2012年5月アーカイブ

天平の甍

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・天平の甍
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連続して読んでいる井上靖。

8世紀前半の天平の世に、第九次遣唐使発遣にあたり留学僧として選ばれた普照と栄叡。二人が与えられたミッションは、日本に戒律をもたらす高僧を招聘すること。仏教伝来から日が浅く、放埓に流れ次第の仏教界の現状をただすには、それが一番だと考えられていた。高僧の信頼を得て連れ帰るには、10年くらいの歳月が必要と覚悟しての出発。当時の造船技術では、大陸への航海は常に命がけのプロジェクトであった。

結局、10年間をかけて二人は唐の高僧鑑真をみつけて、日本への招聘を承諾させるが、度重なる失敗で、普照と失明した鑑真が日本にたどりついたのはさらに10年後、つまり出発から20年後のことだった。苦難の留学僧の奮闘と、鑑真渡来という仏教界の大事件を、井上靖が史料にもとづきながらドラマチックに描いた。

二人以外にもさまざまなタイプの留学僧たちが登場する。

業行という僧は、唐に渡り30年近く数千冊に及ぶ経典をひたすら筆写し続けた変人。普照と栄叡が尋ねると写した経典に埋まって生活しており、「まだ、なかなかです。始めたのが遅かったんです。自分で勉強しようと思って何年か潰してしまったのが失敗でした。自分が判らなかったんです。自分が幾ら勉強しても、たいしたことはないと早く判ればよかったんですが、それが遅かった。経典でも経しょでもいま日本で一番必要なのは、一字の間違いもなく写されたものだと思うんです。いまでも随分いい加減なものが将来されているんでしょう。」という。

自身の才能を見限り、オリジナルの経典筆写に人生を捧げる覚悟がすごいが、相当なビブリオマニア(愛書狂)だったのではないかと思う記述が多数で、妙な親近感がわいてしまった。本とそれを読む静かな環境さえあれば何もいらないという人生観で生きていたのではないだろうか。遣唐使の時代の留学僧というと国費留学のエリートを想像していたが、そういう人ばかりでもなかったというのが発見であった。

井上靖の作品。

http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/05/post-1646.html

・後白河院
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/05/post-1645.html

・おろしや国酔夢譚
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/05/post-1644.html

・しろばんば
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/02/post-1381.html

・孔子
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/11/post-168.html

・越境者的ニッポン
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職業は博奕打ち。経歴が凄い。高校にはほとんど行かず賭場に出入りし父親ほどの年齢の親父たちを相手に勝負した。21歳の時、1万円の原資で競輪に挑み、勝った金を次のレースに全額突っ込むという乱暴な戦法で3連勝し、300万円を稼いでしまう。新卒の月給が2万円の時代にだ。大金を持った著者はそのまま海外へでて国際的な博奕打ちとなった。以来40年ほとんど日本には住んでいない。現在はオーストラリアを拠点に世界の賭場を攻めている。

著者は中学3年生レベルの知識しか持たない人間として「チューサン階級」を自称している。アウトローの立場からの豪放磊落な語りを楽しむ本なのだが、途中で子育ての話が書いてある。子供も父親と同じように、集団生活になじめず登校拒否になる。だが、オーストラリアで、個性を伸ばす環境を与えると、子供は一流大学に十五歳で飛び級入学する。ここから私はすっかり教育論として、態度を改めて真面目に読むことにした。

「ある年齢を過ぎると、絶対的知識量が不足している子どもたちは、全体主義者となる。他の子どもがやることをやりたがり、同じ物を持ちたがり食べたがり、同じテレビ番組を見たがる。これに関しては、いくらでも例が挙げられるはずだ。 放っておけば全体主義者となってしまう子どもたちを、言葉は悪いかもしれないが、社会を社会たらしめる論理ですこしずつ「矯正」していくのが、教育の重大な役割のひとつではなかろうか、とわたしは考える。」

子供を型にはめるのではなく、個性を伸ばして育てる。そうすることが社会のためでもあるという論。ひとりひとりを異質な人間に育てる。フリーという名のゲイの中学教師が、問題児であった著者の息子に「きみはきみのままでいい」と言って導く教育。日本の普通の学校では不可能な話に思える。

越境者の目から日本を憂う。確信犯としての素朴な視点で、日本の政治やメディア、教育、文化をぶった切る。とらわれるものがないグローバルレベルの自由人による痛快な放談。ここがヘンだよ日本人論。

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若手文具デザイナーのコンペを勝ち抜いたこの文具セットは楽しい。第一弾はフィンランドだったが、第二弾のテーマはロンドンの交通。

ロンドンバス(油性ボールペン)、黒いタクシー(シャープ)、地下鉄(3色油性ボールペン)、そしてテムズ川(蛍光ペン)をイメージした4本のペンがセットになっている。筆箱からざざっと4本を出して並べて、このセットのモチーフはなんだと思いますか?となぞなぞを出すと、よい雑談のきっかけになる。

第一弾のフィンランドは私には細めで握りにくい感じがして、いまひとつ響かなかったが、第二弾のセットはどれも文具として使いやすい。ロンドンバスの油性ボールペンは黒がついてくるが3色のバリエーションがある。蛍光ペンもセット売りでは水色だが、他に別売りのピンクと黄色もある。

文房具店の売り場にはこのセットについてのうんちくがかかれたパンフレットも置いてあるのでおすすめ。

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公式サイト
http://www.zebra.co.jp/pro/arbez-eo/index.html

違法コンプガチャを体験するアプリ コンプガチャ
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あのコンプガチャを疑似体験するアプリが登場。アプリ内広告もちゃっかり入っていて、騒ぎに便乗以外の何物でもないが、そういうノリ好きかも。次々に消されていくガチャだが、実際に課金しないのであれば、今後もコンプガチャは問題がないわけだ。

このアプリはストレートにコンプガチャのシミュレーション。カードを5枚揃えればコンプリート画面も体験することができる。ガチャをするたびにコインを使う。コインがなくなった場合は新規で購入する必要が出てくる。

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コイン購入画面も実装されている。ここでは実際には課金はされないので、いくらでも浪費して大丈夫。

浪費した人間の全国ランキングが公開されるのが面白い。

コンプガチャ - marchEnterprise

5千円で買える エステーの放射線測定器 エアカウンターS
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福島第一での燃料取り出し作業は今後何年間も続いていく。放射性物質の大量放出はもうないとは思うが、念のために1台、自宅に用意しておくことにした。いろいろ測ってみたい場所もある。

放射線測定器というと10万円近くするイメージがあったが、5000円で国産の評判がよいものが買えるようになった。家庭用であればこれで十分そう。地面から1メートル上に保持しスイッチをオンにして35秒経過すると予測測定値が表示され2分以内に確定する。空間の放射線量(ガンマ線)を測定する装置。

さっそく自宅の室内を計測したところ、0.05マイクロシーベルトになった。この機種で測れる最小値である。

これはエステーのサイトに参考資料として挙げられている式だが、

測定した場所に1年間留まると仮定した場合
0.05×24(時間)×365(日)
=438マイクロシーベルト≒0.44ミリシーベルト/年

測定した場所に毎日屋外に8時間、その場所の木造家屋内に16時間いるとして、
木造家屋内滞在の被ばく低減効果を60%(係数0.4)とした場合
0.05×(8/24×1.0+16/24×0.4)×24(時間)×365(日)
≒0.05×0.6×24×365
=262.8マイクロシーベルト≒0.26ミリシーベルト/年

ということになる。

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専門家のアドバイスに従い、ビニール袋に入れて計測している。放射性物質が測定機に付着すると常に高い値が出てしまうのを防ぐため。

日本における自然放射線被ばく量は外部被ばくで0.7ミリシーベルトとされている。だから0.05ではまったく問題がない。ベランダに移動して測ると0.06と出て少し上がったようにも思えるが、20%は誤差なので変化がないともいえる。正確には3回計測して平均をとるべきとのこと。

近くの公園でも測ってみた。ほとんどの場所は0.05から0.09マイクロシーベルトに収まるが、あまり使われていなさそうな砂場で測ったところ、0.16マイクロシーベルトがでた。これだと年間に1.4ミリシーベルトとなってしまうが、砂場でずっと遊ぶ子供はいないから、それほど問題でもなさそう。

神奈川県藤沢市。とりあえず身の回りを測ってみたが、特別に高い場所は見当たらなかった。

・パズルプチ 99スモールピース 宇宙パズル 99-295
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無地でまっしろな100ピースのジグソーパズル。サイズは違うが、これと同じホワイトパズルが宇宙飛行士の選抜試験(JAXA)や忍耐力を鍛えるために使われているそうだ。たかがジグソーパズルと思ってなめてかかると愕然とする。

はっきりいって難しい。上下左右の枠の部分は直線があるからなんとかなるが、内側の部分は形状だけから判断しなければならず、困難を極める。これは100ピースだが、JAXAで採用されたのは300ピースだそうで、宇宙飛行士さすがである。絵がないので、すすめていくのに根気が必要になる。

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リリース記事にだいたい完成までの所要時間が示されていた。

宇宙飛行士選抜試験で採用!"無地"のホワイトパズルを製品化
http://news.walkerplus.com/2012/0306/19/
"パズルに慣れたユーザー様でも、かなり、てこずることが予想されます」と語るのは、担当の大浦さん。ジグゾーパズルには慣れている同社で、完成するまでの時間を実測したところ、99ピースで90分、204ピースでは、なんと12時間ほどかかったという。"

これを毎日やりつづけたら相当に何かの能力が鍛えられそうである。

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ネットエイジDemoDay2012に聴衆として参加してきた。次々にベンチャーが8分間のショートプレゼンをして投資や協力を募るイベント。IT業界の有名人や実力者が多数参加していて、活気のある会だった。スマートフォンアプリや位置情報を使ったサービスが元気がよかった印象。

そんななかでその場でインストールして使って楽しかったのがこのiPhoneアプリのEyeland。近所でつぶやいている人とつながるスマホアプリ。開発企業によると、数週間AppStore無料総合1位となり、40万人以上が利用しているとのこと。FacebookやTwitterと連携不要のアプリなのに、都内ならば結構ユーザーの書き込みがみつかる。

「ローカルストリーム」でつぶやきを見つけたらいいねを押したり、直接対話をすることができる。

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位置情報に誤差を持たせているので自宅でも安心であるとのこと。さっそく会場でつぶやいたら5人がいいねを押してくれた。

イベントについてソーシャルに盛り上がるには、Twitterでイベントのタグをつけて投稿するという方法だと、興味のない人にも見えてしまう。それに対してEyelandだと近所のつぶやきしか見えないので、参加者とだけ対話ができる。イベント用に最適化していっても面白いのではないだろうか。

Eyeland(アイランド) - Oceans Inc.

氷壁

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・氷壁
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井上靖の現代ミステリというのははじめて読んだ。

主人公の魚津は山登りの親友の小坂と二人で、冬の前穂高初登攀に挑戦する。雪がへばりつき岩が屏風のように前面にそそり立つ難所で、突然、ザイルが切れ、小坂は転落死する。ひとり助かった魚津は懸命の捜索を行うが、遺体はみつからない。

東京へ戻ってきた失意の魚津は新聞の報道を読んで愕然とする。ナイロン製ザイルが自然に切れるはずがないと専門家たちが発言をしているのだ。記事は、まるで魚津が助かりたくて小坂を切り捨てた、とか、小坂が自殺したくて切った、あるいは二人の登山技術が未熟だったから、とも読めるような含みを持たせた論調であった。

なぜ切れないはずのザイルが切れたのか。非がなかったことを証明しようと魚津は走り回るが、状況はどんどん不利な方へと変わっていく。小坂の元愛人で、魚津も心惹かれていた美貌の人妻 美那子の夫は、ザイルの素材をつくる企業の経営者であった。そして小坂の勤務する企業の親会社でもあった。魚津がザイルが切れたことを証明することは会社の不利益となる。

かなりの長編だが、構成が完璧で、飽きさせない。

舞台は昭和30年。社会のしがらみとマスコミに翻弄されながら、自分と友人の名誉のために必死に戦う魚津の姿は実に昭和的。ネット時代の今だったら魚津はブログを立ち上げて主張するのだろうな。登山家コミュニティに原因究明のための実験費用寄付をよびかけて話題になるが、SNS上での美那子との個人的つながりが、2ちゃんねるで暴露されて大炎上。クライマックスではustreamで証拠探しの登山を生中継して潔白を証明してみせるみたいな。平成的にはたぶんぜんぜん違った展開になってしまう、だろう。

井上靖の作品。

・後白河院
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/05/post-1645.html

・おろしや国酔夢譚
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/05/post-1644.html

・しろばんば
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/02/post-1381.html

・孔子
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/11/post-168.html

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これは素晴らしい翻訳アプリだ。画期的なデザイン。

スマートフォンを挟んで外国人と対話するときに、お互いの言葉を、音声でもテキストでもリアルタイムに翻訳してくれる。対応言語は日本語、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語など多数。

最初に翻訳する言語を設定したら、母国語で相手に音声で話しかける、あるいはテキストを入力して画面を見せる。すると翻訳された結果が、音声またはテキストで相手の言語で出力される。向かい合いながら使えるというのが実用的だ。

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こんな風に対面用に両方に翻訳結果が表示される。

翻訳精度は一般的な翻訳ソフトレベル。試しに桃太郎のおじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に、を入力してみたら、結果は上記のような感じ。まあまあ、か。正しく自動翻訳されやすいように、日本語の入力を気を付けないといけないというのがわかったこと。

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・Klout
http://klout.com/home

KloutはTwitter、Facebook、Google+などのデータを使って、ソーシャルメディアにおける影響力を測定するサービス。ユーザーが各サービスのアカウントを登録すると、Klout数が表示される。

先日、こんなニュースもあった。

Kloutのスコアが40以上だとサンフランシスコ空港のVIPラウンジが無料で使える―キャセイがキャンペーン開始
http://jp.techcrunch.com/archives/20120509klout-cathay-pacific/

で、そのiPhone版が登場した。

クーポン券の割引率を変化させるなんて言う使い方もでてきそうだ。

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本来はKlout数は結果であって、つくるものではないと思うが、こういう優遇サービスが増えると、Klout数を高くしたいという人が多くなるだろう。

Klout数は複数のサービスを活発に使っていると高くなるようだ。私はFacebookしか真面目に使っていないのだが、TwitterやGoogle+で、自動的に名言の引用をつぶやく設定をすればいいのかもしれないが...。世の中がボットだらけになってしまう。

ソーシャルネットワーク最適化が活発になると、ソーシャルネットワークの価値は毀損されてしまう。それによって現在のSNSが飽きられて、新しく出てくる次世代コンセプトのSNSへ移行する。これまでもそんな動きの繰り返しであったかのように思える。

Klout for iPhone - Klout

これはかなりセンスがいいビジュアルニュースリーダー。デザインセンスが日本人離れしている気がする。日本語版がでたFlipboardやPulse News Readerの強力なライバルに育ったらいいな。

あらかじめジャンル別に厳選されたニュースサイトが登録されており、そこからユーザーが興味関心のあるサイトを選ぶ。ファッション/アート/デザイン/映画/音楽/旅行/グルメ/ビューティ/コスメ/家電/クルマ/携帯/コラムなど。汎用RSSリーダーが一般に普及しなかったのは、どのサイトを選んだらいいかわからない、登録に手間がかかるということにあったと思うが、これなら簡単だ。

このアプリの最大の特徴は、記事中の画像の上にテロップのようにタイトルを重ねるという表示形式。こうすると驚くほど、タイムライン上でニュース内容がわかりやすくなる。記事は内蔵ブラウザーやSafariに飛ばして本文を読む。

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気になる情報はクリップする。他のユーザーのクリップ数が右上に表示されており、注目度を参考にすることもできる。そして自分のクリップもまた他者と共有できる。

各記事にはそれをクリップしたユーザーの一覧が表示され、ユーザーをクリップするとこれまでにクリップしてきたものの一覧や興味関心カテゴリ名が表示される。自分が面白いと思うものばかりをクリップするユーザーがいたら、フォローすることもできる。

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サービス開始したばかりなので、まだユーザーもクリップ数も多くないが、それでもユーザーでフィルターすると興味のある記事を見つけやすいことがわかった。微妙な違いがわかっている似たものユーザーとつながれると快感だ。私はFlipboardやPinterestよりこちらのほうが好きだな。

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Twitter、Facebook、Evernote、メールのアカウントを登録しておけば、各サービスに記事を送ることができる。

Antenna - Glider Associates, INC.

iPadアプリ 雑誌みたいなレイアウトとページめくりで、ツイッターやニュースサイトを読む Flipboard
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/08/ipadflipboard.html
iPAd ビジュアルなインタフェースでニュースやブログを読む Pulse News Reader
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/06/ipad-pulse-news-reader.html
ネタ収集に最適のiPhoneアプリ 何か。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/04/iphone-20.html
Yomore Googleリーダー、Twitter、Facebookアカウントを統合してニュースチェックするスマホアプリ(iPhone、Android)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/04/yomore-googletwitterfacebookip.html

後白河院

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・後白河院
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今年の大河ドラマ『平清盛』の主要登場人物である後白河院を井上靖が書いた。

源頼朝に「日本第一の大天狗」といわしめた権謀術数の男であった後白河院。源平や摂関家の政治に翻弄されているだけのようにも見えるし、逆にすべての黒幕として彼らを翻弄した人物にも見える。

そういう一筋縄ではいかない複雑な人物像を、複雑なまま描くために、井上靖は本人をほとんど登場させない。第一部は平信範、第二部は建春門院中納言、第三部は吉田経房、第四部は九条兼実が語り手となり、それぞれの視点から、後白河院をとりまく状況を綴っている。

「白いふくよかなお顔立ちで、お体も大柄でありますし、立居振る舞いも万事おっとりして、他の競争者を排して、即位遊ばすことになったお人柄のようには到底お見受けできませんでした。ただ高貴の血は争われないもので、ご装束をお着けになるとご立派であるというのが、帝のお姿を排した人みなが口にしたことでございます。畏れ多い言い方ではございますが、はっきりと申し上げると、平生は到底天子の器にはお見受けできないが、然るべき場所いお据え申し上げさえすれば、さすがに自ずから御血筋が物を言い、何をお考えになっているか判らないおっとりしたご風貌も却って威厳となって、なかなかどうして立派なものである。」(第一部、側近から見た院についての記述)

本当は後白河院は何を考えていたのか、については書かない。4人の語り手も院との関係や距離が違うから、少しずつずれた像を描く。こうすることで後白河院の得体の知れなさ、ミステリアスな人物の魅力がうまく表現されている。

保元の乱、平治の乱、源平の興亡のあたりの史実を予備知識としてもっていないと楽しめない作品なのだが、ちょうど大河ドラマが放映中なので、いまなら理解可能な読者が多そうなので、旬な一冊といえそう。

・おろしや国酔夢譚
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よーし、ゴールデンウィークは井上靖の未読本を読むぞ~と思って『おろしや国酔夢譚』『後白河院』『氷壁』の3冊頑張りました。あらためて大作家の筆力とバリエーションに魅了されました。

鎖国が続く江戸末期、伊勢の船頭 大黒屋光太夫の乗る船は暴風雨によって遭難、8か月後にアリューシャン列島のアムチトカ島に漂着する。原住民とロシアの毛皮商人らに発見されて、命を永らえるが、17人いた仲間は寒さや飢え、病気が原因で次々に亡くなっていく。

ロシアの力を借りて帰国すべく、生き残りたちはオホーツク、ヤクーツク、イルクーツクと極寒の中を決死の移動をする。バタバタ倒れる仲間たち。しかし努力の甲斐あって学者ラックスマンら有力者の助力で首都へ到達し、女王エカチョリーナ2世に謁見、帰国の許可をもらう。

漂流から10年。帰国寸前にも仲間を失い、なんとか生きて帰国することができたのは、光太夫と磯吉のたったふたりだけだった。しかも彼らは鎖国国家の当時の日本では罪人に準ずる扱いを受けその後も長期間、幽閉状態だったといわれる。

「俺たちは、な、磯吉、いま流刑地に居るんだ。そう思えばいい。長いこと方々さまよい歩き、やっとのことで流刑地に辿り着いた。そう思えばいい。な、そうだろう。流刑地に着いた以上、もう何も考えてはいけない。ロシアのことは考えまいぞ、考えまいぞ。」という光太夫。望郷の念の罠。光太夫はロシアにとどまり通訳学校の教師として生きたほうが、ずっと幸せだったのではないかとさえ思える故郷の日本の対応。

今いる場所を故郷と思って生きることができるのが真の国際人ということなのかもしれない。我々日本人のメンタリティというのもいまだ大して変わってはおらず、海外に出ても、いずれは凱旋、故郷に錦を飾る式の思いを抱く人が多い。根底の価値観が変わらない。これが日本人の海外進出のうまくいかない原因であるのだったりして。

大黒屋光太夫の漂流は究極的なノマドライフだ。ノマドがノマドのまま生きることができることの難しさと可能性を描いた大作。

・レイメイ ペンパス グリーン JC600M
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コンパスもずいぶん進化している。昔はコンパスはコンパスであって鋭い針が危なかったから専用のケースに入れて持ち歩いていた。現代のコンパスはこんな風にペン型になっていて、筆箱に入れて持ち歩けてしまう。グッドデザイン賞受賞。もったときダイキャスト製の適度の重量感と、スベリ止めのエラストマー樹脂によるすべらない質感が安物っぽくなくて社会人も満足できる。

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大きめのノートの真ん中に大きな円を描くと、線の内側と外側を意識したブレインストーミングのテンプレートになる。複数の要素の包含関係をあらわすベン図を描くときにも便利だ。発想を書き出す前の儀式として、わざわざ手を動かして円を描くというのは結構効果がある。

レイメイからはペン型のハサミ ペンカットも発売されている。

・困ってるひと
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元気でビルマの難民研究に取り組んでいた女子大学院生が、突然に自己免疫疾患の難病を発病し、生き地獄のような闘病生活へ突入する。絶望のあまり死にたいとさえ考えるが、医者や看護師にも支えらて、なんとか前へ一歩ずつ進んだ日々を振り返った本。難病であるから、簡単に治るわけもなく、今も彼女は闘病中だ。

生きる勇気をもらえる本だ。陰々滅々とした闘病記ではない。気合一発で乗り切る根性本でもない。著者は冷静に自分の苦境を分析して、生きるための戦術を立てる。常時高熱で薬漬けだから、ただ暮らすだけでも重労働なのに、病院外へ決死の外出を試みる。難病同士で恋までしているのは驚きだ。

次々に彼女を襲う悲惨な症状。だがユーモア感覚たっぷりに地獄の日々を語ってみせる。おしりの肉が腐って流れてしまっても「おしり大虐事件」発生だ、我ながらすごい話だな~、とネタ化してみせる。文章も抜群にうまい。ある意味これはエンタテイメントである。読者を勇気づける真のエンタテイナーであると思う。

そして病気のどん底を価値創造の場にしている。どんな崖っぷちでも、後世に残るような仕事を成すことができる例としても、とても参考になった。

実は私、ブログでは黙っておりましたが、4月初めに左足首を骨折して3週間、ギプスと両松葉杖の日々だった。はじめての松葉杖の生活は本当に大変で、気力体力の消耗戦でした。最初の数日は、フィジカルなダメージには弱い自分に愕然とすると同時に、あとどのくらいこの厳しい状況が続くのだろうかと絶望的になった。そんなときに、友人がこの本を読んでみたらとすすめてくれたのだった。

おかげで絶望からはすぐに回復して、この期間にできることをやってやろうと思い、生活を立て直すことができた。仕事も休んだのは1日で済んだ。すべてはこの本"困ってる人"のおかげさまさまである。

今年のベスト本に選ぶかもしれないくらい素晴らしい。感動を通りこして人生に影響を受けた一冊となった。これから困っている人がいたらこれを紹介しようと思う。

#この本を骨折して松葉杖になって落ち込んでいる私に直後に薦めてくれたクォンタムアイディ代表の前田さんに感謝。

・「有名人になる」ということ
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勝間和代氏による"有名人になるプロジェクト"やってみた報告書。これ面白いです。紅白歌合戦審査員を務めた頃の、勝間女史の絶頂期の体験談と、少しは落ち着いた現在の心境がつづられています。

「有名人になること」の金銭的メリットは思ったほどではなかったしデメリットも多かったが、「いろいろな人とつながり、その人たちと信頼関係をもつチャンスである」と総括しています。

日本にはパーソナルブランディング、セルフブランディングが受け入れられにくい空気があるなと思います。有名になるのは結果であって目的にすべきではない、そういう人は五月蠅いという人が多い。しかし、労働市場も流動化して、個人ブランドで生きる人が増えてきた今、勝間和代さんがやったことって、学ぶところも多いなと思います。

お金になる才能があることは大前提だと思いますが、世の中、才能がある人って案外、いっぱいいるのですよね。たとえば歌がうまい、美人だとか、楽器が弾けるとか。テレビで活躍している人より私の方がうまいのに、と陰で嘆いていても、道が開けようはずもない。

「もっとも重要なことは、羞恥心を捨てることです。ここまでやるか、ということまでやらないと、市場ではとんがれません。ビジネス書で自転車に乗って表紙になったり、妙な断る手の格好をした表紙をつくったり、自宅の様子をテレビで公開する、ダイエットの進行状況をテレビなどで公開する、そういうことにためらいがあってはいけないのです。」

と勝間さんは書いていますが、まあ、ここまで開き直れないにしても、アピールしない人にはチャンスがこない世界になってきているよなあと思います。私がブログを毎日書いているのも、ネット社会の中で一定のポジションをつくりたいと思っているパーソナルブランディングの一環です、はい。

ベストセラー連発してテレビで活躍するくらいの有名人になるとどうなるか。

「その1 日本人の場合、情報取得→解釈のサイクルが二年間でおおよそ、レイトマジョリティまで普及する
その2 当の本人は忙しくなるうえ、人気を背景に仕事が「Easy」になるため、アウトプットの質が下がる
その3 おおむね、一人のコンテンツを三~五くらい手に入れると、「大ファン」でない限り、お腹いっぱいになる」

であるがゆえにブームはせいぜい1,2年しか続かないと述べています。それ以上の長い期間、メディアの寵児でいつづける人は、芸能人以外では、なかなかいない。

まあ、勝間さんぐらい頂点に登りつめられれば、それはそれでいいじゃないか、とも思うわけですが、オワコン(終わったコンテンツ)と言われるのもつらいようで、有名人化のなまなましい後日談も読めて、人間的で面白い本です。カツマーではまったくない私でしたが、楽しめました。

・ドラえもん深読みガイド―てんコミ探偵団
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小学校低学年の息子がゲタゲタ笑いながら読んでいたのを横取りしてみた。たまたま開いていたページが

"FILE.81 ドラえもんはどうやってひみつ道具を手に入れるのか?"

ドラえもんは、ひみつ道具を取り出す際に、

「お金がたりるといいが」
「高くてお金がたりなかった」
「それに、ぼくのだす道具は一回限りの使い捨てが多いんだ。安いからね。」
「むりして頭金はらった」

などとしゃべっているコマがあって、話を総合すると、ドラえもんはひみつ道具を未来の世界で買っているらしいというのだ。ドラえもんものび太と一緒にお小遣いをもらうシーンがよくあるので、そうした貯金で購入しているそうである。私の幼少からのドラえもん感が大きく揺らいだ。

息子は全然わかっていないようだが、私が衝撃を受けたのは、

"File.102 星野スミレのペンダントの写真の謎 越境する藤子作品のキャラクターたち"

のび太たちの好きな人気スターとしてときどき登場していた星野スミレは、ペンダントにひとりの少年の写真を入れている。実はこの少年はパーマン1号。スミレは少女時代にはパーマン3号として活動していて、大人になったスミレは遠い星へ旅立った1号を思い続けている、という作品を越境した設定だったのである。いやー、これはまったく気が付かなかった。

ドラえもん全巻を対象に104のテーマで研究を行った内容で、漫画を横断的に調べていくと、隠れた設定がどんどんみつかって愉快。最後のキャラクターインデックスもすごい。全キャラクターを切り取って並べた。なんと351人も登場するのだ、ドラえもんには。

・図説 地図とあらすじでわかる! 古事記と日本の神々
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今年2012年は日本最古の歴史書『古事記』編纂1300年にあたるのでいろいろと本が出ている。これは吉田敦彦氏監修の、古事記あらすじと、地図、図解、写真。神話の解説の背景にはさまざまな学説というのがあるわけで、それをいちいち展開すると、一般書としては話が難しくなるわけだが、この本はバランスよく異説にも触れたり、要約して載せているなあと思った。古事記の全体像を理解するのによくできた本だと思う。

日本の神話と世界の神話とのつながりという観点はこの著者ならではかもしれない。

この本に指摘されていた例を抽出してみると、

半裸になって踊るアメノウズメ → 『リグ・ヴェーダ』、ギリシア神話に類似
異形の妻トヨタマビメ → メルシナ型神話として世界に広く分布
生母の姉妹に育てられ叔母と結婚するウガヤフキアエズ → 『リグ・ヴェーダ』に類似神武天皇らを助ける老人の姿の神シホツチ → ギリシア神話の海神ネレウス
オホゲツヒメの食物起源神話 → ハイヌヴェレ神話として世界中に分布
女性の陰部から生じる火の神カグツチ → インドネシア、ポリネシア、南米に類似
イワナガヒメとコノハナサクヤヒメの死の起源神話 → バナナ型神話として東南アジアやパプアニューギニアに類似

など、多数ある。

古事記という最古の神話も日本の100%オリジナルというわけではなく、ベースは世界中の神話が集まってできているのだ。韓国や中国よりももっと遠いところから伝播してきたというのは面白いところだ。

地図でみると、神話の中の出来事がどのくらいのスケールで語られているのかよくわかるのもよかった。

・iPadで古事記の傑作漫画を読む 「まんがで読む古事記」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/11/ipad-1.html

GoogleChrome拡張 動画ゲッター
http://douga-getter.sub.jp/
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会社や自分が取り上げられた動画がYoutubeにアップされていて、手元にダウンロードしたいということが相次いだのだが、どうやらこのツールがよいらしい。GoogleChrome拡張アプリ。

Youtubeやニコニコ動画など、動画が埋め込まれているページで、ダウンロードボタンをクリックすると、ダウンロード可能なマルチメディアファイルの一覧が表示される。選ぶだけでダウンロードが開始する。

このアプリは動画サイトに限らず、動画が埋め込んであるサイトに幅広く対応しており、あまり深く考えずに、ダウンロードしてみたい動画があれば押してみるとよい。MP3にも対応している。

リファラーやユーザーエージェントの変更オプションもあるので、技術に明るい人はダウンロードの幅を広げられそう。使用に当たっては著作権違反にはもちろん要注意。ダウンロードのみでも違法になる法律がいまはあるわけですから。

・iPhone 4/4S 木製ケース ウッドケース 上質なマホガニウッド製 Type1 wood case for iPhone 4/4S
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衝動買いですが。

マホガニー製のiPhoneケースです。

サクラクレパスのiPhoneケースはソフトで温かみのある不思議なプラスチック素材でしたが、そろそろ絵柄に飽きてきたので次を探していました。木製ということで温かみがあって同時にすべりにくいので、これなかなか優れものだと思います。マホガニーは高級家具やギターに使われる素材。外観も硬さも手に触れるのにちょうどよいかんじがします。

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なおこのケースは上下ではさむタイプですが、私の個体はやや外れやすかったので薄い紙を一枚はさんでみたところ、外れにくくなりました。

すべての角が丸くカーブするデザインでやさしいです。落ち着いた雰囲気が気に入っていますが、難点としては若々しさがないということでしょうか。次はもっと明るい色で、よい香りがしそうなヒノキ製というのも試してみたくなってきました。

サクラクレパスiPhone4ケース(クーピーペンシル)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/03/iphone4.html

クラシックカメラそっくりの外観にして三脚穴、ストラップ穴、レンズマウントを追加する GIZMON iCA BLACK for iPhone4/4S (iPhoneケース)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/04/gizmon-ica-black-for-iphone44s.html

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プロンプターアプリを研究中。

無料でこれはいいな。

読み上げる原稿を登録しておいて、プレゼンテーション時間を設定すると、文章がその時間で終わるようにゆっくりとスクロールする。発表者は内容とペースをリアルタイムに確認することができる、というもの。

パワーポイントのプレゼン時にiPhoneを横においてプロンプターにしてもいい。会議室で会議をしているときにも、iPhoneならば目立たないから使える。

原稿が先に行き過ぎてしまったり、逆に遅くなってしまったときは、画面をスライドさせれば、マニュアルで調整でき、そこからスクロールが再開される。

プレゼンの時間配分を体で覚えるために、日常的に使っていてもよさそう。

プロンプター - Orjen Solutions

議事メモ
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/personal/se476396.html
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定例会議の議事録をPCでとる作業を便利にしてくれるソフト。

基本はシンプルなテキストエディタだが、常に前面に表示される。半透明化をすることも可能。だから顧客リストをエクセルで画面に表示させて、みんなで順番にレビューしていくような定例会議で、メモをとりつつ議事進行できる。

まず新規作成してF5を押すだけで

議 題:
日 時:2012/05/06 11:55
場 所:
出席者:

という表題が入る。起動時に自動挿入するテンプレートを用意することもできる。

単語登録で10個の単語をCTRL+数字で呼び出せるように設定できる。打ち込むのが面倒な部署名や社内用語を登録しておくといい。

こういう、ありがちなビジネスシーンをちょっと便利にするシンプルなソフトいいですね。

http://www.vector.co.jp/soft/winnt/util/se401986.html
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「いつもお世話になっております」を、「いづもお世話になっでおりまず」に テキスト濁音変換ツール。ジョークアプリ。友人とのメールのやりとりで使うと楽しい。メーリングリストや掲示板で、独特のキャラをつくるのにも、利用できそうだ。

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実はこのソフトはオプションが過剰に充実している。

山瀬まみ風にま行をば行にするとか、主語らしい「は」を「わ」にするとか、文末に山猫拝とつけるとか、ハクションとつけて風邪をひいたことにするとか、オバカな小技がいっぱいある。

変換したあとに音声読み上げソフトで再生するとどこかの田舎なまりみたいで面白い。

ぼがに使い道を考えでびだが、だどえば、電子書籍をづぐっで全文をごれで変換じで無償公開ずる。読べないごどばないが、読びにぐい。ぞごで変換前の標準語版ば有料で販売ずる。どいうのばどうが?
山猫拝

昆虫食入門

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・昆虫食入門
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このブログでは『楽しい昆虫料理』に続いて2冊目になるが、別に私は昆虫食をしたいわけではない。純粋に好奇心で、ムシって食べたらどんな味がするんだろうと気になってしょうがないから読んでいる。

昆虫食には4つのグループがあるそうだが、

1 狩猟採集活動としての昆虫食を自然な行為ととらえるグループ
2 おいしさを追求するグルメとしての昆虫食
3 虫食いを娯楽と考えるエンタテイメントとしての昆虫食
4 食料としての有効性を調べる科学としての昆虫食

私は3である。

実際には私はセミくらいしか食べたことがない。この本によるとアブラゼミはナッツ味だというがエビみたいだった覚えがある。表現があいまいなのは形容が難しいからだ。まずくはなかったのだが、妙な気分であった。

昆虫料理研究会で46種類の昆虫を食べて、参加者にアンケートをとったデータが興味深い。たとえば昆虫の香りや風味は、ナッツ、トウモロコシ、豆腐。、エビ・カニ、油っぽい、青臭い、鶏肉。味は甘味、うま味、苦味、酸味、コク、水っぽい。食感はクリーミー、硬い。

味覚センサーで科学的に虫の味を調べると、ハチの子飯はウナギの蒲焼に近く、セミはアーモンドに近いという結果も示されている。虫は痛みやすいので新鮮なほうがおいしいそうだ。

ゴキブリが結構食べられるらしいというのは驚きだ。頭をちぎって消化器をぬき、翅、脚もとって刺身でポン酢で食べるとホヤの刺身みたいだとか、腹に塩を詰めて焼くとエビを焼くような香ばしいにおいがするとか、うへえという感じであるが、著者は自宅で養殖しているくらい、慣れればうまいらしい。確かに清潔な環境で育てればゴキブリもそんなに汚くないわけである、か。

この本は、ゲテモノ、キワモノ趣味というより、昆虫食の真面目な研究書という面が強い。著者は昆虫も食材のひとつとして普通にとらえていて、人類の食料としての可能性についても真剣に検討している。読んでいると、昆虫食ってそれほどヘンなものじゃないのではないという気になってくる。そんなわけないんだけど。

タイ料理の調味料として使われているというタガメが気になる。

楽しい昆虫料理
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/10/post-1322.html

すごい虫131―大昆虫博公式ガイドブック
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/10/131.html

・渡辺京二傑作選4 ドストエフスキイの政治思想
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まず私がいつも感じていた弱者の味方とか一部社会運動家の胡散臭さについて

「たとえ百姓であれ労働者であれ、思想が構築される過程の端緒に立つとき、彼は必然的に普遍性へ向けての上昇を強いられるのである。これこそ知識人と民衆との断絶の原因であり、それは民衆に精通したり、民衆の習慣になじんだりすることではこんりんざい解決されえない。ドストエフスキイのいうように、そういうことは旦那の道楽にすぎないのである。」

と書かれていて深く同意。民衆の代表も、弱者の代弁者も、もはや思想を語ってしまった段階で、民衆でも弱者でもない。似非である、と思うわけです。

で、これはドストエフスキイの不評な著作『作家の日記』における民衆賛美調の政治評論を肯定評価する内容です。ドストエススキイの民衆論は、そういう薄っぺらいものではなくて、もっと複雑で意味のあるものだというのです。

ドストエスフキイは、

「誰の目にも入らぬ生活をして誰の目にも入らぬように死んでいくもの」
「この地球上に誰ひとり覚えているものもなく覚えている必要もないもの」

に対する好奇心や想像力、そして深い共感をする夢見る人であり、その民衆の政治意識に関する語りは、民衆の根源的な性質をとらえた意義のあるものだと再評価する渡辺京二がいます。

移送される罪人に民衆が小銭を投げるロシアの伝統に触れた後で、

「日本の場合もロシアの場合も、近代的な法の観念、とくに契約にもとずく義務と権利の観念は、ヨーロッパ近代文明を構成する諸要素のうち民衆にとってことになじみにくいものであったが、そのことの根底には、このような罪人に対する反応に示されるような人間観、現世的な法や規範は人間を仮にしかさばき拘束しうるものではないという或る種のアナーキーな感覚、罪人を聖なるものと感じて心情的にそれと同化するような、彼岸的ともいうべき同胞感覚が存在したのではなかろうか。」

近代市民社会と合理主義の文脈において当時の知識人に稚拙である、辟易するとされたドストエフスキイですが、実はもっと人間の深い理解に根差した想像力をはたらかせて民衆を語っていたといいたいらしいと理解しました。夢想家であり同時に政治思想家であることは可能だと。

1880年ごろドストエフスキイが書いた『作家の日記』について、その100年後に渡辺京二が再評価した本を、その出版37年後にこうして読んで、議論する。3つの時代の文脈が相当に違うわけで、我々は考古学的に知識を整理して読んで理解するというより、同時代の文脈で恣意的に読み解いて、自分たちなりの面白さを発見するのがいいのでは?と思いました。

・ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ
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東日本大震災以降、絆とか思いやりという言葉がメディアに氾濫したが、その中身をちゃんと確認しないと、全体主義や感情論に流されかねない。ひとのつながりは何を生み出すのか、社会科学者たちはずっと研究してきたわけだから、その成果をいま読んでおく必要がある。

著者は社会関係資本(ソーシャルキャピタル)を「心の外部性を伴った信頼・規範・ネットワーク」として定義した。外部性とは「個人や企業などの経済主体の行動が市場を通じないで影響を与えるものであり、便益を与えるものを外部経済、損害を与えるものを外部不経済」という意味。心の外部性というのは、信頼、お互い様の規範、ネットワーク(絆)といったものが果たす役割を指している。

米国ではロバート・D・パットナムが著書『孤独なボウリング』で一人でボウリングをする孤独な人間が増えたというデータからとコミュニティの崩壊を見事に語って見せたが、そういえば日本でも、ひとり消費は確実に増えている。ひとりでカラオケ、ひとりで焼き肉、ひとりで恋愛(ラブプラスとか)...。ひとのつながりを深めることが大きな目的だった行動を、現代人は一人で楽しむようになっている。大震災は、信頼、お互い様の規範、ネットワーク(絆)を再評価するいいきっかけを与えてくれたとはいえるかもしれない。

さまざまな社会学の研究が紹介されている。社会関係資本が高まれば当然、犯罪や暴力が減って安定した地域ができるそうだが、ちょっと興味深いのは「犯罪が多い地域では、人はよく知らない他者とのつながりを放棄し、仲間内だけのつきあいに限定するようになる」という現象。泥棒が多い地域では友人が増えるが、知人が減る。開放的な人づきあいができなくなるそうなのだ。狭く閉じた絆ばかりを温めるのは、排他的なコミュニティをつくってしまうことにもなりかねない。これはおそらく日本というレベルでもいえるのではないだろうか。いま日本人が持つべきは、アジアや世界にまで開いた絆である気がする。この部分を読んで、大震災直後の過度な"絆"キャンペーンに覚えた違和感に対して答えをみた気がした。

家庭内の社会関係資本(家族が仲良いということ)は、子供の学業成績、退学抑制、大学進学率に影響を与える。学級内の社会関係資本は学業成績と退学抑制に影響する。学校内の社会関係資本(教師同士の仲の良さ)も学業成績に影響を与える。などという教育関係者も知っておくべき研究結果もあった。学校選びにも(そしてたぶん会社選びにも)、人間関係を見ることは本質を見ることにつながっているといえそうだあ。

社会関係資本のよいところばかり取り上げる本ではない。ダークサイドとしてしがらみや村八分、反社会的ネットワークなども挙げられている。絆は大切だと素直に思う人も、「絆」に違和感を覚える人も、楽しく、納得しながら読める本だ。

・星を継ぐもの 3
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面白いので最新巻がでるたびに紹介してしまっている。星野之宣が、あのジェイムズ・P・ホーガンの名作を漫画化した作品の第3巻発売。ヒツジみたいなガニメアンと人類が本格的に対話を始めるが、裏に渦巻く陰謀もだんだんと緊張感を高めていく。

人類の好戦性の起源が大きなテーマになっている。ネアンデルタールとホモサピエンス。この2種類がもし共存していたら、世界のあり方は大きく違ったのだろうなと思った。人類は併走する種を失い、単独の種となってしまったから、ヘンな方向に進化しているのだ。思いっきり異質、でも知的レベル同じという相方がいたら、互いから学ぶところ大きかったんではないかと思ったりした。

原作的にはいつの間にか続編の『ガニメデの優しい巨人』に突入しているわけであるが、これどこまで描くつもりなのだろうか。『巨人たちの星』、『内なる宇宙』へと原作は続く。私はガニメデまでしか読んでいないので未知の領域へ入っていくことになるが、それはそれで楽しみ。

1,2,3巻と5か月おきペースで単行本化している。次は10月か11月か、待ち遠しい。

・星を継ぐもの 2
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/12/-2-4.html

・星を継ぐもの
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/07/post-1470.html

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私はかなりイベントに出かけていく方である。各種展示会や講演会、地域のイベントなど、イベントを目的というか口実にして、外出するのが好きな人は、このアプリがおすすめ。

キーワードを登録しておくと、マッチするイベントが登録され次第教えてくれる。地域名や注目している有名人や著者の名前を登録していると見逃さずにみつけることができる。私の場合、湘南とか近所のデパート名とかも登録している。コミュニティのイベントやバーゲン情報がひっかかる。

いまいる場所からイベントを検索することも可能。過去の情報も見える。

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年間約1万件のデータベースからイベントがせる。年間1万件ということは、1日30件くらいということになる。ある程度メジャーなイベントでフィルターされるので、とんでもないはずれは少ない。

イベントに関するニュース・ブログ・Q&Aの検索結果を一覧できたり、カレンダーに予定を登録できたりと、便利な機能がついている。

NAVER イベントなび - NAVER Japan Corporation

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画像加工系は優れものが多いiPhoneアプリだが、これは全部入りで定番アプリといってもよいと思った。カメラ機能(リアルタイムフィルター、手振れ補正など)、アルバム機能(スター管理可能、メタデータ管理)、エディター機能(クロップ、リサイズ、フィルター、フレーム、文字入れその他多数機能)、オンライン投稿機能とすべてが揃っていて、どれも出来がいい。iPhoneで写真を撮影して加工することが多い人は、とりあえずこれ一本入れておくといい。

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使いやすいアプリだが、多機能なので、写真アプリの中級以上のユーザーにとって最適だと思う。気の利いた機能が、あるべきところにあるのだ。たとえばアルバムではEXIFメタデータやGPSデータを確認でき、アップする際にそれを消すなんていうことも簡単にできてしまう。修正作業中はいつでもオリジナルと比較できるボタンがある。使える加工プリセットがいっぱいあって、スライドするだけで、数十種類を全部確認できる、など。

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Facebookのつながり上で、知り合いの知り合いが近くにいたら教えてくれるiPhoneアプリ。とても面白い。プロフィールをみて気になる人がいたら連絡をすることができる。同じイベント会場に同じ友人知人つながりを探すことも簡単になった。

このアプリで知り合いと出会うには自分が動かなくてもいい。オフィスにいながらにして、知り合いの知り合いが会社の前を通ったら教えてくれるのだから。先日、このブログで紹介したYomoreの開発会社の方々がお礼に弊社を訪ねてくれたのだが、私も彼らもHighlghtを使っていたので、到着数分前にHighlightアラートが届いて知ることができた(下の図)

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ただこのアプリは常時オンにしていると、知り合いの知り合いである誰だかわからない人に所在を教えてしまうわけで、フルオープン人生を歩む人以外は、使いたいときにオンにするにとどめたほうが無難だと思う。電池もそれなりに使うようだ。Pauseボタンで簡単にオフにすることが可能。

Highlight - Math Camp, Inc.

・北朝鮮 金王朝の真実
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金正恩政権になって不気味さを一層増している北朝鮮。

大宅荘一ノンフィクション賞を受賞したこともある北朝鮮事情に詳しいジャーナリストが、金正日時代の知られざる内情を暴く。

著者はまず金正日時代とは、

1 軍事独裁であった
2 核開発をして反政府機運を反米へすり替えた
3 父親・金日成を殺した
4 300万人を餓死を装って殺した

という4つの大きな動きに要約できるとまとめている。かなり刺激的な内容。

金日成は1980年に金正日を後継者として披露して以降、息子に内政のほとんどを任せていたが、それが破たんしていたことを長く知らなかった。権威がない息子に箔をつけえるために核開発を実行し、米国との緊張の駆け引きに持ち込んだ。上に上がってくる報告を信じて、農業はうまくいっていると思っていたが、現実には飢餓で数百万人の人間が死んでいたという。息子正日は飢餓を使って敵対する勢力を大量に殺してもいた。そして米国との関係で意見が対立していた金日成の急死にも金正日が深く関わっていたと著者は断言する。

この本の情報からすると金正恩はかなり危険な人物だ。むしろメディアで放蕩なドラ息子と報じられてきた長男の金正男が教養や正常な判断力を持った人材であるらしい。

「北が通常兵器で攻撃するだけで、朝鮮半島の死者は100万人規模。負傷者はその十数倍。核兵器を使うならばその被害は想像を絶する。」

日本にとっても北朝鮮は大地震と同程度にリスク。どちらもどうなるか予測できないのが共通点。ここに書いてあることがどの程度真実なのかは確かめるすべがないわけだが、やばそうな雰囲気が漂っていることはよくわかった。

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