Books-Economy: 2006年3月アーカイブ

・ブランド王国スイスの秘密
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スウォッチ・グループ オメガ ブランバン ブレゲ リシュモン・グループ カルティエ ロレックス パティックフィリップ ネスレ・グループ ABB 航空スイス クレディ・スイス UBS ロンバー・オディエ・ダリエ・ヘンチ チューリッヒ・ファイナンスサービシズ スイス再保険

これらはすべてスイス企業のブランドである。高級時計、金融、食品会社、保険など内容は多彩だ。

スイスの人口は730万人であるが、スイスの株式市場に上場する企業の株式時価総額を人口で割ると、12万8千ドルで世界第1位になるという。この数字は米国では5万8千ドル、日本は5万9千ドルであり、スイスがいかに資本主義を濃縮しているかがわかる。ブランドがスイスという小国の経済を世界トップクラスにのしあげてきた。

スイスの数々のブランドの成功は偶然ではない。これら成功したスイス企業は傘下に数多くのブランドをそろえる「ポートフォリオ型」のブランドマネジメントを採用してきたことに特徴がある。たとえば、オメガ、ブレゲ、ラドー、ロンジンといった高級時計ブランドはすべてスォッチグループである。スォッチグループは18のブランドを傘下に持つ。カルティエ、ピアジェ、アルフレッド・ダンヒル、モンブランはリシュモングループのブランドだ。コーヒーのネスカフェ、調味料のマギー、パスタのブイトーニ、飲料のミロ、ミネラルウォーターのヴィッテルはネスレの傘下のブランドである。

日本型ブランドマネジメントでは、企業は他のブランドを持つ企業を買収すると、多くの場合、統一ブランドに統合してしまう。その結果、元のブランドが持っていた価値を失うケースが多い。

日立や富士通やソニー、パナソニックやナショナルなどは、世界的知名度を持つブランドであるが、あらゆる製品を扱っているために、ブランドの中身のイメージが湧きにくい。超高級品もあれば廉価な普及品もひとつのブランドに収まってしまっている。最近では、セブンイレブンとイトーヨーカドーとデニーズが「セブン&アイ」というブランド名に統一されてきている。看板を見ただけではさっぱりわからない状態になっている悪い例として、この本でも挙げられていた。

スイス企業のポートフォリオ型ブランドマネジメントは、個々のブランドが持つイメージや顧客を維持することを考える。ブランドの特徴を明確にし、ブランド同士が競合にならないように巧妙に差別化を行っている。スイスのビジネスマンは、こうした創意工夫によって、少ない人口でも、現在の経済的豊かさを築いてきた。いまやスイスは国旗さえもブランドの一部となっている。

この本ではブランドマネジメントの他に、特に詳しく銀行守秘義務制度によるスイスの銀行の繁栄が分析されている。この制度によって、匿名性を守りたい世界の資産家から巨額のマネーがスイスに集まってきている。マネーロンダリングや脱税といった犯罪の温床と批判されながらも、EU統合に際しても、スイスはこの制度を強行に守り通してきた。スイスの高付加価値型経済の実現は偶然ではないのだ。

著者は日本の進むべき未来がスイスにあるのではないかと自論を展開する。日本企業はこれまでは「良いものを安く大量に」をモットーに製品・サービスを提供してきた。しかし、価値観が多様化しニーズが変化した今日ではスイス流の「良いものをいかに高く売るか」に路線を変更すべきではないかと提案している。

スイスという国は一般に永世中立国で美しい自然に恵まれた観光国というイメージがある。だが、歴史的には天然資源に乏しく、国境を接する国が多いために侵略もされやすく、厳しい状況に置かれた貧しい国だった。スイスは、そうした否定的な要素を逆手にとってプラスに変えるアイデアと、それを実行に移すための独特の政治制度や社会制度を持っている。

日本はコンテンツ、知的財産を活用して経済再生すべきだという意見があるが、スイスのブランド立国政策は確かに見習える部分が多そうだなと感じた。

・模倣される日本―映画、アニメから料理、ファッションまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003155.html