天皇制というロマンを書いている。

前半は制度と因習にがんじがらめにされた空間で、妾織枝の子の駒也と、正妻雅恵の娘の葵、その弟の和琴らが繰り広げる官能的で悲劇的な愛憎劇。同性愛と近親姦の濃密なにおい。後半は一転してマスコミのタブー永代院の実像を追いかける雑誌記者の外部視点で描かれる。インターネットの掲示板炎上など現代的な要素も織り込みつつ、内と外から永代院の神秘性が曝かれていく。

『花宵道中』『白蝶花』の閉鎖的世界観がここでもしっかりと構築されている(未読だが『雨の塔』の設定が似ているらしい)。R18文学としてのあからさまな性表現は低めになったが、相変わらず退廃的で妖しい官能美が読み所。

・白蝶花
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-996.html

・花宵道中
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-936.html

・NHK紅白60回増刊 NHKウィークリーステラ
51hYrAOi5UL__SL500_AA240_.jpg

紅白歌合戦は今年で第60回。大晦日は子供のころから紅白歌合戦をみて過ごしている。それ以外の番組で年を越したことがない。このムックは1951年の第1回から59回までを写真とデータで振り返る。懐かしいエピソードがいっぱい。

「紅白おもしろ検定」全100問というのもあって、第1問は、第1回の開催日について選択式で選ばせる。答えは1月3日。第1回から3回まではお正月番組で、テレビはなく、ラジオ生放送だった。大みそかのテレビ番組になったのは第4回からなのである。男女が紅白に分かれて対決する形式は当初からであったが、4回目にしてはじめて紅組が優勝。敗れた白組は「テレビは怖い。衣装に負けた」と悔しがったそうだ。

NHKの重鎮制作者たちによる座談会では昭和51年頃は、歌詞だけ書いてある台本だけで勢いで進行していてのんきだったという舞台裏が明かされる。紅白の応援合戦は相手を驚かさるために内容は秘密だったので「時間のキープなんてめちゃくちゃ。だからどんどん時間が足りなくなって、用意していたコーナーがカットされたり、応援の出演予定の人が出られなくなったり。」。出演者と舞台裏のスタッフは5000人以上もいて、緻密な台本による進行が行われる現在の紅白とはずいぶん違ったようだ。

「CD100万枚売れましたといっても、その歌を100万人しか知らないかもしれないですものね。みんなヘッドフォンで聴いているから、広がらないんですよ。」と20年間紅白にかかわった島田源領氏は「歌が飛ばない」現象を嘆く。第1回では1時間番組だったが、時代がくだるとともに、多様化にこたえるため長時間化し、ジャンルも広がった。そして視聴率は下降していった。紅白歌合戦の構成と視聴率は日本人の多様性のバロメーターなのだ。
小林幸子の衣裳の変遷をカラー写真で追うなどの特集記事。出場回数、分布、トリ歌手一覧、連続出演などの記録を集めた紅白データ百科などのコーナーもある。オフィシャル編集なので詳しい。紅白ファンは大晦日に家族で読むと団らんネタによさそう。

・デジタルネイティブが世界を変える
51veSZ26toL__AA240_.jpg

ボブ・ディランの名曲に「The Times They Are A-Changin'(時代は変わる)」という歌があった。子供の世代が古い価値観の親の世代に交代を迫る社会派の歌詞は時代は変われど普遍的なものだ。21世紀初頭の社会のChangin'とは、PCやネットを自在に使いこなす"デジタルネイティブ"と、旧世代の"デジタルイミグラント"の交代劇である。ネイティブ層1万人へのインタビューをもとに、8つのキーワードが浮かび上がる。

ネット世代は何をする場合でも自由を好む。選択の自由や表現の自由だ。
ネット世代はカスタマイズ、パーソナライズを好む。
ネット世代は情報の操作に長けている。
ネット世代は商品を購入したり、就職先を決めたりする際に、企業の誠実性とオープン性を求める。
ネット世代は、職場、学校、そして、社会生活において、娯楽を求める。
ネット世代はコラボレーションとリレーションの世代である。
ネット世代はスピードを求めている。
ネット世代はイノベーターである。

「テクノロジーは発明される前に生まれた人にとってのみテクノロジーとして意識される。」とアラン・ケイは言った。デジタルイミグラントの私の世代はテクノロジーそのものが好きだが、ネイティブにとってはテクノロジーは無意識のうちに使っているものであって、評価する対象でない。無理して使うことはしない。必要最小限のテクノロジーを、最大の効果で自然に使える世代が誕生しようとしているようだ。

日本では平成元年(1989年)生まれくらいが、デジタルネイティブ層に当たる。本書は米国の話が多いので、イメージを持ちやすくするために、1989年生まれの人生を、IT業界史とともに振り返ってみた。

95 小学校1年でウィンドウズ95が発売
96 小学校2年でヤフー株式会社設立
97 小学校3年まぐまぐメルマガブーム
98 小学校4年でウィンドウズ98が発売
99 小学校5年で携帯i-Modeが登場
00 小学校6年でビットバレーが話題に
01 中学校1年でYahoo! BB開始
02 中学校2年でWinnyが誕生 P2P全盛に
03 中学校3年でGoogleがBlogger.com買収
04 高校1年でミクシィがスタート
05 高校2年でライブドアがフジテレビ株式取得
06 高校3年でライブドアショック
07 大学1年でウィンドウズ Vistaが発売
08 大学2年でサブプライム崩壊大不況へ
09 大学3年でiPhone新型発売
10 大学4年で就職活動

いままさにデジタルネイティブが社会に出てくる元年なのである。この本は豊富なデータと深い洞察で、この新世代のイメージを明確に浮かび上がる。名著だと思う。

・ブレイン・ライティング・シート2
511NKSr7lFL__AA280_.jpg

先日、私の「Webマーケティング・イノベーション」(多摩大学大学院)という授業で、アイデアプラントの石井力重さんにゲスト講師として授業をしていだだきました。

photo

・アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1023.html
石井さんの著書「アイデア・スイッチ」。楽しい発想ツールのカタログ本。

アイデア発想法、特にブレインストーミングについて、理論的であると同時にたいへん実践的な内容でした。企業研修で大人気というのも納得の場の空気作りにもしびれました。受講生の反応を見ながら、大量の持ちネタから最適な事例やトークを繰り出す石井さんに感動です。

授業では石井さんが開発した「ブレイン・ライティングシート」を利用しました。これは5,6人のグループが30分間無言で、アイデアを書き出し、掛け合わせていくという斬新なブレストツールです。

こんなシートなのですが、グループは円状に座ります。

4207818424_a736bdfcd7.jpg

まず、最初に発想のテーマを書きます。この日は「趣味に使えるお金を2割増やす」に設定して取り組みました。そしてまず1行目の3つのマスを3分程度で各自が埋めます。最初の3つは簡単だからすぐに書き終わります。「アルバイトをする」「ヤフオクで物を売る」など、ファーストアイデアは月並みなものが多かったです。

そして1行目を全員が埋めたら自分のシートを左隣の人に渡し、右隣の人からシートをもらいます。また3分の発想タイムで2行目に3つ黙って書きます。そのとき上の行に便乗したアイデアを書くことも奨励されています。3行目くらいには「欲しいものを1週間待ってから買う」「ヒマな人をネットに集めてビジネスをする」とだんだん発想っぽくなってきます。

スピーディにやっていると5行目、6行目になってだんだん発想が苦しくなってきます。当たり前のアイデアは使い果たしてしまい、次第に奇抜なものが出やすくなってきます。「子供をタレントにする」「お金持ちの女性のヒモになる」「AVに出演する」などが出てきます。

発想タイム3分×6回で18分。合計で5人なら90、6人なら108個のアイデアが出てきます。似ているものはまとめるとしても80個くらいのアイデアが、常識的なものから奇抜なものまで出そろうわけです。参加するだけで、そのテーマのだいたいの方向性がわかります。

そしてこの記入済みシートを順番に見て、自分がいいと思ったアイデアに★マークをつけます。★マークをつけたら隣に回します。一巡すると★が多くついたもの、ゼロのものと人気度がはっきりします。

photo

このシートはミシン目がついていてカードとして切り離せます。★の人気順で並べたり、KJ法に持ち込んでさらに整理をすることが可能です。名刺サイズなので、名刺アルバムで管理できるのもファシリテーターとしては便利なのですよと、石井さんから教えてもらいました。みんなのアイデアをカタチに残せるのは業務報告としても、引き継ぎ資料としても実用的です。

黙ってブレストをすることで、声の大きい人の意見に左右されないブレストの理想形を実現できました。また声に出してはいいにくい際どいアイデア(AVビデオに出演する、など)も、ゲーム感覚で急いで記入させると出てきます。幅のあるアイデアだし、本音や遊び心を引き出せるブレスト空間がこのシートで作り出されていました。これは日常的に使ってみたいツールだなあと思いました。

・ブレイン・ライティング・シート2
511NKSr7lFL__AA280_.jpg

石井さん、ご講義ありがとうございました。

・多摩大学大学院で、アイデアワークの講義をしてきました。
http://ishiirikie.jpn.org/article/34276027.html
石井さんのブログ。物凄い分量の講義スライドが公開されています。

・iPhone情報整理術
513Bau8Dq1L__SL500_AA240_.jpg

デジタルツールを使った仕事術は私も一応専門家なので、一般向けの本で満足することは滅多にないのだが、この本は例外で大満足。iPhoneを仕事にフル活用したいという人はいますぐ読むべき。よくあるiPhoneムック本とは格が違う。iPhoneを徹底活用したデジタルノマドのノウハウの要点と、何万本もあるアプリから精選された本当に役立つものだけを知ることができる。

デジタルノマドというのはこの本によると「簡単にいえば、最先端のITツールを駆使して、物理的制約にとらわれずに仕事をする、新しいワークスタイルのことです。手元の超小型コンピューターやオンライン上に、バーチャルオフィスをそのまま持ち出し、それを使ってもっとも都合のよい時間帯に、一番便利なところで仕事をこなす」というもの。特にワークスタイルが比較的自由なフリーランスやベンチャーのビジネスマンに最適な内容になっている。

iPhoneアプリの世界は日々進化している。だからこの本も今が旬だと思う。思えば私自身のiPhone利用も2週間くらいで変化している。今最も利用頻度が高い仕事系アプリベスト3は、

1位 Read It Later
PCのWebブラウザーでページを「後で読む」指定しておくと、iPhoneでダウンロードして読むことができる。

2位 ByLine
GoogleReaderの専用クライアント。Googleリーダーに登録したブログやニュースサイトを一括ダウンロードして読むことができる。

3位 Evernote
PCで便利な多機能メモ帳と連動するiPhoneクライアント。iPhoneからメモを取る時には必ずこれを利用して、PC版のメモと統合管理している。書類読み取りアプリのDocScannerとの連携もスムーズ。

といった感じ。より詳しい話は、このイベントでプレゼンしようと準備中。

エバンジェリストとiPhoneについて語ろう!
http://www.feedpath.co.jp/topics/seminar/000543.html

・ロスト・トレイン
51yDomRthsL__SL500_AA240_.jpg

大変面白かった。

「日本のどこかにまだ誰にも知られていない、まぼろしの廃線跡がある。それを見つけて始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる。」。テツ(鉄道ファン)の間に広まる噂とそこから始まるスタンドバイミーのような冒険のストーリー。2008年『天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語』で第20回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した中村 弦の受賞後第一作。

「わたしはどきどき思うのですが、人の一生というのは鉄道に乗るのと似ています。どこへでも自由い行けるかのように見えて、じつはそれほど自由があるわけではない。すすむべき線路は一本ではないけれど、あらかじめ親や学校や社会によって幾通りかのレールが敷かれていて、ほとんどの場合そのきめられたなかから選ぶしかない。とこどころ乗り換え駅があるけれど、よくよく注意しないと番線や列車をまちがえて、目指しているのとは全くちがう場所へ連れていかれてしまう。私は乗り換え駅に着くたびに、乗るべき列車を選びそこなっていたような気がしますよ」

と言う初老の平間さんと、廃線巡りで知り合った若いぼく。世代を超えて鉄道談義で親交を深める二人だが、突然の平間さんの失踪。ぼくは残されたわずかなてがかりを頼りに、旅行代理店の菜月さんと一緒に平間さんの行方を探す。

テツの蘊蓄とミステリーと恋愛と少しオカルト要素をからめて、鉄道ファンタジー小説という独特の新ジャンルを確立している。テツでない人にテツがわかりやすく教える場面が多いので、読者はテツでなくても大丈夫。

マニアックなテツの生態がネタにされているが、作品全体としてはさわやか青春小説。昨今の日本のファンタジー路線的には恒川光太郎の異界モノが好きな人に特におすすめ。

来年のイベントのご案内です。

iPhoneとモバイルサービスの未来について、ソフトバンクモバイルのエバンジェリスト中山五輪男さんとディスカッションすることになりました。申し込み方法がTwitter限定と少々風変わりですが、無料ですので御気軽にご参加ください。

========以下、主催者のフィードパスによる案内文です。

【開催告知】Feedpath face to face Round Table Vol.2
http://www.feedpath.co.jp/topics/seminar/000543.html
frt_logo.gif

テーマ:橋本大也 × 中山五輪男 エバンジェリストと
iPhoneについて語ろう!

Feedpath face to face Round Table
Vol.2(FRT)は、iPhoneエバンジェリストとして日々国内を奔走しているソフトバンクモバイルの中山五輪男さんと「忘年会議」をはじめとする多くのセミナーで講演を行っているインターネット業界のオピニオンリーダーであるデータセクションの橋本大也さんというビッグネームの顔合わせを実現しました。フィードパスCTOの後藤康成を交えて2010年のiPhoneのトレンドについて徹底討論を行います。iPhoneに興味をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。


§ 開催要項

開 催 日 2010年1月19日(火)
開催時間 16:00 - 18:00 (15:30から受付)
会  場 〒107-0061
東京都港区北青山2-7-26 フジビル28 9F CROSS COOP青山 9F
セミナールーム
アクセス http://crosscoop.com/conference/conference_access

参加費 無料

定  員 先着20名様
定員になり次第、参加申し込みを締切らせていただきます

MC 後藤 康成 フィードパス株式会社 取締役 CTO
ゲ ス ト 橋本 大也 氏 起業家。データセクション株式会社取締役会長
中山 五輪男 氏 ソフトバンクモバイル株式会社 マーケティング本部 事業推進統括部 シニアエヴァンジェリスト


PCの持ち込みについて
PC持ち込み可能。無線LANをご利用いただけます
PC用の電源タップは数に限りがございます

Twitter中継について
Twitterを活用してリアルタイム中継が可能です
FRTのTwitterハッシュタグはこちらをお使い下さい 【#FRT】

主催 フィードパス株式会社


§ プログラム
Keynote ライフスタイルに変化をもたらした、掌からアクセスできる
コンピュータの近未来
後藤 康成(10min)

Session 1 iPhone活用による『ユビキタス情報力』革命
橋本 大也 氏(30 min)

Session 2 進化し続けるiPhoneがビジネスを変革する
中山 五輪男 氏(30 min)

Discussion 橋本 大也 × 中山 五輪男 × オーディエンス
モデレータ 後藤 康成(30 min)
Networking

Conversation 名刺交換およびご歓談
(10min)

お申し込みはこちら
http://www.feedpath.co.jp/topics/seminar/000543.html

注意。
このランキングは1年遅れの2008年度のランキングです。私が昨年2008年中に読んで面白かった本です。毎年、フィクション部門とノンフィクション部門で、オススメ書籍を発表してきましたが、2008年度はフィクション美門だけ発表してノンフィクション部門の発表を忘れていたことに、この年末になって気がつきました。

2008年度 年間オススメ書籍ランキング フィクション部門
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/2008-3.html
これと対になります。

そういうわけで周回遅れの2008年度 年間オススメ書籍ランキング ノンフィクション部門です。この年度は私の読書傾向がはっきりしていて新刊よりも既刊・古典ばかりが並ぶ結果になりました。

2009年度版は年始に発表予定。

■1位 シッダールタ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/post-708.html

・シッダールタ

51F1HKF483L__AA240_.jpg


この本は最終章で解脱の境地に至ったシッダールタが語る人生の総括にすべてがある。「愛」とは何か、「時間」とは何か、「人は何のために生きるか」に対して現代日本に生きる私にも説得力のある答えが書かれていた。90年近く前にドイツ人の作家がこれを書いたということに驚かされる。学生時代に「車輪の下」を読んでもスルーだったノーベル賞作家なのだが、こちらはズシンときた。

■2位 脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-742.html

・脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界

41EQZBQTXGL__SL500_AA240_.jpg


美術の目的は脳機能の延長にあるという科学的美術論。ピカソ、フェルメール、ミケランジェロ、モネ、モンドリアンなど古今東西の美術作品を、脳はなぜ美しいと感じるのか、脳科学の研究成果と結びつけて解説していく。美とは何かという哲学的問題ととらえられてきた難問に対して、著者は明解な科学的な回答を提示する。

■3位 愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html

・愛の空間

・愛の空間


ainokukan01.jpg


大変面白い。日本独特の文化である「性行為専用空間」の歴史学。井上章一が10年がかりで書いた傑作。好事家もここまで極めると新学問の開祖といってもよさそう。

■4位 選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-864.html

・選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?

41n4CKxeORL__SL500_AA240_.jpg


ノーベル経済学賞受賞の経済学者ケネス・アローは、いかなる投票方法を持ってしても、票割れなどの好ましくない状況を完全に排除することはできないということを論理的に証明して見せた。アローの不可能性定理は民主主義の致命的欠陥ともいわれる。民衆が三人以上の候補者から最適な一人を選ぶことは、とても難しいことなのだ。

■5位 人はいかに学ぶか―日常的認知の世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-846.html

・人はいかに学ぶか―日常的認知の世界

41vUb69CXfL._SL500_AA240_.jpg


私たちは学校教育で教師から知識を学ぶ。一方で習わないこともたくさんある。日常を生きる上で必要な基本能力を私たちは「教え手なし」で獲得できる。学校に行かなくても生きていく基本能力は自然に備わる。発達心理学と認知科学を専門とする著者は、人間はこれまで一般に考えられてきたよりもずっと有能な学び手なのだという。現実的必要から学ぶとき人は教師から学ぶのとは異なる強力な学習をする。この本はそうした日常的認知の能力を解明しようとしている。

■6位 日本文化の模倣と創造―オリジナリティとは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-756.html

・日本文化の模倣と創造―オリジナリティとは何か

416265MD92L__SL500_AA240_.jpg


コンテンツビジネスに関わるすべての人が一読の価値ありの名著。日本と世界の文化史における模倣と創造の関係を多面的に検証し、ものまねではないオリジナリティの追究という幻想を打ち壊す。歴史を振り返ってみれば、ものまねこそクリエイティティの源泉だったのである。

■7位 J・S・バッハ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/js.html

・J・S・バッハ

41EJC34AGRL__SL500_AA240_.jpg


楽聖と呼ばれるバッハの人柄や生活、職場や家庭について、この本ではじめて知ることができた。バッハは世襲の名門音楽家職に生まれたが、当時の音楽家は職人の一種であった。徒弟として師に学び職人修行の末に独立した楽士になるものだった。バッハはそうした職人気質の世界でも並外れて頑固で妥協を許さない性格で知られ、それが出世にマイナスに響いた部分もあり、高名ではあるが必ずしも時代の寵児で人気者というわけではなかったようだ。そして、そうであるが故にバッハの厳格さと倹約の精神はいっそう強くなったとらしい。

■8位 イスラーム文化 その根柢にあるもの
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-822.html

・イスラーム文化 その根柢にあるもの

510TTCKFQNL__SL500_AA240_.jpg


中東問題の記事を読むときに出てくるスンニー派、シーア派などが何を意味しているか根本的な理解ができる。インターネットで世界はすっかりつながった感じがあるが、文化的に断絶しているのが日本とイスラーム世界だと思う。日本人は一般に宗教を嫌うから外国の文化だけを理解しようとする。しかしイスラーム世界の場合、それでは無意味だということがわかる。イスラーム世界の文化的枠組を理解する名著である。

■9位 オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/post-871.html

・オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険

51qmOZhAviL__SL500_AA240_.jpg


この本には、オオカミ少女とサブリミナルのほか、言語と虹の色の数の関係、双生児の研究、なぜ母親は左胸で抱くか、プラナリアの学習実験、恐怖条件づけとワトソンの育児書など、どこかで聞いた話が次々に出てくる。意識的にあるいは無意識に実験者が結果を作り出してしまう事例の研究書だ。読み物としても面白い。

■10位 マインド・タイム 脳と意識の時間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/01/post-689.html

・マインド・タイム 脳と意識の時間

5148BCYKZHL._AA240_.jpg


認知科学で有名な意識の遅延に関する理論を、研究の第一人者の認知心理学者ベンジャミン・リベット自らが一般向けに語っている。この理論によると。私たちが意識の上で「今」だと感じている瞬間は正確には0.5秒くらい前なのである。

■11位 日本人と日本文化
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-716.html

・日本人と日本文化

51813JNB56L._AA240_.jpg


司馬遼太郎とドナルド・キーンの対談。古典的名著。キーンの日本文化についての知識の幅広さと深さに驚かされる。議論の中で何度も司馬遼太郎が防戦側に回っているように感じた。8本の対談が収録されている。議論はだいたい日本らしさ、日本人らしさとは何か、ということに収斂する。キーンに言わせると歴史的にみて「日本人はいつも何が日本的であるかということについて心配する」民族であったらしい。

■12位 中空構造日本の深層
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-882.html

・中空構造日本の深層

511JKXFDV8L__SL500_AA240_.jpg


今読むと、多様な思想を共存させるエコシステムとして、日本人の精神の深層にある中空・均衡構造は、ネットワーク時代の世界が持つべき構造のヒントになりえる気もする。欧米型の中心統合構造に対して日本は劣っているのではなく、むしろ中空・均衡構造という優れた構造を持っているのだと胸を張るべきなのだ。まあ、胸を張って言わないのが中空均衡構造のリーダーでもあるのだけれど。

■13位 迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-759.html

・迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか

51U2eKQgC9L__SL500_AA240_.jpg


ガンや糖尿病など遺伝が関係する病気は数多い。なぜ人類は進化の過程でこうした病気をなくすことができなかったのか。進化とは有害な遺伝子を淘汰して、役に立つ遺伝子だけを残すという取捨選択のプロセスではなかったのか?。気鋭の進化医学者が進化の仕組みについての最新の科学的見解を披露する。

■14位 「信用偏差値」―あなたを格付けする
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-885.html

・「信用偏差値」―あなたを格付けする

417MyaTABmL__SL500_AA240_.jpg


「日本では、五百万円借りている人と一千万円借りている人を比べると一千万円借りている人の方がリスクが高いとみなされ、警戒される。ところが、米国では一千万円、二千万円借り入れていても、その人が返済しているのなら、信用があると、前向きに判断される。返済ができているのは、それだけ収入があるからだと、考えているためだ。」

■15位 戦場の生存術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-757.html

・戦場の生存術

senjonoseizonjutu01.jpg


1942年生まれ、1961年慶応大学在学中に傭兵部隊の一員としてコンゴ動乱に参加、その後、フランス外人部隊教官を経て、アメリカ陸軍特殊部隊に加わる、というプロフィールの日本人傭兵が書いた、正真正銘のサバイバル術。そんじょそこらの趣味的サバイバル本とはレベルが違う。平和ボケしている私たち日本人だが、平和ボケしていられることの幸福をかみしめるために、この本は価値があると思う。こんなノウハウが使われる日が来てはいけないし、一般人が知る必要もないのがよい社会のはずだ。ただ、戦争の恐ろしさを確認するために価値がある一冊かもしれない。老人の戦場体験よりも恐怖のリアリティが伝わってくる。

■16位 美を脳から考える―芸術への生物学的探検
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-777.html

・美を脳から考える―芸術への生物学的探検

3116K0KJZCL__SL500_AA240_.jpg


こうした美の原理の発見は、美の創造にも役立つ基礎データになるだろう。音楽におけるリズムの研究やダンスの研究の章もあるが、結論として世界中で言語は違っても、詩や音楽、会話のテンポは似ているのだ。その普遍性には聴覚器官の知覚能力や脳の情報処理能力と深い関係があるようだ。

■17位 日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-773.html

・日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ

31eCNfDPwIL__SL500_AA240_.jpg


私の受けた日本の教育では、国の運営について肝心のところを教えてもらえなかったと不満に思っている。社会の教科書には、憲法の主旨、三権分立の概念、二院制、選挙制度など日本のハードウェア構成は書いてあるのだが、それらが実際にどう運用されているのかの話はほとんど書かれていなかったと思う。90年代以降の改革の意味も含めて具体的にわかりやすく説明がある。高校や大学の授業でこれを教えるべきである。政治学者が書く一般書のお手本になる名著だと思った。

■18位 遊びと人間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-803.html

・遊びと人間

158920-1.gif


1958年にロジェ・カイヨワが書いた遊戯論の古典。特に遊びの定義と4分類は後の研究に大きな影響を与えた。遊びは人間だけのものではない。動物の子供も遊ぶ。遊びは動物に共通する本能である。その基本的な本能を公共のために飼い慣らすことができたのが人間の成功の秘密だったのかもしれない。カイヨワの遊戯論は後半でいつのまにか文明論に発展していく。読み応えたっぷりである。

■19位 大人問題
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/post-798.html

・大人問題

41WC893E5QL__SL500_AA240_.jpg


絵本作家の五味太郎が大人向けに書いた教育論。子どもにとって大人は有害だと宣言する。子どもに問題があるのではなくて大人"は"問題であり、大人"が"問題であり、大人"の"問題であるのだ。大人問題の本。かつて大人や学校や大嫌いだった人(私はそうでした)には、拍手喝采の名言集である。

■20位 津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-853.html

・津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇

51Y77WCWWSL__SL500_AA240_.jpg


岡山県苫田郡西加茂村大字行重部落。昭和13年5月21日午前1時40分頃、農業 都井睦雄(22歳)は寝所から起きだすと、黒詰襟の服を着込み、足にはゲートルと地下足袋、頭に二本の懐中電灯をとりつけた。猛獣狩用猟銃を持ち、日本刀を腰に下げて、外に出ると、まず村の電線を断ち切り村を停電させた。世界的にも類例がないほどの単独犯による大量殺人事件の始まりであった。

このアプリは常用決定。便利。

・FastweetLive
http://glucose.jp/
4199374034_bcf0b58b98.jpg

Twitterのつぶやきをハッシュタグやキーワードで検索して、結果をリアルタイムに表示するiPhoneアプリ。検索結果の更新は自動で行われるので、セットしたら後は見ているだけでいい。とにかくイベントとの相性が抜群。もちろん、アプリ内からつぶやくこともできる。

4198619531_b434d8aeaf.jpg

たまたま開発者のグルコース安達さんとアーキタイプ(日本最強のベンチャーインキュベータ)忘年会で一緒になり、FastweetLiveユーザーだらけのハッシュタグ付き忘年会を初体験。飲み会なのにみんなiPhoneいじりまくるのってどうよと思ったが、遠く離れた席の話題もわかるので、結構盛り上がっていました。後日、飲み会の感想を言えるのも良いところ。

イベント以外の使い方としては、よく行く地名を登録しておくとレストランなどのお店の情報がよく見つかる。新発売の商品名を登録しておくと、一早くレビューや感想をみつけることもできる。Twitterを情報収集源に使っている人は必携。

昨日の神様

| | トラックバック(0)

・昨日の神様
51zaswT2BFFL__SL500_AA240_.jpg

傑作映画『ゆれる』の監督西川美和が、小説家モードで書いた短編小説5編。直木賞ノミネート作品。

主に僻地の医者を主人公にしている。人間の心の機微を描くのがうまい。日常の中にある無数の小さなドラマを浮かび上がらせる。内気な子供の心の動きみたいなものをよくとらえているなあと感心してしまう。

特に「1983年のほたる」。街まで往復何時間もかかってバスで塾通いをする田舎の少女とバスの運転手との微妙な関係の物語。運転手の方は好意的に話しかけているのに、少女は毛嫌いしている。そんな関係の二人が深夜のバスに乗っている時、村の住人を巻き込む交通事故が起きてしまう。それがきっかけでそれまで少女には見えていなかった隣人たちの人生を垣間見るという話。

・ディア・ドクター
41x8ohYJO2L__SL500_AA240_.jpg

収録作品のうち一本「ディアドクター」はこの映画の原作でもある。父親が倒れてたことをきっかけに、病院の待合室で久々に再会した兄弟の心の葛藤を描く。本の数時間の話なのだけれど、兄と弟の人生模様がよく伝わってくる印象的な作品だった。映画はまだ観ていない。

・ゆれる

414KKTH9GHL__AA240_.jpg

久しぶりに故郷へ帰ったカメラマン(オダギリジョー)は、兄と一緒に幼ななじみの千恵子と峡谷へドライブする。兄と千恵子が二人で吊橋を渡ったときに千恵子が転落死してしまう。これは事故なのか殺人なのか?揺れる吊橋のようにゆれる関係者の心。手に汗握るサスペンスであり、心揺り動かされる人間ドラマ。西川美和監督のファンになった。

ヘヴン

| | トラックバック(0)

・ヘヴン
41KK0r3Uj6L__AA240_.jpg

第138回芥川賞の川上未映子が、壮絶ないじめを受ける少年と少女の心の葛藤を描いた衝撃的な作品。

「ねえ、でもね、これにはちゃんとした意味があるのよ。これを耐えたさきにはね、きっといつかこれを耐えなきゃたどりつけなかったような場所やできごとが待ってるのよ。そう思わない?」と少女は、同じようにいじめられている少年に言う。

なぜ人は誰かをいじめるのか? なぜ人をいじめてはいけないのか?

この作品は問いかける。

いじめにかかわる双方の張りつめた対話が続く。登場人物はいじめる側も、いじめられる側も雄弁に自分の立場を語る。現実にはこれだけ気持ちを整理して話せる少年少女はいないだろうが、その超現実的につきつめたやりとりが、いじめ問題の本質を白日のもと晒す。朝まで生テレビで一晩議論するより、この作品を読んだ方が、いじめとは何かがよくわかるはず。その根の深さにやりきれなくもなるのだが。

社会問題の提起という価値だけでなく、緊張感のあるドラマとしてもよく構成されている。いじめられっ子の二人が心を通わせる共感のひとときに感情移入をしていると、陰湿で過酷になる暴力が突然にそれを吹き飛ばしてしまう。読者は作中のいじめられっ子と同様に何をされるかわからぬ怖さに不安と緊張がやまないのだ。

いじめの怖さというのは、未知の恐怖が大きいと思う。相手が何を考えているのかわからない怖さであり、次に何をされるかわからない怖さである。それを逆手にとって恐怖を最大化するように、いじめっこはいじめを設計することを楽しむ。

「...君も、わたしも、なんでこんなふうに、...みんなからこんなふうにされているんだと思う?」

なんでそんなことをするのか。それが人間心理や社会の性質に自然に根ざすものなのだとすると、なかなか論理的な答えは返ってこないだろう。人間や社会はそういうものだから、いじめはあるというのが本当のところだろうか。

いじめの底知れなさをいやというほど見せつけられる衝撃作である。

・古代中国の虚像と実像
41HJOorHVFL__SL500_AA240_.jpg

「二千年以上も昔の話であるから、こうした誤解は放っておいてもたいした害はないのだろうが、私は非科学的なものが嫌いなので、あえて虚像を指摘し、それを正す文章を書くことにした。 夢のない話を延々とするので、「現実的な話は聞きたくない」という人は、本書を読まないことをお薦めしたい。」

実にむかつく本である。

ちょっと著者を張り倒したくなる。

だが、古代中国好きには面白いことが書いてあるため、読み進めないわけにもいかない。
夏王朝はなかった。
紂王は酒池肉林をしなかった。
『孫子』は孫子がつくっていない。
焚書はあったが坑儒はなかった。
徐福は日本に来なかった。
四面楚歌も虞美人も作り話だ。
孔子の論語は当時から理想論だった

数々の物語を生み出した「古代のロマン」や、有難い「人生の指針」の根拠が、事実ではなくて後世の作り話やウソだったことが暴かれていく。

史料からの推定だけでなく、殷王朝で為政者が政治の意思決定に使った甲骨占卜を実際に骨を焼いて試してみているのが面白い。出土した甲骨は実際には吉や大吉ばかりであり、王の行動を否定するものはほとんどないことに著者は注目していた。あらかじめ甲骨に掘られていた筋は結果を操作するためのものではないかと考えて、実証して見せたのだ。

「つまり、殷王朝の甲骨占卜は、表面上は政策を決定する手段であるが、実際には決定された政策を宣言あるいは承認する儀礼的な行為だったのである。したがって、殷王朝は不確かな占いに頼って政治をしていたのではなく、占いを政治的に利用していたということになる。」

と結論する。いい研究なのだが、この著者のおかげで甲骨占卜の神秘性はなくなってしまう。

そういう話ばかりが延々と続くので、古代中国を舞台にした映画や漫画をみるとき「でも、ほんとうは違うんだよなあ、これ」と思いだすことになるだろう。古代中国が好きな人は、読むべきか読まざるべきか、実に悩ましい本である。

学問

| | トラックバック(0)

・学問
41UOpXw6PBL__SL500_AA240_.jpg

本当に素晴らしい。ストレートに心にじーんときてしまう感動小説である。山田詠美の大傑作。とりあえず今年これだけは読んでおけ的な、絶対いちおし作品。

東京から引っ越してきた仁美、包容力のあるリーダー格の心太、食べ物に目がない無量、眠ることが好きな千穂。仲良し少年少女4人組が海辺の平和な町で過ごした小学校から高校までの日々が語られる。

テーマは性と生だが、本質はまっすぐな青春小説だ。

やがて芽生える性の衝動。

「まったくセックスというやつは、どれほど多くの枝葉を携えているものなのでしょう。幸せに喜ばせ合う夜もあれば、怒りを噴出させる昼もある。神聖な儀式にも、しこしこの鍛錬にも配属される。まったく、油断も隙もありゃしない」

欲望にときには翻弄されながらも、しっかり自分を持って人を愛することを覚えていく少年少女の成長がまぶしい。欲望の奴隷ではなく、欲望の愛弟子になる。だからそれは学問。

「元、高校教師の香坂仁美(こうさか・ひとみ)さんが2月14日、心筋梗塞のため死去した。享年68。」

だが、"秘密基地"で過ごした幸せな少年少女時代はいつまでも続かない。各章は登場人物たちのそれぞれの訃報から過去を振り返る形で始まる。青春を謳歌する少年少女の物語に、やがて訪れる人生の終わりの予告が全体に濃い陰影を与えている。

山田詠美ってこういうのが書けるのかと大発見。文章は読みやすいが、行間を読ませて、感動を誘う深みがある。完璧な小説。

・さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす
51A7ZKPW20L__SL500_AA240_.jpg

先日の忘年会議2009のゲストとして勝間和代さんと広瀬香美さんにトークセッションをしていただきました。高速回転の勝間さんと天然系の広瀬さんによるアドリブセッションはスピード感とユーモア、そしてしっかり情報量もいっぱいで、参加者一同引き込まれました。天性の才能とはこういうものか、と感じました。

勝間さんがメディアでおすすめされていた書籍にこの「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす 」があります。この本は、他人が真似することができない才能を見つけるための強力なツールです。

私はとても感動して(現実の会話で使う持ちネタとして、これまでブログに書いてこなかったのですが)、今年10冊以上も周囲の人にクチコミで買わせまくりました。そして試した人たちが、皆さん納得し高く評価していました。

本は読まなくていいのです。1冊にひとつ付属するIDを使ってWeb上のテスト「ストレングスファインダー」を受験してください。180問の質問に答えるとぞれぞれの強みが5つわかるというものです。書籍はその説明書にすぎません。

数十万人のビジネスパースンに対する調査データから、受験者の生来の資質を指摘するというもの。自分の美点を5つみつけてもらえます。そしてその美点がいかに素晴らしいものであるかを説明してくれます。読んでいてうれしくなります。

素晴らしいテストだと思い、2冊目を妻用に買いました。そして会社の共同経営者全員にも購入させて、お互いの資質を評価しあいました。転職する人たちにも買わせました。お互いの短所を直そうとするのではなく、長所を活かすことにしようね、という前向きなムードが作れます。

人生の転機にいる人はぜひやってみてください。

なお、私の強み分析の結果は、

着想、最上志向、戦略性、収集心、内省。

でした。

さて詳細なイベント報告はもちろん

・YAHOO!JAPAN ブログ検索
blog_search_beta.gif

で検索して、参加者の皆さんのブログ記事を読んでください。

ヤフーのイケミー予言によれば来年は...。写真はたつをさんから拝借。

4184992890_146ea1e918.jpg

まじすか?クマ?でも、信じましょう。

今年の究極のWebサイトランキングは以下のとおりです。

参加者の皆さんの投稿から主催の二人が、独断と偏見のフィルターを通して選出しました。

1位 【モバツイッター】
http://movatwitter.jp/

日本でTwitterが流行ったのは、携帯から気軽にアクセスできるようにしたモバツイッターのおかげでしょう。

2位 【Lang-8(ランゲート) | ネィティブと相互添削で語学学習】
http://lang-8.com/

世界180カ国のネイティブスピーカーが相互に文章を添削して学び合う外国語学習コミュニティ。英語中心ではないグローバルが素敵です。

3位 【Joker Blog】
http://ja.jokerracer.com/blog/index-ja.html

4位 【Revilist - アマゾンのレビューを一気読み】
http://revilist.net/

書店で本を買う時にアマゾンのレビューだけを読める。それだけだから愛用中。

5位 【ほめられサロン】
http://homeraresalon.com/

これは試せばだれでもよさがわかります。機械だとわかっていても、ついつい微笑んでしまう。

6位 【bijin-tokei(美人時計)official website】
http://www.bijint.com/

美人+時刻。もちろん私は時間を見るために仕方なく美女を表示しているだけですよ。

7位 【iPhoneアプリをおすすめするAppBank】
http://www.appbank.net/

紙の雑誌が次々に休刊していく中、このiPhoneアプリ紹介のオンラインマガジンは飛ぶ鳥を落とす勢いで?成長中。私も毎日長時間見ています。

8位 【テレビジン α版 - いま盛り上がっている番組をガイドするテレビマガジン】
http://tvz.in/

なんだかんだいってもテレビの影響力はまだ健在です。テレビとネットの世界を自在にリンクさせるものが次のメディアビジネスの勝者になるだろうなと思っています。

9位 【nanapi】
http://nanapi.jp/

7分で生活を便利にするノウハウが集まっていく。話のネタにもよいのです。

10位 【Twitter】
http://twitter.com/

2009年の話題の中心でありつづけました。当然これを1位にすると思ったでしょ?そうはいかないのが独断偏見マイナーランキングで知られる忘年会議なのです。

bounenkaigi200901.jpg

このエントリは報告ではなく参加者へのメッセージです。

これまで忘年会議(及び無敵会議、検索会議)にご参加いただいた皆様、関係者の皆様。
本当にありがとうございました。

2003年12月に、百式管理人の田口さんと二人で、忘年会と企画会議を合体させた「忘年会議」を始めました。それが好評だったため2004年は「無敵会議」シリーズとして毎月ベースで12回も開催しました。

その顛末はこちらの超まとめページが詳しいです。

・無敵会議 超まとめ
http://shigepi.seesaa.net/article/1432485.html

・無敵会議最終回 超忘年会議 
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002751.html

2004年12月の会議がシリーズとしては一応の最終回でした。終了後に参加者の皆さんに胴上あげされて感激しました。その後の6年間は忘年会議(毎年末)と検索会議(不定期)だけを開催してきました。延長戦のつもりでしたから、こんなに長く続くとは思いませんでした。

サプライズ企画で皆さんから温かいメッセージを送っていただき、ぐっとこみあげるものがありました。企画してくださった皆さん、本当にありがとう。嬉しかったです。数十人の美しい女子に囲まれ花束を渡されたときは、あまりの雰囲気の濃密さに胸がドキドキしてしまい下ばかり向いていた気がしますが...本当はとても嬉しかったです。(あの美女ハーレムドキドキ感をデジタル、バーチャルで再現できたら、ラブプラスを超える大ヒットになるでしょうね。)

イベント後の懇親会では、なぜ最終回なのかとずいぶん聞かれましたが、

新しい発想を生み出す会議イベントがマンネリになっていた。それはそれでよいのだけれど2000年代の終わりで一区切りしよう。2010年代は新たな試みをしていきたい。それでこそ無敵会議マインドだと思う。

というのが個人的な私の理由です。それからもうひとつの理由は、

私も田口さんもこのイベントを通してネットコミュニティから十分すぎるくらいの恩恵を受けました。そろそろ、もっと若い人たちが、こんなイベントを企画したらいいのじゃないかなと思っています。

イベントの最後に一緒にここまでやってくれた盟友の田口さんに、皆さんの前でお礼を言ったわけですが、あの瞬間にこのイベントは終わったなあと私は思いました。というのは、あれを言ってしまうと、企画プロデュースの肝であった私と田口さんの間にあった緊張感も終わるからです。

長い間、皆様の参加と協力に支えられて、素晴らしいイベントを運営できました。参加者の中にはこのイベントがきっかけで事業を立ち上げたり、仲間と出会ったり、転職したりしたひとが、たくさんいらっしゃるようです。報告を頂きました。私たちはただ楽しかったからやっていたのだけれど、結果的にはそれ以上の価値を生み出せたことがうれしいです。

私と田口さんは7年間もやりました。もはや一生の思い出です。

というわけでいろいろ最終回ネタ書きましたが、実は本質的にはなーんにも終わっておりません。

田口さんはすぐ「新年会議」を発表しようかなと笑っていましたが、私も別に来年のイベント企画を考えていますけどね(笑)。そのうち、また彼と組んで何かをやることもあるでしょう。というわけで、終わりは始まり、今後もよろしく、お楽しみに。

田口さんの報告もぜひご覧ください。

・忘年会議をやり遂げた!
http://www.ideaxidea.com/archives/2009/12/bounenkaigi_2009-2.html

そして末筆ながら、私たちを強力にバックアップしてくれたヤフー株式会社と中西りささんをはじめとするスタッフの皆様に心から感謝しております。ヤフーの人たちは、私たちの企画の趣意を深く理解され、一度たりとも私や田口さんに宣伝的な要素を入れることを要求されたことがありませんでした。だからこそ、皆さんにこのイベントは親しまれました。個人やコミュニティの活動を盛り上げてくれたヤフーは素晴らしい会社であると思います。

・428 封鎖された渋谷で
61AtuWOOsDL__SL500_AA280_.jpg

アドベンチャーゲーム。

前作『街』の大ファンだった私は、『428』には発売前から期待していた。428とは渋谷のこと。ある誘拐事件に始まり、渋谷が封鎖される一大事に発展する複雑な物語。クリア後のおまけまで素晴らしい出来。おすすめ。

テキストを読みながら、その中の選択肢を選び、物語を進めていくテキストアドベンチャー。複数の登場人物の視点を切り替えながら進んでいく。意思決定を間違えると、ある人物とある人物が出会えなくなってしまって"バッドエンド"になったりするとやり直し。10:00-11:00のように時間で区切られており、全員の話を1時間分正しく進めると、次の時間帯に移っていく。

ばらばらの各登場人物のストーリーが交差していた『街』と比べると、『428』は登場人物らの交差点が多くて、ひとつの大きな物語を作り上げている気がした。誘拐事件なのだが、午前中はのんびりしていて比較的各自がばらばらに進行しているが、午後遅くなるに従い事件の緊迫度が上がり、物語の絡み方が密接になっていく。スピード感が加速していく脚本と演出が素晴らしい。

・428 -封鎖された渋谷で- オフィシャルガイドブック
41XIcwn2wiL__SL500_AA240_.jpg

このガイドブックはゲームの性質上かなりネタバレになるので本編クリア後に買った方がいい。それから『街』同様に、クリア後おまけが異様に長いので、終わってもしばらく楽しめる。

・「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム
41NPH22B2BbqL__SL500_AA240_.jpg

戦闘という極限状態における人間の心理と生理メカニズムを「戦争における「人殺し」の心理学」の著者で元米国陸軍士官学校教授のデーヴ・グロスマンが語る「戦士学」。前作に匹敵する中身の濃さとボリューム。

現実の戦闘はドラマのようにかっこよくはいかないものらしい。たとえば第二次世界大戦時の米兵の四分の一が尿失禁の経験があると認め、八分の一は大失禁したと認めている。激戦を経験した兵士の半分が尿を漏らし、四分の一が大便を漏らしたと認めている。9.11テロにおいても生存者の大半が大小失禁をしていた。

戦闘は人間の心身を追い詰める。兵士の心拍数が175回/分を超える「黒の状態」になると、肉体的精神的に緊急時の身体反応モードに移行する。身体が自動操縦モードになって反射的に撃ってしまうことがある。トンネル視野になって視野が狭くなり、選択的聴覚抑制が起きて銃はポンとしか言わなくなる。「当たったときは聞こえない」と古参兵の言葉が紹介されている。

「警察官の心拍数が145回/分を超えている場合はとくに危険だ。心拍数が増大すると左右相称運動が起きやすくなるため、容疑者のシャツを片手でいっぱいつかむと、銃を持った手もとっさに把握反応が起き、意図せずして発砲してしまうことになる。」と警察官でも似たような反応が起きるそうである。

極限化では血管でさえも通常と異なる状態になる。「銃撃のあとで、三人の警察官が互いに負傷がないか確認していた。するとそのうちのひとりが、自分の袖の上腕部分に小さな穴があいているのに気がついた。正面側と裏側にひとつずつあいている。「危ないところで当たらなかったんだな」と、彼は見るからにほっとした顔で言ったが、そう口にしたとたん、腕の傷口が開いてどっと血が噴き出してきたのである。ぶじだったと思って安心したせいで、血管収縮が終わって血管拡張が始まったわけだ。」

と、極限状態の戦士の心身が、いかに通常と異なるはたらきをするか、多くの事例で示される。こころのはたらきもまた異常である。たとえばパートナーが殺されたとき、多くの人の最初の反応は安堵である。

「突然の暴力的な死を前にすると、たいていの人はまずほっとする。自分が同じ目に遭わなかったので安堵するのである。たとえばパートナーや仲間が殺されたとしても、まずは「自分でなくてよかった」と思う。だから、あとになって自分の最初の反応を思い出すと罪悪感を覚える。罪の意識にさいなまれてしまう。なぜなら、それは正常な反応だと一度も教えられなかったからだ。」

こうした「黒の状態」の知識は裁判員に選ばれた人たちが知っておくべき知識のような気がした。戦闘や犯罪の極限状態では普段の人間性なんて出ないものなのだ。事件に巻き込まれたときのサバイバル知識としても役立ちそうだ。出番がないことを祈るノウハウばかりであるが。

・戦争における「人殺し」の心理学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/03/post-365.html

・SAS特殊任務―対革命戦ウィング副指揮官の戦闘記録
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/05/sas.html

・はじめて講師を頼まれたら読む本
51AF7qKYVjL__AA240_.jpg

元吉本興業プロデューサー。年商1億円、年間300回以上の講演をする人気女性講師の「話し方のコツ」。そんな数字が示されているとつい計算してしまうのだが、基本は90分50万円で講演を引き受けているそうだ。

「わたしは、五分のネタを180本以上持っています。180本くらいのネタのストックがあると、その日のお客さんの状況や年齢層などによって、話しをアドリブで組み替えることもできます。」

60分話すのではなく「5分ネタを12本話す」と考えて5分ネタを徹底的に磨きあげろというのが著者の方法論である。特に磨くのは「ツカミ」である。これは3分である。漫才師が最初の3分で笑わせられなかったら放送されることはないのだから、と元吉本興業らしいノウハウを話す。

「「ツカミ」のネタは、必ず台本を書いてください。文字にして、推敲してください。アドリブに任せるのはあまりにも危険です。そしてそのネタを必ず自分でビデオ撮影して、客観的にその三分で心を奪われるかどうかをチェックしてください。」

そこまでやるのか...。

講演では5つのSが大切といい、

1 Story
2 Simple
3 Special
4 Speed
5 Smile

の5ポイントを挙げている。最後のSmileはお客さんを笑顔にするという意味である。ユーモアや笑いというのは、経営者向けの堅めの講演でも、実はかなり重要な要素だと思う。

成功体験を「誰でもできるスキル」に落とし込め、「うなずきくん」を探してその人を見て話せ、余韻を残すには3分のシメを考えろ、など、講演をブラッシュアップするための実践的な知恵が伝授される。講演料の決め方、プロフィールの書き方、マネージャーやエージェントとの付き合い方など、プロ講師のマネジメントノウハウもちゃんと書かれていて参考になる。タイトルに「はじめて」とあるが、普段講演をよく引き受けている人でも、学ぶところの多い本である。そしてこの本自体が、著者が理想とする講演のように大変わかりやすい構成だ。

・米原万里の「愛の法則」
yoneharamariainohosoku.jpg

作家、エッセイストでロシア語同時通訳者でもあったの米原万里の講演録集。

1本目「愛の法則」は女は男を次の3つに分類するという話。

A ぜひ寝てみたい男
B まあ、寝てもいいかなってタイプ
C 絶対寝たくないタイプ

で、世の中カテゴリCが90%を占めている。歴史的に見ても、女性は多くの男を競わせて優秀な一人を選ぶことになっている、竹取物語やかえるの王子など、女が主人公の物語では普遍的にそういう法則があるでしょう、という。その理由を性淘汰による進化論的視点や社会学的なキーワードで読みとく。

2本目の講演は、ロシア語通訳でもあった著者らしく国際関係論。

グローバリゼーションとは、イギリスやアメリカが、自分たちの基準で、自分たちの標準で世界を覆いつくそうとすること。国際化とは、世界の基準に自分をあわせようとすること。めざすべきはどちらでもないのではないかという話。

「これは日本人の伝統的な習性で、その時々の世界の最強の国が、イコール世界になってしまう傾向がありいます。しかも、世界最強の国というときに、何を基準に世界列強と判断するか。基本的には軍事力と経済力、これだけを見て、文化を見ません。文化を見ないにもかかわらず、なぜか世界最強の軍事力と経済力を持つ国は文化も最高だと錯覚してしまう傾向があります。」

だから今の日本はアメリカを最高だと考えて英語ばかりを勉強する。驚いたことにサミットの同時通訳では日本だけが、英語以外の外国語をいったん英語に翻訳してから日本語に翻訳しているのだという。これでは微妙なニュアンスが削られてしまうし、すべてが英語文化の色眼鏡で見ることになる。英語偏重の危険、直接の関係を築いてこその国際化、国際化を錯覚すると自国の文化を喪失しかねない、と言い、本当の意味での国際化とは何かを啓発する。

日本の国際化というと遣唐使に始まり現代のMBA留学まで、一部のエリート層が海外のこれまたエリート文化を学んで持ち帰り、多くの日本人はその流儀に倣うことが国際化だと考えてきたように思う。関係性が間接的なのである。

他2本のテーマの講演があるが、男女関係、国際関係での経験をネタに、人と人とが直接コミュニケーションすることの大切さ、面白さを語るという点で4編とも共通している。ユーモアたっぷり軽妙な語り口だが、ところどころに鋭い指摘があってどきっとする。

・フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略
418bv41i6jL__SL500_AA240_.jpg

ワイアード編集長で「ロングテール」概念の提唱者のクリス・アンダーソンが、ネットビジネスの「フリー」戦略を分析した。

「そして二十一世紀はじめにいる私たちは、新しい形のフリーを開発しつつあり、それが今世紀を定義づけるだろう。新しいフリーは、ポケットのお金を別のポケットに移しかえるようなトリックではなく、モノやサービスのコストをほとんどゼロになるまで下げるという、驚くべき新たな力によっている。二十世紀にフリーは強力なマーケティング手法になったが、二十一世紀にはフリーがまったく新しい経済モデルになるのだ。」

実体のあるモノをフリーにするのは限界があったが、デジタルコピーは何百万本でも無料で配ることができる。しかも現実世界の流通と違って、何百万人に配布してもたいしたコストにならない。少数の有料顧客や、ビジネスの受益者が支払うコストによって、大勢に無料で商品やサービスを提供することが可能になった。

著者はフリー戦略を経済学でいう相互補助(他の収益でカバーする)の概念で説明している。フリーではあってもコストは誰かが負担しているのだ。そして相互補助概念による4つのフリー分類と、それらを利用した50のビジネスモデルの具体例をおく。

4つのフリーとはこうだ。

1 直接的内部相互補助
 DVDを一枚買えば、二枚目はタダ
 フリーで消費者の気を引いてほかのものを買わせる

2 三者間市場
 広告などある顧客グループが別の顧客グループの費用を補う。

3 フリーミアム
 無料版と有料版など一部の有料顧客が他の顧客の無料分を負担する。

4 非貨幣市場
 対価を期待しない活動。ウィキペディアや不正コピーなどいろいろ

そしてフリーはネットビジネスの必然の帰結である。

「競争市場では、価格は限界費用まで落ちる。インターネットは史上もっとも競争の激しい市場であり、それを動かしているテクノロジー(情報処理能力、記憶容量、通信帯域幅)の限界費用は年々ゼロに近づいている。フリーは選択肢のひとつではなく必然であり、ビットは無料になることを望んでいる。」

だが相互補助である以上は誰かがコストを支払う必要があるはずだ。

「まず経済面での答えはイエスだ。最終的に、すべてのコストは支払われる必要がある。。ただそこには変化が起きている。それらのコストが「隠されたもの」(ランチのときに、ビールを頼まなければならないといった小さなこと)から、「分散されたもの」(誰かが払うが、たぶん皆さんではない。コストはとてもこまかく分散されているので、個人は、まったく気づかない。)に変わりつつあるのだ。」

少数の有料会員がたくさんの無料会員のコストを負担していたり、無数のユーザーのアクセスが広告運営を可能にしていたり、今は無料で会員を増やし将来の有料化で回収したり、さまざまなフリーのモデルは巧妙に、無料の理由をわかりにくくする。

ネットビジネスではしばしば「ビジネスモデル」が議論されるが、多くの場合、このフリーのバリエーションが、ビジネスを複雑化しているからなのだと思う。フリーを深く理解しておくことが、ネットビジネスの深い理解につながるはずである。

この本には無料のルールが10個紹介されている。9個目は、

「9 フリーは別のものの価値を高める

潤沢さは新たな稀少さを生みだす。100年前には娯楽は稀少で、時間が潤沢だったが、今はその逆だ。あるモノやサービスが無料になると、価値はひとつ高次のレイヤーに移動する。そこに行こう。」

というわけで、とりあえず、これを読んでそこへ行こう。

・防災ゲームで学ぶリスク・コミュニケーション―クロスロードへの招待
51GXE8V9CHL__SL500_AA240_.jpg

ゲームを使って災害時のリスクコミュニケーション(情報共有)を学ぶ「クロスロード」開発者たちの本。続編も出ている。

防災ゲーム「クロスロード」では5人くらいの参加者によるグループが、10枚のカードを順番にめくる。各カードには災害時を想定した、重大な意思決定をせまる、次のような質問が書かれている。

「あなたは、食料担当の職員。被災から数時間。避難所には3000人が避難しているとの確かな情報が得られた。現時点で確保できた食料は2000食。以降の見通しは、今のところなし。まず、2000食を配る? YES(配る) / NO(配らない)」

参加者は各自で意思決定を行った後で、全員の判断を公開する。結果として多数派の決定を選んだ人は青い座布団(ポイント)がもらえる。YESとNOが同数なら誰もポイントがもらえない。YESまたはNOが一人だけだった場合はそのひとりだけ金座布団(青と同じ1ポイント)がもえらえる。

カードを10枚やって最もポイントを獲得した人が勝利者となる。

ゲーム後のふりかえりセッションでは、各問題についてなぜそうした決定をしたのかを話し合う。多数派の青座布団を最も多く手に入れた人は誰か、なぜその人はたくさんの座布団を得られたのか。金の座布団(唯一の意見)を手に入れた人の心理は?。すぐにきめられた質問、なかなか決められなかった質問はどれか、など。ふりかえりながら、参加者は災害のリアリティを構築し、自分たちの災害対応のローカルなコンセンサスをつくっていく。

クロスロード開発チームは、阪神大震災に対応した職員に対する膨大な量のインタビューから、当時の意思決定場面を徹底的に分析した。すると「あのときの判断はあれでよかったと思っているが、今思い返すと、もっと他のやり方があったと思える部分もある。」と当時に思いをはせる職員が多かった、という。危急の場面では、その場にいる人間がその場にあるリソースを使って意思決定をしなければならない。普遍的なマニュアルには頼ることができない部分が大きい。

「なぜなら、これらの課題には、普遍的に通用するような真理(正解)がないからである。言い換えれば、これらの課題は、自然や社会の中にすでに存在する「真理(正解)」を見つけ出すことによって解決されるのではなく、当事者たちが、各地域のローカルな事情や自分たちの価値観を踏まえて、ローカルな「合意」を共同で生成していくことによってこそ解消される。」

こうしたローカル知識の共同生成を、ゲーミングを通して行うことができると著者らは考えた。ゲームは、ソーシャルリアリティを即座に構築し、多重の対話を生み出すことができるツールである。「ゲーミングの体験をふり返ってみることで、何がゲームの現実を規定しているのかという制度的側面や、立場の差によるリアリティの構成の差異を具体的、体験的に認識することが可能になる。」(出口、1998)という効用があるという。

ローカル知識の共同生成というモデルは災害時だけでなく、経営や現場の意思決定も応用が利きそうな考え方だと思う。このノウハウでリスクコミュニケーション以外の分野でも、ゲームを作ったら面白そうだなあ。

・ニュー・スーパーマリオブラザーズ・Wii
51Y5sT29aNL__SL500_AA280_.jpg

久々の予約購入ゲーム。やっぱりこれは面白い。

予想していた以上に歯ごたえがある内容だった。

前評判では何度も同じ場所で失敗するとルイージが出てきて「おてほんプレイ」を見せてくれる機能が話題で、超初心者向けの難易度設定だと思っていたのだけれど、そうでもない。コントローラーを振るとか、壁を蹴ってジャンプとか、何かを持ち上げるといった新たな動作を、身体知にしてマリオを自在に操れるようになるまでは、結構時間がかかるのだ(私はまだまだ)。

すべてがシンプルだった初代「スーパーマリオブラザーズ」を思い出す。操作性という点ではファミコンのコントローラの方が単純で良かった。だが複雑になった分、自由度が高いわけで熟練していけば、超絶技巧を繰り出せそうな可能性を感じる。

土管の中や画面の上などの隠し要素を発見していく楽しさは変わらない。昔と違って攻略本が充実しているので、本来的な隠し要素にならないかもしれないが...。同時に発売されたムックには、攻略情報だけでなく、スーパーマリオブラザーズを生み出した宮本茂氏へのインタビューが掲載されている。

・とことん楽しむ NewスーパーマリオブラザーズWiiの本(エンターブレインムック)
51NNNq2aTOL__SL500_AA240_.jpg

文化庁メディア芸術祭で任天堂の宮本茂さんに功労賞が決まったそうだけれども、ゲーム産業への貢献やつくりだした経済規模を考えると、この人にはとっとと国民栄誉賞くらいをあげるべきだと思うなあ。

・ソース焼きそばの本
51zzdZcLgTL__SL500_AA240_.jpg

いま焼きそばが流行っている、らしい、ほんとか、どこで?。

でも、こんなムックが出るくらいだからブームなのだ。

正統派の焼きそばの名店や、おいしい焼きそばの作り方、カップ焼きそばカタログなど、焼きそばに関連する最新情報が網羅的に掲載されている。一冊丸ごとソース焼きそば、気合いの入った企画本である。

岸朝子氏が「私の場合、焼きそばと聞いて真っ先に思い浮かべるのがソース焼きそばなんですね。若い時に縁日で食べた味が、いまも記憶に残っているからではないでしょうか。」と言ってそれが食べられる店 浪花家総本店(東京・麻布十番)を紹介している。この店は会社の近くにあるので食べたことがあるが、有名なタイ焼き屋さんでもある。まさに昔の縁日風の懐かしさ。

それに対して「焼きそばに王道なし」や「ニッポン縦断「焼きそば」の旅」特集では、変わり種の名物焼きそばが次々に紹介されている。「印度カレー食堂」(福島)のカツカレー焼きそば、青森県のつゆ焼きそば、日本そばをすき焼きのだしで焼く「トシヤ」(神戸)のそば焼、トマトソースをかける新潟のイタリアン焼きそば。聞いたこともないような斬新なバリエーションに驚かされるが、写真を見るとどれもこれもおいしそう。

そして、やはり一番力派が言っているのが正統派ソース焼きそば専門店の情報である。そんな専門店が存在していることが初耳だったが、先日、大門で発見したので食べてみた。

・社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属
shakaitekihaijo.jpg

Diversityという言葉があるが、英語では多くの場合、この単語はDiversity and InclusionまたはInclusivenessというセットで使われる。多様性を実現しただけでは単なるバラバラなのであって、包摂の力があるからこそ組織や社会に活力がうまれる。包摂の逆がこの本のいう排除である。ホームレスやワーキングプア、ネットカフェ難民など、不安定な就労、家族を持たない、住居の形成が不確か、地域を転々とする、といった生活状況で、社会参加や確かな帰属を得ることができないでいる人々がうまれる原因を探る。

「こうした主要な社会関係から特定の人々を閉め出す構造から、現代の社会問題を説明し、これを阻止して、「社会的包摂」を実現しようとする政策の新しい言葉が、『社会的排除』(social exclusion)である。」

著者はホームレスやネットカフェ難民の実態を調査して、現代の社会的排除の構造を明らかにしていく。社会的排除は現象としては、

空間的排除 ホームレスやネットカフェ難民など
福祉制度からの排除 
 
の二つがある。

そしてこれら社会的排除の原因は大きく二つあった。安定した就労や家族を一度は持ちながら、何らかの不幸な原因で社会的に転落していく「引きはがし」組。そもそも最初からメインストリームへの参加ができなかった「中途半端な接合」組。年代的には50代と20代に二つの山があることがわかった。

引きはがしは、失業や倒産、離婚や借金、アル中や交通事故、災害や怪我などが原因だが、メインストリームにきちんと組みこまれている人は、ひとつの原因では転落しない。多くのホームレスは複合的な要因が絡んで、定点を失っている。若年のネットカフェ・ホームレスでは、就労の不安定、実家との関係の悪さ、学校の中退や義務教育止まりが、社会との接合の中途半端さの原因となっていることがわかった。

現代日本の社会的排除はアパルトヘイトのようなわかりやすいものではない。

「では、空間的に表現される社会的排除とは何であろうか。inとoutの空間関係を極端に表現すれば、outとは空間からの追放を意味する。オーバーステイの外国人の本国送還、あるいはホームレスの本籍地送還、さらにはナチズムのような特定民族の抹殺などが例に挙げられよう。だが、社会的排除論のいうoutは必ずしも極端な抹殺や消去だけを意味しない。多くは、主要な社会関係から排除されながら、生身の体はその社会空間から消えてなくなることはできないような矛盾の中にある関係である。この矛盾を解決するのが、同じ社会空間の中に、排除された人々を引受、そこに隠ぺい或いは隔離する特殊空間の存在である。」

特殊空間として、住宅以外の住まい「寮」「ヤド」「シセツ」があったが、最近では24時間営業のファミレスやファストフード、個室ビデオ店、ネットカフェなどの「ミセ」が大きな役割を果たしているという。中心と排除された周縁が同じ社会空間で過ごしている。だから軋轢も生じる。

子供の遊び仲間でも職場関係でもそうだが、一人も排除しない空気が、全体に大きな安心感を生むものだと思う。それは社会という大きな単位でも同じことだろう。どうやら本人のやる気の問題とか、貧しくてそうなったという単純な問題ではない。実態と原因をつかんで、構造的に解決していくことが重要なわけで、こうした社会的排除研究は、格差社会の傾向が強まるこれから一層重要になっていくと思った。

・匂いのエロティシズム
31WTSNKZDEL__SL500_AA240_.jpg

「面白いのは、爽やかさとか清潔感といった言葉に適した香りを選ばせると、民族や文化、あるいは世代の違いによってかなりばらつきが見られるのに、性的な魅力に結びつく匂いとなるとかなりの普遍性が見られるとうことだ。」

ムスク(麝香)、アンバー、シベットといった動物に由来する匂いが、世界中で香料や媚薬として使われてきた。代表格のムスクは匂いの成分としては腋の下の匂いや体臭に近いことがわかっている。だがヒトはフェロモンに刺激されて、直接的に性行動が発動する動物とは異なる。

多くの哺乳類は生殖器や肛門から発情兆候の匂いを発するが、二足歩行になったヒトは鼻の位置が高くなって、匂いをかぐのが困難になったので嗅覚が退化し、視覚刺激に反応するエロスを持ったというのがフロイトの説。だが、ヒトはもっと複雑なのではないかというのが著者のエロモン仮説である。

人間は嗅覚的な匂いだけでなく、視覚や言葉にも性的な匂いを感じ取って反応する。「この、新たな意味を帯びた性的な匂いのことを、私はエロモンと呼んでみたい。フェロモンが本能に訴える匂いであったとすれば、エロモンはエロスに訴える匂いであり、人間的な意識が無くてはあり得ないものと考えるわけである。」

脳の生殖管理ソフトがバージョンアップして、フェロモンのような単純刺激ではなく、視覚や五感も総動員したマルチメディア対応のソフトウェアに進化したのではないかと著者はいう。マルチメディアとエロスの相性が良いのは、テクノロジーの歴史をみたら明らかだ。

「人間的な意識を前提とする「匂いのエロティシズム」は、だから本能的でも原初的でもない。エロスの匂いを感じ、匂いにエロスを感じることは、先祖帰りでも生物進化の逆行でも何でもないのである。むしろ、あらゆるものをエロス化してきた以上、フェロモンのような本能的な匂いとは全く別の、新たな匂いのエロスの形さえ創造できるのが、われわれ人間なのではないだろうか。」

性行動と社会関係、脳の進化、フェティシズム、文学研究など、性と匂いをキーワードにして幅広く著者の持論が展開されている。香料会社のパフューマー(調香師)なだけあって、香料の歴史や効果などの蘊蓄部分が濃い。

・Learning to love you more
515fXcPmK2BL__SL500_AA240_.jpg

『Learning to love you more』という洋書を買いました。膨大な量の投稿写真とテキストからなるこの本は、同名の人気Webサイトのログを書籍化したものです。

・Learning to love you more
http://www.learningtoloveyoumore.com/index.php

このサイトには70の実行命令があります。読者はこれを実際に行った結果を報告します。命令と報告によってコンテンツがジェネレートされていくわけです。「あなたの両親がキスをしている写真を撮影しなさい」(書籍の表紙になりました)「幼い子供のドキュメンタリ映像を投稿しなさい」「直近の論争を書き起こしなさい」など、ちょっと気力や手間がかかるものが多いです。この結果が、なかなか味わい深い内容になっていまして、人気コンテンツになりました。(残念ながら7年半でこのサイトは命令と報告の受付を終了したようです。)。

CGMでコンテンツをプロデュースしていく事例をいくつかまとめてみました。
#これはあるイベント用に用意したメモの再構成です。

・43Things
http://www.43things.com/

同志と励まし合うブロガーたちのコミュニティがコンテンツを増殖させるサイトです。まずユーザーは「10キロ痩せたい」「本を書きたい」「恋人を作りたい」「可愛くなりたい」などの目標センテンスを宣言します。そして、そのテーマでブログを書きます。すると同じ目標を持つ他のブロガーたちの更新が、自分のブログの横に表示されます。それを何日続けている、だとか、応援を送る、とか、コメントを寄せ合うことができます。同志が励まし合うことで、行動意欲が増進され、ブログコンテンツが増殖するのです。

コンテンツを生み出す関係性は、協調だけではありません。競争が共同創造に結びつくこともあります。iBeatyouは名前からして挑発的です。「俺凄いだろ」と見せびらかす映像を誰かが投稿すると、世界は広いので、それを上回る凄い映像を投稿してくる者が現れるという、ムキになる気持ちを逆手に取ったプロダクションシステムです。どっちが凄いかは視聴者投票で民主的に決定されます。

・iBeatYou
http://www.ibeatyou.com/

・10秒間に何度ウィンクできるか?勝負映像
http://www.ibeatyou.com/competition/434848/most-winks-in-10-seconds

こういうくだらない勝負も加熱するわけです。

協調と競争、そして残るは闘争。闘争もまたコンテンツを生み出すことがあります。SideTrackerはケンカをする二人が、自分の言い分を投稿します。視聴者に投票してもらって、どちらの言い分が正しいかを決めてもらうサイトです。

・SideTracker
http://www.sidetaker.com/

たとえば夫婦問題。この夫は28歳Bカップの妻が8000ドルもする豊胸手術をしたいと言っておりけしからんと思う、と言い、妻は私はおっぱいをもっと大きくしたいのよ、だって二人の子供を産んでからBカップがAカップになってがっかりしたんだもの、何が悪いの?と怒っております。さあ、どっちに投票しましょうか。

・Breast Implants Are Not A Family Priority
http://www.sidetaker.com/story/1149/breast-implants-are-not-a-family-priority

CGMはコンテンツを生み出す原理で

1 協調生成
2 競争生成
3 闘争生成
4 投票生成
5 ....
6 ....

のように分類することもできそうだなあ。

このアーカイブについて

このページには、2009年12月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2009年11月です。

次のアーカイブは2010年1月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1