Books-Culture: 2010年12月アーカイブ

・裏側からみた美術史
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「美術というものは、美しく清らかなものばかりではない。美術品は人の頭や心の中にあるのではなく、あくまでも具体的な物体としてこの世に存在するため、常に政治・経済・社会と深くかかわってきた。どんな美術品も現世のしがらみから逃れることができず、生臭くどろどろした面がまとわりついているといってもよい。すばらしい作品を生み出す芸術家がしばしば人格破綻者であったり、支配者がイメージを用いて独裁権力を強化したり、美術が悪しきプロパガンダの具となったり、美術品が投資や収奪の対象となったり、犯罪に結びついたりしたのである。」

美しいものの裏側にある、醜悪なもの、不気味なもの、危険なものについてのエッセイ集。天文学的枚数がつくられた独裁者スターリンの肖像画、幼くして亡くなった子供の結婚式を描いて霊を慰めるムカサリ絵馬、封印されて日の目を見ることがない戦争画など、普通の美術館には飾られていない美術作品の話が興味深い。

たとえば16世紀から18世紀のイタリアでは死刑囚が処刑直前に眺める絵タヴォレットというものがあったのだ。絞首刑の場合はキリストが貼り付けから降ろされる「十字架降下」が描かれていることが多かったという。斬首刑の場合は「洗礼者ヨハネの斬首」。聖職者が死刑囚に最後の悔悛をうながすものだったらしいが、これほど見る者の怨念がこめられた絵は他にないのではないか、写真を見ていて、描かれたものは怖いものではないのに、絵の存在自体が不気味でおそろしくなった。

芸術家たちの知られざる素顔も暴露されている。カネの話。「芸術家は超俗的で世間知に乏しく、世俗的な成功や金銭などに執着しないという先入観が蔓延しているが、大半は逆である。」「歴史に名を残した巨匠のほとんどは、政治家と商人の資質を備えていたといってよい」。凶悪な犯罪者や性格破綻者も多くいた。美しいものを生み出す魂が美しいとは限らないと言う真実を目の当たりにする。

美術の蘊蓄を増やす、ベストセラー「怖い絵」みたいな内容。

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