Books-Culture: 2010年3月アーカイブ

・教養としての官能小説案内
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まず著者紹介に目がとまった。

「1933年東京都に生まれる。40年以上にわたり、年間300編の官能小説を読みこなし、新聞、雑誌などに紹介しているこの分野の第一人者。」

この人、40年間×300編で累計12000編以上の官能小説を読み続けてきたのか。それだけで十分に、ちょっとお話を聞いてみたくなる数字だ。

「人間の性欲は、それほど動物的にはできていない。「女性器に男性器を挿入した」という文章を読んでも、現代人はもはや刺激を受けないのだ。官能小説家たちは、われわれの贅沢で多様な欲望に応えるため、ストーリー設定や主要キャラクターの造形、あるいは性交・性器病者の技法、さらにはタイトル付けなど、あらゆる側面でその表現を深化させてきた。」

美少女、人妻、女教師、くノ一、尼層、少年もの、性豪もの、凌辱系や癒し系など多種多様なジャンルにおける文学史を、年代順で代表的な作家の作品を部分的に引用しながら、解説する。

20世紀半ばの日本では「チャタレイ夫人の恋人」が猥褻だとして摘発されていた。文字でも猥褻な作品は警察に挙げられてしまう時代が長く続いた。実はこの制約が暗喩やオノマトペの多用といった表現法の多様化、豊饒化へとつながったという。"欲棒"とか"淫裂"のような直接的表現や「悦楽の源泉」「赤いルビー玉」のような文学的な表現など、性器や性行為をズバリ書けなかったが故に表現の幅が広がったのだ。

「官能小説の分野では、若手といっても、ごく少数の例外を除いては、一般の小説の新人のように若年齢ということはない。それだけ官能を書くには特別の筆力を培う修練が必要だからともいえる。」

実は官能小説っていうのは大変に高度な専門技術を必要とするものなのかもしれない。男や女をその気にさせる文章というのは、習う学校がないし教科書もない。原稿料が安い業界のため、多作でないと専業作家としては生きていけないそうである。性への飽くなき追究のバイタリティも求められる。並の作家では続かない。

40年読み続けた著者によると官能小説は同時代の男女関係を色濃く映すものだという。女性の社会進出が進んだ頃は、官能小説の中の女も自立して強くなったが、反動として女性征服ものも盛んになった。草食系男子が増えた現代では、男性の攻撃性が薄れて全体にソフト化が進んでいるそうである。

官能小説って市場としてはどのくらいのものなのだろうか。電子書籍市場で伸びそうではあるが、電子メディア、インタラクティブメディアならではの官能表現も現れるかもしれない。ゲーム「ラブプラス」の女の子をいじるインタフェースなどは、そのさきがけかもしれない。軽く注目分野である。

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