2007年07月10日

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・ぼくには数字が風景に見える
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円周率22500桁を暗唱し、10ヶ国語を話す天才で、サヴァン症候群でアスペルガー症候群で共感覚者でもある著者が書いた半生記。これらの病は稀に天才的能力を持つ者を誕生させるが、自閉症やその他の精神障害を併発することが多いため、こうした本を書ける人が出てくることは稀である。

まさに天才の頭の中がのぞける貴重な内容。

「ぼくが生まれたのは1979年の1月31日、水曜日。水曜日だとわかるのは、ぼくの頭のなかではその日が青い色をしているからだ。水曜日は、数字の9や諍いの声と同じようにいつも青い色をしている。ぼくは自分の誕生日が気に入っている。誕生日の含まれている数字を思い浮かべると、浜辺の小石そっくりの滑らかで丸い形があらわれる。滑らかで丸いのは、その数字が素数だから。31,19,197,79,1979はすべて、1とその数字でしか割ることができない。9973までの素数はひとつ残らず。丸い小石のような感触があるので、素数だとすぐにわかる。ぼくのあたまのなかではそうなっている。」

カレンダー計算や素数の判別を行うには高度な計算が必要だ。著者は累乗などの難しい計算を、瞬時にイメージ上の操作で行うことができるのだ。「ある数を別の数で割ると、回りながら次第に大きな輪になって落ちていく螺旋が見える。その螺旋はたわんだり曲がったりする。割る数が違えば、螺旋の大きさも曲がり方も変わる。ぼくは頭のなかで視覚化できるために、13÷97のような計算も小数点以下第100位くらいまで計算できる」。

複数の感覚が連動してしまう共感覚者が稀にいることは知られているが、著者はその中でも極めて珍しい数字と色や形、感情が結びついているタイプである。数字を見るとイメージが頭にあふれてしまうらしい。

自閉症である著者は、この数字を感情にむすびつける能力を使って他者の感情を理解するという離れ業でカバーしていると告白している。たとえば友達が悲しい、滅入ったと言ったら、6の暗い穴に座っている自分のイメージみたいなことかなと想像する。怖いは9のそばにいる感覚だそうだ。

サヴァン症候群ではない普通の私たちも直感でかなりの高度な判断ができるわけだが、そうした直感の隠れたレイヤーには似たような脳内の情報処理が隠れているのかもしれない。そのプロセスをかなり明瞭に言語化できる著者は脳の仕組みの解明に役立つ重要な存在になる可能性がある。

なお、2007年8月にNHK番組「地球ドラマチック選」で「ブレインマン」として著者が登場する番組が放映される予定。同ドキュメンタリは世界40カ国で放映されて話題を呼んだ。今読んでおくと話題を先取りできる旬な一冊である。

このブログではこの種の話題については何度も取り上げてきたので関連書の一覧を掲載。

・火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004319.html

・脳のなかの幽霊
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003130.html

・脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003736.html

・共感覚者の驚くべき日常―形を味わう人、色を聴く人
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000533.html

・脳のなかのワンダーランド
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002735.html

・マインド・ワイド・オープン―自らの脳を覗く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002400.html

・脳の中の小さな神々
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001921.html

・脳内現象
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001847.html

・快楽の脳科学〜「いい気持ち」はどこから生まれるか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000897.html

・言語の脳科学―脳はどのようにことばを生みだすか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000718.html

・脳と仮想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002238.html

・喪失と獲得―進化心理学から見た心と体
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002945.html

・ひらめきはどこから来るのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001692.html

・神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003679.html

・脳はいかにして“神”を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000134.html

・音楽する脳
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004148.html

・天才と分裂病の進化論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001298.html

・天才はなぜ生まれるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001320.html

・ユーザーイリュージョン―意識という幻想
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001933.html


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Posted by daiya at 2007年07月10日 23:59 このエントリーを含むはてなブックマークこのエントリーをはてなブックマークに追加
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