Books-Brain: 2010年6月アーカイブ

・音楽好きな脳―人はなぜ音楽に夢中になるのか
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認知心理学者、神経科学者であると同時にレコード・プロデューサーとしての異色のキャリアを持つ著者が、音楽を脳はどうとらえているのか、研究成果を一般向けにわかりやすく語る。クラシックだけでなくロックやジャズなどのポップスを研究材料としてしばしば取り上げている。ビートルズやストーンズ、ジミ・ヘンドリクやチャーリー・パーカーが脳にどういう影響を与えるかという本なのだ。

音楽の魅力はどこから来るのか?。それは脳にとっての予測可能性と意外性のバランスであると著者は答えている。

「音楽は、期待を体系的に裏切ることによって私たちの感情に語りかけてくる。このような期待への裏切りは、どの領域──ピッチ、音質、音調曲線、リズム、テンポなど──でも構わないが、必ず起こらなければならない。音楽では、整った音の響きでありながら、その整った構成のどこかに何らかの意外性が必要になる。さもなければ感情の起伏がなく、機械的になってしまう。たとえば、ただの音階は、たしかに整ってはいる。それでも、子どもが音階ばかりを飽きもせず弾いているのを聞けば、親は五分もしないうちにうんざりしてしまうにちがいない。」

ピッチ、音質、調性、ハーモニー、大きさ、リズム、拍子、テンポ。私たちは音楽の時間に、音楽の演奏や鑑賞に必要な要素は一通り教えられている。しかし、これらの科学的な意味や、認知心理学的に持つ意味は、知らないことばかりだ。

たとえば、楽器の音の先頭部分は楽器ごとに特徴的な音色を持ち「アタック」と呼ばれている。このアタック部分を取り除いて、その後の持続する音だけにしてしまうと、人間の脳は楽器を区別することができなくなってしまうそうだ。

人間は絶対音感がなくても、自分の好きな歌は、かなり正確なピッチとテンポで歌うことができるという実験結果も興味深い。ハッピバースデーなど"オリジナル"として決まったキーがない曲以外は、だいたいオリジナルキーで歌いだせるものらしい。

音楽の好みについての研究もある。人は十代の頃に聞いていた曲を懐かしいと思う曲、「自分の時代」の曲として生涯覚えているという話は納得。アルツハイマーの老人も多くは14歳のときに聴いていた曲ならば歌える人が多いという。幼いころに聴いた音楽が自分の文化で決められた正しい音の動きとして、脳がスキーマをつくりあげてしまうため、その音楽は特別なものになるからだそうだ。音楽の好みに関して、親の責任は重大なのだな。
この本、実験と研究で解明されたことがいっぱい示されていて面白いのだが、同時に音楽と脳の関係には未解明の要素が多いこともわかる。ま、音楽も絵画も美は、ちょっとはベールに包まれていた方が神秘的でいいのかもしれない。