2010年12月アーカイブ

2010年に書いた記事に限定して、各記事のはてなブックマーク数を調べました。アテンションエコノミーのネット空間上で目を引くタイトルとは何かを、毎年、このランキングを見て考えています。

【1位】13日間で「名文」を書けるようになる方法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/13-1.html

【2位】裸はいつから恥ずかしくなったか―日本人の羞恥心
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/08/post-1281.html

【3位】20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/03/20-3.html

【4位】音楽好きな脳―人はなぜ音楽に夢中になるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/06/post-1236.html

【5位】iPad、iPhoneでWebサイトを丸ごとダウンロードして持ち歩く WebOffline
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/ipadiphoneweb-weboffline.html

【6位】日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/03/post-1192.html

【7位】解明される宗教 進化論的アプローチ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/11/post-1331.html

【8位】無線LANの電波状況分析ツール inSSIDer
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/02/laninssider.html

【9位】孤独の科学---人はなぜ寂しくなるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/post-1217.html

【10位】音楽好きな脳―人はなぜ音楽に夢中になるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/06/post-1236.html

【11位】ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/31.html

【12位】友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/03/post-1171.html

神道の神秘

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・神道の神秘
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古神道のひとつ山陰神道の管長が書いた神道の真髄。

前半では禊ぎ、祓いの意味から人間の魂・霊界の構造まで語られている。神道の宇宙観、世界観をじっくりとのぞくことができる本だ。まじめに宗教色の濃い本なので、神社ブームにのったライト感覚の読み物ではないので注意。

「無教祖・無教義・無戒律・無偶像・無組織」と言われる神道だが、罪や救済を説かず、言葉で語ることを嫌うため、外から実態が見えず、海外の研究者からは神道は宗教ではないとさえいわれてきたそうだが、この本を読むと理論はちゃんとあることがわかる。サブカルチャーにも登場する用語知識の整理にも役立つ。

諸宗教の神霊世界の比較は興味深い図だった。キリスト教、イスラム教、仏教、儒教・道教・景教の霊界の階層構造を並べて比較するもの。たとえば、神道の浄明界は仏教の菩薩界、イスラムとキリスト教の天使界、儒教の神集岳に対応するといった具合で、高級霊から低級霊までのヒエラルキーの開示がある。

そして霊の原理。神道においては、一霊四魂(荒魂、和魂、幸魂、奇魂)といって、魂は4つの要素から成るという。

「山陰神道の教えでは、この宇宙(大環宇)は、大元霊から発した渦巻く霊の潮流である。その霊潮の中に一個の個性を備えた凝固体が発生する。ただしこの凝固体もまた回転する渦である。この凝固体のうち、無意識体である荒魂・和魂が物を発生させ、意識体である奇魂・幸魂がこれに加わって生命を発現させる。 しかも人間はこの凝固体が350から500ほど集合凝固したものであり、さらにそこに直日霊が降臨して、初めて人間になるというのである。(ちなみにこの凝固体が100から300集合したものが高等動物、50から100までが下等動物、50いかが植物であり、30以下が鉱物であるともされている。)人間が時に分霊を離れた所に送ることができるのは、このように人間自体が多数の「魂」の集合体であるからである。」

物理モデルを背景に持つ神道の理論が興味深い。

と、とても突っ込んで書かれているので神道について、学者ではなく、宗教者が書いた宗教的な内容の理解をしたい人向けによい本である。

後半には鎮魂の行法が具体的、実践的に紹介されている。現代の表層的なヒーリングや心霊ブームへの警鐘もある。

・スーパーマリオギャラクシー2ザ・コンプリートガイド
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今年一番面白かったゲームはこれでした。

Wiiのスーパーマリオギャラクシー2をついにクリア。これで心おきなく年を越せます。

・スーパーマリオギャラクシー 2(「はじめてのスーパーマリオギャラクシー 2」同梱)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/-2-2-2.html

はじめたときに紹介したエントリが5月なので、クリアまで実に半年かかりましたが、絶妙のゲームバランスとゲームニクスで、飽きることなく、最後までこれました。中盤までは一見難しそうでやさしいのでハマってしまい、終盤はなかなか難しくて、やり直しの連続。苦労の末にたどりついたクッパとの最終決戦で思わず涙。アシストチコ役として小学1年生の息子も一緒に遊べたのがよかった。

日本人が考えたゲームニクスという理論がありますが、

第一原則 直感的なユーザー・インターフェース(=使いやすさの追求)
第二原則 マニュアルなしでルールを理解してもらう(=何をすればいいのか迷わない仕組み)
第三原則 はまる演出と段階的な学習効果(=熱中させる工夫)
第四原則 ゲームの外部化(=現実とリンクさせてリアルに感じさせる)

まさにゲームニクス的によくできた傑作だったと思います。

攻略本はこの電撃系とファミ通系で迷いましたが(他にも小学館、毎コミも出している)、攻略情報で定評のある電撃系で正解でした。キャプションのようなちょっとした記述にも有効なヒントが隠れているので、隅から隅まで読むのがおすすめです。

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スーパーマリオギャラクシー 3に期待ですが、1が2007年、2が2010年発売だったので2013年ごろでしょうか...。

・ニュー・スーパーマリオブラザーズ・Wii
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/wii-1.html
こちらは全然進んでいない。

・KAGEROU
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とりあえず水嶋ヒロって凄いなあ、小説も書けちゃうんだなあ、という読み方が正しい楽しみ方だと思う。

「『KAGEROU』――儚く不確かなもの。
廃墟と化したデパートの屋上遊園地のフェンス。
「かげろう」のような己の人生を閉じようとする、絶望を抱えた男。
そこに突如現れた不気味に冷笑する黒服の男。
命の十字路で二人は、ある契約を交わす。
肉体と魂を分かつものとは何か? 人を人たらしめているものは何か?
深い苦悩を抱え、主人公は終末の場所へと向かう。
そこで、彼は一つの儚き「命」と出逢い、
かつて抱いたことのない愛することの切なさを知る。
水嶋ヒロの処女作、
哀切かつ峻烈な「命」の物語。 」

同時代的なキーワードと問題意識を盛り込んで軽やかな文体。アタマのよさを感じる。

タレントが書いた処女作としてはまずまずなのだけれども、賞金2000万円の文学賞の大賞としては物足りない印象。心理描写が浅くて、主人公である自殺志願40歳男の、複雑で暗いはずの心のうちが見えてこない。ストーリーも詰めが甘い。やりたかったのは筒井康隆的なウィットに富んだショートショートなのだろうと思う。著者の構想や筆力に対して尺が長すぎたのかもしれない。ミステリアスな序盤は期待させたが後半で緊張感を失ってしまった気がする。

テーマの類似性ではカズオイシグロの大作『わたしを離さないで』が思い浮かぶ。だが、作品の雰囲気は対照的だ。KAGEROUは、それと同じ生命倫理という重いテーマなのに、ライトノベル的ケータイ小説的に軽い文体で語られる。そこで好き嫌いがわかれて一部で酷評につながっている。

でも重たければいいというものでもないだろう。軽いということは、読みやすい、わかりやすいということでもある。現代の書籍市場では大切な要素だ。カズオイシグロの何十倍もKAGEROUが売れる。数字的には2週間で百万部を突破した。ふだん小説を読まない読者に小説を読ませた。ポプラ文学賞は"エンタテイメント小説"の賞である。結果的にはこれを選んで大成功だったといえるのではないか(選考委員会が本当に水嶋ヒロだと知らなかったのか疑惑は残るが...)。

単体で評価するとまずまずの作品だが、有名なタレントが書いたという話題性で、本を買って読み、家族や仲間と、ああだこうだ感想を言いあって、読書体験全体ではかなり楽しめた。

次回作の書きおろしに期待したい作家だ。これ一作だけだと才能がよくわからない。好意的にみると、KAGEROUは応募に間に合わせるために焦って書いたのじゃないかと思える雑な部分がある。後半で失速しなかったらかなり高得点の作品になっていた可能性も感じる。他にどんなテーマを抱えているのかも知りたい。

リアル公務員

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・リアル公務員
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「多くの人に、わかりやすく伝える。 現実をデフォルメしたマンガが公務員を取り巻く世界の「おかしさ」「哀しさ」「ややこしさ」を伝えてくれればと願っています。」

面白い。

公務員歴10余年の著者が、エッセイと漫画(かたぎりもとこ 画)で職業としての「お役所仕事」のウラオモテを伝える。新卒1年目の純粋で熱意に燃える公務員の水野くんに、ベテラン職員の吉田係長が、公務員としての歩き方を教える。

真面目で9時~5時のツマラナイ仕事だが一生安泰で結婚相手に困らない。「一度決まったことだから」「法律に書いてありますから」「1のリスクに100の準備」で融通がきかない、というのが典型的な公務員のイメージ。確かにそういう面があるけれども、中の人も、実はいろいろと考えてやっているのだということが、しみじみと伝わってくる内容。

国、都道府県、市町村の職員の仕事内容の違い。厳然たる序列の階級社会のルール。なにかと玉虫色のアウトプットになる原因。わかりやすく整理されていて腑に落ちるページが多数。公務員の対極のようなベンチャービジネスの私にとっても、この本はお役所攻略に役立ちそうな情報もいっぱい見つかって役立つ本でもあった。

公務員の内側から見た公務員への改革提言もエッセイには書かれている。多くは民間企業では当たり前の考え方だが、「一度決まったことだから」なかなか難しいのだろうなあ。やっぱり。

・帝国ホテルの不思議
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帝国ホテル120周年。打ち合わせや宿泊で使う人、とても面白い本なのでおすすめ。

VIP担当の部署「プロトコール」
「国連のアナン事務総長をお部屋へご案内するとき、急に早足で私を追い抜こうとされるので、先導する役のプロトコールがうしろを歩くのはぐあいがわるいですから、あわてて抜かれまいと早足に(笑)。するとさらに早足で歩かれて、お部屋の前に到着したときに、「いい運動になったよ」と肩をたたかれました(笑)。」

電話オペレーター
「お客様ってほとんど、第一声にキーワードをおっしゃるんです。その最初のキーワードを絶対に聴き逃さないようにしないと。お客さまとの誤解があったりして何かのミスにつながるのが、最初のキーワードを聞き逃していたことにはじまっているっていうケースが多いんです。」

メインのレストラン「レ セゾン」
「外国の方は99%、コースを注文されないですね。前菜とメインディッシュ、あるいはスープとメインディッシュといったように、二皿なんです。コースで注文されるのは、ほとんど日本の方。」

というように、直木賞作家の村松 友視が、帝国ホテルのマネージャーやスタッフら30人にインタビューして、「さすが帝国ホテル」と言われる洗練サービスの秘密を探った本。
総支配人や施設部長、総料理長、ソムリエ、ベルマン、宴会チーフ、婚礼クラーク、靴磨き、ランドリー、フロント、ピアニスト、ブッチャー、氷彫刻担当、神主など組織のトップから末端まで全員が、高い意識で最高峰のホテルサービスを実現しようとしている様子がよくわかる。

ホスピタリティの最高峰と言うと、よくディズニーランドも取り上げられるが、帝国ホテルとディズニーランドの洗練は方向性が違うもののように思えた。ディズニーランドは完璧なマニュアルでアルバイトを教育する。テーマパークを訪れたファミリーはあらかじめ考え抜かれた対応に満足して帰る。それは主にレディメイドの洗練である。

だが、帝国ホテルにきてマニュアル対応に満足する大人のお客はいないのだ。だから帝国ホテルのスタッフはお客の顔を憶え、臨機応変に考えて、特別対応のサービスをする。正社員やプロフェッショナルとして長年の経験を積むから、オーダーメイドの洗練を高めていくことができる。

それぞれが帝国ホテルに入社した理由、新人時代のエピソード、思い出深いハプニング、サービスの秘訣、追究している理想、帝国ホテルならではのストーリーなど、インタビューの過程で引き出される情報も興味深いが、その声からスタッフひとりひとりの素顔が見えるのがいい。

・帝国ホテル 伝統のおもてなし
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004861.html

・yPad
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iPadと同じサイズのスケジュール帳yPad。

「チマチマした電子アプリが真似できない、単純かつ高機能なビジュアルPad」

多忙な人気アートディレクター 寄藤文平氏が、自分にとって便利なように考案したそうだ。名前の頭文字をとってyPad。

A3の大きさに3週間のスケジュールと最大35個のジョブを記入できる。

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複数のプロジェクトの進行状況を、見開きで一覧把握できるようになっている。またスケジュールページと交互にフリーのノートページが置かれている。アイデアスケッチ帳でもあるのだ。次から次へと多様なプロジェクトをこなしていく"仕事人"タイプに最適なツールだと思う。

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私は最近iPadとyPadを一緒に持ち歩いている。バッグに重ねていれておくとiPadの保護代わりになるかなと思ったりして。なんでもかんでもデジタル化する人もいるが、アナログのよいところとデジタルのよいところを、無理に統合しないで使い分けるのが、今はまだスマートだと思う。

・二ノ国 漆黒の魔導士(魔法指南書 マジックマスター 同梱)
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人気ゲームなのに発売時に定価6800円だったものが、今現在アマゾンのキャンペーンで2790円まで落ちている。謎の値崩れ。

・二ノ国オフィシャルサイト
http://www.level5.co.jp/products/ninokuni/index.html

企画/制作 レベルファイブ、アニメーション作画 スタジオジブリ、音楽 久石譲という今年のクリスマス商戦の大注目作品。序盤をプレイしての感想。アニメーションが素晴らしい、ゲーム自体はありがち、マジックマスター微妙で総合80点。

ドラゴンクエスト風オーソドックスなRPGのゲームシステムを採用している。音声つきのアニメーションが多数、矢印で次の目的地を表示などゲーム初心者にやさしい。クエスト制で多少の自由度がある。

このゲームの最大の特徴はマジックマスターという魔法指南書が同梱されていること。ルーンと呼ばれる魔法の紋章が掲載されていて、その形を画面上でタッチペンでなぞると魔法を習得できるというしくみ、であると、同時に巧妙な違法コピー対策。このマジックマスターは紛失したら再購入には3500円かかる。ゲームの値段の半分はこの本の値段ということか。

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このマジックマスターがないとゲームが進められないためにDSと一緒に携帯せざるをえないのだが、電車の中で魔法指南書を開くのも勇気がいるため、電車でプレイする人が少なくて、それが値崩れの理由なのか、そんなわけないか。

死んだ母親を追って異世界へ旅立つという設定は、いかにも日本神話の「根の国」を連想させる。神話をオリジナルにつくりかえるのが得意なジブリらしい気がする。イマージェンという生き物がでてきて主人公の仲間として戦ってくれるのだが、なんだか設定としてはポケモンっぽい。

というわけでまだ序盤しかみていないが、深みのある世界観と難しすぎない難易度で、ゲーマーの子供だけでなく、ジブリファンの大人もゆっくり楽しめるゲームという気がする。ただアニメは大画面でみたいなあという気もしていて、来年発売のPS3版の続編にも期待。

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ソースネクストで普段は2990円で販売されている「驚速デフラグ」が2010年12月31日までのキャンペーン期間中は無料でダウンロードできる(要グルーポンへの新規登録)。小さなファイルが大量に保存していて、パソコンの動作が遅い気がするという人に特におすすめ。

・驚速デフラグ 無料キャンペーン
http://www.sourcenext.com/present/

デフラグすればデータのアクセスが速くなりディスクの寿命が延びるという理屈はわかっていても、なかなか面倒なのでやらない。ちょうど年末だしパソコンの大掃除として、このソフトを使ってみることにした。

動作が軽快なので一般的な作業を行いながら、バックグラウンドでデフラグできる。

下記4つのモードでデフラグを行うことができる。

●速度優先
大容量ハードディスクもスピーディーにデフラグ。通常操作をしながらのデフラグも可能です。
●空き領域優先
連続した空き領域を大きくします。断片化を予防するためのデータ調整も行ないます。
●名前順
ファイル構造をアルファベット順に再構成。ファイルアクセスやWindowsの起動を、高速化します。
●使用頻度順
ファイル構造を最後にアクセスした順に再構成。次回以降のデフラグを高速化します。

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システムファイルやページファイルのデフラグにも対応している。スケジュール設定で自動実行も可能。上の実行画面から、任意のセルを選択すると、それが何のファイルなのかを表示させることができる。断片化の実態を把握できる。

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・モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか
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重鎮フィリップ・コトラーが『マーケティング3.0』を提唱して驚いたが、ダニエル・ピンクによるとモチベーションも3.0になる。2.0ではもはや古いものを意味するようになった。

著者はモチベーションを人類の行動のOSにたとえて、

モチベーション1.0 生存を目的とする人類最初のOS
モチベーション2.0 アメとムチ=信賞必罰に基づく、与えられた動機づけによるOS
モチベーション3.0 自分の内面から湧き出る「やる気!」に基づくOS

という進化を遂げるのだという。

これまでの信賞必罰2.0は現在のビジネスの事業形態と一致していない。21世紀の人間の行動と一致しない。現代の仕事の多くと相いれない。といった理由で、時代遅れであり、ありがちな目先の報奨プランや成果主義に基づく給与体系は、多くの組織で機能せず、有害な場合さえ多いのだと教える。しかし2.0は理解しやすく、容易に監視でき、適用しやすいという理由だけで、組織は安易に採用を続けている。

アメとムチの致命的な7つの欠陥として、

1 内発的動機づけを失わせる
2 かえって成果が上がらなくなる
3 創造性を蝕む
4 好ましい言動への意欲を失わせる
5 ごまかしや近道、倫理に反する行動を助長する
6 依存性がある
7 短絡的思考を助長する

というリストを挙げて2.0組織に警鐘を鳴らす。

要するに人間はそんなに単純じゃないのだ。イヌじゃないのだからブザーが鳴ってもよだれはでないし、ウマじゃないのだから目の前にニンジンをぶらさげられれば屈辱的に感じてしまう。豊かになった社会の会社では社員のことを全人的にとらえて、もっと人間的に対応していかねばならないということなのだ。全人的という意味では『マーケティング3.0』と似ている部分がある。

モチベーションのタイプを、2.0が想定するタイプX(extrinsic 外発的)と3.0が想定するタイプI(Intrinsic 内発的)に分けるとすると、タイプIは、

・自律性 自ら方向を決定したい
・マスタリー(熟達) 自分の能力を上達させたい
・目的 自分よりも大きな何かの一部になりたい

というような意識で動く。後半は組織や家庭で、社員や子供たちをどうタイプIとして、モチベートしていくかの方法論がまとめられている。本人をどう刺激するかではなくて、、よいフィードバックがかかる環境を用意することが大切なようだ。人間を本当の意味で育てるのが3.0であるが故に、組織にとっては2.0よりも育成するコストが高いものになるかもしれない。

・ネットで成功しているのは<やめない人たち>である
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ブロガーのいしたにまさきさんが、有名ブロガー100人にネットとのつきあいかたに関するアンケートをとって分析した。まとめだけでなくアンケート回答の全文まで収録されているから、自分なりの読みとり方もできる本だ。(私も回答者の一人です)。

そもそもこの、成功している人たち=やめなかった人たち という母集団のとり方はバイアスそのものだが、その強烈な偏り具合がこの本では興味深いコンテンツになっている。一般的な意味での"成功"かどうかはわからないが、ともかく長期にわたってネットで情報発信を続ける人たちの実態が、裏も表も初めて明らかになった本だと思う。

たとえば

ブログなどのアクセス数を増やす工夫をしていますか?
ツイッターのフォロワーを増やす工夫をしていますか?

という質問に対しては、ブログで66%、ツイッターで78%が「していない」と答えている。人気ブロガー達は「面白いと思えることをやっていて、気づいたらこうなっていた」というパターンが多い。

「あなたがネットで活動を続けてきたことで、収入に変化はありましたか?」

に対して、7割がはいと答えている。広告やアフィリエイトによる収益が長期継続のインセンティブにもなっているようだ。私の場合もアフィリエイト収入があるから、気になった本をためらわずに買える。持ち出しになっていたら、何年間も続けることはできないだろう。

100人のアンケートの結果として、継続の秘密は、

1 プランを考える前に手を動かしてどんどん作ってしまう
2 ネットの外にあるものをネットの中に持ち込む

という行動様式にあると結論している。

本書に収録されたインタビューの中で、デイリーポータルZの林雄司さんが「軽はずみなことは言いますね。企画を考えるときも、深く考えないで、口で言ってみて「あ、今のいいな」というときがあります。口で考えてみる。」と言っているが、口や手を先に出す軽率さは必須だと思う。あまり深く考えていたら、毎日ブログなんて書けない。

「ネットで情報発信する際にいちばん必要な個人のスキルはなんでしょう?」という質問があって、私はこう答えた。これからブログを始めてみようかなと思う人への私のアドバイスでもあります。

「まず自分の感動を他人にわかってもらいたいという情熱が基本だと思います。情熱があれば、自然とネット上での表現や伝達のスキルを身につけていくものだと思います。それからフィードバックのスキル。つまり、ちょっとほめてもらったらすぐ調子に乗ることですね。」

・リスクに背を向ける日本人
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社会学者 山岸俊夫氏と、日本通のハーバード大学社会学部長メアリー・C・ブリントンによる日本社会論。日米を代表する研究者が、両国民のリスクへの向き合い方の比較を通して、現代の日本社会が抱える問題を読み解く。労働市場、教育、少子化、セーフティネット、男女平等などの観点から、行き詰った現状の突破口を見出そうとする対話。

1 何かを得ることに向かって行動する加点主義のプロモーション志向
2 何かを失うことを避けるように行動する減点主義のプリベンション志向

調査からもアメリカ人には後者が多くて日本人には後者が多い(世界一という結果も)ことがわかっている。日本人は自分の力で状況を変えるために積極的にリスクをとりにいくことが苦手である。リスク回避志向で、自分で決められず、周りの目を気にする。だが、二人はそれを単純な心の問題、気のもちようとは見ない。

「アメリカに住んでアメリカで暮らしているのなら、「ほかの人がどう思うかを気にするのはやめにしましょう」と言うのは簡単です。アメリカに住んでいなくても、いざというときには日本を脱出できると思っている人にとっても、そう言うのは簡単です。だけど、そういうオプションを持たない人にとって、それがどれほど大変なことか。」

日本では今の職場にしがみつくことも、新しい職場を見つけることも難しい。セカンドチャンス、オプションがない社会では、リスクをとれないのが当然なのだ。だから、集団主義的な秩序が与えてくれる安心感に頼って無難な選択をする。

「山岸 どうしたらいいのかはっきりしていないときとか、どちらにするかを真剣に考える必要がないときには、一番無難なやり方をとるのが日本社会での賢い生き方なんだと思う。ぼくは文化による行動の違いの多くは、こうしたデフォルト戦略の違いとして理解することができると考えている。言い換えれば、無難な行動をどんなときにデフォルトでとるかが文化によって違っているんだって。」

適正なリスクをとることが賢明な世の中、再チャレンジが可能な社会にするための方策を二人の学者は対話の中で考察する。海外との比較によって日本の特殊性をあぶりだす。精神論の問題ではなくて、社会のしくみの問題だということで二人の意見は一致している。

それにしても2009年にハーバード大学に在籍する日本人留学生数がたった5人しかいないという話は驚いた。日本はエリート層の若者までもがひきこもり内向き志向に染まっている。果敢に失敗した者には、何もしなかったものよりも、魅力的なセカンドチャンスが待っているような状況が、社会のあるべき姿ということだと思う。

・ミドルの対話型勉強法―組織を育て、自分を伸ばす
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日産で人事を長年担当し、外資系大手PR会社の役員となり、経営大学院教授として場のマネジメント論を教える徳岡晃一郎氏の最新刊。冒頭で"サラリーマン・マトリクス"が示される。自律か他律かというビジョナリー軸と、外界探求か自己限定かのドメイン軸で、組織内の人間を「共創リーダー」「タスクファイター」「待ち受けくん」「博士くん」の4つのタイプに分類する。核となるのは自律×外界探求の共創リーダーだが、重要なのはすべてのタイプが力を合わせてそれぞれの持ち味を発揮することで組織の成果を高めること。

タイプは違えど仕事ができるミドルには対話が必要なのだ。

本書は部長・課長向けに、ミドル間や部下との対話を通じて

1 個人の力を計画的に高める「自分のマネジメント」
2 多様なメンバーをつなげる「場のマネジメント」

という二つの目的を達成する方法を示す。

実践的に自分自身と職場を同時に活性化するSECI対話セッション・プログラム(SDS)を提案している。SECIとは一橋大学名誉教授の野中郁次郎教授が提唱した暗黙知と形式知の相互作用を核とした創造プロセスのこと。多忙なミドル同士が腹を割って、自分たちの役割ややるべきことを、徹底的に話し合うことで、豊かな経験を深いレベルで共有させる全10回のプログラムだ。

各回90分は4つのフェーズ(リフレクション、ダイアローグ、ディープダイブ、ラップアップ)で勧められる。各回のテーマ、実践例、対話例が多数紹介されている。実践的なので、ミドルの研修を企画する立場の人に特におすすめだ。

自分スタイルを磨く具体的勉強法「書評ライティング」という面白い方法論も提唱されている。本を読んだら、「自分の問題意識」、「著者の主張の特徴・学べる点」、「自分の問題を考えるヒントとしてどう活かせるか」、といった要素を1000字程度の書評にまとめる。自分自身の知識の定着につながるだけでなく、ミドル同士の対話のコミュニケーションに書評を使うことで知識の共有や深化にもつなげられる。

・MBB:「思い」のマネジメント ―知識創造経営の実践フレームワーク
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1250.html

・世界の知で創る―日産のグローバル共創戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1003.html

・人事異動
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-947.html
徳岡 晃一郎氏の著書。


ところで、著者の徳岡先生と私は多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所を一緒に運営しています。知識創造型の企業を、「人材マネジメント」と「リーダーシップ開発」に焦点を当てて研究する機関です。セミナーや研修も請け負っています。お問い合わせ下さい。
・多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所
http://www.ikls.org/

そして現在、本書の内容とも関連して、

・現役マネジャー
・次世代リーダー候補
・人事・教育担当者

向けのスペシャル研修プログラム

・MBBスキルプログラム
http://www.ikls.org/archives/239

を2011年2月26日に企画して、現在参加者を募集しております。

加害者家族

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・加害者家族
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連続幼女誘拐殺人事件、神戸連続児童殺傷事件、和歌山毒物カレー事件、長崎男児誘拐殺人事件、秋田児童連続殺人事件、英国人女性殺害事件、地下鉄サリン事件、山梨幼児誘拐殺人事件、名古屋女子大生誘拐殺人事件、死亡ひき逃げ事件、5000万円恐喝事件、子猫虐待事件...。

凶悪事件の加害者の家族や親戚たちも、相当に悲惨な生活を強いられているという実態を、個々の事件で明らかにする。加害者の逮捕の直後から、家族に対する誹謗中傷、個人情報の流出、私生活の暴露が始まる。そして失職、転居、離婚、高額の損害賠償請求などありとあらゆる不幸が降りかかってくる。あまりの絶望やストレスによって自殺する家族も少なくない。

そして現代において凄まじいのが、インターネットによる個人情報の流出や、2ちゃんねる、まとめサイトなどによる加害者周辺情報の暴走である。「祭り」の「燃料」として投下される加害者の周囲の情報はあっという間に集約されて、家族の個人情報が特定される。「電凸」(電話による突撃)や中傷記事、写真の公開といった悪意が、加害者家族を襲う。

日本と米国における加害者の家族の比較が興味深かった。米国でも日本でも、加害者家族には大量の手紙が届くのだが、日本ではもちろん内容は、家族が起こした事件への非難と攻撃である。ところが米国では、あなたたち家族のために祈ります、のような激励が多いらしいのだ。罪は個人にあって家族にあるわけではないという個人主義の文化が背景にあるようだ。

「身内から逮捕者が出ることによって、家族は混乱し、崩壊の危機に直面する。その家族を支援することによって、逮捕者が出所する時の受け皿とすることができ、ひいては再犯のリスクを減らすことになる。」と、著者は身内の犯罪で生き地獄に落とされる日本の家族を救うしくみがないことを問題視する。

凶悪犯罪が起きるとワイドショーや週刊誌は加害者家族の動向も報道する。だが、それもネタとして視聴者が飽きるまでの短期間に過ぎず、その後に彼らがどういう生活を送るのかは、知られてこなかった。その悲惨な実態の記述に、日本は加害者家族への風当たりが本当に強い国なのだということを改めて実感した。

・21世紀の科学技術イノベーション―日本の進むべき道
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20世紀前半を代表する経済学者ケインズは財政政策と金融政策で不況を打破できると考えた。同じころ孤高の経済学者シュンペーターは新結合による新しい価値の創出行為=「イノベーション」こそ決め手になると主張した。

これはJST研究開発戦略センターが「科学的知識を用いて新技術・新着想を創造し、経済的価値を増大させ、社会的要請を満足させるプロセス」を科学技術イノベーションと定義し、科学技術イノベーションの3つのポイントを

1 (科学技術の)パラダイムシフトを起こすもの
2 社会システムに大きな変化をもたらすもの
3 経済的・社会的な価値(国富)を大きく増大させるもの

と整理したうえで、日本におけるその可能性を研究した本である。

シリコンバレーのようなイノベーション・エコシステムも検討課題のひとつである。米国を調べると、実は米国にはシリコンコースト、シリコンデザート、シリコンプレーン、シリコンヒルズなど、いくつも第2、第3のシリコンバレーを指向したエコシステムが存在しているという。しかしこれらの地域は本家に迫る勢いを持っていないのが現実のようだ。米国内でさえそうなのだから、日本が真似をしてもうまくはいかないわけである。

「しかし、生態系はその地域、風土、自然に深く根ざしており、その系全体を他の場所に移植すればそれはたちまち死滅し、枯れてしまうというように、米国のイノベーション・エコシステムをそのまま日本に移植しても役に立たないことは明白である。」

著者らはシリコンバレーの模倣ではなくて日本独自のイノベーション・エコシステムを模索するべきだという。ノキアとLINUXを産んだイノベーション国家フィンランドの分析もある。

そして国内の状況を俯瞰したうえで、期待できる地域として、

1 浜松
本田技研工業、ヤマハ、河合楽器、豊田自動織機製作所、オートバイのスズキなどの発祥の地

2 福岡
シリコンシーベルト(先端システムLSI開発拠点構想)として高評価

を挙げている。

そして科学技術イノベーションが期待できる分野としては、

1 IRT技術 情報技術+ロボット技術
2 太陽光利用技術
3 合成生物学

の3つを挙げている。それぞれの分野での日本の優位性や展望がまとめらている。

前半のイノベーション概念の整理部分はとてもよくまとめられているし、続く日本の現状の把握は情報としては有益だ。しかし、後半の各論は日本の科学技術イノベーションの取り組みの中から、現状において、いくらかうまくいっている部分を抽出してみましたという感じがある。成功例が小粒な気がする。

事前に正解がわからない世紀の問題であるから、本に確固とした結論を求めても無理である。具体的にこの道を行くということは、こうした分析資料を読んだ上で、傍観者ではない読者が自ら考えて、リスクを負って行動した結果、実現されるということなのだろう。

・科学は誰のものか―社会の側から問い直す
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科学技術政策は誰が決定すべきなのか。

科学=真理を知る
技術=モノをつくる

という異なる要素を合わせたのが科学技術という言葉だ。「科学」の価値中立性は担保されるにしても、「技術」は経済的な利益構造と抱き合わせになる。また科学技術が解決すべき問題には「科学なしでは解けないが、科学だけでは解けない問題」が増えてきたという。社会技術としての科学技術という面が強くなってきたのだ。

そして社会の複雑化、多様化、グローバル化によって、科学技術の政策は、科学者だけで決定すべきものではなくなってきた。この本は、市民、科学者、問題の当事者らがコミュニケーションとって合意をつくる「公共ガバナンス」の必要性を説く。

科学者が一般人に教えるという「知識のある者から、ない者へ」式の、読者の無知を前提にした「欠如モデル」の科学コミュニケーションはもはや時代遅れになるという。科学者、政府、産業界、一般市民の、双方向的な対話や、政策決定への参加を重視する「公共的関与」というスタイルが求められている。

従来の狭い視野の専門家の限界を超える可能性も示されている。映画『ロレンツォのオイル』では副腎皮質ジストロフィーという難病の息子のために自力で治療法を発見した父親が登場するが、現実に「専門家顔負けの素人の専門性」も無視できないものだという例が挙げられている。切実な当事者ならではの深い経験や知識、洞察、ローカルナレッジを活かす方法も有効なのだ。

コミュニティ・ベイスド・リサーチという方法論。そこで必要なコミュニケーションのスタイル。

1 社会的地位を度外視するような社交様式
2 それまで問題なく通用していた領域を問題化すること
3 万人がその討論に参加しうること

現代の科学技術は「不確実性」と「社会の利害関係・価値観との絡み合い」という宿命を持つ。スーパーコンピューターの研究費の仕分けで「2番じゃだめなんですか?」といった議員に対して、ノーベル科学者が反論した事件があったが、異論を唱え反論を重ねること自体はとても意味のあることなのだ。

・裏側からみた美術史
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「美術というものは、美しく清らかなものばかりではない。美術品は人の頭や心の中にあるのではなく、あくまでも具体的な物体としてこの世に存在するため、常に政治・経済・社会と深くかかわってきた。どんな美術品も現世のしがらみから逃れることができず、生臭くどろどろした面がまとわりついているといってもよい。すばらしい作品を生み出す芸術家がしばしば人格破綻者であったり、支配者がイメージを用いて独裁権力を強化したり、美術が悪しきプロパガンダの具となったり、美術品が投資や収奪の対象となったり、犯罪に結びついたりしたのである。」

美しいものの裏側にある、醜悪なもの、不気味なもの、危険なものについてのエッセイ集。天文学的枚数がつくられた独裁者スターリンの肖像画、幼くして亡くなった子供の結婚式を描いて霊を慰めるムカサリ絵馬、封印されて日の目を見ることがない戦争画など、普通の美術館には飾られていない美術作品の話が興味深い。

たとえば16世紀から18世紀のイタリアでは死刑囚が処刑直前に眺める絵タヴォレットというものがあったのだ。絞首刑の場合はキリストが貼り付けから降ろされる「十字架降下」が描かれていることが多かったという。斬首刑の場合は「洗礼者ヨハネの斬首」。聖職者が死刑囚に最後の悔悛をうながすものだったらしいが、これほど見る者の怨念がこめられた絵は他にないのではないか、写真を見ていて、描かれたものは怖いものではないのに、絵の存在自体が不気味でおそろしくなった。

芸術家たちの知られざる素顔も暴露されている。カネの話。「芸術家は超俗的で世間知に乏しく、世俗的な成功や金銭などに執着しないという先入観が蔓延しているが、大半は逆である。」「歴史に名を残した巨匠のほとんどは、政治家と商人の資質を備えていたといってよい」。凶悪な犯罪者や性格破綻者も多くいた。美しいものを生み出す魂が美しいとは限らないと言う真実を目の当たりにする。

美術の蘊蓄を増やす、ベストセラー「怖い絵」みたいな内容。

私はアイデアが商売直結なので、最近は2か月に一回くらいで、ノートと筆記用具を新しくしている。文具の気分転換が発想力強化に効果的だと思うから。最近みつけたこの無印良品の組み合わせはリーズナブルだし、書き心地がよいので紹介。

・アルミ六角鉛筆芯シャープペン/2mm芯
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アルミ製の軸に2ミリの鉛筆芯を入れたシャープペン。芯をとがらせるための芯削りが付属する。私は太いまま使うのが好きなので削らないで使っている。鉛筆の優しい線で書くのが好きな人におすすめ。そしてノートは同じ無印のこれ。

上質紙滑らかな書き味のノート/A6・72枚・6mm横罫
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上質紙72枚を黒い厚紙の表紙で閉じている(もちろんこのシールははがせる)。デザインで強く主張しないのが無印らしい。

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主にアイデアをひとりで書きだす時に使っている。とりあえず書き出してみるというとき、いざとなれば消せる鉛筆は書きだしやすい。

これに似た組み合わせではミドリのMDノート、STEADTLERの2mm芯シャープペンという組み合わせを以前使っていたが、無印の方が普段使いとしては圧倒的にリーズナブルである。ノートはMDノート800円に対して無印350円。

ミドリ MDノート
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/md-a5.html
STEADTLER シルバーシリーズ 2mm芯シャープペンシル 925 25-20
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/04/steadtler-2mm-925-2520.html

・大魔神の精神史
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怪獣ブームの直前、ガメラ第1作が作られた1966年に『大魔神』『大魔神怒る』『大魔神逆襲』の3作は連続で公開された。興行的にはマイナーな作品のはずなのに、怒る巨像のイメージは観客に強烈な印象を与えて、21世紀になっても大魔神は、知る人ぞ知る的な存在感を示す。大魔神が日本人の記憶に深く刻み込まれたのには理由があるというのが、この研究書である。

著者はこの三部作は「日本」博物館だという。

まず大魔神は国宝の埴輪「桂甲の武人」や仏像「伐折羅大将」が主なモデルである。

古代(埴輪、古墳、仏像)×中世(戦国時代の砦、刀剣や甲冑)×現代(特撮映画)

という日本文化のイメージの集積として、この映画がつくられていることを指摘する。民話的な世界観の中に、ダイダラ坊、平家の落人、スサノオの神話、貴人流離譚など、多くの日本の文化が埋め込まれている。この著者は、モスラの精神史と同じように、特撮映画ひとつでここまで日本文化を広く語ってしまうかと、思い入れに圧倒される。

その熱に感化されて私も改めて見直した。

この映画が名作になった理由ははっきりしているように思える。主役の大魔神がなかなか出てこないことだ。埴輪の石像としての大魔神は、冒頭から画面に映っているのだが、乙女の涙をうけて、開眼して動き出すまでに、物語の4分の3くらい(測っていない、イメージ値)まで進んでしまう。必然的に物語の大部分は人間だけの時代劇ドラマになる。

村人たちが悪人に散々いじめられた挙句に、それなりにシリアスな犠牲を出したところで、絶対的な力が登場して悪を制圧してこらしめる。この構成は45分で印籠を見せる水戸黄門だよなあと思う。なかなか出てこないがポイントなのだ。それなりの制作予算で前半の民話的世界が丁寧に描かれていることも、好印象。

日本人の精神性を重層的に織り込んだ映画だったから、半世紀過ぎても記憶されているということがよくわかる本だ。90年代のはじめ、筒井康隆の原作で日米合作制作費用30億円の第4作が予定され、脚本までは作られていたという。現代のSFXでよみがえらせたら、ブーム再燃もありそうだなあ。

・大魔神 デジタル・リマスター版 [DVD]
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人間小唄

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・人間小唄
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緻密なストーリーで読ませるか、文体で酔わせるか、作家の戦略は大きく2種類あるが、パンクロック出身の町田康は、ひたすらにリアルタイムの歌声で酔わせる文体派の作家だと思う。もはやストーリーやプロットなんてなんだっていいとさえ思わせる説得力をもった声を持っている。

特異な言語感覚で操られる町田節がこの作品でも炸裂している。

「情熱だよ、やむにやまれぬ情熱だよ」。

主人公は、愛読していた作家に言いがかりをつけて拉致監禁する。解放されたければ「短歌を作る」「ラーメンと餃子の店を開店し人気店にする」「暗殺」のどれかをちゃんと実行しろと要求する。作家は仕方がないので無難な順番で実行していくが、成果にいちゃもんをつけられて、なかなか帰してもらえない。

執着的な言いがかりやいちゃもんだけでできているような小説だ。徹頭徹尾、木を見て森を見ない。神は細部に宿るのが楽しい。その場しのぎの妄想妄念でドライブしていって、全体の辻褄合わせなんでものはどうでもよくなる。今読んでいる行の、前後2,3ページで語っていることがすべてなのだ。歌の1番と3番で実は筋が通っていなくても、メロディが良ければ名曲といっていいじゃないか、みたいな。

話の内容が支離滅裂の荒唐無稽でよくわからないのだけれど、聞く体験が心地よくて、この人の話をずっと聞いていたいなと思わせる、そんな話し手が町田康というすごい作家である。『宿屋めぐり』『告白』みたいな長編代表作には及ばないが、比較的短く、相変わらずの町田節を再確認したい人におすすめ。

・俺、南進して。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-953.html

・東京人生SINCE1962
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/since1962.html

・宿屋めぐり
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-828.html

・告白
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/10/post-474.html

・フォトグラフール - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-745.html

・土間の四十八滝 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-733.html

SARU 上・下

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・SARU 上
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『魔女』を読み五十嵐大介という才能を知った。これは最新作SFファンタジー漫画。

「1999年、7か月、空から恐怖の大王が来るだろう。アンゴルモワの大王を蘇らせマルスの前後に首尾よく支配するために。」ミシェル・ノストラダムス

ノストラダムスの大予言に登場する「アンゴルモワの大王」=斉天大聖 孫悟空=超常的パワーの破壊者という設定なので「SARU(猿)」。1999年の危機はとりあえず回避されたが、大王はこれから降ってくる、ということになっている。

恐怖の存在の復活を前に、バチカンのエクソシストが暗躍し、インカの征服者ピサロやフランシスコ・ザビエルらが蘇って、現代の主人公たちの前に現れる。キリスト教、ユダヤ教、中国の伝説、陰陽道など、世界の宗教や神話伝承が散りばめられて、独特の世界観をつくりだしている。終末的な世界を描いた絵が素晴らしい。

・SARU 下
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壮大な構想を上下2巻におさめたため、展開がちょっと急ぎ過ぎの感じと説明口調が多いのが惜しいところ。10巻位の長編で描きなおしたら傑作になりそう。なお、本作のSARUというテーマは、売れっ子作家の伊坂幸太郎と競作企画になっており『SOSの猿』という小説も出ている。

なんとなく中嶋らもの『ガダラの豚』を連想させる作品でもあった。

・ガダラの豚
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-762.html

パレード

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・パレード
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東京のマンションの一室で共同生活をする4人の若者たちの姿を描く。『悪人』の吉田修一、第15回山本周五郎賞受賞作。

会社員の直輝、自称イラストレーターの未来、学生の良介、恋愛依存の無職の琴美というバラバラの男2人、女2人が、2DKをルームシェアするという奇妙な生活空間。登場人物たちは狭い部屋で、互いを傷つけないように自分を演じて、表面上はわきわいあい、優しい関係を続けている。そこに男娼のサトルが加わり、5人の視点が1章ずつ交代で、彼らの共同生活の実態が立体的に映し出される。

居住者の1人の未来は、他の居住者も自分がそうしているように「この部屋用の自分」という仮面をかぶって暮らしているのではないかと思っている。だとしたら、この部屋には、この部屋用の自分が5人いるだけで、本当の自分は誰もいない、無人の部屋と言うことになるなあと内心、考えている。しかし、そんなことは居住者のだんらんでは口にせず、わきあいあいとした楽しい生活のパレードを続ける。

実はこの明るく楽しい共同生活には恐ろしい事実が隠されているのだが。

読み進むにつれて、なにかひっかかる感じ、小さな違和感が読む者の心の底に蓄積されていく。最後でその意味がわかって、つい読み返して再確認したくなる。

パレードは『世界の中心で、愛をさけぶ』で有名な(しかし私は『今度は愛妻家』(2009年)のほうがよいと思う)行定勲監督で映画化されている。最近DVDが発売された、というのが読書のきっかけ。さてDVDを観るか。でも筋を知ってしまったから忘却のため2年くらいおいておこうか、悩ましい。

・パレード
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・悪人
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-603.html

ガラシャ

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・ガラシャ
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来年の大河ドラマ『江 ~姫たちの戦国~』でも重要な役割を果たしそうな細川ガラシャの生涯を描いた小説。『花宵道中』の宮木あや子なので、官能的な恋愛小説かと思ったら、意外にも抑制が効いた歴史小説。フィクションもちょっと入ってますが、読みごたえあり。

明智光秀の娘で信長のすすめにより細川忠興の妻となった女性 明智(細川)玉子。父が起こした本能寺の変により、逆臣の娘として味土野山中に長期幽閉される。秀吉の世になって大阪に戻るが、夫の浮気や周囲の冷遇に苦しみ、密かにキリシタンに改宗してガラシャの洗礼名をもらう。関ヶ原の乱の直前に石田三成に屋敷を包囲されるが、人質になることを拒む。キリスト教は自殺を禁じているため、家老に自分を殺すように命じて、最期を遂げたと伝えられる。

玉子とそっくりの姿をした侍女の糸(芥川龍之介『糸女覚え書』)や、光秀の親友でガラシャの舅の細川幽斎(藤孝)の視点が重ね合わされて、非情な時代の中で、それぞれの叶わぬ恋や友情、神への愛を貫いた女たちの物語が語られている。がんじがらめの束縛閉鎖環境を舞台とする作風の宮木あや子は、この時代の不自由な女たちの描写にも才能を発揮している。

実はガラシャの物語としては異例の?ある種のハッピーエンドになっている。ガラシャが詠んだとされる辞世の句「散りぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ」も、それによって別のものに書き換えられている。そこらへんが評価が分かれるところかもしれないが、戦国時代の純愛物語として私はかなり好きだな。

・太陽の庭
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1137.html

・白蝶花
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-996.html

・花宵道中
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-936.html

Countdown Calendar
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ブログを毎日書き始めてから今日は何日めだろうか?

マヤ暦の人類終焉の日まであと何日だっけ?

自分が生まれてから何日目だろうか?

もういくつ寝るとお正月?

など、

○○まであと何日というカウントダウンや、○○から何日が経過したという日数カウントをiPhoneでチェックすることができるソフトウェア。複数のカウントをアイテムとして管理できる。試験や試合までの日数だとか、楽しみにしているゲームの発売日などを登録しておくと毎日が楽しい。

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登録は簡単でカウントしたい起点となる日を入力するだけ。UntilなのかSinceなのかは気にしないでよい。そしてそのカウントに名前を付ける。

ImportantとFunというふたつのカテゴリに登録を行うことができる。毎日チェックしたい項目と必要に応じて見たい項目をわけると便利だ。プロジェクト管理やモチベーション管理のツールとして真面目にも使えそうだ。

Find Othersというメニューからは、一般的に関心が持たれそうなさまざまな項目が選択できる。次回の大統領選挙の日だとかディズニーランドに新しいアトラクションができる予定とか、マヤ暦による地球終焉の日だとかである。

Countdown Calendar - The Future of Pinball, LLC

・KOKUYO F-WBF115YR ペンケースペンスタンド式オレンジ
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私はこれまで筆箱というものをあんまり使わなかった。カバンの中の小分けや背広の胸ポケットにペンをいれておくだけだった。しかし最近、筆箱の便利さに目覚めた。iPadのおかげでノートPCを持ち歩くことが少なくなり、減った重さの分、アナログな文具を持ち歩くようになったから。それで、まとめるためにペンケースが必要になった。

あれこれ試して、仕事用には落ち着いたのがこれ。

ペンケースであると同時に、立てればペンスタンドになる。

ペンケースとして携帯して、会議中は机の上にペンスタンドとしておいておくことができるのが本当に便利だ。特にこのオレンジ色のバージョンを、机に立てておくと、とても目立つ。机を円状に並べて会議する時にも、自分の存在をさりげなく主張できるのでよい。

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ほどほどに丈夫な構造なので文具の保護も十分。

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立ててもなかなか安定感がある。内部にはメッシュのポケットがあるので、そこには小さな付箋をいれている。

・[Disney@HOMEオリジナル・ブランケット2010付] Disney's クリスマス・キャロル ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray] (初回限定)
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う、怖いが第一印象。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ/一期一会 』『ベオウルフ/呪われし勇者 』などを撮ったロバートゼメキス監督作品。主演はジム・キャリー。

ディズニーのクリスマスキャロルだからいいかなと思って小学校1年生の息子と見たのですが、失敗。ちょっと怖すぎてファミリー視聴には向きません。主役の老人スクルージの皺の質感までリアルに感じさせる高精細CGが売りの作品ですが、マーレイの幽霊やクリスマスの精霊の恐ろしい姿もまた超高精細に描かれています。ささやき声が多いため、サラウンドで大きめの音で視聴していましたが、迫力がありすぎて幽霊と精霊の登場シーンは子供が泣きそう。ほとんどホラーでした。

大人の目ではなかなかよかったです。

ディケンズ原作の再現を重視していて、時代背景やキリスト教などの説明的な演出は控えめになっています(だから子供にはわかりにくい)。当時の人々のファッションやヴィクトリア朝時代のロンドンを、考証の上で美しくCGで再現しています。これまでに50作品以上も映画が作られてきた作品だそうですが、これはディズニーのアニメCGなのに、まるで視聴者に媚びない、本格派、メッセージ性の高いクリスマス・キャロルといえます。

ジムキャリーは主役のスクルージの声と同時に、過去・現在・未来のクリスマスの精霊の声を担当しています。その事実に私はキャスト情報を見るまで気がつかなかったのですが、精霊はそもそも内面の声なのですし、よく練られた設定だなあと思いました。

クリスマスキャロルの意味を真面目に深く考えさせる作品だと思います。

ディケンズの小説が好きな大人のカップル向け、でしょうか。

・ミッキーのクリスマスキャロル
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/12/post-494.html

死者の書

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・死者の書
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ダークファンタジー作家ジョナサン・キャロルの代表作。1989年アポロ賞受賞。

高校教師のトーマス・アビイは、心酔する児童文学作家マーシャル・フランスの伝記を書くために、作家の故郷ゲイレンを恋人とともに訪れる。町に腰を落ち着けて、フランスの娘に取材を重ねるうちに、アビイはこの町の恐ろしい秘密に気がついてしまう。

メタフィクションの傑作なので、あまり詳しく内容を書けないですが、前半が退屈でも最後まで読む価値ありとだけ言いましょう。後半になってからが秀逸です。前半は静かに伏線を張っているのです。

原題は『The Land of Laughs』。作中に登場するフランスの作品「笑いの郷」です。

ある日、アビイの目の前で男の子が車にはねられます。事故の瞬間に居合わせた村人はアビイに落ち着いた表情で「あの男の子、はねられる前は笑ってました?」と尋ねます。子供が死にそうなのに、笑っていたかって?とアビイは村人の言葉に不信感や疑問を抱くようになります。

読者に推理させる時間をたっぷりとる。その間が絶妙の作品です。

あ、そうそう。犬が好きな人にもおすすめです。ブルテリアが活躍?します。ぜひ。

悪魔祓い

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・悪魔祓い
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ノーベル賞作家ル・クレジオが書いた現代文明批判。いろいろと読み方がありそうだが私は芸術論として読んだ。

著者は20代で研究者としてインディオ集落で数年間生活して、その土着の宇宙観に魅了された。悪魔祓いとはインディオにとっては医療行為であると同時に、歌や踊り、刺青や木像などの芸術的な表現を伴う営為である。ル・クレジオは芸術のための芸術がはびこるヨーロッパ文明と比べて、これこそ本物の芸術なのだと礼賛する。

インディオは個人的な創造を拒む。個人の創造として作品をつくる欧米の芸術家と対照的だ。「芸術は沢山だ。個人の表現はもうたくさんだ。そうではなくて、結ばれあうこと、そして共同して読むということ」と芸術のあるべき姿を追い求める。

「インディオたちは人生を表現しない。彼らには事件を分析する必要がない。反対に、彼らは神秘の表徴を生き、記された後をたどり、呪術が与える指示にしたがって、語り、食べ、愛しあい、結婚する。要するに芸術、それこそ本当の芸術と言えるもので、それは世界を前にしての個人の惨めな問いかけなどではない。芸術とは人間の集団がいだいた宇宙についての印象であり、細胞の一つ一つと全体とのつながりであるがゆえに、それは芸術なのだ。」

人間の体験は宇宙の体験に含まれているという。欧米の芸術家は常に他人のやっていない独創表現を探しているが、インディオの呪術的な世界観はそんなちっぽけな個人的創造を超越する。宇宙の神秘を、生活行為、儀式の中で、共同的によみがえらせる。

「インディオは世界を組織する。彼は伝統的な表徴に従ってしか姿を表わさないのである。現実主義がなにになろうか。インディオは、現実というものに関心がない。これに反し、この現実というものは、わたしたちを窒息させているのだ。」

他人を感動させる作品が自分にしか理解できない独創ではありえない。人生や生活に根差した感情や経験にもとづかなければ深い感動を与えることはできない。表現のための表現としての薄っぺらなアートと違って、インディオの土着文化にはすべてがある、という。
日本の岡本太郎も、芸術は人間や宇宙の根源的エネルギーの爆発だと言って、縄文土器の美を礼賛したが、デジタル・バーチャルの時代にこそ、こういう「土俗力」は「本物」として再認識されるものだなあと思う。

・iPhoneの通信機能を使ってWi-Fi版iPadでWebブラウズできる CoBrowser
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iPhoneとWi-Fi版iPadを携帯する人に朗報なアプリ。

Bluetooth通信を使って、iPhoneとiPadのブラウザーを連動させることができる。

iPhoneとiPadの両方に、CoBrowserをインストールする。両方ともにBluetooth通信をオンにしておく必要がある。省電力のためにオフにしていたことを忘れていた私は、なかなかうまく動作せずに困った。

起動するとiPhoneではセッションのホストになるか、セッションに参加するかを選ぶ画面になる。ホストを開始するを選ぶ。そしてiPad側でも起動し、参加するセッションを選ぶ。

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すると、iPhoneとiPadで同じWebブラウザーの画面が表示される。iPhone側でページを移動すると、しばらくしてiPadの画面も切り替わる。iPad側のWebブラウザーでもページ移動は可能だ。

これで外出先で、iPhoneを使っていて、もっと大きな画面で見たいなあ、というときに、iPadを取り出せばOKということになった。素直にiPhoneが無線LANサーバになってくれればありがたいのだが、それまではこのアプリが前提的にお助けツールである。

CoBrowser - collect3

ラース・フォン・トリアー監督脚本の「機会の土地-アメリカ」三部作のうちの既に公開された2作品を観た。演劇舞台とナレーションを使った前衛的な表現にひきこまれた。

両作品とも倉庫のようなだだっ広い空間のみが映画の舞台。床には白線が描かれていて、それが家の境界線を表す。後は簡易的なセットがあるだけ。十数人の村人たちは、壁があるふり、ドアがあるふりをして、それぞれの家での家族の生活を演じている。カメラはその演技を追うのだ。

・ドッグヴィル プレミアム・エディション [DVD]
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大恐慌時代のロッキー山脈のさびれた鉱山町ドッグヴィル。貧しく保守的で平和な村に、ある日、ギャングに追われた娘グレース(ニコール・キッドマン)が迷い込む。村人たちは道徳心から彼女をかくまってやることにする。グレースはその代わり、村人たちのために奉仕労働をすることを約束した。

親切な村人たちと献身的なグレースの間に平穏な日々が続くが、ギャングの追手や警察の捜査が始まると、村人たちはグレースをかくまっていることに不安を感じ始める。当初は歓迎されたグレースの奉仕労働も、日常化することでだんだんとありがたみが薄れていき、奉仕を受けるのは村人たちはそれが当然の権利であるかのような冷たい態度に変わっていく。

ドッグヴィルは現実社会の縮図である。

経済的、法律的基盤を持たない善意、道徳の限界
多数決による意思決定で行われる暴力
異質を排除するムラ社会の宿命

村人たちとグレースの間の小さな軋轢は、日がたつにつれ雪だるま式に大きくなって、やがて目を覆いたくなるような残酷な悲劇を引き起こす。衝撃のラストに唖然とする。

・マンダレイ デラックス版 [DVD]
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マンダレイは続編。ドッグヴィルを去って、アラバマ州の大農場マンダレイにやってきたグレースの物語。

マンダレイの農園では80年前に廃止されたはずの奴隷制度が続いていた。自由を愛するグレースは、ちょうど女主人が倒れたのを機に、白人に支配されている黒人奴隷たちを解放してやる。そして、どう生きていったらよいか不安に感じるという黒人たちとともに、民主的コミュニティを設立して、自分たちの農園を作る共同生活を始めた。

自由と束縛。支配と服従。権力と暴力。

白人のグレースは古いアメリカ的な精神の象徴である。よかれと思って、黒人たちを解放してやり、民主主義を教えてやろうとする。だが黒人たちはグレースの行為に対して不信感や疑念を隠さない。解放されると本当に自分たちの生活はよくなるのか?生活基盤を失っただけではないのか?、と。それでもグレースは自身の信念を推し進めていく。

民主主義を支えているのは実は暴力装置としての権力なのであるということ
被支配と服従が必ずしも不幸ではない。自由ならば必ず幸せということではない。
おしきせの善意がときとして暴力となること

これも深く人間集団の本質を考えさせられる作品である。

このシリーズは3部作で完結編『ワシントン』は未公開。一話ずつで完結しているが、最終作品がどうなるのかが楽しみである。

・村上式シンプル仕事術―厳しい時代を生き抜く14の原理原則
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元米グーグル副社長兼日本法人社長、現在はグーグル日本法人名誉会長の村上憲郎氏が語った仕事論。

基本となる大局観とお金の流れの自覚+デールカーネギー『人を動かす』『道は開ける』+マンキューの経済学+キリスト教の知識+仏教の知識+西洋哲学+アメリカ史の理解+量子力学......。本質を見抜く能力を鍛え、グローバル社会における知識教養を幅広く蓄えよ、という。多分野の王道を束ねた帝王学。要求スペックは高い。

心優しき日本人の陥りがちな陥穽として「原理的な根拠よりも心情的、情緒的な部分に比重を置き過ぎるのではないか」と言ったり、経済の目的は「世代間順送りで人類が存続するために、世界67億の人類に衣食住に代表される財とサービスが行き渡る社会を作る」ことであると言うなど、今の日本人が持つべきグローバル視点を気づかせてくれる。

村上氏自身の言葉とともに、深く知りたい人のためにおすすめの本を何十冊も紹介している。グーグルに引き抜かれるような人材を目指すなら、まずはこのリストを読みまくるとよさそうだ。

本の選び方や読み方についてのアドバイスもある。

1 薄くて濃くてやさしい本をみつける
2 それを集中して、一気に読み上げる(速読)
3 とりあえず、分かったところだけをピックアップする
4 分かったところを繋ぎ合わせる

そして一知半解読書法。

「その分野の中で一番薄くて、でも基本的なエッセンスは詰まっている本を1冊探し出して、それを一気に読むのです。」

アカデミズムの知識がベースにある図解中心のやさしい本で大局をつかみ、全部が分からなくても、自分なりに理解できたコアで勝負していけというのは、ビジネス的な実践の知の活用法として深く納得である。

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