2011年11月アーカイブ

出来がかなりいい。

写真を手描き風スケッチに変換する画像加工ソフト。Facebookで映えるプロフィール写真をつくるのにもつかえそう。大きな画面で変換するのが楽しいので、iPhoneよりiPadに最適なアプリである。

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手描きパターンも複数から選ぶことができて、コントラストとブライトネスは後から調整することができる。背景が整理された構図で、コントラストがはっきりした写真が、手描き変換に向いているようだが、最初のパターンでいまいちでも、豊富にあるパターンをとりかえていくとしっくりくるものがみつかることもある。一枚の画像でずいぶん遊べて楽しい。

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アプリケーションから直接、制作した画像をメールしたり、ソーシャルメディアへ投稿したりする機能もある。そういえばそろそろ年賀状シーズンだ。今年はこれでつくるのもおもしろそう。

My Sketch - Miinu

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なるほど。よく考えた。単純だが現時点では新しい。

iOS5の新機能である"通知センター"(上からなぞるとスルっと降りてくる画面)にメモを表示させることができるアプリ。標準のメモやEvernoteその他のメモアプリなどいくらでもメモするアプリはあるのだけれど、複数あるがゆえに、どこにメモしたかわからなくなってしまうのもありがちなこと。

メッセージ確認で定期的に見るのが癖になっている通知センターに表示されれば、忘れないのである。手に直接ペンで書いておくに近いコンセプト。

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このアプリでは4行のメモを、最大10件表示させることが出来る。もうちょっとなにか機能があってもいい気がするのだけれど現時点ではシンプルにただこれだけ。通知センターを使ったアプリは今後増えていくのだろうな。

BoardMemo-忘れたくないこと - Ken Tsutsumi

・雑誌タダ読み定期便
http://www.fujisan.co.jp/tadayomi/teiki
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これは楽しいなあ。とてもおすすめ。PC、iPhone/iPad向けの無料電子書籍配信サービス。これまで知らなかった雑誌の魅力を発見できる。

登録すると週に一冊の紙の雑誌のデジタル版雑誌が配信される。なにが配信されてくるかはわからない。雑誌はまるごと読むことができる。配信タイトルはメジャー誌から専門誌までバラエティにとんでいて、思わぬ出会いがある。

ボディビルダーのディープな世界をのぞいたり『Body Building』、松下幸之助に叱られたり『PHP Business Review』、新しいガンダムが凄かったり『Quanto』、サーフィン雑誌でショートボードの魅力を知ったり『Blue』、梨花結婚密着取材を読んだり『Numero』、『別冊家庭サスペンス』でイカれた主婦のマンガを読んだり。

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配信された雑誌はライブラリに保存され、いつでも読めるようになる。申し込んだ時点からの配送となり、過去に配送された雑誌は配送されない。つまり、早く申し込んだ方が得である。私はたまたま一冊目の配信が知っている雑誌だったためピンとこなくて登録してからしばらく忘れていたが、10誌くらい蓄積されると、とても楽しい本棚になっていることにきがついた。

市場としては低調とはいえコンテンツ面では雑誌の世界はまだまだ厚みがあるなと実感。

澪つくし

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・澪つくし
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うまいなあ。駄作、普通作がない。傑作のみで構成された心霊恐怖短編集(8本収録)。日本的怪異をテーマにしたホラーが好きな人にはとてもお買い得な文庫本だと思う。

人の死をきっかけに見えないものが見えるようになってしまう人たちの話が多い。

一人称の緻密な心理描写にひきこまれていくと、中盤で実は現実に起きていることは違うとわかったり、見えないものが見える自分が正気なのか狂気なのかわからなくなったり。読者の感情移入先の状況が二転三転して、何が本当なのかわからなくなる。そんな巧妙なストーリーテリングが味わえる。短編とは思えないしっかりした物語感。

こういう心霊ホラーって一般的には、霊が出るか出ないかくらいが一番怖くて、出ちゃってからの展開はあんまり怖くないのが普通である。だから出るか出ないかで止めておくホラーって多いのだ。だが、この作家の場合、モロに出しちゃってからも、別の次元での怖さを醸し出していく。

私は家を捨てた女が子供の死をきっかけに里帰りする『彼岸橋』が好きだなあ。古い田舎の村の因習にとらわれて渡れない橋というモチーフが魅力的。それからヨット遊びに興じる都会のヤンエグたちが、海辺で障害を持つ青年と出会う『ジェリーフィッシュ』は、単なるホラーに終わらず現代人の深層心理を描いていていい。そして冒頭の『かっぱタクシー』は、どんでんがえしのどんでんがえしみたいな感じで完璧にヤラレマシタ、降参です。1998年第37回オール讀物推理小説新人賞をとったデビュー作『雨女』も収録されている。表題作の『澪つくし』はその続編。受け継ぐシャーマンの血のもたらす因果が悲しい。
冬だけどホラー。おすすめ。

現状iPhoneのテレビ番組表アプリと言うと定番にマイクロソフトのテレBingがある。非常に完成度が高いので当面はテレBingだなあと思っていたら、ライバルが登場。

テレビ番組表としては地味だが、基本機能が軽快に動くので、文句なし。何よりCSに対応しているのがよい。

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最初に地域を設定する。そして地上波、BS、CSを選ぶ。CSはジャンル別に整理されているので見たいチャンネルを探しやすい。番組表の表示は縦でも横でも可能。広告が表示される。

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これといった目新しい機能がないことで、軽い動作を実現している。ソーシャルメディアにつぶやくとか、番組サイトを見るとかは、テレビ番組表をみたいだけの人には不要な機能なので、この割り切り方はいいと思う。

TV番組表 - @RTV


iPhone/iPadでテレビ番組表 マイクロソフトが開発 テレBing
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/iphoneipadbing.html

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パーティーでたくさん配って名刺が切れてしまう、オフだと思っていた日にオンの人と会ってしまう、なんていうことが年に何度もある。そういうときには本来は後日、感謝の手紙とともに郵送で送るのが正式なビジネスマナーであるが、実際のところ、なかなか日常そこまで手間をかけていられないものだ。

このアプリは、まずその場で相手の名刺を頂いておいて、メールで自分の名刺情報を相手に送る。メールでのつながりができれば、ビジネス的には単なる名刺交換の先へと関係をすすめやすくなる。名刺切れの失点を、メールのコンタクトで回復できるかもしれない。名刺を忘れないのが一番であるが、もしものときのために、入れておくと安心だ。

「お世話になります。
お渡しできなかった名刺を送付します。
よろしくお願いします。」

といったメッセージ(編集可能)とともに、名刺の裏表の画像が送信される。

本来は名刺の裏と表を登録するのだけれど、私の名刺は裏はロゴだけで情報量が少ないので、裏には自分の写真を登録してみた。これなら1日にたくさん名刺交換する相手でも、顔を思い出してもらいやすいだろう。

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名刺キャプチャ機能(余白切り抜き・歪み補正・コントラスト調整)が充実しており、自分の名刺を簡単に美しく画像として登録することができる。

名刺がない!! - Zyon,Inc.

・リトル・ピープルの時代
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とても面白い。虚構の時代から拡張現実の時代へ。ユニークな社会文化論。

シリーズ最新の仮面ライダー フォーゼは、初代仮面ライダー世代の私からみたらとにかくヘンだ。バッタみたいな仮面ではなくて、ロケットみたいな被り物を被っている。昔だったら正義の味方ではなくてショッカーの怪人の一人のような外見だ。ストーリーもシリーズ初の学園物で異色の展開。主人公はリーゼントに短ランのツッパリ風だが、転校してくるや「全校生徒と友達になってやる」と宣言して皆に呆れられる。空気の読めない主人公をアメフト部長一派がリンチしているとモンスターが現れる。主人公は友達が持っていたフォーゼドライバーを装着して、仮面ライダーに変身し、怪物を倒す。そして仮面ライダー部を結成して学園の平和を乱すゾディアーツと戦う日々が続いていくことになる。

・仮面ライダーフォーゼの教科書
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仮面ライダーはシリーズ作品として40年間、脈々と続いてきた。しかしこういう特撮モノは、マニアをのぞいたら子供時代の数年間ハマるだけの番組だから、昭和も平成も広く知っている人は少ない。実はこのシリーズは知らない間に、社会の変化を反映する形で、単純な勧善懲悪からより複雑な人間ドラマへと変化を続けていたのである。

著者は、日本を代表する二つのヒーロー ウルトラマンと仮面ライダーの40年間のほぼ全作品を、並の頭の読者ではついていけないほど丁寧に丁寧に分析していく。すると、あら不思議、そこに日本の時代精神の変遷が鮮やかに浮かび上がってくるのだ。それは著者によれば、ビッグブラザーの死であり、リトルピープルの台頭という変容である。

「もはやビッグ・ブラザーのもたらす縦の力、遥か上方から降りてくる巨大な力ではなく、私たちの生活世界に遍在する横の力、内部に蠢く無数のリトル・ピープルたちの集合が発揮する不可視の力こそが、現代においてはときに「悪」として作用する「壁」なのだ。大きなものから距離を取り、解体していくことではなく、遍在する小さなものにどう対するか、接するか、用いるか。無数に蠢くリトル。ピープルたちにいかにコミットするか───そのモデルを提示することこそが、現代における「正義/悪」を記述する作業に他ならない。」

小説『1984』に登場したリトルピープルのはたらきって、具体的にはなんだろうか?著者は貨幣と情報のネットワークが代表的なそれであると指摘している。

「ビッグブラザーという近代を支えた疑似人格回路は「政治の季節」の終わりとともに徐々に壊死を始め、人々はこの回路がもたらす「大きな物語」を虚構の中に求めるようになっていった。しかし、グローバル/ネットワーク化の浸透によってビッグブラザーが完全に死した現在───国民国家よりも貨幣と情報のネットワークが上位の存在として君臨するようになった現在、私たちが虚構に求める欲望もまた変化することになる。貨幣と情報のネットワークが世界をひとつにつなげた今、虚構は<ここではない、どこか>───すなわち外部に越境することではなく、<いま、ここ>───この現実の生活世界の内部を掘り下げて、そして多重化することでその姿を現す。」

現代社会は大きな物語という外部を失い、ひたすら自己目的化するコミュニケーション連鎖が広がっている。その世界から逃げるのではなく、むしろ内部へ深く深く潜ることで世界を変えていくことができると主張する。必要なのは革命ではなく、ハッキング。

もうひとつの世界という虚構の大きな物語をつくりだした時代は終わり、現実の世界に小さな物語を立ち上げる拡張現実の時代に我々は生きている、と。何が正しいか、何が価値があるかわからない時代になった、自分が信じられるものを信じるしかない。小さな物語万歳、要するにTwitterとかニコ動とかラブプラスとか、もっとやれ、どんどんやれ、無数のリトルピープルが拡張現実をハックすれば世界が変わるぞと、わかりやすくいえばそういうことみたいである。

仮面ライダーとウルトラマンの徹底分析の章は正直、長くてマニアックで、読むのが大変骨が折れたが、時代精神の変容を抽出した結論としての文化論は、納得と共感できる内容で、素晴らしい出来だと思った。途中で投げるともったいない。頑張って全部読むといい本だ。

ハーモニー

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・ハーモニー
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いきなり冒頭が感情をコンピュータが読み取り可能にするための

<?Emotion-in-Text Markup Language:version = 1.2:encoding = EMO-590378?>
<!DOCTYPE etml PUBLIC :-//WENC//DTD ETML 1.2 transitional//EN>
<etml:lang = ja>
<body>

というマークアップ言語で始まって、わかるひとにだけわかればいいという著者 伊藤計劃の創作意図が伝わってくる。フィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞したグローバルでも通用した本物のハードSF。

21世紀後半、医療技術が究極の進化を遂げて、人は病気で死ななくなった。体内に健康状態をモニターするナノロボットWatchMeを注入して、異常があればメディケア機構がはたらいて分子レベルで治してしまう。老朽化した器官は人工臓器ととりかえてしまう。

かつて人類が"大災禍"を経験してからは、健康が人類共通の最高にして最大の価値となり、政府は解体され、WHOが発展した医療合意共同体"生府"機関が世界を統治するようになった。生命主義はあらゆる争いをなくし、人類にはじめて完璧な調和(ハーモニー)をもたらしていた。

完璧なユートピア社会は、ある意味では不自由な社会だ。たとえばこの世界では万人が体内から完全に監視されていてプライバシーといえるものがなくなっている。人類の健康が最大にして唯一の価値であり、その他の価値観は認められない。

そのユートピア的な世界にWatchMeを体内に入れる前の少女3人が登場する。あまりに完璧な世界に対して違和感を覚えた少女たちは抵抗を試みる。完全なハーモニーにおける不協和音としての、自由意志を持った人間の抵抗の物語である。

テクノロジー要素が強調されたハードSFなので、一般読者と言うよりも、SF好きに向けた本である。読み応えたっぷり。

第30回日本SF大賞受賞
「ベストSF2009」第1位
第40回星雲賞日本長編部門受賞

・虐殺器官
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/09/post-1520.html

・コンニャク屋漂流記
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「これはコンニャク屋と呼ばれた漁師一族の漂流記である」

2001年『転がる香港に苔は生えない』で第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞した女性作家が先祖たちの軌跡をたどる。一族の古い墓に刻まれた見知らぬ名前を発見して、正体を調べていくうちに、五反田(東京)、御宿・岩和田(千葉)、加田(和歌山)を結ぶ400年のザ・ルーツの壮大な物語が浮かび上がってくる。

「私は町工場の娘であり、漁師の末裔である。祖父は外房の漁師の六男で、祖母はやはり外房の農家の侍女だった。祖父が東京に出て町工場を始めたため、いうなれば漁農工が三分の一ずつといったところだろう。在京漁師三世。あるいは漁師系東京人三世といった感じだろうか。体のどこかに漁師の血が流れていることは感じる。」

古いものが好きな著者は、生まれ育った五反田の町工場が消えていく様子を悲しく思う。祖母の他界を機に、祖父が晩年に書き遺していた手記をたよりにして、房総半島の漁師町 岩和田をたずねる。すべてが消えてしまう前に一族の歴史を書きのこすために。土地に残る伝承や記録から、徳川家康の時代の先祖の様子が垣間見える。そしてルーツはさらに奥へたどれることがわかる。房総には紀州と同じ地名がいくつもある。数百年前に紀州の多くの漁民が、房総へ移民した記録が残っているのだ。紀州の取材旅行でコンニャク屋400年の漂流記が完結する。

この著者、文章の端々に、物書きとしての自分が一族の物語を書き遺さなければいけないという強い使命感が感じられる。同じ物書き指向の私としてはすごく共感してしまうところがあった。私もいつかこういう一族にとっての記録係をしたいなあ、と思うのだ。

3年に渡って雑誌に連載された記録なので、10ページで一話進むスタイルだから長編でも読み進めやすいのもよかった。

読んでいて似ている本を2冊連想した。ルーツをたどる傑作ノンフィクションというと、中国残留孤児だった父の半生を追った『あの戦争から遠く離れて』(城戸久枝)が印象に残っているが、むしろ、フィクションだが新宿にある大衆中華食堂の三代に渡る家族の歴史を書いた『ツリーハウス』に、この本の内容は近い気がした。

・あの戦争から遠く離れて 私につながる歴史をたどる旅
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/12/post-683.html

・ツリーハウス
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/post-1498.html

演技と演出

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・演技と演出
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内閣官房参与にもなった劇作家で演出家の平田オリザ氏の本。

コミュニケーションと身体表現のノウハウが詰まっている。

ワークショップで演技者に架空のキャッチボールをさせると、最初は標準的なキャッチボールを演じようとする。ボールや動作のイメージの標準が人によって違うので、なかなかうまくいかない。しかし、"バウンドさせる"、"転がす"、"高く投げ上げる"という非標準的な動作が入ってくると、イメージがいっきに共有されていく。

「標準的な(と本人が思っている)動作を繰り返しても、相手とのイメージの共有ができるとは限らない。実は特殊に見える動作を行った方が、逆にイメージの共有がしやすくなることが多くある」

特殊で特徴的な動きか。オヤジジェスチャーなんてそういう動きかもしれない。

オヤジ★ジェスチャー
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-914.html

そういえばモノマネの名人がするのもそんな特殊動作だと思う。こういう動作を身につけるにはまず日常の観察力も重要だ。

そして著者の表現教育の重要キーワードの一つが「意識の分散」。

「例えば、長い台詞を言うと、どうも力が入ってしまう、他人から「力みすぎ」「芝居がかっている」と言われがちな人は、長い台詞のどこかに、ちょっと他の動作を入れてみる。それだけでもずいぶんと肩の力が抜けるものです。」

ある単一の行動を繰り返し訓練するより、負荷をかけつつ複雑な動きを複雑なまま習得した方が、より大きな成果が得られるという理論。台詞をいうのも動作のひとつに過ぎず、すべての台詞を他者や環境との関係でとらえていくのが平田オリザ流。

まず動きだけ練習で完璧にして、次に台詞を完璧にして、そして表情を完璧にして、という風に別々に練習するのではなく、いっぺんに全部を完璧に演じる練習をする。これって実はある程度の複雑な行動を習得する上で、普遍的なノウハウかもしれませんね。

なるほどねえということ続出。演技、演出に関心のある人は必読。

・デフォルト Web メーラー
http://attosoft.info/blog/default-webmailer/
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ブラウザーでメールアドレスをクリックすると、普段使わないOutlookが起動してしまう。本当はお気に入りのGmailを使いたいのに。そんなときにこのフリーソフトで、ブラウザーとメーラーの組み合わせを任意に設定すれば問題が解決できる。

Firefoxを使っているときはYahoo!メールで、SafariのときはBiglobeメールでなどわがままな設定もできてしまう。ブラウザーもメーラーも対応ソフトの幅広さがすばらしい。

Gmail や Hotmail, Yahoo!メールなど 20 種類以上の Web メールを「既定の電子メール プログラム」として設定可能。Webメールだけでなく、インストールされているメールクライアントを指定することもできる。

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iPhone、iPadの標準的な入力プログラムでは、よく使う文字は打ちやすいが、ときどきしか使わない記号と化特殊文字の入力が、どこに出てくるのかわからずに、むずかしいことがある。たとえばドルマークとかユーロマークは打ちにくい。カッコの類もPCのキーボードと比べると打ちにくいと思う。ついつい横着して入力するテキストの方を変えてしまうこともあるが、本末転倒だ。

このHeart Editorは通常の仮想キーボードの上にツールバーがつき、そこにさまざまな記号や操作のショートカットキーが9つ並んでいる。キーの四隅にも文字や機能が配置されており、まずキーを押してから指を滑らせればその方向の入力できる。これで9×5で45。さらにハートマークを押すと別のバーの組に切り替えることができるので、合計90のショートカットが自在に使える。自分のよく使う文字列や文章を割り当てることもできる。

テキストエディタとしてはアンドゥやリドゥ、行頭、行末移動、コピペなどの機能が備わっている。作成したテキストはメール、Dropbox、GoogleDocsへ送ることができるので、実用的だ。

Heart Writer - Simzart

・「上から目線」の構造
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現代日本人の「上から目線」という心理構造を解剖する。

まず著者は、劣等コンプレックスによる「上から目線」と、親心による「上から目線」の2種類を区別している。世の中がフラットになってきて、上司が部下に、先輩が後輩に対してあっていいはずの目線まで、「上から目線はやめてください」と若者からは嫌がられる時代になった。

上から目線の背景には上下、勝ち負けの図式や、モラトリアム心理における根拠のない自信があるという。「自分はこんなところでくすぶっている人間じゃない」という心理があって、「上から」になれば現実逃避ができるというところに、若者の上から目線が登場する。高くて不安定な自尊心のあらわれ、横柄に隠された自己防衛の構造。帯のイラストには「うちの部長も成長したよね」と話す部下たちのの会話があって、ありがちで、笑える。

「ここからわかるのは、良くも悪くも自分自身が「上から目線」の立場で相手に接するのには慣れているが、相手の「上から目線」とうまくつきあっていくのに慣れていないということだ。だから、後輩に対して世話を焼いたり、リーダーシップを発揮して引っ張っていくのは、スムーズにできる。しかし、先輩に対して頼ったり、言うことを素直に聞いたりといったかかわりがうまくいかず、ぎこちなくなってしまうのだ。」

上司は得意だが先輩は苦手。先輩に頼ったり甘えたりがうまくいかないという人が増えてきたようだ。同じ方向をみながら並んで話すカウンター席のコミュニケーション、松下幸之助流の「あんたの意見はどうか。僕はこう思うんだが」という相談調が効果的だとしてアドバイスがある。

この「上から目線」という構造は、ライター、ブロガーの職業病でもあると思う。文章と言うのは対象をある程度突き放して見ないと書けないから、どうしても上から目線になりがちだ。多くのユーモア表現にも、背景に上から目線があるだろう。文章の上手な人は上から目線の構造を読者に対して目立たなくする。会話だって同じだろう。他者から見て傲慢な上から目線はだめだけれど、謙虚な上から目線を目指すべきかなあと。

そういえばGIFアニメってあったな、と。FlashやJavaScript全盛時代になって、影が薄いフォーマットだが、再生環境は幅広いのでまだまだ使える。このアプリは写真を撮影するか、撮影済みの写真を順番に指定するだけで簡単にGIFアニメが作成できる。90年代でツールが未整備だったころは、GIFアニメひとつ作るのにかなり手間がかかった記憶があり、隔世の感。

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画像の表示間隔スピード、GIFアニメの物理的なサイズ(大小2種類)。スピードによってかなり印象が異なることを発見。

それからこれ写真ではなくても画像ならば素材として使えそう。

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「お前はいつになったら本気を出すんだよ」といわれるときに備えてこれをインストールしておこう。本気を出すべきタイミングをおしえてくれる。

タップするたびに本気を出すための指南がイラストとメッセージでつぎつぎに表示される。春になったら本気出す、とか、風邪が治ったら本気出すとか、自分が生まれた年に製造された10円玉が出てきたら本気出すとか、ひたすらに脱力系のアドバイスが脱力系のイラストとともに続いていく。うなぎ食べたらとか、来年からとか、ありがち、ありがち。

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面白い「本気出す」が見つかったら、画面長押しをすると、その本気をツイッターでつぶやくことができる。

・戦略力を高める ―最高の戦略を実現するために
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著名な経営コンサルタントが書いた「戦略力」=「あるべき姿に至る海図を描きつづける力」の指南書。実際の企業例、ケース演習つき。コンパクトに明解に戦略の基本がまとめられている。「戦略上の○○といえばこの○つです」のような整理がわかりやすい。

たとえば「戦略力」は4つの素力から構成される。

1 環境を読む
2 あるべき姿を描く
3 自分を見つめ直す
4 道筋をつくる

あるべき姿ってなんだろう?と気になるが、それはずばり

1 自社が世界一になれる部分
2 情熱をもって取り組めるもの
3 経済的原動力になるもの

の3つの要素を同時に満たすものと定義されていた。そして

「何のために何を成すのか、Whatを実現することの意味の中に、企業の営利を超えた何か大切なものを含んでいるか否かは、後のち、そのWhat実現に向けた遂行力を大きく左右するかもしれない。近年の「環境に優しい」「社会への貢献」などはそのあらわれといえるのではないだろうか。」。

大義名分のWhyがあるべき姿に命を吹き込むのだと著者は教えている。

後半では現代経営学における戦略論の変遷を4つの学派のアプローチで整理している。

1 「計画」 アンゾフ流、戦略計画立案作業を中心とする学派
2 「創発」 ミンツバーグ流、意図せざる行動と学習の過程から生まれるパターン形成を重視する学派
3 「ポジション」 ポーター流、自社を外部環境の中でどうポジションさせるかを重視する学
4 「資源」 バーニー流、自社が保有する独自の経営資源が競争優位を築くと考える学派

経営学のさまざまな要素が盛り込まれている全部いりの印象の本だが、戦略を実践的に考える上で必要なエッセンスに濃縮されていて、ビジネスパースンが読むのにちょうどよい教科書になっている。

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会話の中で「その問題については論文が出ていて解決済みだよ」なんて意見が出ると、みんな調べないとわからないので、議論が止まってしまうことがある。そんなときにこのアプリがあれば、出先でも

J-STAGE
http://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja

CiNii
http://ci.nii.ac.jp/

PubMed
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/

の論文データベースにアクセスして確認することができる。

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本文が公開されていればもちろんそのまま表示できる。発見した論文についてメールしたり、ツイッターでつぶやいたり、Fecebookへ投げたり、Evernoteへ保存したり、連携機能が豊富。

詳細検索では、著者、タイトル、アブスト、発表年度などの項目で検索することができる。研究者必携。

論文検索 - 株式会社アトラス

・人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ
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永世棋聖 米長邦雄の勝負論。気ったはったの世界の心得を説く内容だが、趣味人で遊び人の勝負師だから、ユーモアも交えた楽しい内容になっている。

まず有名な米長理論だ。相手は負けるとプロ資格剥奪だが、自分は勝っても負けても昇降格に関係なしの消化試合。そういうときにこそ、手心加えずびしっと負かさなければならない。一生のツキを呼ぶ「この一番」とは「でかい勝負」ではなく「その勝敗が自分の進退には直接影響がないけれども、相手にとっては大変な意味を持っている勝負」なのだという理論。

でかい勝負で全力を出すのは当たり前で、そういう勝負は負けても実力があればいつか勝てる。むしろ消化試合に全力を投入して相手を潰せるかどうかこそ勝負の運を呼ぶ重要なポイントになるということのようだ。深い。

そして決断は長考に妙手なし。「大事なことだからこそ、簡単に決めるべきだと私は思います。悩み、考えあぐねてから答えを出す場合よりも、だいたいにおいて間違いが少ないものなのです。」。そしてそういうときのカンは好きで取り組んでいないと働かないもの。好きであることが大事である、と。これは逆にいうと、第一感で最善手をさせる力がなければプロとしてはやっていけないという事実でもある。

強い人と対戦する時は、短期決戦と局面の単純化で勝負するという鉄則は万事に通じていそうだ。では負けたらどうするか。そこもフォローしている。「男が勝負に負けた時は、何を言われても、じっとしているに限る。これはもう鉄則です。」と。負けた時は遊び呆けて頭の中を一度ゼロに、勝っているときはじっとして調子を持続させよというのが米長流だ。

この本、前半は比較的真面目でうなずける内容なのだが、後半の強烈な亭主関白論とか才能を前提にした人生論は、ちょっと偏っていて、実はそれが面白い、本質なのだろう。

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オンラインストレージの老舗Box.netがiPhone/iPadユーザー獲得のキャンペーンで大盤振る舞いをしている。2011年12月2日までにBox.netに同サービスに会員登録したうえで、iPhone/iPadアプリからサインインすると、通常は5ギガバイトの無料ストレージが、50ギガバイトになる。先日紹介した30ギガバイト無料のNドライブと併用すれば合計80ギガバイトが無料で手に入る計算になる。

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ドキュメントビューア機能も充実していて、多くのオフィス文書の内容を表示できる。他のユーザーとフォルダ共有を行うこともできる。iPhoneで撮影した大量の写真を誰かに送りたい時などに便利そうだ。

・ビジネスマンのための「行動観察」入門
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大阪ガス行動観察研究所所長 松波晴人氏による実践的なビジネスエスノグラフィー。

企業が顧客のニーズを知るには、アンケートやグループインタビューという一般的な手法がある。

「しかしいま、こうした従来の方法だけでは画期的な製品やサービスを提供するのに限界が見えてきた。それはアンケートやインタビューだけでわかるニーズは、顧客が自分で言語化した「顕在ニーズ」だけだからだ。そこで、実際に顧客の行動(経験)を観察して、まだ顧客自身も言語化できていない「潜在ニーズ」にいち早く気付き、顧客に価値のある「経験」を提供することが重要となってくるのである。」

行動観察では観察、分析、改善の3ステップを踏みなさいという。

この本が抜群に面白いのは、理論ではなくて第2章「これが行動観察だ」である。実際に著者らが実施した企業の行動観察による改善プロジェクトが、ドキュメンタリタッチで紹介されていく。現場で試行錯誤しながら、見事に毎回、洞察をつかんでいく。ドラマみたいだ。1社当たり1作の漫画にしたら面白そう。事例は多岐にわたる。

まずはワーキングマザーの潜在ニーズを知るために、協力者の家に入って数時間の観察をする事例。企業の人間が家庭に入り込めば、行動が行儀よく変わってしまう可能性がある。だから観察者は調査の意図を誠実に伝えた上で、主婦に「晩ご飯を食べていってください」といわれるくらい信頼関係が築くよう心がける。すると主婦の隠れた願望が明らかになっていく。

展示会のイベント会場にでかけてブースを観察し、説明者の立ち位置の変更を提案することで、売り上げが3倍にしたケース。優秀な営業マンと普通の営業マンに同行して、できる営業マンのノウハウを発見するケース。オフィスで働く人々を1日中映像で観察して詳細な行動ログを書き出し、分析するケース。調理場を観察して付加価値の高い作業を判別することで料理人の生産性を飛躍的に高めたケース。工場の労働者の生産性と創造性を高めるケース。そして5000人のお客様の名前を記憶するホテルのドアマンを観察し、驚異的な記憶能力の秘密を探るケースなどなど。

多くのケースでわかりやすいノウハウ抽出と具体的な成果がでていて、現場のコメントもある。潜在的なニーズの発見、インサイト創発につながっている様子がうかがえる。「イノベーションを可能にするのは観察に触発された洞察である。」IDEOのトム・ケリー氏の言葉が引用されているがまさにそのとおりの成功例ばかり。

実際には観察から得られたデータに意味のある構造を見出すには、人類学で言うならクロード・レヴィストロースのような熟練した分析者が必要とされるような気はする。対象に棲みこんで長時間の観察をするには、人材や仕組みづくりに、コストもそれなりにかかるだろうが、やってみる価値がありそうな中身を感じた。対象に棲みこんで洞察を得るプロセスは、観察者自身を成長させる教育効果も高そうだ。

・スーパーマリオ3Dランド
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これは面白い。3DSのソフトでは個人的にナンバー1である。

Wiiの「スーパーマリオギャラクシー2」が3DSでできるようになったイメージ。クッパにつかまったピーチ姫を助けに行くために、敵を踏み越え、しかけ満載の8つのコースを踏破する。コインやスター、緑色の土管などマリオシリーズおなじみのキャラクターが総出演。

これまでのところ3DSのゲームって多くは3Dでなくてもいいじゃないという作品がほとんどなのだが、3Dランドは奥行きに気をつけないといけないシーンが多くあるので3Dの意味がある。他の作品より立体感が目立つ気もする。

社長が訊く「スーパーマリオ3Dランド」
ttp://www.nintendo.co.jp/3ds/interview/arej/vol2/index.html

任天堂 岩田社長による宮本茂氏らのインタビューを読むと、マリオの位置から一定方向に一定距離を保って移動する「並行カメラ」とか、マリオといえば「踏む」だが3Dで踏んでいるように見える視覚的細工だとか、立体視を活かすための創意工夫が満載らしい。

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アクションが苦手な人でもOKなように強力なアシスト機能が2つある。5回失敗するとでてくる「無敵このは」はそのコースにいる間は時間無制限に無敵状態が維持される。それでも穴に落ちたりして進めず10回失敗すると「パタパタの羽」がでてきてゴール直前まで一気に運んでくれる。


・スーパーマリオギャラクシー2ザ・コンプリートガイド
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/12/2-10.html

・スーパーマリオギャラクシー 2(「はじめてのスーパーマリオギャラクシー 2」同梱)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/-2-2-2.html

・ニュー・スーパーマリオブラザーズ・Wii
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/wii-1.html

ヤバい統計学

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・ヤバい統計学
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統計の失敗やウソを暴くのではなく、統計が正しく使われた成功事例を10のエピソードで解説する。統計学の成果を現実の社会に応用するには、難しい計算ができるだけではまったく不十分で、その数字が人間にもたらす心理効果や、実際の経済効果をよく考えなければならないということがよくわかる本。

最初のエピソードはディズニーランドのファストパスは統計学の成功例だ。ファストパス発券によってアトラクションの待ち行列が短くなるわけではない。しかしファストパスにより「ディズニーのテーマパークでアトラクションを待つ行列は年々長くなっているにもかかわらず、出口調査によるとゲストの満足度は上昇し続けている。」そうである。

ファストパスの役割は待ち時間を短くすることではなかった。パスがあっても、アトラクションの収容能力は変わらないからだ。統計学的にはパスの真の機能はゲストの待ち時間のばらつきを排除することにあるのだと著者は指摘する。実際の待ち時間が不確実なのが本当の問題で、実際に何分待つかは本当の問題ではなかったのだ。ここでもディズニーランドは知覚を管理する魔法を使っている。

本書では統計学の応用のための思考5つの原則として

1 常に「ばらつき」に注目する
2 真実より実用性を優先させる
3 似た者同士を比べる
4 2種類の間違いの相互作用に注意する
5 稀すぎる事象を信じない

が示されている。この1つめがディズニーランドのファストパスと高速道路の渋滞緩和策の話であった。他にもクレジットカードのスコア、保険のリスク評価、ドーピング検査と嘘発見器、宝くじの設計などわかりやすい事例が集められている。

"ビッグデータ"がIT業界のバズワードになりつつある昨今、統計的思考の応用、成功例というのをもっと把握していきたいと思った。

なまづま

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・なまづま
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日本中に繁殖した激臭を放つ粘液状生物ヌメリヒトモドキ。下等生物のようにみえるが、人間の感情や記憶を学習する能力があることがわかってきた。適切に情報を与えると、ドロドロの生臭い粘液が、人間のようにふるまうことがあるのだ。国の秘密研究所に勤務する主人公は、自宅浴室に密かにヌメリヒトモドキを閉じ込めた。死んだ妻の髪を餌として与え、思い出の日記を読み聞かせる。何度かの"融合"を繰り返しながら、異形のヌメリヒトモドキは、最愛の妻のイメージに近づいていく。

生臭くてヌルヌルでドロドロで低レベルの知能。五感フル稼働で生理的嫌悪感を誘うヌメリヒトモドキの不気味な生態がユニークだ。極度に内向的な主人公の心理描写が、共同生活をすすめるにつれて、不穏にテンションを高めていき、どんなカタストロフに落ちていくのかと飽きさせない。

第18回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作である。同賞受賞系では『姉飼』『粘膜人間』と同じ系統だ。この作品もまたおぞましい。グロテスク。不気味。残忍。悪趣味。しかし読み始めたら止まらない暗~い魅力がある。著者は1987年生まれだそうだけれども、これからが楽しみな才能。

・姉飼
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/12/zoz.html
・粘膜人間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-948.html

・高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院
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ひたすら"無職博士問題"を世に訴え続ける僧侶で博士の水月昭道氏の本。2007年にベストセラーとなった本書だが、いまだによく話題になるので、読んでみた。

大学院博士課程を修了した人の就職率は約50%。この20年で大学院生は7万人から26万人と約4倍に増え、博士とその予備軍が毎年5千人、その出口からでてくる。しかし、大学にも企業にも博士を迎える就職口は少ない。せっかく頑張って博士になったのに、路頭に迷ってしまうケースが増えているという。

なんだかんだいっても高学歴で恵まれた人たちの話じゃないかと片付けるには状況が厳しいようだ。なんと博士課程修了者の11.45%が"死亡・不詳の者"になっている。人文・社会科学系では19%にもなるという。(日本の自殺率は0.03%程度)。10人に1人が自殺したり行方不明になっているのだ。

博士が就職できないと社会的コストも無駄になる。ポスドク1人育てるのに1億円の税金がかかるという試算が示されているが、社会にとっても宝の持ち腐れ状態になっている。就職できない個人の問題ではなくて、国の大学院重点化政策がつくりだした構造的問題だ、どうにかしなければならないというのが著者の主張である。

アメリカでは博士は専門家として大学以外の公的機関や企業へ就職する道が開けているという。社会に出た後で、時間とお金に余裕ができると博士を取得しにいく人も多い。日本の博士課程は、フルタイムの教員か研究職になる以外の道が狭い。入学時にそれ以外の見通しが与えられていないから、学生側も人生設計をたてにくいのだろう。

「博士号は、大学院で学んだ若者が専任教員の口を得るためのキャリアパスとしての位置づけから、市民社会における豊かさを個々の市民が実現していくことを間接的に助けうるものとして、その姿を変化させていく過渡期に現在があるのかもしれない。」と著者は書いている。少子高齢化の時代、人生を豊かにするための学びの場、生涯教育としての大学院は、学生にとっても大学にとっても、たいへん魅力的だ。学問分野にもよるが、博士の社会的な位置づけを変えていくことが重要か。

それからどうせ不安定な雇用ならば、ベンチャーとのマッチングもよさそう。シリコンバレーのITベンチャーでは、チーフサイエンティストなどの役職で、理系の博士人材が活躍している。以前米YAHOO!やGoogleを見学しに行ったら、説明に出てくる人が、情報系の博士で元○○大の先生だったという人が珍しくなかった。日本のベンチャーでは専門を活かした博士人材の登用が非常に少ないように思う。

企業側が博士を受け入れるための研究職をわざわざ作るというのは難しい。博士の側が、専門性を応用すると具体的に何ができるかや、研究活動における能力の高さ(情報収集や分析、プログラミングなど)を、企業の側にもっとアピールする必要があると思う。

・「痴呆老人」は何を見ているか
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ボケたらどうなるの?をとっかかりに、現代日本人の精神構造の変容を分析する本。

認知症では偽会話という独特のコミュニケーション形態が見られる。認知症の患者と介護者、あるいは患者同士で交わされるトンチンカンな会話のやりとりのことだ。意味不明のやりとりなのに、会話が和やかにできたことで患者は満足する。会話の内容を論理的に理解できなくても、情動レベルでは立派にコミュニケーションが成立している。認知症の老人にとっては、論理より雰囲気、情報より情動が生存にとって重要なものだからだと著者はいう。

認知症患者は「最小苦痛の原則」に従って、自分にとって痛みが最小になるように、虚構の現実を構成する。無関係の人を自分の夫や妻と思いこむことで、人間関係から自身を確認する。外界とのつながりを断念した人は、過去の記憶の世界につながりを求めようとする。人違いにもルールはあるのだ。

情動コミュニケーションが充足していると、知力低下があっても、幻覚、妄想、夜間せん妄などの症状がみられないという指摘がある。痴呆を病気と考えず正常な機能低下として扱う社会では、痴呆の老人は問題を起こすことなく生きていける。社会的実績のある人に敬意を払うのと同じように、認知能力が低下した老人に対しても敬意を払うというマナーがあるとよいそうだ。

痴呆を異常と扱う社会と正常と扱う社会。そもそも痴呆が問題になったのは、現代になってからのこと。現代日本人は、個が独立した思考・判断・行為主体であるという、欧米的な「アトム的自己」の視点にとらわれている点に、著者はその原因をみている。江戸時代までの日本では「つながりの自己」で生きていたとして、後半では痴呆が問題とされる背景としての日本人の精神構造の変容が論じれている。読み応えがあっておもしろい。

・アイデアの99% ―― 「1%のひらめき」を形にする3つの力
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「産業を進歩させるアイデアは、とてつもなく斬新なひらめきから生まれるものではなく、むしろ熟練した管理努力のたまものです。」。当てにならない創造性開発ではなく、作品を次々に世に出し、アイデアを実行し続ける能力にスポットライトをあてた本。

この本の公式は、

アイデア実現力= (アイデア)+整理力+仲間力+統率力

まずアイデアはカッコにいれてしまって、おもいついたアイデアを最後は必ず「送り出す」に集中せよと説く。実践するには最高のものだけを送り出そうと思わない割り切りも必要だ。

トーマス・キンケイドの絵とジェームズ・パターソンの小説を例にを挙げて、似たような作品ばかりで創造的とはいえないが、多作で売れておりビジネス面では成功している作家を参考にせよというユニークな指摘をしている。

創造性×整理力で作品が実現されるとするならば、私たちはついつい創造性100や120の作品を作ろうとして、結果的にひとつの作品も完成させることができない。100×0=0である。50×2=100でもいい。創造性がなくても非凡な整理力があれば、整理力に欠ける天才クリエイターよりもアウトプットが出せるという。

この割り切った考え方には異論も多そうであるが、クリエイターも生計をたてて生きていかねばならない。いつか120の作品を出すために、50や80の日常的なアウトプットで凌ぐことだって必要な日々もあるだろう。

ベストセラー作家には1日のうちに執筆に充てる時間を決めている人が多くいる。生産のための日課を守り続けること、行動を習慣化することが大事。自分はチャンスに恵まれないと嘆くより、コツコツと地道に成果を出していくことが、ビジネス面では成功の近道ということ。

山びこ姉妹

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・山びこ姉妹
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楳図かずおの貸し本作品時代の傑作『やまびこ姉妹』シリーズの第一弾が復刻文庫化。『山びこ姉妹』『へびおばさん』の2作を収録。1963年少女漫画雑誌の「なかよし」に連載された民俗ホラーで、この時代ならではの、おどろおどろしいタッチが気になっていたが、小学館クリエイティブの単行本は、四方田犬彦らの解説がつく価格が2625円とやや高額だったので手を出しにくかった。文庫化は嬉しい。

『山びこ姉妹』。奈良県の山奥に暮らす姉妹さつきとかんな。姉のかんなは、村に伝わるきつねの迷信を夏休みの自由研究のために調べている。そこへ同じテーマを調べに、村長の娘 奈美子が東京からやってくる。きつい性格のミステリアスな少女の登場。奈美子の不思議な言動に、ふたまたぎつねが憑依しているのではないかと疑うが、なかなかしっぽがつかめない。

『へびおばさん』。祖母から村のうわばみ伝説を聞いた姉妹。おつねの滝で怪しい女をみる。友達の冬子の継母が「へび女」なのではないかと疑惑を持つ。やがて冬子を邪魔者扱いする継母は恐ろしい本性をむき出しにして冬子に迫る。

スクリーントーンではなくベタ塗りで表現される黒髪、瞳、夜の闇、影が不気味。血や死体は出てこないのに怖い。映画的なナレーション解説と予告編的な導入。その後の楳図かずお作品には見られない、昭和貸し本時代ならではの表現が堪能できる。

今年度のソーシャル読書セミナー第3回は11月22日です。著者をお招きしてご著書についてのご講演と、参加者とのディスカッションをするイベントです。

次回は「戦略思考を鍛える ~戦略力を高めよう!~」東洋経済新報社の著者 平井 孝志氏を講師に迎えて、私がナビゲーターをつとめます。ビジネス、経営、リーダーシップ、先端ITの話題と、参考図書に限らずオモシロイ書籍の話題を広げていく予定です。

今年は参加者の相互交流による人脈づくりのお役にも立ちたいと思っております。興味のある方、ぜひお気軽にご参加ください。

http://www.ikls.org/archives/274
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■ 戦略思考を鍛える ~戦略力を高めよう!~

特別講師  平井 孝志 株式会社ローランド・ベルガー取締役パートナー
ファシリテーター 橋本大也 研究所客員教授

参考図書「戦略力を高める」東洋経済新報社
「戦略の失敗を戦術で補うことはできない」という言葉がある通り、競争の激しい現代において、すべてのビジネスマンにとって戦略は極めて重要なテーマです。「自分を取り巻く環境の中にいながら、その環境を客観視することの難しさを『バブル』は教えてくれている」という平井氏の指摘が示しているように、われわれは自分の置かれた環境を正しくは認識できないものです。本セミナーでは、リーダーが自社の置かれた状況を正しく認識する方法や、競合に負けない参入障壁構築法について考えていきます。

参考図書
戦略力を高める ―最高の戦略を実現するために
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【イベント概要】
・ 開催日時 2011年11月22日 18:30~20:30(18:00開場)
・ 費  用  5,000円
・ 会  場  大手町サンケイプラザ
(東京メトロ大手町駅A4、E1出口直結))
http://www.s-plaza.com/map/index.html

■お支払いについて
本セミナーは、受付にて当日のお支払いとなります。なるべく釣銭の無いよう会費のご準備をお願いします。また開始直前は受付が大変込み合うかと思いますので、早めの来場をお願いします。

■お申し込み方法
必要事項を下記アドレスまで返信ください。
大手町サンケイプラザ セミナー申込窓口

◆ seminar@s-plaza.com
お申込メールの必要事項
1 お名前
2 ふりがな
3 ご連絡メールアドレス
4 会社名
5 部署名

当日は参考図書が読まれている前提で進行いたしますので、なるべくお読みになったうえでご参加ください。

多摩大学 知識リーダーシップ総合研究所
〒108-0075
東京都港区港南2-14-14 品川インターシティフロント5階
http://www.ikls.org/
担当 片岡
kataoka@ikls.org

* 当セミナーは多摩大学知識リーダーシップ総合研究所とサンケイプラザ(株式会社サンケイビル)との共同開催となります。お申し込み時にいただいた個人情報は今後両者が主催する催し物、セミナーのご案内の際に使用させていただきます。今後、ご案内が不要の方は、お手数ですがメールにてご連絡いただけますようお願いいたします。

公式のご案内ページ
http://www.ikls.org/archives/317

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写真を撮影して、矢印をいれて、ここです!やこの人です!というマークをつける作業が簡単になるツール。最近Facebookに凝っているのだけれど、Facebookは一枚の写真にモノを言わせないとコメントがつかない。フレンドに反応してもらうには、複数の写真を一枚にまとめたり、フキダシをつけてみたりと、説明画像化が重要だと思う。

矢印や箱などの部品がたくさんそろっている。これを写真の上に配置して、指先で拡大縮小、角度変更を行い、説明をつくる。同種のアプリは結構ある。このアプリの場合、写真の中だけでなく、外の部分(黒背景)に注釈をおくことができるのがポイントだ。

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作成した説明写真はアプリ内からメール、ツイッター、フェイスブックへと送信することができる。

説明画像で一発ネタ、なにかつくれないかな。エイプリルフールまでに考えよう。

せつめいツクール - POOL Inc.

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Naverの無料で30GB使えるウェブ上のファイル保存スペースNAVER NドライブのiPhoneアプリがよくできている。

先日iPhone3GSを4Sに変更する際に、3GSに撮りためた写真と動画をバックアップしたいと思い、ウェブ上の保存スペースを探した。3800枚以上3ギガバイトの写真があった。もちろんアップル純正のiCloudがあるが、できればこれは4S用にゼロから使いたい。3GSのデータは別の場所において、いつでも見られるようにしたい。NAVERが最適だった。

このアプリには写真と動画の自動アップロード機能があり、iPhoneのカメラロールに保存された写真をNドライブと自動的に同期してくれる。3GSに同期を設定して一晩寝たら、3800枚全部がオンラインになっていた。もちろん自由に個別閲覧、スライドショー、ダウンロードができる。大きな動画ファイルはストリーム再生することも可能だ。ドキュメントビューアーを搭載しており、オフィス系ファイルの内容も確認できる。

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Bluetoothを通じてNドライブアプリをインストールしたiPhone間でファイルを共有する機能も便利だ。大きなファイルはインターネットを介すると時間がかかるので、チーム内や夫婦でファイルを共有するのに向いている。

Nドライブ App - NAVER Japan Corporation

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