Books-Culture: 2012年1月アーカイブ

・隠語の民俗学---差別とアイデンティティ
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この本の定義によれば「隠語とは、社会集団が集団内部の秘密を保持するなどの目的で使用する、その集団の内部だけにしか通じない言葉である。」。マタギやサンカの民俗研究から、隠語の成り立ち、使用実態、そして、そこに込められた被差別者の心意をあきらかにしていく。隠れキリシタンや警察など、隠さねばならない事情があるところに隠語の文化は発達する。

著者は隠語には

1 所属集団の秘密を保持する機能
2 所属集団の仲間意識連帯意識を強化する機能
3 所属する集団と他の集団とを区別する機能
4 他の集団に対して所属集団を誇示する機能

の4つの機能があると総括している。

権力や公安から隠すとは限らない。マタギの場合には山の神様に隠すために隠語を使うそうである。そういえばネットにも隠語はある。たとえば危ないクスリの取引を掲示板を介して行う場合に、検索にひっかからないように隠語を使う。「鮫島事件」「みかか」とかわかる人だけで楽しもうという隠語もある。すぐにWikipediaに定義が書かれてリンクされてしまうわけだが、ネットでも隠語は日々作られている。

で、面白かったのは、隠語のつくりかた。パターンがあるのだ。

音節省略型 忍び→ノビ 商売→バイ 下足→ゲソ
語音転換型 警察→さつけい 酒一杯→バイイチ 鞄→バンカ
語音付加型 たけ(下駄の隠語)→オタケ

その他には、事物形態類似型、事物形態に因る型、事物色彩に因る型、事物色彩に因る型、事物音響に因る型、事物連想に因る型、文字の構造に因る型、雑型と、10の定型に分類する説が紹介されている。これだけあれば隠語ジェネレーターのプログラムがつくれそうだ。

著者は隠語のルーツを、中世の非人社会にあると考えて、興味深い自説を展開している。犯罪者とそれを取り締まる側が同じ隠語を使っていることに注目して歴史をさかのぼっていく。隠語の闇は深い。

・さいごの色街 飛田
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とても面白い。色街の風俗文化を探ったノンフィクション。

遊郭の名残をとどめる大阪の色街飛田。今でも半ば公然と売春が行われているこの場所を女性フリーライターが、10年かけて地道に取材を重ねた。原則取材拒否の街だから真正面からは入れない。最初は飛田をお客として利用した男性に話を聴いて回る。飛田の飲み屋の常連になり内部に人脈をつくる努力もする。もちろん「店」にも潜入し女の子の話も聞く。

「ほら、こうやって二重三重にライティングしているの。肉屋が赤身の牛肉をきれいに見せるのと同じ。」・・・表を向いて座っている女の子が、私のほうを振り返って、にこっと笑って会釈してくれた。」

現場取材は苦難の連続だ。「さわらんといて」「そっとしておいてほしいんや」「うるさいんじゃ」と追い返されることもよくある。それでも食い下がったり、コネをつくったりで、関係者の重たい口を開いていく。色街は闇の利権と既得権の塊でもあるのだ。

「それを書いたら、おたくはいくら儲かるの?」「おたくが、飛田を本当のところはどう思ってはるのか分からへんけど、昔はともかく、今は私らはイカンことしてるんやから、書かれては困るんや」とはじめて取材にいった飛田料理組合で幹部たちににらまれる。

だが、著者の調査によってしだいに資料や証言が集まって飛田の歴史が明らかになる。明治45年に難波新地乙部が火災で焼失して移転先として飛田が選ばれたのがはじまり。当初より政治家たちが暗躍して汚職にまみれていた場所だった。戦後の赤線廃止では、経営者たちは法の抜け道を探して業態転換し、したたかに営業を続けていく。

西成警察署へ「売春が行われていることが明らかな飛田をなぜ取り締まらないのか」と質問をしたり、関与を疑った"組"の事務所にインタビューを試みたりする。もちろん途中で何度も"怖い人"と接近遭遇している。その甲斐あって飛田の現在の風俗ビジネスの実態も明らかになっていく。

取材対象と同じくらいこの書き手が興味深い。飛田や売春に関係する者たちへの距離のとり方や評価が微妙なのだ。情報提供者との人間関係を育みつつも、つかず離れずというか、常に一定の距離を保っている。色街への批判的な記述も結構多いのだが、興味本位での探究部分も多いし、そこが本書の面白さにもなっている。

「売買春の是非を問いたいわけではなかったが、そのことについては、書き終わった今も私に解答はない。それよりも、今思うのは、飛田とその周辺に巣食う、貧困の連鎖であり、自己防衛のための差別がまかり通っていることである。」

と、あとがきに書いているが、著者の複雑な葛藤がしばしば現れる。それが結果として書き手への人間的興味を喚起させて、本書の面白みを増している。取材対象も取材した人もどちらも魅力的なコンテンツなのだ。

そういえばこの手のノンフィクションと言えばこれも面白かった。

・間道―見世物とテキヤの領域
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1046.html
テキヤ稼業(的屋、香具師ともいう)のドキュメンタリ。

・源平武将伝 平清盛 (コミック版日本の歴史)
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結局、平清盛って何をした人なのか、ということを、マンガでわかりやすく理解することができる。漫画の読みやすさを損ねないレベルで、歴史の解説情報をいれている。またエピソードや台詞の細かな部分に、平家物語などのネタを織り込んでいて、ある程度知識がある人も楽しめる良書。

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これはもうすぐドラマでも出てくるはずの、忠盛殿上闇討のシーン。

漫画の目次は

第一章 貴族と武士 ・・・・・・5
第二章 保元・平治の乱 ・・・・・・24
第三章 平家の栄華 ・・・・・・52
第四章 青天の霹靂 ・・・・・・66
第五章 栄枯盛衰 ・・・・・・86

となっているが、清盛の表舞台での活躍が始まるのは第二章の保元の乱で39歳のとき。時代背景や家柄もあるが、比較的遅咲きの人物なのだ。NHKドラマも後半に大きなエピソードが集中しそう。

東京都江戸東京博物館で2月5日まで開催中のNHK大河ドラマ50年 特別展「平清盛」をみてきた。展示は5つの章で構成されているが、厳島神社をイメージして設営された「第3章 平氏の守り神―厳島神社」コーナーでの豪華絢爛な平家納経の展示が見ごたえがあった。清盛自筆もある。筆跡を見るとその人物の実在を深く実感できるのは日本人的な感性だろうか。

NHK大河ドラマ50年 特別展「平清盛」
http://www.nhk-p.co.jp/tenran/20111020_162656.html
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・清盛
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/12/post-1567.html

・平清盛 -栄華と退廃の平安を往く-
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/12/post-1565.html

・平家の群像 物語から史実へ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/10/post-1533.html

・「平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い」と「繪本 平家物語」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-823.html

・安徳天皇漂海記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/09/post-445.html
平家物語のバリエーション。

・琵琶法師―"異界"を語る人びと
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1034.html

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