Books-Economy: 2004年7月アーカイブ

天才数学者、株にハマる 数字オンチのための投資の考え方
4478630879.09.MZZZZZZZ.jpg

仕事で株式市場のメカニズムについて意見を求められているので読んでみた本。

これは名著。

■株式投資理論なんて似非科学でしょう?

株式投資の世界でよく知られた理論には「ファンダメンタル分析」と「テクニカル分析」のふたつのアプローチがある。ファンダメンタル分析は、企業の基礎的条件(業績、財務内容)を分析して未来を予測する方法。テクニカル分析は、市場の株価の過去の動きを分析して未来を予測する方法。おおざっぱに言えば、会社を分析するか、株式市場を分析するかの違いだと言って良いだろう。

社会科学は科学か?というレベル以前に、アナリストたちが提唱する多くの投資理論は、どこか怪しいとずっと思っていた。

ファンダメンタル分析では、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)など、株価や財務諸表の各種データを組み合わせた指標を分析ツールとする。また"材料"として「提携」「新製品」「合併」などの事実も評価する。今の株価が適正なのか(もしくは過剰、過少評価か)どうかを知ることが主眼である。

だが、そもそも指標など経営者が操作できるものだ。成熟産業と新興企業では評価方法が違うといっても、それを分けるものは何か。"材料"をどう見るのか。適正株価が分かったところで、結局、売りなのか買いなのか決める段階になると俄然説得力が弱くなる傾向もある。

一方、テクニカル分析では「ダブルボトム(ダブルトップ)」などという分析手法がある。株価には二度、安値をつけてから反発する動きが見られるという話。他にも「ヘッド・アンド・ショルダー型」、「ソーサートップ型、ソーサーボトム型 」、「V字トップ型、V字ボトム型 」など多数の株価変動パターンがある。

多くのテクニカル分析の理論は複雑である。株価は波であるから、関数で描ける。最初はシンプルな関数で描けるように説明するが、それでは説明不能な例外が出てくる。そこで、実はこの波は二つの波の複合形として説明できるとして、関数がふたつになる。やがて、3つめ、4つめの関数も必要になってくる。数百、数千の関数を持ち出せば、過去何十年の株価の波をすべて説明することは可能であろうが、それにどれほどの意味があるだろうか?。

以上が、私がこの本を読む前に抱いていた問題意識である。株式投資理論は占い以上の価値はないのではないか、ということ。

■共有知識ネットワークと急変する市場

この本で最初に共有知識が取り上げられる。

共有知識とは、この本から引用すると、


ある情報について、グループの構成メンバーがそれぞれ皆その情報を知っており、他のメンバーがその情報を知っていることを知っており、さらに他のメンバーがその情報を知っていると自分が知っていることを知っており云々、以下同様に続くという場合、この情報は共有知識であるという。

ということであり、皆が知っている情報=相互情報よりも条件が多い情報である。

株式取引の意思決定は、普段は相互情報をベースに行われているかもしれない。こうした相互知識行動の中では、皆が同じ知識を元に判断を下しているが、何をしているのかは分からない。ここに権威あるもの(証券取引委員会のデータや公式見解)の意見が、情報に正しさの根拠を与えた途端、互いの行動の帰結が丸見えになり、行動ルールが変わる。その結果、市場が急変することがある。

市場はカオスであり複雑系なのだ。

■平均では金持ち、可能性ではほとんど貧乏

この本の面白さのひとつに、数学ゲームに対して私たちは、知っているようで知らないという事実の紹介がある。私たちは現実の取引を前にすると、感情が働いて期待値の計算をしばしば間違うという事例が多数出てくる。

「平均ではお金持ち、可能性ではほとんど貧乏」の項目は特に面白かった。

さて、あなたは1万ドルを持っている。公開企業の半分は1週間で80%上昇し、もう半分は60%下落する、激しい市場に1年間、毎週一回手持ち金額を投資するケースを考えてみる。市場全体では上げ相場になる。2回に一回は80%儲け、一回は60%損をする。これを繰り返した場合に、どのような儲け具合になるものだろうかという質問がある。

市場の平均は毎週10%儲かることになる。毎週10%の儲けは1年後には140万ドルになる。一見、素晴らしい投資環境だと思ってしまう。

だが、2週目の投資家の手持ち金額を計算すると、分布は既にこうなっている。

4分の1の投資家 32400ドル 1.8*1.8
4分の1の投資家 7200ドル 1.8*0.4
4分の1の投資家 7200ドル 0.4*1.8
4分の1の投資家 1600ドル 0.4*0.4

実は2週目の段階で実に4分の3は損をしている。1年で見ると、平均的な運の持ち主は80%上がるを26週、60%下がるを26週繰り返す。この結果、最も多い確率で起きうるのは、最終日にたった1.95ドルしか持っていない状況なのである。これはごく一部の運の良い人を億万長者にし、ほとんどの人を一文無しにするシステムだったのだ。

これは億万長者の儲けが平均を大きく引き上げるため、一見、儲かる市場に見える典型例だろう。

株式変動は平均の大きな目で見ると、明日上がるか、下がるかは2分の1の確率で起こる。大きく動くことは稀で、小さく動くことは多い。変動の幅の分布はべき乗則に従うことが分かっている。これよりは幾分緩やかであろうけれど、実はデイトレーダー的な頻繁な株式取引はごく一部の人を儲けさせる仕組みであることを示唆していると言えそうだ。

■結局どうすれば儲かるのか?


なお、本書のどこにも、具体的な投資アドバイス、新しい千年紀のトップ10銘柄、いますぐ始められる401(k)5つの賢い方法、いますぐやれる3つの良いこと、そういう話はまったく出てこない。要するに金融ポルノみたいなドギツイ話はしないつもりだ。

と冒頭にあるが、実際の運用アドバイスは一切ない。株式市場を数学モデルに見立てて、科学的、数学的に結論できることを探す内容になっている。

株式市場の動きはカオスであり複雑系であると言われる。同じパターンが大きさを変えて現れるフラクタル構造のようなパターンを描くことがあるが、今、自分の投資対象がフラクタル構造の大きな波の中にいるのか、小さな波の中にいるのか、特定ができない。よって、テクニカル分析は内部的にも限界があるということになるだろう。

オプション、ファンド、デリバティブ商品についても検討されている。金融商品についての深い知識があれば、投資家は選択肢が増えることで、リスクを減らすことはできるかもしれない。だが、こうした知識を持ってしても、市場のカオスを見通して、勝ち続けることはできないようだ。

最終的に「未来を予測できる超越的投資家」は原理的に存在し得ないと、秘密の常勝戦略を否定している。存在してもルール事態が一層複雑化するだけであるからだ。面白くないのだが、結局、数学的には、絶対に儲かる秘密の方法などないということになる。

ただ、数学的には常勝戦略がないということが、直ちに実際の投資戦略にも常勝戦略がないと同じことかというと、まだ分からないのではないかと私は期待している。相関ではなく因果を握ることで、儲けている人たちがごく僅かにいるように思えるからだ。

この本を最後まで読んで、私の結論。

・分散投資によってリスクを取り除くことは可能である
・インサイダー取引は犯罪だが、儲かる可能性が高い
・巨額の資金を使って相場自体を操作できる可能性がある

ということは、無難かもしれないが、最低限言えそうだと思った。

■3つ目のアイデア

そして、友人とこの本の話をして思いついたりしたアイデアが3つある。

1 インフレ仮説による分散投資長期保有戦略

人間の欲望がある限りインフレ傾向は長期的に続くと仮定して、分散ポートフォリオで幅広い銘柄を買って長期保有するのが安定した戦略なのではないか?

2 マスメディア分析による投資戦略

マスコミは企業を持ち上げては落とす傾向がある。またマスメディア露出の多さは変動率の高さと相関する可能性が感じられる。このふたつの仮説をもとにニュース記事に登場するキーワード傾向(ポジティブワード、ネガティブワード、発生頻度)から投資戦略を編み出すことができるのではないか?

以上。


おい、アイデアは、3つじゃないのかって?

そうなのですが、3つ目は本命ですので、ここで書いてしまうと相互知識化して、私が儲けられないじゃないですか。

でも、知りたいという方は、標題を「究極の投資情報希望」として

■この企画終了しました■

までメールをください。期間限定で情報を送ります。

そのメールには私が考えているのはこういうことじゃないの?という、あなたの推測を書いてください。知識を交換することで、私の損を減らします。ただし、私が差し上げるのは回答そのものではありません。

メールへの返信として5つのキーワードを箇条書きにしただけのヒントメールを差し上げます。

私はある金融商品(取引手法)を考えてみたのですが、これはノーリスクで、ほぼ確実に儲かるのではないかとたくさんの本を読んだ結果、結論したものです。無論、私は金融の専門家ではありませんから、どの程度正しいのかは不明です。でも、確信しています。ご興味のある方はご連絡ください。

なお、私は少し忙しいので返信はゆっくりになるかもしれません。ご了承ください。

###この情報交換の企画は終了しています。

現代消費のニュートレンド―消費を活性化する18のキーワード
4883351114.09.MZZZZZZZ.jpg

■マーケティングのネタ本として使える情報満載

この本は電通のニュースレター「トレンドボックス」の内容を元に、現代消費のキーワードを解説する本。根拠となる調査データのグラフが豊富に掲載されており、マーケティングの仕事のネタ本に重宝する。

・電通 消費者情報トレンドボックス
http://www.dentsu.co.jp/trendbox/index.html

目次は以下のとおり。なるほどと実感した項目を太字にしてみた。

Part1 ポジティブ消費者を探せ!
 01 "遊ぶ大人"が消費をリードする
 02 "癒されたい"から"元気になりたい!"
 03 いまどきの若返り術。
 04 "わたしづくり"の文化消費
Part2 新しい消費ユニットを狙え!
 01 新しい消費単位としての"平成拡大家族"
 02 "週末二人暮らし"カップルの"新・おうち消費"に大注目!!
 03 アクティブ大ママ進化論
 04 飼い犬の家族かが掘り起こす"D.O.G"市場
Part3 消費者の世代特性を掴め!
 01 平成型中学生のユニット感覚
 02 "キャラばーゆ族"が変えるワークスタイル
 03 仕事モードも、ボクモード。
 04 インビシブル30代の底力
 05 ほっと!なママは"してみたい族"
 06 "ソフトボイルド"な男たち
Part4 新しい消費者像を描け!
 01 "ユビキタス"消費の可能性
 02 拡大するワガママ消費!!
 03 センスでこなす!主婦は食品オカイモノ達人
 04 ドリンクはココロの鏡?!

Part5 座談会「消費者研究の最前線」

■セグメンテーションの終焉と多自由構造な生活

統計の専門家、社会心理学の専門家だからといって、必ずヒット商品を作れるわけではない。市場の傾向や、個別のお客の声をマイニングすることで”改善案”は分かるだろうが、パラダイム革新は起こせないものだと思う。

高度成長期のように、豊かさに共通基準があり、”大衆”がそのベクトルへ動こうとしていた時代は終わってしまった。次に出てきた特徴を共有する集団、分衆的な考え方も、多様化によって分析対象として意義が薄まってきているようだ。データベースマーケティングやデータマイニングも、期待されたほど成果をあげていないように思う。

第5章の対談から引用。


上條 日本人はセグメントされるのを嫌がりますし、されるほど特異性もありませんから、企業がこれまでのようなセグメンテーションでターゲットを設定することには限界が来ているかもしれませんね。

マーケティング的にいうと、昔はクラスター分析が分かりやすかったけど、いまはクラスターで分けた人びとの実像が掴みにくくなっている。そこで私たちは、昨年のヒット商品の分析の際に、消費も多重構造になったことを捉えて「多自由構造な生活」と呼びました。

たとえば、自動車は高級車を買うけれども、サングラスは1000円でいい。そうした「二重消費」が数年前まで目立ちましたが、現在はもっと自由で多重な消費行動になっているというわけです。

私の読みでは、多様な物語性を抱えた個人が主役の時代になったのだと感じている。データベースマーケティングやデータマイニングでは、物語性を抽出できない。購買履歴やアンケートから、属性やキーワードが幾つか分かったところで、個人の抱えた感動ドラマは見えてこないのだ。最大公約数や平均による分析も物語性を殺してしまう一因になるだろう。

ではマーケティングはこれから何もできないのか?そんなことはないと思う。

よく言われる「現代の消費者はきまぐれになった」は嘘だと思う。個人は物語の中では比較的合理的に振舞っているのだと思う。多自由構造の中で、物語を生きる個人の合理的選択をうまく捉えられるマーケティング分析手法がこれから求められているのではなかろうか。

アイデアとしては、情報科学における、制約条件によるストーリー生成の研究などは、マーケティングに応用がありえるかもしれないと思う。

■物語の交差点に生まれるもの

個人的なことを書くと、結婚と子供の誕生は、大きく消費内容を変えるなあと実感している。私は4年前に結婚して、2年前に東京から、地方都市の実家近くに引っ越し、そして1年前に子供が生まれた。消費内容はこの間ガラっと変わった。それまでは都内のトレンドの店やコンビニ、秋葉原にお金を落としていたが、今はデパートや郊外の大型ショッピングモールが消費の中心になった。

子供の誕生以来、休日の外出は家族単位が基本。父母や妹家族と出かけることも多くなった。でかける先の選択には、小さな子供がいても安心して過ごせる場所であることが絶対条件になっている。具体的には、授乳室や広いトイレ、騒いでも大丈夫な環境、ベビーカーを通しやすい通路あることなどである。電通の本で言えば、新おうち消費型から、平成版拡大家族型になったのだ。

マーケティングに対する感性も当然、変わった。独身時代はあまり意識しなかったが、デパートや大型ショッピングモールはこれらの条件を完璧に満たしている。こういう場所は、物語の交差点とも言えることに気がついた。

たとえばアイスクリームひとつにも物語性がある。

・アイスクリームを孫に買ってあげたい祖父母
・アイスクリームは子供の年齢から与えるのはまだ早いと考える両親
・アイスクリームに関心のある子供自身
・とにかく売りたい店員

構成員全員にアイスクリームに対する過去の想いもある。この葛藤、制約を解消して、皆が幸せになるような商品とサービスの組み合わせが求められている。物語は感動を生み、感動は人に話され、伝播する。深い感動は大抵は、ヒトとモノではなく、ヒトとヒトの、物語の交差点上のインタラクションから生まれるものだ。

物語の交差点はどこか?
物語Aと物語Bが交差すると何が起きるか?
ハッピーエンドへ向かう起承転結の転は何か?

ある程度はヒューリスティックなアプローチで解を導き出せそうな気もする。従来のマーケティング理論が扱う物語や体験は、静的で類型化され過ぎていたと思う。もっとライブでリアルな物語を見出す技術が必要だと考える。

行くと皆が幸せになるドラマが起きるように設計された不思議なお店。インターネットのショップにもそんなサイトがあったらいいなと思う。