Books-Economy: 2008年10月アーカイブ

・オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで
515a3GbviL__SL500_AA240_.jpg

オークションの研究から人間の不合理性が次々に明らかになる。面白い。

冷静に考えれば、オークションにおいては、自分にとっての私的価値を明確に持ち、他の参加者がどんな入札をしようとも、自分の評価値を超えたら入札しない、というのが支配的戦略のはずである。そして早期入札は避けるべきだ。ライバルに情報を与えず、競り上げを回避するためには、終了直前の狙い撃ち入札がベストの方法になる。早めに入札することで買い手が得をすることはほとんどないといってよい。

ところが、実際のオークションは早期入札と競り上げ現象によって沸騰している。落札者がオークション後に高値落札を後悔する現象「勝者の呪い」はあまりに一般的だ。入札者の評価値は大抵の場合は漠然としていて入札中に変動してしまう。私もよくネットオークションには買い手として参加する。この支配戦略のことは頭では理解しているのに、いつのまにか不合理な入札を繰り返してしいる。

この本はこうした現象について、

「買い手が商品ついて確固たる価値を付けられない状況は、共通価値モデル、もしくは採掘権モデルと呼ばれる数学的なモデルで表すことができる。採掘権モデルは、原油採掘権がオークションにかけられたとき、採掘者は確実な利益を得ることができる一方、買い手は油田に対して見込んだ利益しか手にいれることができないという状況から名前が付いた。買い手は原油採掘から得られる本当の価値とランダムに作用するノイズから成るシグナルを入手すると考えることができる。共通価値モデルでは、買い手の評価値が相互依存しているという点が重要である。言い換えると、買い手の価値は統計的にみると相関しており、早い段階で公にされた入札額は、他の人にとって有用な情報をもたらすのである。」
と説明している。これで自分の不合理な行動の理由が分かった。

私の場合、入札するのは中古フィルムカメラだ。この商品には希少性によって決まる機種別の相場がかなり明確にあるのだが、個体のコンディションによっても価格がかなり上下する。入札の公開情報だけでは確固たる価値の算定がなかなか難しいのだ。迷いがある。そこへ早期入札者が現れて高い価格をつけると、私の私的価値に強烈な影響を及ぼしてしまう。IDを調べれば商品に詳しい人物(多くは業者)かどうかが分かる。すると、そうそう、これはこのくらいの価値はあるよなと思えてきて、再度入札してしまうのだ。

・競争相手に負けたくない
・一時的にせよ最高の入札者になるのが気分が良い
・明日は忙しくて入札できないかもしれない

などの心理も過剰な入札につながる。

この本には、ネットオークションを分析した結果、

・オークション開催期間は1週間で週末に終わる設定が買い手に有利(週末効果)
・買い手は送料のことは忘れていることが多い(心の勘定)
・ネットオークションにも(米国なのでほとんどがイーベイの事例)買い手の談合などの不正が蔓延している

ことなどが紹介されている。売り手、買い手が不合理を積み上げた結果、オークションは盛り上がっているということなのかもしれない。

プリンストン大学コンピュータサイエンスの教授が、行動経済学、実験経済学、ゲーム理論を総動員して、オークションの不合理性の正体を次々に明らかにしていく。そして、効用や均衡などの考え方から、買い手、売り手にとって何が最適な戦略かを分析する。数学モデルも明解に提示される。人間の欲望や感情による不合理性が計量化されているのだ。

・ラーメン屋vs.マクドナルド―エコノミストが読み解く日米の深層
41ivyzJOnlL__SL500_AA240_.jpg

日米事情に詳しいエコノミストの経済比較、文化比較。

アニメ一作品の売上高を比較するとディズニーやハリウッドの予算は大きい。大きいが故にコンテンツとしての弱点ができる。「ビッグビジネスは大きな興行収入を目標に掲げなくてはならないので、市場の最大公約数的な需要・好みを対象にして製作される。」。わかりやすいがエッジが立ったものが出てこない。

「ところが日本のアニメや漫画には、「ラーメン屋的供給構造」が根強く残っている。最大公約数の需要(好み)よりも、製作者が自分らのセンスにこだわって、多種多様なものを創出、供給している。従って、ひとつずつのビジネスの規模(売上)は小さいが、多様でユニークなものが供給される。その結果、意外性や驚きのあるものが多く、面白い。」

漢字や仏教、民主主義など異文化を巧妙に内側に取り込んできた雑多性のダイナミズムが日本のアニメの創造力につながっているのではないかと分析されている。人種のるつぼでありながら何かと収斂傾向のあるアメリカとは対照的である。

「私のリーダーシップを受け入れるならば、難局は打開できる」と希望を語る大統領と「日本はこのままではダメになる」と危機を語る総理大臣という対比も面白い。実際に総理大臣の国会での発言を言語分析すると危機や難局などのネガティブなキーワードが多いそうである。危機を煽って国民を動かす。

日本人は論理的なディベートよりも情緒の共有を重視する。不祥事の際の対応として経営者の「慟哭の謝罪」とかが好きな国民なのだと著者は嘆き口調。著者自身の米国経済人たちとの積極的なディベート武勇伝をいくつか披露する。ブログでは日本人は世界一のカキコミ数を誇る。「俺にも言わせろ」衝動は日本人にも十分にあるのだから解き放てとすすめる。

「日本人よ、万羽のミニハゲタカとなって瀕死の巨象を啄もう!」が笑えた。「金融・投資の「専門家」達が投げている今こそ、ミニハゲタカ気分で大幅下落した米国のREITや大手金融株の物色を考えてみようではないか。」という前向きな日本人への提案。そのとおりかもしれない。

さまざまなデータで日本と米国のイメージを検証していく。日本の格差拡大はウソとか、個人の投資行動が慎重というのもウソとか、俗説を覆すデータが提示されていて、それぞれ説得力がある。

かつて米国が日本の経済や経営を成功例としてお手本にした時代があった。立場は時代によって入れ替わる。経済力の高い国のやり方がなんでも正しいとは限らない。著者の強気の日米比較論を読むと、もはや米国に見習うのではなく、どう互角にやりあうかを考える時代への突入のような気がしてきた。

・日本のお金持ち妻研究
41eTZvCdEML._SL500_AA240_.jpg

日本人のお金持ちの奥さん達はどんな人たちなのかを真面目に研究した本。「日本のお金持ち研究」の番外編。大量のアンケートと統計分析から隠れた実態を探る。家庭における消費の主役である主婦、しかも富裕層の妻のプロフィール、考え方、行動パターンというのは、ビジネスマンとして気になるところだ。

庶民が想像するお金持ち夫人の典型イメージがある。専業主婦で豪邸でお手伝いさんを雇い、ブランド好き、教育熱心、優雅だがお高くとまっている、など。だが実像はかなり違った姿であることが判明していく。

まず彼女たちがお金持ちの妻になったきっかけである結婚を徹底分析する。俗説から次のような3つの仮説も立てて検証していく。

・玉の輿仮説:彼女たちは容姿端麗でお金持ちに見初められたのか?
・同類リッチ婚仮説:お金持ちの家に生まれてお金持ちと結婚したのか?
・糟糠の妻仮説:貧乏だった夫を支えて成功させたのか?

一般人との違いで目立つのが妻たちの学歴の著しい高さだった(夫たちも当然、高学歴が多い)。妻から見て学歴は同じか、より上の男性と結婚する「上方婚」が多い。世代間の富の連鎖は存在していた。夫も妻も両者がハイクラスの環境の家に育っている場合が多い。貧しい家から美貌で見初められてお金持ちの家へ嫁ぐという玉の輿の典型パターンは実際には少ないようだ。

中流家庭に生まれ勤勉堅実な生活と高い知性をみにつけた女性が、キャリアウーマンを経て富裕層の妻へ転身していく。妻の潜在的な能力の高さがその後の家の経営を成功に導くということらしい。富裕層の家計を見ると月々の生活費は平均200万円。うち消費するお金が110万円、貯蓄や生命保険70万円、ローン返済20万円となる。比率を見ると貯蓄や投資が多い。「消えてなくなってしまうような使い方ではなく、さらに増えてしまうような使い方をしているのである。」。

多くの妻がファミリービジネスの会社の経営者に就任している。専業有閑マダムというわけではないことが多い。これは節税就労の側面もあるが、妻が高いファイナンシャルリテラシーを身につけているということでもある。子供に倹約精神を教えたいという家庭が多い。でも儲かる投資、節税行動も忘れない。

わかりやすい事例が紹介されていた。見栄っ張りではないのでブランドものを買い集めたりはしない。だが衝動買いしたものを尋ねたところ「「割安だったので(ある有名な土地の)別荘を、つい買っちゃいました。」と答えた。この別荘に支払った代金は、後々別荘を売却した時に、ほとんど同額が回収されるか、さらに増えて戻ってくる」だろうという話だ。

統計にでてきた富の世代間連鎖はお金持ち優遇の諸制度も一因であろうが、お金を増やす知識を持つ妻を迎えることで、一族のファイナンシャルリテラシーが代々引き上げられていくことにもあるのだろう。

・美貌を磨くよりも知性を磨いた方がお金持ちの妻になりやすい。
・多くの富裕層が収入より遙かに低い支出で生活している。
・投資と節税にポイントを置いた経済活動の具体例

などの興味深い事実を知ることが出来た。

ちなみに逆玉ってどうなんでしょうね?次はそのテーマで書いて欲しいなあ(笑)。

・新世代富裕層の「研究」―ネオ・リッチ攻略への戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-491.html

・日本のお金持ち研究
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003412.html