Books-Creativity: 2007年4月アーカイブ

・デザインにひそむ〈美しさ〉の法則
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工業デザインの入門書。

これを読むと「ご祝儀のお札はなぜ3つに折るのか?」なるほどと納得する。

・トランプ
・クレジットカード
・ハイビジョンの画面
・新書
・デジカメIXY digital
・名刺
・iPod
・マルボロの箱

これらの共通点は黄金比(1:1.618)の長方形であるということ。デザインの世界で黄金比は神話化されているが、その意識的な利用はルネサンス時代くらいからだそうである。写真の世界ではフレーミングの理論として画面を縦横に三分割し、4つの交線上におもな被写体を配置する「三分割法」があるが、これも結果的に黄金比に近いレイアウトを得る手法である。

・黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004272.html

黄金比と並んでよく使われるのが白銀比(1:ルート2)で、A4、B5などの紙のサイズに使われているという。現代の人気キャラクターの全身は白銀比に収まるものが多いと紹介されている。「しっくりくる」「かわいい」という主観的な印象も、実はこうした客観的な数学が作り出している可能性があると著者は説く。

この本が扱うのは形だけではない。

「日本の子供たちが大好きなアンパンマンも、シンプルさの法則に忠実です。実は日本語には色を表す形容詞が、「赤い」「青い」「白い」「黒い」の四つと、江戸時代に追加された「黄色い」「茶色い」の六つしかありません。この六色は日本の伝統色、いわば日本版の「原色」だということができます。アンパンマンにはこの六色のうち五色だけで表現されています。そして残りの青は適役バイキンマンの基本色です。」といった色の秘密もある。

質感をデザインする造形技法である「角アール」「面取り」「ハマグリ締め」などについても教えている。私たちが日常使っているモノのデザインの定石がたくさん語られていて非常に勉強になった。

そして、著者の結論的な一節にこういう文章があった。

「そして、現在の工業デザインの流行は、素材感や質感の追求になっています。これからの市場は、本物指向に向かっていきます。そのような市場の要求に、色や形だけで応えるには限界があります。本物が持っている高級感を表現するための素材感や質感の開発と研究が、現在の工業デザインの大きな課題になっているのです。」

ここでは、本物ってなんだろうか?と考えさせられた。

ブランドの偽物はあるが、本質的には、存在するものに本物も偽物もないから、ここでいう本物とはみんなが本物と思っているモノのことだろう。新素材で作った方が安くて高機能にできるモノでも、木や鉄や布という伝統的な素材でつくると本物っぽかったりする。
Webデザインにも本物っぽさってあると感じている。レイアウトやインタフェースがイケているかどうかの印象のことである。写真アルバムであればFlickr、地図であればGoogleマップ、検索であればYAHOO!やGoogleのインタフェースデザインを踏襲すると、本物っぽかったりする。しかし、これらも実は既にあったパーツの組み合わせなのでもある。

まったく新しいものなのだけれども、どこかに過去のイディオムを再利用していることが本物っぽさの正体なのかもしれない。伝統と断絶したデザインは、斬新だけれども使いづらく感じることが多い。新しいイディオムは一度、ユーザに受け入れられると、クラシックになり、次の世代のイディオムの要素になるのだろう。そう考えると、クリエイターの創造性の魔法のように思えるデザイン技術も、歴史学や社会心理学的な理論で検証できる体系があるのかもしれないと思えてくる。

工業製品の「美しさ」について考えるきっかけになるいい本だなあと思った。