Books-Creativity: 2010年8月アーカイブ

・横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
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長い絶版時期にはオークションで8万円の値をつけた名著の復刊。

任天堂といったら宮本茂と並んで、横井軍平。「枯れた技術の水平思考」という有名な言葉でも知られる。ウルトラハンド、光線銃と数々のおもちゃでヒットを飛ばし、任天堂が電子ゲームの方向へ向かう「ゲーム&ウォッチ」をつくり、「ドンキーコング」をつくり、さらには「ゲームボーイ」をつくった伝説のゲームデザイナー。

任天堂への就職から次々に開発した商品を時系列で、本人の談を交えながら紹介している。花札メーカーの任天堂に設備の保守点検係として就職した横井は、大学で学んだ理系の知識を持てあましていたそうだ。あまりに暇な日常業務の日々に、旋盤を使いにゅっと伸びるマジックハンドを自作して会社で遊んでいたら、それを見た社長の「商品化しろ」という命令が横井の人生を大きく変えた。

横井軍平は技術者でなくプロデューサーであることに徹した。

「私の仕事のやり方は、「私はこれ以上詳しいことはわからないから頼む」とまかせてしまうんです。で「結びつきは私にまかせてくれ」という持ち場の分担をするわけです。そうすると各グループなんとかしようと最高の知恵を出してくれるんですね。これが「こうやれ」と高圧的に命じてしまうと、そのグループは動かない。」

職人的なクリエイターかと思っていたが、そうではなくて、人を用いる、育てることにも熱心な人だったのだ。ヒット商品をうみだすにあたっては、常に技術的な面よりもマーケティング的な面を強く意識している。

「私が商品開発をしているときも、技術者にユーザーが何を求めているかを伝えることは簡単です。しかし、「ユーザーが何を求めていないか」を探し出すのは非常に難しい。例えばモノクロとカラーのどっちがいいとなったら、誰でもカラーがいいと言うに決まっている。「そのデメリットは電池が早くなくなって、製品価格が高くなって」と説明できる人は少ない。それを自分なりに判断して、「ユーザーはこう言っているけど、本当のニーズはこうなんだ」ということを技術者に説明するインターフェイスの役目をする人間が絶対必要なんです。」

お客様の声を聞いているだけでは、イノベーションは生み出せないのだ。

ヒット商品開発の現場での成功や失敗が赤裸々に公開されていて、ものづくりをするひとに勇気を与えてくれる素晴らしい本。クリエイター必読。