Books-Economy: 2006年5月アーカイブ

・ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
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ハイテク製品を成功に導くマーケティング理論書「キャズム」から15年が経過した。

・キャズム
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著者の仮説の適切さはその期間の市場の動きで実証されてきた。企業の成長にはパターンがあり、適切なイノベーションを適切な時期に投入できるかが、企業の永続成長か破滅かの道を決めている。この本は、トレンドの急成長の分水嶺となる「キャズム」を超えて、市場の成長期にも衰退期にも、永続的に繁栄できるイノベーション戦略とは何かを語る集大成。

「コアとコンテキスト」、そして「慣性力」は今回のキーワードだ。


タイガーウッズにコアとコンテキストの間でどのように時間配分をすべきか問われたら、あなたはどのようにアドバイスをするだろうか?。

「自分の時間をすべてコアに集中させて、コンテキストは誰かを雇って任せればよい」

と助言するだろう。だが、ウッズが反論する。

「僕の収入の90%はコンテキストからのものなんだ。コアからではない。それでもコンテキストには時間を使うなというのかい?」

あなたは自信を持って言うだろう。

「もちろんだ。コンテキストから得た収入で、よりコアにフォーカスすべきだ。それが最終的に最も効率的な道だ」フォーカスと優先順位、これが差別化のためのイノベーションの課題だ

ウッズのコアとは天才的なゴルフの技能とその世界でのプレゼンスのことだ。コンテクストとは彼のCM出演や彼の名前を冠したゴルフ用品ブランドビジネスなどを指す。前者があっての後者なのだから、ウッズはゴルフの天才ぶりにこそ力を入れるべきだ。決して後者に注力すべきではない。これは誰でもわかることだ。

しかし、多くの企業がコンテキストに注力して失敗している、と著者はいう。競合優位性への貢献度ではなく、収入の比率に従って資源を配分してしまう。見かけ上、儲かっている部門に注力すればよいと思い込んでしまうのだ。

市場の変化によって、コアだったものがコンテキストになることがある。競合優位性の源泉であったものが、競合企業が模倣することで中立化し差別化要素ではなくなる。だから、企業は常にコアとコンテクストを見直し、適切な時期に次のコアを作り出さなければならない。

もうひとつのキーワード「慣性力」はその意思決定に影響を及ぼす。成熟した企業組織が過去のやり方を踏襲しようとする保守の力のことだ。この力は当初の戦略がぶれないように助けてくれる成功の源であると同時に、変革が必要な時期にそれを妨げる抵抗力ともなる。

大切なのは今、企業や技術や市場が、ライフサイクルのどの位置にあるかを正しく見極めることだ。新しいテクノロジーは最初は熱心なテクノロジー信奉者に受け入れられ小さな市場を形成する。この初期市場がマスメディアやクチコミによって増幅され、普通の人たちもテクノロジーを使いはじめる。この分水嶺がキャズムであり、前著のメインテーマであった。

・テクノロジー導入ライフサイクル
初期市場→キャズム→キャズム越え→ボーリングレーン→トルネード→メインストリート
本書では、さらに視野を拡大し、より大きな市場のライフサイクルから、企業の栄枯盛衰を説明している。たとえばカテゴリー成熟化ライフサイクルという大きな流れだ。

・カテゴリー成熟化ライフサイクル
成長市場→成熟市場→衰退市場→ライフサイクルの終わり

こうした市場の各ライフサイクルの中で、求められるイノベーションは異なるものになる。この本では100社以上のケース分析から、14のタイプのイノベーションをひとつずつ解説していく。適当なイノベーションによって、コアとコンテキストの配分、慣性力を最適化させるものこそ長期的な勝者になるということである。

「イノベーションのジレンマ」3部作のクリステンセンや、競争戦略論の古典のマイケル・ポーターなどと一緒に読むと、さらに深く理解できる。ITマーケティングに関わる人におすすめの一冊。

・明日は誰のものか イノベーションの最終解
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004017.html

・イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002943.html

・競争戦略論〈1〉
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001165.html

・USEN宇野康秀の挑戦!カリスマはいらない。
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この本は、動画配信サイトGyaO事業のほか、個人の資本でライブドアを買収したことでも話題の、USEN宇野社長を、元記者のフリーライターが取材して、タイムリーな内容にまとめている。

先日、動画配信サイトのGyaOは1周年を迎えている。ユーザ登録数は900万人。

・完全無料ブロードバンド放送「GyaO」が、開局1 周年を迎え
視聴登録者数900 万人を突破
〜携帯電話向けサービス「モバイルGyaO」も本放送を開始〜
http://www.usen.com/admin/corp/news/pdf/2006/060425.pdf

「株式会社USEN(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:宇野康秀、以下 USEN)が
運営する完全無料ブロードバンド放送「GyaO」(ギャオ URL:http://www.gyao.jp/)の視聴登録者数が4 月22 日に900 万人を突破し、本日開局1 周年を迎えましたので、お知らせいたします。また、3 月27 日より試験放送を行なっていた携帯電話向け無料動画放送サービス「モバイルGyaO」も、本日より本放送を開始いたしました。」

GyaOはこの本でもそのような記述が出てくるのだが「なんてことはない」サイトである。ブロードバンドで動画を配信するサイトなんて珍しくもなかった。昔からあったが、ネット向き低予算の番組や、あまりもの、間に合わせ的な内容ばかりだったから、ヒットしなかった。GyaOがユーザの心をつかんだのは、アカデミー賞受賞作を含めた人気の映画や、韓国トレンドのテレビ番組など、”本物”の映像を流したから、である。

USENの財務状況のサマリーがある。売上高600億円の放送事業で「安定的な収益を確保」し、500億円に近いカラオケ事業で「安定的な伸び」を得て、240億円のBB・通信事業で「増収増益」、そして150億円のGyaOとGagaの映像・コンテンツ事業が「今後、期待する事業」とされている。安定した財務基盤があったからこそ、GyaOのコンテンツの無償提供が可能になった。

ブロードバンド参入時に蓄積していた著作権処理のノウハウもある。十数種類もの契約書を著作権処理に使い分け、契約をスピードアップして他者に差をつける。番組を編成するプロを呼んで、放送と同じように局づくりを行っている。

既にカリスマのイメージがある宇野社長だが、本人はカリスマ性がないと考えているらしい。カリスマが統率するのではなく、一つのボールを追いかける子供のサッカー的な経営をしている様子が紹介されている。買収したライブドアの、強烈なカリスマであったホリエモンとは対照的な人物であるようだ。

GyaOの登録者数が1千万に達するのはもうすぐだ。次は収益化がいつ達成されるのか、買収したライブドアをどうするのか、業界の注目が集まっている。

GyaOを含めて、動画配信サイトの動向は、「テレビとネットの近未来」でも追跡しているのでご参考まで。

・テレビとネットの近未来 ブロードバンド・ニュースセンター:
 動画配信サイト のカテゴリ
http://www.tvblog.jp/tvnet/archives/cat159/cat160/index.html