利他学

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・利他学
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これは面白かったなあ。利己的に活用もできそうな利他学の本。

人はなぜ赤の他人を助けるのかの科学。

自分が損をして相手を助ける。赤の他人ではなく血を分けた近親者を助ける利他行動は、わかりやすい。自分が犠牲になっても、相手と共有した遺伝子が次の世代へ残っていくから、そうするという理由で、説明がつく。それに同じ場所に暮らすものどうしなら、今日は助けても、明日は助けてもらうことになるかもしれない。お互いさまの直接互恵性は利他行動の基本だ。

しかし、人間は見返りを期待できない赤の他人も助ける。電車では老人に席を譲るし、道で困っている人を見捨てない。見返りが期待できない大きな集団の中で、間接互恵性を発揮する大きな理由として「評判」があるという。「あの人は親切だ」いう評判があれば、集団内で利他的にふるまってもらえる可能性が高くなる。

利他性を引き出す方法が社会心理学の実験からわかってきている。この本で一番面白かった部分だ。たとえば人間はその場に「目」があると利他的になる。本物の人間の目でなくても、「ホルスの目」のようなシンボルで十分で、目があるだけで「ビッグブラザー」が意識され、他者への分配が増えたり、公共心が高まったりする。目の代わりに鏡でも自意識を高める効果があるそうそうだが、とにかく視覚的に「見られている」という意識が利他心を引き出すかぎなのだ。

そしてもうひとつの要素が異性の存在。ただし男性の場合のみに限られるそうだが。ある実験では、魅力的な女性に見られていた男性参加者は報酬額の6割を寄付したが、他の条件の参加者はせいぜい3割4割の寄付にとどまった。なんとも男はわかりやすくできている。

そして人は、見た目で他者の利他性をかなり正確に認識する能力を持っている。顔にしわがよる頻度、うなずきの頻度、眼輪筋が動く程度、微笑みの左右対称性が高いほど、一度の微笑みあたりの時間が短いほど、その人物の利他性は高いと判断される。およそこの基準で高利他主義者と低利他主義者は判別可能なのだ。微笑んだ時の目じりのしわはポイント。

「他者の目がある」「鏡がある」「異性の視線」。そういう環境をつくれば人間は利他的になる。それってどういう空間だろうと考えてみたが、実名実写真のフェイスブックの環境がまさに満たしているのではないだろうか。現実の革命をも起こすコラボレーションがしばしば発生している秘密が、実は顔写真なのではないかと思った。

それから利他主義者はそれが報われる環境に生活しているという研究結果も示されている。万人の万人に対する闘争のような環境では利他主義者は成り立たない。親切な人が報われる社会には親切な人がすみつくというわけ。ひとりひとりの心がけ次第で、世の中は良くも悪くもなる、ということだろうか。

社会科学の本だが、対人スキルのノウハウも学べる非常に濃い本である。コミュニケーションの本質を考えたい人におすすめ。

・人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/-7.html

・災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/03/post-1401.html

・気前の良い人類―「良い人」だけが生きのびることをめぐる科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/09/post-136.html

・強い者は生き残れない 環境から考える新しい進化論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/04/post-1202.html

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このページは、daiyaが2011年10月16日 23:59に書いたブログ記事です。

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