2011年2月アーカイブ

・電子本をバカにするなかれ 書物史の第三の革命
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元『本とコンピュータ』総合編集長の津野 海太郎氏が語る出版の新時代論。

口承から書記への「第一の革命」、写本から印刷本への「第二の革命」、そして紙の本と電子の本が共存するというのが同氏のいう「第三の革命」である。電子出版革命論者のなかではかなり穏健な革命である。

「書物史上、というよりも人類史上はじめて、本が二つのかたち、二つのしくみ、二つの方向に分かれて、それぞれの道をたどりはじめる。その分岐点の光景を、いま私たちは目にしている。」

確かに著者が言うように、電子書籍が紙の印刷本をすぐに滅ぼすことは起きそうにないと感じる。電子本が一般化しても、紙の本の良さは残る。レコードがCDに、VHSがHDレコーダーになったように、旧メディアが新メディアを置き換えて殺してしまったメディアもあるが、本の場合は共存の余地は大きそうだ。

「ビジネスとしての出版は今後も二つのかたちで存続していくと思う。一つは旧来のものの縮小的延長として、もう一つは、無料情報の大海から直接にたちあげられるであろう新しい出版ビジネスとして。」

紙と印刷の本の世界が斜陽化しているが「産業としての出版のおとろえと電子化の進行のあいだに直接の因果関係はない」という分析も同感。その原因を「売れる本がいい本、売れない本はわるい本」という「市場がすべて」主義が出版を衰弱させたと論じている。ベストセラーのランキング上位に並ぶ本が、読書好きにとっては、つまらない本ばかりになってしまったなあと私も思っているので、多いに納得。

ボイジャーの萩野正昭氏と電子書籍の歴史(案外に長い)を振り返る記事も、今、改めて読むと、電子書籍にまつわる様々な議論が、いまに始まったわけじゃないのだということに気がつかされる。

電子書籍の革命前夜である今、見通しをえるのによい本。

・ニンテンドー3DS アクアブルー
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話題の裸眼立体映像ゲーム機予約で購入。ファースト・インプレッション。

まず画面サイズ。いつも使っているDS LLと比較すると

3DS  3.53インチ
DSi  3.25インチ
DS LL 4.2インチ

ということで、iとは感覚的に変わらず、新型としてはちょっと小さいなという印象がある。持ってみた感じでは、DSiとほぼ同じである。

外側に2つの3Dカメラを搭載している。これは左右から視差をつけて立体写真を撮るためだ。お手軽な3Dカメラとして、1時間くらい遊んだ。これは楽しい。撮影した写真は今のところ3DS上でのみ立体表示できる。現実世界の映像の上に、仮想の物体を映し出すAR技術にも対応している。

で、ゲームの立体映像はどうかというと、ちゃんと前景が浮き出てくるので、しばらく新鮮に感じる。劇場の3D映画のような大画面の迫力や奥行きは感じられないが、ポリゴンによる立体表現とは違う表現力は魅力的。nintendogs + catsをしばらく遊んだが、3Dじゃないとさびしい気がした。

私が左右の目の視力が大きく異なるからかもしれないが、15分くらい遊ぶと目が疲れてしまうのは問題。ネットでも目が疲れると話題になっているようだ。立体表示の度合いを変更する3Dボリュームをいじって、2D表示に切り替えて、目が回復したらまた立体に戻す、の繰り返し。これは買ってみないとわからないポイントであった。従来のDSゲームを遊ぶのであればLLの方がいい。

1日遊んだ結論としては、

3D映像のゲームにそんなに驚きはない。

3Dカメラ機能を活かした大ヒット作品がでるのではないかという予感。

カードを挿していなくても複数のゲームのすれ違い通信が可能な点は素晴らしい。

で、第一印象は70点。

後はこれから出るゲーム次第ですね。

・スーパーセンスーーヒトは生まれつき超科学的な心を持っている
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とても面白かった。

「人間の知識はすべて直感に始まり、そこから概念へと進み、最終的に認識へと至る。」(イマヌエル・カント 純粋理性批判)

米国では国民の90%が信仰を持ち、無神論者は10%に過ぎない。ギャラップの調査では、成人の4人に3人が少なくとも一種類の非宗教的超自然現象を信じているという結果がある。日本でも9割の国民が初詣に行くし、相当数がお盆に墓参りもする。テレビでは占い師や超能力者が人気だし、ホメオパシーやら未来が見える水晶など非科学ビジネスが横行している。実は米国とあまり変わらないかもしれない。科学の時代とはいえど、超自然現象、超科学現象を信じている人はかなり多いのだ。

科学合理主義の教育を受けているのに、そうなってしまうのは、人間に生まれつき、超自然現象を信じる資質が備わっているからではないか、というのがこの本の主張である。人間は赤ん坊の頃から、見聞きした世界に対して、直感的な理論を組み立てて、構造とパターンを読みとらないではいられない。その推論のうちには、科学的合理的な推論と同時に、そうでないものが混在する。

「子どもたちは周りの世界に関する知識を独自の直感的推論によって生み出す。それが自然なものと超自然なものを共に信じる心につながる」

信仰心に関係した脳の神経回路も特定されつつあるそうだが、文化が影響する前の幼児発達期から、既に、

魂という生命力の"本質"を認める感覚
他人の視線を感知する感覚
死の穢れなどにより心理的に汚染される感覚
神聖という感覚

といったスーパーセンスが芽生えていることがわかる。だから信じる心は愚かというよりも人間らしいということなのだ。

スーパーセンスの"本質主義"の正体と、先天性に関する科学的な研究が多数紹介されている。無神論者が宗教を糾弾する態度よりも、かなり建設的なアプローチだと思った。

・僕を支えた母の言葉
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「僕が3歳のとき
父が亡くなり
その後は母が女手ひとつで
僕を育ててくれた

仕事から帰ってきた母は
疲れた顔も見せずに晩ごはんをつくり

晩ごはんを食べた後は
内職をした

毎晩 遅くまでやっていた」

ストレートなお涙頂戴ものは苦手なんだよなあと思いながら、冒頭部分を読み始めたのだが、中盤から予想外のひねりが効いていて、人を信じることの大切さというメッセージに、うっかり感動してしまった。

Youtubeで130万人以上が視聴したという写真とテキストの物語の書籍化。ミリオンセラーの『鏡の法則』の著者によるビジュアルブック。15分で読むことができて、15分くらい余韻に浸れる。

信頼の大切さを切々と伝える内容なので、勇気づけたい人への個人的なプレゼントにもよいし、会社や団体などで休憩場所に置いておくといいかもしれない。

・競争の作法 いかに働き、投資するか
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日本経済新聞の2010年度エコノミストが選ぶ経済図書ベスト1に選ばれた新書。

経済学者が、現代日本において適正な競争原理が果たす重要性を説いた本。

市場主義を再評価する。競争の行きつく先は悲惨な格差社会ではなく幸福な社会だと。

著者は「日本経済で不平等が深刻になったのは、競争原理が貫かれて生産の効率性が飛躍的に向上したからではない」という。「競争原理を貫いたから、平等原理に抵触した」のではなく、「競争原理を大きく踏み外したので、所得分配上の深刻な問題が生まれた」のだという。

「戦後最長の景気回復」やリーマンショックの影響、「二つの円安」など経済指標を分析して、失われた10年から現在までの日本経済の流れを説明する。そして、従来の国民経済計算(GDPなど)では幸福やこころの豊かさは測ることができないことも示す。そのうえで、今の日本では、本当に貧しい人たちは少数であり、多数は「豊かさ以上、幸せ未満」の状態に置かれているという。多くの人にとって格差社会は他人事の議論だというのである。

「21世紀の入口に立って格差社会論争が取り組んだ不平等とは、競争原理を実践するはるか手前のところで、少数に対して悲惨な貧困を押しつけた多数が安堵していた状態にすぎなかった。」

つまり中流以上のマジョリティが、既得権や制度に守られて、たるんでいることで、経済的に大きな損失につながっているということだ。生産性が高い集団の歪みを正して、公正な競争原理を導入すれば、経済は活性化する。また真摯な競争は真の人間性を育む機会となりえる。だからこそ、今、株主らしい株主、経営者らしい経営者、地主らしい地主が真剣勝負で議論する、真正面から競争に向き合っていくことが大切なのだ、というのが本書の主張。

目からうろこ的な指摘が幾つもあって、啓蒙される新書だった。

きことわ

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・きことわ
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第144回芥川賞受賞作。

母親が管理人をつとめていた葉山の別荘で、東京からやってきた七つ下の貴子の家族と過ごした二十五年前の少女時代を思い出す永遠子。

「にやにやと貴子が笑う。永遠子も、これはどっちの足だと、貴子の足をくすぐりかえす。貴子が永遠子の頬をかむ。永遠子が貴子の腕をかむ。たがいの歯型で頬も腕も赤らむ。素肌をあわせ、貴子の肌のうえに永遠子の肌がかさなり永遠子の肌のうえに貴子がかさなる。しだいに二本ずつのたがいの腕や足、髪の毛や影までがしまいにたがいちがいにからまって、どちらがおたがいのものかわからなくなってゆく。永遠子が貴子の足と思って自分の足をくすぐり、貴子も永遠子の足と思って間違える。」

分別がつくという言葉があるが、大人になるとは、自己と他者を分ける、幼い自分と別れるというプロセスといえる。"きことわ"はそれができていない未分化の、幸福な子供時代の状態だ。

「貴子は、自分が母親に会えないのは、母親にみられている夢の人だからではないかと思った。母親が起きている間貴子は眠り、貴子が起きている間母親は貴子の夢をみている。自分は夢にみられた人なのだから、夢をいつまでもみないのではないかと、それこそ夢のようなことを、とぎれとぎれの意識のなかで思っていた。」

時がすぎて永遠子は今、四十歳で小学生の娘もいる。解体が決まった別荘の片付けのため、葉山にやってきた永遠子は、今でも思い出のなかでは今もひとつに溶け合っている貴子と再会する。現在と過去、現実と夢が曖昧になる永遠子の揺らぐ意識は、ふわふわとしていて、時制さえとらえどころがない。

曖昧な意識、夢遊病みたいな感覚を味わえる。

・ぺんてる ハンディラインS SXS15-G
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最近気にいって使っている蛍光色マーカーですが、ペン先が少し変わっています。

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ノック式で、ペン先が軸の内部に収納され、さらに自動的にフタも閉まるという仕掛けになっています。

・キャップが要らない
・ペン先が乾かない

わけです。

キャップをなくす、キャップをなくしたまま収納してペンケースなどを汚す、ペン先が乾いてしまう、という、個人的にありがちなトラブルを避けることができて、満足です。

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色のラインナップもオレンジ、イエロー、ライトグリーン、ピンク、スカイブルー、バイオレット とあります。

苦役列車

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・苦役列車
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第144回芥川賞受賞作品。

中卒フリーターが港湾労働者として日雇い仕事に従事する鬱々とした日々を淡々と描いた。金も女も友もなく日給5500円稼いでは怠惰に暮らす主人公は、かなりの部分が著者の分身らしい。しかし蟹工船、女工哀史的なプロレタリアート文学とは趣が違う。この人は格差社会の犠牲者というよりは向上心に欠ける典型的なダメ人間である。そのダメ人間の、時代錯誤文体による自虐コメディというのが、この作品の本質だろうか。

西村賢太は藤澤清造という大正時代の作家に心酔していて、プロフィールにも「藤澤清造全集」の刊行を準備中とある。『苦役列車』でも野間文芸賞受賞の『暗渠の宿』でも、主人公が藤澤清造研究に執着するシーンが書かれている。この藤澤という作家は小卒(西村は中卒)で、貧困にあえぎながら貧困小説を書いていた。文壇ではずっと不遇で昭和の初めに性病で倒れて冬の芝公園で野たれ死んだ、という知る人ぞ知る存在である。風俗が好きで貧乏暮しの西村自身と共通点が多いようだ(でも、西村氏は芥川賞作家になってしまったが...。)。

この作品は古臭い言い回しの混じる独特の文体が読んでいてなんとも可笑しい。同時収録作品も『落ちぶれて袖に涙のふりかかる』だし...それこそ大正時代の藤澤清造らの文学の影響を受けているものなのかもしれない。鬱な描写が多いのに、重たくならずに読めるのは、この時代錯誤感覚というユーモアセンスが大きいと思う。

そして、この人の最大のウリは、劣等感から生まれる創造性であり、負け犬根性から生まれる諧謔精神だ。たとえば『暗渠の宿』では、もてなかった主人公がやっとのことで彼女を得るのだが、その彼女の元彼のことが気になって仕方がない。

・暗渠の宿
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「それを思うと、ふいと私は、不当にその男の後塵を拝しているような、えも云われぬたまらない口惜しさを覚えてくる。それに何よりその男は、うまうまと私の女の処女を破ったのである。そして私の女の、一番輝いている時期の心を独占し、一番みずみずしい時期の肉体を隅々まで占有し、交際期間から併せて都合七、八年もそれらを堪能して、さんざおいしい思いをし続けたのちに、これを弊履のごとく捨てたのである。そしてその男にしてみれば充分貪り尽くしたと云えるこの女を、私は、私に与えられた最後の砦として、随喜の涙を流して抱きしめているのである。その図を考えたとき、ただでさえインフェリオリティーコンプレックスの狂人レベルな私にしてみれば、およそ男としての根幹的な部分からわき上がってくる云いようのない屈辱感に、血が頭に熱く逆流してくる」

自らの惨めな境遇を徹底的に言語化する競技なんていうものがあったら、この作家はオリンピック級である。その過激な自虐ぶりが常人の同情とかを寄せ付けないレベルにまで高められていて、読者はもはや笑うしかないのである。

私が教員をしている多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所(IKLS)で、下記イベントを開催します。私も講演予定です。無料です。「場」に関心のある企業人は、新しいビジネスのタネをみつけに、ぜひご参加ください。


IKLSではイノベーションの基底となる「場(ba)」について研究してきましたが、この度これまでの成果を研究に協力いただいている皆様とともに発表する機会として、ワークショップを開催させていただくこととなりました。
私たちはこれまで、「ソーシャル・リーダーシップ」を標榜し、従来とは異なるリーダーシップや経営のあり方を考え、研究してきました。その中でも「場」は大変重要な概念です。「場」は知識社会の社会システムや組織の構成単位であり、知的創発の空間でもあります。このワークショップでは、2010年に終了した「場の研究」プログラムの参加企業とIKLSのメンバーが中心となって、「場」の意味合いと実践について話し合います。
イノベーションや「場」にご興味のある方のご参加をお待ちしています。

詳細:
http://www.ikls.org/archives/261#more-261

日時:2011年3月1日(火)13:15-17:45
会場:コクヨ エコライブオフィス(東京都港区港南1丁目8番35号)
http://www.kokuyo.co.jp/ecology/ecooffice/access/

参加費:無料
主催:多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所
協力:コクヨ株式会社

お申込方法:メールにて以下を記載の上お申し込みください。
 申込メールアドレス:shibata@ikls.org
 メールへの記載事項:【件名】「『場』のリーダーシップを考える」参加希望【メール本文】ご所属・ご氏名・連絡先メールアドレス
締切:2月23日(水)

問い合わせ先:客員主任研究員 柴田裕介 shibata@ikls.org

【プログラム概要】

会場13:00

開会挨拶 ILKS所長 徳岡 晃一郎

■講演「『場』と『知』の経営」 ILKS教授 紺野 登

■リレー講演 場のアーキテクチャ研究会成果報告

 「『場』の構成要素とそれを必要とする組織のあり方についての考察(仮)」日建設計マネジメントソリューションズ(株)シニアコンサルタント 安原 直義

「大規模組織診断と那珂事業所における「場」と「仕組み」作り」(株)日立ハイテクノロジーズ那珂事業所生産技術部 統括主任技師 佐藤 直基

「場の研究=5つの場のモデル」 ILKS客員主任研究員 柴田 裕介

■講演「MBB-『場』から生まれる経営」 ILKS所長 徳岡 晃一郎

■講演「ウェブという場/ソーシャルメディアという『場』(仮)」 IKLS客員教授 橋本 大也

■パネルディスカッション『「場」の経営の未来』
 パネリスト:コクヨ(株)RDIセンター 主幹研究員 CATALYZER編集長 齋藤 敦子、(株)電通国際情報サービス 未定、IKLS客員教授 橋本 大也
 コーディネーター:IKLS教授 紺野 登

終了17:45

・天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界
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自閉症でサヴァン症候群で共感覚者で、円周率22500桁を暗唱し、10ヵ国語を話す天才・ダニエル・タメットが語る脳の働きと可能性についてのエッセイ集。前作『ぼくには数字が風景に見える』は世界的ベストセラーになった。

最新の脳科学の実験の紹介や、自身の特異な脳の体験に基づく仮説の提示、人間の知性の構造特性の考察、記憶力や創造性の向上に向けたアドバイスなど、博覧強記の天才ならではの幅広い内容になっている。

ベテランの俳優が長い台詞を正確に覚えるコツの話が面白い。彼らは長文を機械的に覚えるのではなく、なぜ登場人物がそれを言うのか、という文脈を理解することで、記憶の「精緻な符号化」を行っているのだという。

「「肉体と精神と感情のすべてのチャンネルを使って、実際にいる相手や、想像上の人物に向かって台詞の意味を伝えるようにしなさい」と指示された学生は、台本をひとりで読んで理解した学生と比べて台詞を覚える力が飛躍的に向上することが実験で証明されている。」

精緻な符号化とは、予備知識と新しい情報を結び付けることだ。ダニエル・タメットが10ヶ国語を覚えられたのも、既に知っている外国語の単語との類似性で、新しい外国語の単語を記憶しているからだという。

タメットの場合は精緻な符号化に共感覚が深く関係する。多くの円周率暗唱者は語呂合わせを記憶に利用するが、数字がカタチとして認識できる彼の場合は、数字や数列を三次元の形状に結びつける。そのイメージを再現することで、円周率を再現できる。精緻化に使える次元が一般人よりひとつ多いのだ。そして数字への本能レベルでの偏執的こだわり。天才の秘密が垣間見えた。

この本は前作よりは天才の自分が足りが減って、天才と脳の研究者としての側面が強くなっている。

・ぼくには数字が風景に見える
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-602.html

・アダルト・エデュケーション
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性愛をテーマにした大人の恋愛小説。タイトルは直訳すると大人の教育。授業内容は、各章のタイトルと英語の副題から読みとれる。

1 あと少しの忍耐 Patience 2 それでも前へ進め Advance
3 あなたのための秘密 Secret 4 最後の一線 Moral
5 これでおあいこ Forgiveness 6 言葉はいらない Conversation
7 不死鳥の羽ばたき Independence 8 聖夜の指先 Gift
9 哀しい生きもの Life 10 ひとりの時間 Lonliness
11 罪の効用 Modesty 12 誰も知らない私 Reborn

登場する男性はだいたい薄っぺらくて自分勝手で頼りない。自律した女性が求める一時の癒しの道具みたいに扱われる。男性というのはもはや制御可能なものになっているが、自らの欲望は制御ができないものとして残される。それをどう飼いならすかの、スリリングな物語集。

アブノーマルな領域にも踏み込んでいて、表現的に官能小説と純文学の境界線上にある大人の短編集。

落語とソーシャルの合縁奇縁、3時間半 という企画を、オーバルリンク主催(私が代表理事をしている先端研究集団NPO)で2月26日(土)に綱島ラジウム温泉でやります! 落語家とITの未来派セッションです。 よろしくお願いします。


クリックで拡大

懐のカイロが熱ぅてたまらん!
旦那が「そぉー仰る」ココロとは?

落語とソーシャルの合縁奇縁、3時間半


出演
シスアドの資格を持つ落語家 三遊亭 ぬう生
フリーダムなIT系編集者・ライター 毛利 勝久
ovallinkの精鋭達

日時:2月26日(土)
場所:綱島ラジウム温泉東京園
http://www.tsunashima.com/shops/tokyoen/
時間:13:00~16:30
*ovallinkメンバーは12:30より総会
イベント:13:00~16:30
終了後、残った人で風呂付き(銭湯なので男女「別浴」です)宴会
参加費:3,000円 (ovallinkメンバーは2,500円)
参加方法:下記お申し込みフォームより登録してください。どなたでも参加できます。

http://www.ovallink.jp/event/oval_tei.html

演目
落語 三遊亭 ぬう生 (二席)
語り 毛利 勝久 (落語とソーシャル・ネットワーク 「そぉー仰る」)
大喜利 (三遊亭ぬう生、毛利 勝久、ovallinkの精鋭達)

・伏 贋作・里見八犬伝
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江戸を舞台に「伏(ふせ)」を狩る猟師の妹 浜路と兄の浪人 道節、そして贋作 里見八犬伝の作者 滝沢冥土の活躍を描く。桜庭一樹の最新作。東京大阪新幹線の往復で470ページを一気読みした。

伏とは、犬の血を引く魔物。見かけは人間そっくりで、普段は人間社会に紛れて暮らしている。身体の何処かに秘密の痣があるのが特徴。半分獣の伏たちは、野生の本能が目覚めると、凶暴に人を襲い、疾風のように去っていく。次々に起きる襲撃事件に、幕府は懸賞金をかけて伏退治に乗り出した。

里見八犬伝の著者の滝沢馬琴の息子、冥土が書く、もうひとつの八犬伝が物語に絡む。里見家の伏姫と不思議な白犬八房から生まれた因縁の一族が伏で、里見一族に伝わる正義の秘剣村雨が戦いの鍵を握る冒険活劇。本線はドタバタだが、サイドストーリーとして語られる伏たちの呪われた出自と暗い情念が魅力的。

桜庭一樹の赤朽葉家、私の男などの代表作と比べると、軽い語り口でスピーディに話が展開する。この作品はかなりの長編なのだが、ここから始まる壮大な物語のプロローグに過ぎないらしい。何十巻も続く漫画の原作っぽいなあと思ったら、現実にアニメ映画になることも決まっているらしい。アニメが成功すると、一般にはこれが桜庭一樹の代表作ということになってしまう、のかなあ。ファンとしてはちょっと複雑な気分である。解決していない伏線が多くあって、気になるので、続編が出たら読むに違いないのだが。

・赤朽葉家の伝説
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-611.html

・DELFONICS ロールペンケース【グリーン】 EN45 GR
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スタイリッシュな文具ブランドのデルフォニックスの帆布製ロールペンケース。

巻物のように広げると、中身の筆記具がずらっと並んで全部見える。

展開時の全長は25.7センチと面積をとる。

内側も造りこまれていて、見せる文具である。

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このロールペンケースに安っぽい100円ボールペンばかりでは、どうにもかっこがつかないので、デザイン性の高い、カラフルな筆記具を持ち歩きたくなる。

8本のペンを収納することができる。バンドで一本一本を固定する。バンドが細めなので太いペンは収まりきらないことと、あまりたくさん収納すると巻いたときに太ってしまうのは注意。

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帆布の手触り、質感がすばらしい。

私はグリーンを選んだが、オレンジも素敵。

・立てればペンスタンドにもなるペンケース KOKUYO F-WBF115YR ペンケース WiLL STATIONERY ACTIC
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/12/kokuyo-fwbf115yr-will-statione.html

・くしゃくしゃの紙みたいなタイベック素材でできた モンキービジネス ペンシルケースhttp://www.ringolab.com/note/daiya/2010/11/post-1330.html

月と蟹

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・月と蟹
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鎌倉に近い海辺の町。孤独な少年 慎一と春也は放課後、秘密の潮だまりでヤドカリを生きたまま焼く儀式にはまっている。ヤドカミさまに願えばなんでも願い事がかなう。いつしか少年たちは、自ら創造した神に頼るようになっていた。

「お前、あんまし腹ん中で、妙なもん育てんなよ」と祖父は言うが、祖父自身が過去の不幸な事件の因縁にとらわれて生きていることに、慎一は気がついている。この作品の登場人物達は何かしら重いものを心に抱えている。

匿名で出される慎一への嫌がらせの手紙、友人が受けている家庭内暴力、独身の母に見え隠れする男の影、同級生の女子 鳴海との複雑な関係。浄化されない潮だまりのように、暗い情念が澱んで濃度を増し、不穏な何かを生み出そうとしていた。

少年少女の繊細な心理描写と、平穏な日常の中に育つ不穏を描くのが実にうまい作品。陰気な少年たちの遊びの儀式が、状況の進行とともに緊張感を増していって、焼き殺されるヤドカリのように破裂する終盤まで、飽きさせずに読ませる。緊迫するが猟奇的なオチではなくて、少年の心の成長を描く救いのある方向で終わるのが、私は高評価。

第144回直木賞受賞作。

・光媒の花
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1255.html

・ストレンジ・トイズ
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「危険!ページをめくるなら、その代償を支払う覚悟をせよ!」

1960年代のアメリカ。9歳の少女ペットは三姉妹の末娘。姉のジェーンと一緒に空想の世界に遊んだり、宝物集めをするのが好き。長女のディーンは非行に走って警察の厄介になっている。両親はディーンの起こしたトラブルから逃げるように、二人の娘を連れて長期のドライブ旅行に出発する。ペットは途中、立ち寄ったディズニーランドでひとりぼっちになったとき、あるはずのないアトラクション「サミーのスノーランド」に迷い込む。

サミーのスノーランドでは、「これはたいていの人が見るもの。」と「でも、こんなふうにも見える。これも存在している」という世界を体験する。サミーはペットの一家に待ちうける恐ろしい前途とそれを防ぐための取引をもちかける。これが異界との行き来の最初の経験だった。

第一章ではペットの9歳の頃、第二章で16歳の頃、第3章では大人になってからが描かれる。ペットは幼いころから、現実と妄想の境界線が曖昧で、不吉なイメージにとらわれる。何が本当に起きたことなのか、悪夢はいつ覚めるのか、繰り返し現れる謎の男サミーの正体は?。中盤からはブードゥー魔術の世界とも接近して物語はさらに不可解度を高めていく。

子供時代に自分が空想でつくりあげたものにとらわれてしまうようなことって、誰しも経験があると思うが、それがずっと続いているのがペットの物語。60年代アメリカの普通の生活を突き破るように、魔術と暴力の幻が立ち現れる。不気味な悪夢を味わえる小説である。

フィリップ・K・ディック賞受賞作。

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・ゼブラ テクト2ウェイ0.7 赤MAB41-R
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製図なんてしないのだが、製図用シャープペンって好きだ。

極細の先端パイプと重量感。プロの道具という気がする。

製図用シャープは文具店にたくさん並んでいるが、実は本当に製図に使っている人って1割くらいしかいないのではないか、と前から思っているんだけれども、どうなんだろうか。私はまた買ってしまったが...。

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ゼブラ テクト2ウェイは、

・ほどよい重量感
・メカニカルなデザイン
・金属メタルカラー

というデザインで、

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振ると芯が出るフリシャ機能を搭載したシャープペンシル。中軸部分を回すとフリシャ機能をロックして、持ち運び時に振動で芯が出るのを防ぐことができる。

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0.3ミリ、0.5ミリ、0.7ミリのラインナップがある。私は0.5と0.7。シャープペンシル用替芯「STEIN(シュタイン)」を使っているが、強く書いてもまったく折れないのがすばらしい。

・偽書「東日流外三郡誌」事件
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読み応えあり。

東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)は、青森県五所川原市の和田喜八郎氏が自宅の屋根裏からでてきたといって1950年ごろから発表をはじめた古文書群。そこには古代の津軽に大和政権に匹敵するような王朝が栄えていたという歴史が記録されていた。考古学的に矛盾も多く、当初から偽書の疑いもあったが、村が『市浦村史 資料編』として70年代に公式刊行物として出版してしまったことで、お墨付きをえた形となった。さらに中央の学会では無視されていたが、歴史学の古田武彦教授ら有力な擁護派が幾人も登場して本物として紹介して知名度は全国区となった。地元住民も出自の怪しい和田氏に対して、半信半疑でありながら、村興しのネタとして積極的に活用していった。

地元紙「東奥日報」の記者だった著者は、この資料をめぐる小さな訴訟事件の記事を書いたことをきっかけにして、これが偽書ではないかと疑問を持つ。取材を重ねるとすぐに疑念は確信に変わった。東日流外三郡誌は、偽書としてはひどく杜撰なつくりだったのだ。明らかに和田氏の書いた筆跡(しかも筆ペン)や、現代人しか持ちえない知識や福沢諭吉の引用(天は人の上に人を作らず)など、矛盾に満ちていた。実物は「いずれ公開する」といって、写本しか公開されていないという不可解な事実もあった。

和田氏周辺を調べると、半世紀に及ぶ資料捏造の実態が明らかになった。和田氏の捏造に乗っかったり、乗せらてたりして、自治体や住民たちは、神社を建立し、ご神体を祀り、新たな祭りまで創設した。中央権力に対して、まつろわぬ祖先がいたという東日流外三郡誌の物語は、かつて蝦夷地と呼ばれた東北の人々のロマンをかきたてたのだ。

沸き立つブームに対して地元紙の記者が異を唱える。これは著者の十数年間にわたる和田氏や擁護派との戦いの記録である。偽書の証拠は次々に出てくるが、擁護派もしたたかに反論してくるから、なかなか決着がつかない。擁護派のメディアでは、この記者が名指しで悪者扱いされたりもした。

90年代の三内丸山遺跡というホンモノの発見などがあって、地域振興を怪しい古文書にたよる必要もなくなったということもあるらしいが、著者の頑張りが効いて、現在では「東日流外三郡誌」は完全に偽書として確定している。

真偽を白黒はっきりさせたのは良いのだが、和田氏は死去し、擁護派の教授は引退し、関係者らは口をつぐんでいる。結局、この偽書騒動に対して責任をとった人はいないという部分が、なんだかなあと少しフラストレーションが残る結末なのではあった。

一人で千巻もの古文書を偽造した和田氏の実態がイタくて面白い。いくら知識がないからと言って、ちょっと考えれば偽物だとわかるだろ、それ、というレベルの捏造物なのに、和田氏と擁護はがつくる妙な空気に巻き込まれていく人々。事実は小説よりも奇なりである。ドキュメンタリとして非常に面白い。

開発者の祭典 Developers Summit 2011(デブサミ2011)において、2011年2月17日(木)に下記のイベントに登壇、スピーカー兼モデレータをつとめることになりました。電子書籍というキーワードで、エンジニアと編集者やライターによるコラボレーションの可能性を探ります。

日時:2011年2月17日(木) 17:40-19:10
場所:目黒雅叙園

イベントの概要

新メディア時代の開発者の可能性 ~電子書籍、アプリ開発におけるエンジニア・コラボレーション というテーマで、

下川和男 氏 『電子書籍の技術動向』
上田渉 氏 『電子書籍の新形態「朗読少女」の可能性』
橋本大也 & 木下誠 『「BOOK BUSINESS 2.0」をめぐって』
上田渉 氏 『電子書籍の新形態「朗読少女」の可能性』

の4名が各10~15分程度の講演をした後で、全員参加のパネルディスカッションを行います。

・イベント概要と申込み
http://www.seshop.com/se/timetable/2

【17-B-7】新メディア時代の開発者の可能性 ~電子書籍、アプリ開発におけるエンジニア・コラボレーション

電子書籍の技術動向 イースト株式会社 / JEPA

■下川和男 氏 『電子書籍の技術動向』
イースト株式会社 代表取締役社長。日本電子出版協会 副会長。長年、出版のデジタル化を推進し、現在、電子書籍データフォーマットEPUBの日本語拡張仕様策定を担当している。

■橋本大也 氏 『』
データセクション株式会社取締役会長。ブロガー。主な著書は『情報力』『情報考学―WEB時代の羅針盤 213冊』『新・データベースメディア戦略』『アクセスを増やすホームページ革命術』『ブックビジネス2.0』等多数。NHK『クローズアップ現代』出演ほか、テレビ・ラジオなどメディア出演多数。
株式会社早稲田情報技術研究所 社外取締役。株式会社日本技芸 社外取締役。デジタルハリウッド大学 教授。多摩大学大学院経営情報学研究科 客員教授
Blog: http://www.ringolab.com/note/daiya/
Twitter: daiya

■木下誠 氏 『「BOOK BUSINESS 2.0」をめぐって』

Twitter: wataruueda HMDT株式会社 代表取締役

■上田渉 氏 『電子書籍の新形態「朗読少女」の可能性』

上田 渉(うえだ わたる)株式会社オトバンク代表取締役社長。
1980年神奈川生まれ。緑内障で失明した祖父の影響で、目の不自由な人のためになる仕事に就きたいと強く思うようになり、自身が受験時代に活用した音声学習をヒントにオーディオブックを想起、オトバンクを創業する。 現在では、日本最大のオーディオブック配信サイト「FeBe」の運営を行っている。 著書は『脳が良くなる耳勉強法』『勉強革命!』『ノマド出張仕事術』。電子書籍の新形態の一つとして弊社が開発し、現在40万人の方にダウンロードしていただいているiPhoneアプリ「朗読少女」。その開発までの経緯と可能性に関してお話しさせて頂きます。

日本最大のオーディオブック配信サイト FeBe(フィービー) http://www.febe.jp/
株式会社オトバンク http://www.otobank.co.jp/

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有楽町にあるドコモスマートフォンラウンジで、毎月一回トークイベントをはじめて2月で5回目です。今月もたくさんの本とネットの話題をお話したいと思います。

このラウンジは多数の未来のコミュニケーションツールに触りまくり、試しまくり、で一見の価値ありの場所です。スマートフォンの未来を体験しがてら、私のセッションものぞいてください。よろしくお願いします。

■日時

 2011年 2月24日(木曜日)19:00~20:00

■場所と参加申し込み
 有楽町にあるドコモスマートフォンラウンジ内イベント/セミナースペース
 http://www.dcm-spl.com/cool_events/2011/02/-passion-for-the-future-offline.html
Webから参加の予約することができます。実は当日ふらっと参加も可能ですが、予約していただけると大変うれしいです。モチベーションになります。

■イベント概要

『ザ・本とインターネット』 ソーシャル読書セミナー
(Passion For The Future オフライン)

本とインターネットとどうつきあうか。それで人生が変わります。

IT起業家で書評ブロガーの橋本大也氏が、"今月の面白い本ベスト10"や、電子書籍やWebの最新事情を語ります。年間500冊超の読書生活で発掘してきた名著・奇書の書評のライブ・トーク。ひとりで本屋に行くより、気になる本がきっと見つかるセッションです。さらに未来志向で、パソコンやケータイ、タッチ端末など先端テクノロジーがもたらす読書スタイルや出版文化の変容も考えてみようと思います。

構成:

1 自己紹介とごあいさつ
2 今月読んだおすすめ本
3 今月のテーマ本
4 デジタル読書生活向上委員会

講師紹介

橋本 大也 データセクション株式会社 取締役会長

2000年、大学在学中にインターネットの可能性に目覚め、株式会社データセクションを設立。現在、ITコンサルタント・起業家として数社のITベンチャー役員を兼任すると共に、大学等で教鞭をふるっている。主な著書は「情報力」「情報考学―WEB時代の羅針盤213冊」「新・データベースメディア戦略」「アクセスを増やすホームページ革命術」「ブックビジネス2.0」ほか多数。

株式会社早稲田情報技術研究所 社外取締役
株式会社日本技芸 社外取締役
株式会社メタキャスト取締役
デジタルハリウッド大学 教授
多摩大学大学院経営情報学研究科 客員教授

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・遭難フリーター
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23歳で借金600万円を抱えた著者が、派遣社員として埼玉のキヤノンの工場で働く日々を綴ったノンフィクション。帯には「ボロ雑巾みたいな派遣の日常」とある。派遣社員の現状を伝える生々しい資料として、よく伝わってくる作品である。

昼休み、工場の食堂で「俺」は、持参したご飯とさんまのかば焼きの缶詰に、テーブルにある無料のたくあんでひとり昼食をとる。米と缶詰は実家から送ってもらったものだから実質0円なのだ。隣に正社員の制服の男女が座ってきて、普通の食堂の定食を食べながら談笑する。「俺」は猛烈な劣等感を感じて退散する。

「一緒にご飯を食べる友達が欲しい。豪勢な昼飯を食いたい。誰にでも誇れる仕事がしたい。簡素な欲望のようで、これは俺にとって遠い憧憬だ。 急いでご飯を食べ終えた。テーブルには缶詰の汁が飛び散っていた。それを手で拭い、食堂を出て、トイレで手を洗った。鏡に映る自分の顔はやっぱり陰気で好きじゃない。」

毎日の果てしない単純労働を身を粉にしてこなしても、低い給与で手元にお金は残らない。休日も日雇いアルバイトを探して肉体労働に励む。やる気がなくてだらしなく、まともなコミュニケーションがとれない同僚たち。ワケありの人も多い。会話にでるのは下ネタかギャンブルの話ばかり。たまにまともな人が入ってきても、身分が安定しない派遣だから、結局、つかのまの友情に終わってしまう。彼女をつくる余裕などどこにもない。

遭難フリーターの現実をありのままに描いている。死なないために生きているような出口の見えない心情の吐露。お金がまったくなくて駅を出られず「明日仕事が終わったら払いに来ます」と告げて支払い猶予書を発行してもらうみじめなシーン。プライベートのない寮生活で、社員にオナニーの現場をみつかって気まずい思いをするシーンまで赤裸々に綴っている。

「俺」は東北芸術工科大学映像コース卒業で、後日、派遣社員時代の生活を映像に撮りためて映画『遭難フリーター』を制作した。山形国際ドキュメンタリー映画祭2007で招待上映された。豊かな国の意外な側面を観たとしてアジアでも話題になったようだ。現在は介護の仕事をしながら表現活動を続けているそうだ。

私が希望に感じたのは、まえがき、あとがきで明かされたこの著者の現状である。厳しい状況はあるが、個人の才覚と努力次第で這いあがれる可能性があるということだ。この著者の場合は、本を書く文章力と映像表現の技術を持っていたからできたこと。学生時代に表現能力をよく磨いておくことが、就職難の時代のサバイバル能力につながるのではないかと思った。物を書いたり、作品をつくること自体が、自信やプライドにもつながるわけだし。

・映画『遭難フリーター』のサイト
http://www.sounan.info/

・なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想
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この本の批判する「ビジネス書」というのは、いわゆる自己啓発系や能力開発系ではない。『エクセレント・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー』のような、本屋の経営学コーナーの真ん中に、経営の科学書としてディスプレイされている本のことである。

「経営者も記者も大学教授もコンサルタントも含めて、私たちが企業パフォーマンスを決定する要因だと思っている多くの事柄は、業績を知ってそこに理由を帰した特徴に過ぎないのである。」

原題の「The Halo Effect」(ハロー効果、後光効果)とは、物事の特徴的な側面を見ると、その他の面に対する評価も影響を受ける認知バイアスのこと。多くのビジネス書は、好業績の企業を分析して、成功要因を抽出するが、著者はその方法論に異を唱える。

企業の財務業績が良いと、戦略も企業文化も人事制度も商品品質もCEOの能力も人柄も、すべてが光輝いて見えてしまうのだという。経営者やアナリストがマネジメントの質やサービスの質、投資価値など8項目を評価する「世界で最も称賛されている企業」(フォーチュン誌)の調査がある。著者はこのデータを分析して、8つの項目は強い相関関係にある上に、主に財務実績が大きな影響を与えていることを明らかにした。プロの目にも業績良ければすべてよしに見えているのだ。

好業績企業を何千社も調査して成功要因を抽出した大ベストセラー『エクセレント・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー』の追跡調査も面白い。これらの本で取り上げられた世界の超優良企業群の「その後」は、株価収益率(市場の期待)においても、資本利益率(企業の実力)においても、市場平均以下であるという驚異的な事実が指摘される。エクセレント、ビジョナリー銘柄に投資するよりも、ランダムに選んだ銘柄群に投資した方が儲かっていたのである。

ビジネス書の多くがわかりやすいストーリーを売りにしている。「得意なことに専念する」「歩き回るマネジメント」「顧客志向」「士気の高い企業文化」「ゆるぎない価値観」などベストセラーには必ず印象的なストーリーや○○の法則が伴う。だが「よいストーリーの条件は、事実に忠実であることではない。それよりも、ものごとが納得いくように説明されていることが重要なのである。」。科学の仮面を被ったストーリーがはびこっているビジネス書の状況に警鐘を鳴らす。

ハロー効果のほか、相関関係と因果関係の混同、理由は一つと思いこむこと、成功例だけを取り上げること、間違った手法の"徹底的な調査"、成功が永続するという幻想、競合企業を考慮に入れない業績向上の評価、戦略を絞り込んだから成功したとする解釈の間違い、組織に自然法則を当てはめて予測する間違い、など、経営の科学系ビジネス書の陥る間違いを指摘している。

大きな企業の活動は複雑で、これをやれば成功するという結論に落とし込むのは無理なのだが、本の読者はそれを求めているので、一部の学者はサービス精神と商売根性で、科学的には間違っているが、わかりやすくて売れる本を書いてしまう。事情を知った上でビジネス書を楽しみましょう、という話。

・ビジネス書大バカ事典
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/01/post-1375.html

下記イベントに出演いたします。好評だった昨年同様に、本音ぐだぐだトークで、会場からの乱入も歓迎で、長時間のセッションを垂れ流す予定であります。

「続・2010年代の出版を考える ~電子書籍ブームの先へ」
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日時: 2011年3月1日 ・ 19:30 - 22:30

場所 阿佐ヶ谷ロフトA

杉並区阿佐谷南1-36-16ーB1
JR中央線阿佐谷駅パールセンター街徒歩2分

昨年2月に豪雪のなかで行われた長時間トークイベントの1年ぶりの続編。

「電子書籍元年」といわれた2010年。メディアは猫も杓子もiPad,キンドル、そしてガラパゴスといった話題で大騒ぎを繰り広げた。

でもオモテの流行語「電子書籍」に対し、2010年のウラの流行語は実はユーザーサイドの自発的なメディア活動としての「自炊」「ダダ漏れ」だった。
...
電子書籍を簡単に自作したり、簡単に映像中継できる機器がある一方で、出版社からは魅力的なコンテンツが供給されない「元年」とは何だったのか。

現在の「道具はあるのにネタがない」のはなぜなのか?
それに対するユーザー主導によるDIYの流れは今後どうなるのか?
こうしたメディアの劇的変化は、どんな可能性を提示しているのか?
魅力的なコンテンツを生み出すために出版社や編集者はこれからなにをすることができるのか、しなければならないのか?

等々といったトピックをめぐり、昨年と同じメンバーにゲストを加えて、今年も本音&ぐだぐだトークで迫ります!

【出演】
橋本大也(ブロガー・「情報考学」)
仲俣暁生(フリー編集者・「マガジン航」編集人)
高島利行(語研・出版営業/版元ドットコム)
沢辺均(ポット出版/版元ドットコム)
+ゲスト

OPEN18:30/START19:30
前売り、当日共に¥1,500(飲食代別)

前売りチケットはローソンチケット【L:36739】、ウェブ予約にて2月1日より発売開始!!
http://www.loft-prj.co.jp/lofta/reservation/reservation.php?show_number=607
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このイベントのFacebookページあります。
http://www.facebook.com/#!/event.php?eid=138645069533502

しろばんば

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・しろばんば
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大正時代のはじめの静岡県伊豆湯ヶ島、主人公の洪作(5歳)は父母と離れて、おぬい婆さんと一緒に土蔵で暮らしている。曾祖父の妾だったおぬい婆さんは、本家の一族から距離を置かれている。人質にとられたような立場でありながら、自分に盲目的な愛情を注いでくれるおぬいに、洪作はすっかりなついて穏やかな日々を暮らす。複雑な人間関係に翻弄されながらも、いくつもの事件を乗り越えて、幼児から少年へと成長していく洪作の姿を描く文庫で580ページの長編。

舞台となる村は日本の原風景そのもの。

「十四日は"どんどん焼き"の日であった。どんどん焼きは昔から子供たちの受け持つ正月の仕事になっていたので、この朝は洪作と幸夫が下級生たちを指揮した。子供たちは手分けして旧道に沿っている家々を廻り、そこのお飾りを集めた。本当は七日にお飾りを集める昔からのしきたりであったが、この頃はそれを焼くどんどん焼きの当日に集めていた。橙を抜き取ってお飾りだけを寄越す家もあれば、橙は勿論、串柿までつけて渡してくれる家もあった。」

私の小学校時代に『しろばんば』(井上靖)は教科書に登場した。どんどん焼き、あき子の習字、「少年老い易く学成り難し」、小鳥の罠とひよどりの屍体。なぜか私はこの文章が好きで暗唱できるまで何度も読んだ。日本語のリズムのお手本のような文体が好きだった。学校時代、教科書で暗唱できたのは後にも先にもこの作品だけだった。教材になったのは、この長い物語の後半のほんの一節に過ぎない。いつかこの作品の全体を読んでみたいと思い続けて30年、ついに読んだ。

期待を上回る、味わい深い傑作で感動した。複雑な大人の事情を飲み込めずにいた少年が、少しずつ分別を得て、自分や世の中を理解していく過程を丁寧に描いている。中年になってから読んだのは正解だった。少年時代のへの憧憬、郷愁が大事な主題となっている。中学生や高校生で読んでもよくわからなかったはず。

洪作を取り巻くムラ社会では、濃い人間関係が育まれているから、現代のように軽々しくコミュニケーションを省略することができない。互いの視線によって守られていると同時に、がんじがらめに縛られてもいる。そこから抜け出していくところで本作は終わるのだが、その後の成長を描いた作品として「夏草冬濤」「北の海」がある、と知った。読み進めてみよう。

昨日紹介した漢字を拡大表示する、でか文字は便利ですが、形はわかっても、書き順はわかりません。ホワイトボードでせっかく難しい漢字を書けようになったのに、筆順がおかしいなどとつっこまれては残念です。

常用漢字筆順辞典は、漢字の筆順を教えてくれるiPhoneアプリです。実は常用漢字以外も収録していて5648字に対応しています。

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漢字を指でなぞると、次はココというように筆順をインタラクティブに教えてくれてわかりやすいです。

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漢字に関するデータもあります。音読み訓読み、例、部首名など。習得学年情報もありますから、漢字が書けない友人をみつけたら、それって「小学校(中学校)で習う漢字だよ~」、と正しく愛の鞭を入れてやることができます。

直接入力、部首や字画数などから漢字を選ぶことができますが、読みも部首名もわからない漢字の場合には、手書き入力をすることもできます。

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結構この漢字の認識率が高い。パナソニック株式会社の手書き文字認識エンジン"楽ひら"というエンジンを採用しているそうです。

常用漢字筆順辞典 | 5648漢字 音訓読みデータ追加版 - NOWPRODUCTION, CO.,LTD

あの漢字どうやって書いたっけと、ホワイトボードの前で冷や汗を書きながら、えへえへと苦笑いをした体験ってありませんか。薔薇とか魑魅魍魎とか跳梁跋扈とかなかなか素では書けませんよね。

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でか文字があると漢字のカンニングに便利です。漢字が書けずに恥をかかないですむという守りだけでなく、敢えて超難しい漢字をさらっと書く攻めの姿勢を見せることができます。

でか文字
でか文字 - Ea, Inc.

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iPhone版は便利なのですが、iPad版の「でか文字HD」は美しい。筆文字で難しい漢字を書道の作品のようにみせてくれます。

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魑魅魍魎ってこうですよ。

でか文字HD
でか文字 HD - Ea, Inc.

・白い薔薇の淵まで
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中山可穂のレズビアン恋愛小説。すごく切ない傑作。

破滅指向の純文学作家 山野辺塁と、普通のOLのわたしが本屋で偶然に出会って恋に落ちる。社会のしがらみを忘れて、性愛の深みに沈んでいく二人だったが、どんなに身体を結びあっても、わたしは塁が心に闇の部分を隠しもっていることにきがつく。情緒不安定な塁と激しい喧嘩別れと復縁を繰り返しながら、やがてわたしは塁の哀しい過去を知ることになる。

女性同士の激しい嫉妬や乱暴。男女の恋愛とは違ったパターンで、行方が読めずにはらはらさせられる。常に不安定で欠けているから、より一層互いを求めあう。部屋に閉じこもって互いの白い肌を貪りあう彼女たちの姿を読んでいて、尾崎豊の「I Love You」を連想しました。「きしむベッドの上で優しさを持ちよりきつく身体抱きしめ合えば~」、あの曲みたいなイメージの小説です。

ベテランの円熟に与えられる山本周五郎賞受賞作。巻末に収録されている受賞記念エッセイが、作品と同様に素晴らしいので一読の価値ありだ。ウィットにとんだ文体で、受賞の喜び、創作の背景や著者自身の私生活が赤裸々に書かれている。作品の魅力を倍増させるオマケである。文庫版の価値おおいにあり。

花伽藍
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1254.html

砂漠の惑星

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・砂漠の惑星
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スタニスワフ レムの代表作のひとつ。

ありがちな人間同士の殺し合いや駆け引きというのがなくて、社会批判的メッセージも込められていなくて、純粋にサイエンスフィクションの醍醐味を楽しめるのがいい。1960年代に書かれたのに、このサイエンス部分はまだまだ通用するのではと思える内容。

6年前に消息を絶った宇宙船コンドル号の調査のために、同型の宇宙船 無敵号に乗った主人公たちは地球から遠く離れた砂漠の惑星に降り立つ。そこで彼らはコンドル号と乗組員たちの無残な姿を発見し、その原因究明に乗り出すが、やがて未知の生命体の侵略を受ける。いわゆるファーストコンタクトモノ。
人間と人間じゃないものが出会うとどうなるか。

「相互理解の成立は類似というものの存在を前提とする。しかし、その類似が存在しなかったらどうなるか?ふつう、地球の文明と、地球以外の惑星の文明の差は、量的なものにすぎない(つまり、"かれら"が科学・技術その他においてわれわれよりも進んでいるか、でなければ、その反対にわれわれが、"かれら"よりも進んでいるかのどちらかである)と考えられている。しかし、"かれら"の文明がわれわれの文明とは全然違った道を進んでいるとしたらどうか。」とスタニスワフ レムはコメントしている。

砂漠の惑星に登場する生命体の正体や侵略方法が実にユニーク。地球で人類が滅びた後に、こんなことになったりするかもな、と思ったりした。ハードSFであるが、謎かけに終わらず、だいたいこんなことかなという、ヒントまでは与えられるので、欲求不満に陥らずに読み終われる。

SFファンは古典としておさえておくべき一冊。

・虚数
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/02/post-353.html

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