Books-Economy: 2006年4月アーカイブ

・ヒルズ黙示録―検証・ライブドア
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こういう本を待っていた。とても面白い。

朝日新聞でライブドアを担当していた記者の本。

創業黎明期から、株式公開し、M&Aを繰り広げての急成長、そして球団買収、フジテレビ、選挙戦、強制捜査まで、ライブドアの実態を、新聞記者らしく取材メモと事実ベースで客観的に解明していく。暴露本ではない、検証本である。

堀江社長以外のライブドア経営陣や、村上ファンド、楽天、フジテレビ、リーマンブラザーズなど、各時代の当事者の生々しい肉声も多数公開されている。あの人はそんなことを言っていたのか、と驚きも何箇所かあった。知り合いも数人登場していて、あらあらとも思った。

私は堀江さんとは、そう深くはない面識があった。

1999年ごろ、ニュースサイトのホットワイアードに、NewsWatcher'sTalkという企画が始まり、私は10数人くらいの業界パネリストの一人に選ばれた。その後、数年間、この企画に参加した。同じパネリストの一人として堀江さんがいた。

・News Watchers' Talk ご利用ガイド : Hotwired
http://hotwired.goo.ne.jp/nwt/guide.html
(この企画は今も続いているのだが、当時はもっと活発に議論が交わされていた。)

毎週、IT業界の時事ネタを編集部が選び、パネリストがメーリングリストで議論する。議論した内容はまとめられて翌週にWebで公開される。堀江さんの会社は当時のホットワイアードのシステム構築をてがけていたと記憶している。そういう理由もあってか、堀江さんは、メーリングリストで、しばしば意見を投稿されていた。

私はテーマが提示されると、じっくり考えたり調べてから、長文の意見投稿をしていた。堀江さんは即座に数行の断定的な意見を投稿するスタイルだった。ビジネスの話題でも、技術の話題でも、ばっさり斬る。衝突を恐れず、自分の意見を簡潔に述べていた。私の長文もばっさり一行で斬られたりもした。それに長文で反論すると、また1行で斬られてしまう。

同じ原稿料なのに随分、文字数違うよなあ、効率いいな、堀江さん、などと可笑しくなったりもしたのだけれど、こういう人がいると議論は面白い。この企画での堀江さんの存在感は大きかった。特に技術については鋭い意見が多くて参考になった。ハッカーのワンマン経営者という印象であった。

その後、ホリエモンとして有名になり、次々に世の中をハッキングする堀江さんに、内心では、エールを送っていた。堀江さんの有名なブログのコメント欄が荒れていたときには何度か匿名で応援のコメントを書きさえしていた。規模は違えど同じベンチャー企業経営者として、体制に豪快に切り込んでいく様子は見ていて痛快だった。だから、強制捜査以降の堀江さんの状況は大変、残念だなと思っている。

この本は客観的な検証本なので、著者は敢えて主観的な判断を前面には出していないが、全体的には堀江氏に同情的である。あれは国策捜査であったという見方も取り上げている。まだまだこの国は出る杭が打たれる国だということかもしれない。

この本によれば熊谷取締役が発案した株式100分割で買いやすくなったライブドア株は、20万人以上も個人株主がいたそうである。私の身近にも損をした一般投資家がたくさんいる。株式投資は本来は自己責任のはずだが、集団訴訟も起きている。有罪無罪よりも、これが本質的問題だと思うのだけれど、ライブドアの事後処理をしてから、再起業して、この人たちに2倍返し、3倍返しで儲けさせるような、ドラマをまた見せてくださいよ、堀江さん。


・国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004269.html

・実験経済学入門~完璧な金融市場への挑戦
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統計データを解析する計量経済学に対して実験経済学がある。実験室で被験者集団に市場を模した取引を行ってもらい、どのような現象が起こるかを調査するような研究手法をとる箱庭経済学である。モデル化された経済は現実の経済とは異なるため、長い間、本流の経済学からは軽視されてきた。普遍性に疑いがあると考えられていた。

しかし、実験経済学では、平均的な人間の普遍的な行動だけではなく、人間の個人的な「選好」を対象にすることができる。個別のモノやモノの組み合わせに対する個人の相対的な価値のことだ。「ブランド」や「オプション」、そして「知識・情報」が経済において持つ意味を、個人の選好から光を当てることができる興味深い研究領域である。市場実験による金融市場分析を行ったヴァーノン・スミスが2002年度のノーベル経済学賞を受賞するなど、近年、再評価が進んでいる。

需要と供給は自由市場に任せておけば、自動的に最適な均衡に落ち着く。経済学の常識であるが、被験者同士が交渉で売買を行う実験を行ってみると、理論値よりも少し低い価格に均衡した。なぜか?。

「ほとんどの人は売り手の経験よりも買い手の経験の方が多く、価格を引き上げる交渉よりも引き下げる交渉の方が得意であるからだ。」。交渉のルール、当事者の知識、交渉の能力が、この取引ゲームに大きな影響を与えている。

株式市場では「サンスポット均衡」と呼ばれる不思議な傾向がある。これは太陽の黒点移動と景気の変動がたまたま似たような周期を持つため、太陽の黒点が景気を左右するという理論があることに関係がある。この理論は根本的に間違っているのだが、信じているトレーダーが少数だが存在するために「自己実現的予言」として機能してしまっている例だ。トレーダーには自分の持つ情報を無視して「群れの後追い」をするものも多いため、さらに傾向は強化されてしまう。「テクニカル分析」も似たような存在である。

従来の経済学は、平時の市場の均衡や景気循環を説明できても、突発的なバブルや暴落を十分に説明することができなかった。実験室での株式取引ゲームやオークションゲームでは、主観を持つ人間だからこそ取り得る非合理な選好がたくさん発見されている。そして人間同士の関係性が、情報カスケード効果を促進し、予測不能な大きなバブルを生じさせたりもする。

「この世は皆オプション」とも述べられている。オプションとは市場に参加するプレイヤーたちがとりえる選択肢のことである。私たちはモノの価値だけでなく、潜在的に取りえる取引上の選択肢までをも考えに入れて行動している。期待と不安、錯覚、知識といった個々の人間のバラバラな選好が、経済全体の大きな流れにカオスとバランスを発生させる。計量経済学が平均的、普遍的、連続的な市場を分析するツールだとすれば、実験経済学は、個人的で、特異で、非連続な市場を分析するのに有効な新しいツールといえそうである。

こうした実験経済学の環境として、早稲田情報技術研究所は、カブロボというサービスを運営している。既に数千種類の株式取引プログラムが開発されている。

・カブロボ・コンテスト KabuRobo
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