Books-Economy: 2009年3月アーカイブ

・貧困連鎖 拡大する格差とアンダークラスの出現
41jpNSayZ0L__SL500_AA240_.jpg

一般に最低限必要と思われる生活費の水準を貧困線と呼ぶ。OECDの計算では日本の貧困線は一人暮らしなら約150万円、二人家族212万円、三人家族259万円、四人家族300万円。日本の貧困率は14.9%。現代日本では7人に1人くらいが貧困層に所属しているそうだ。特に若者と単身女性の貧困が目立つ。一億層中流という前提はとっくに崩れ去っている。

この本に引用されている「民間サラリーマンの給与階級別人数分布」によると、21世紀になって年収500万円から1000万円の中流サラリーマンが急減し、300万円未満の層が激増している。伝統的な労働者階級の収入に満たない「アンダークラス」層が就業者全体の22.1%をも占めるようになった。一方、資本家階級とホワイトカラーのエリート層は接近している。かつての総中流層が上下に引き裂かれた形である。

この格差拡大から利益を得るのは3割の資本家階級+新中間階級の層だ。そして格差は固定化に向かっている。統計的には、資本家階級を親に持つ子供は資本家階級になり、労働者階級を親に持つ子供は労働者階級にとどまる傾向が顕著だ。資本家階級生まれはそうでない人の9.8倍も資本家階級に所属しやすいという計算が紹介されている。

格差の固定は男だけでなく女もそうである。

「資本家階級の父親をもつ女性は、15.8%までが夫も資本家階級になっているが、この比率は他の女性では4~7%程度にすぎない。庶民の娘が、資本家階級の息子と結婚することによって豊かな結婚生活を送るという、いわゆる「玉の輿結婚」の可能性は、かなり小さいと考えた方が良い。」

玉の輿というのは20人に1人くらいなわけだ。

こうして固定された階級が男女の独身率や出生率、平均寿命に強く影響する。貧しい層は独身が多くて、子供を作れず、短命であるという厳しい現実が統計数字で示されている。例えば所得800万円以上の男性の独身率は6%だが100万円未満では55.4%が独身である。女性の場合は結婚しないでいると貧困に陥る傾向が見られる。

著者はこうした格差拡大は政府や財界が「機会の平等」を推し進めすぎた結果だと指摘する。一見、民主的で公平なスローガンだが、能力競争を勝ち抜くために必要な教育を受ける機会は親の世代の経済力に左右される。東大生の親は上位の階級ばかりというような現実がある。門は開かれていても労働者階級が上位の階級にあがることは困難になっている。

著者は格差拡大に対して、最低賃金の引き下げ、ワークシェアリング、生活保護制度拡充、金融資産への課税、相続税最高100%まで大幅引き上げ、教育機会の平等化などの施策を示している。

格差の大きさを表す指標のジニ係数値をみると日本は先進諸国中では米国、イタリア、英国に次ぐ比較的大きな格差の国になってしまった。スウェーデン、オランダ、フランスなどは格差が小さく、貧困率が少ない。経済の活力である「機会の平等」を維持しながらも、格差を縮めていく努力を、経済力では下位の国でも社会的には豊かな国に、日本は学ぶ必要があるような気がする。