Books-Economy: 2010年1月アーカイブ

・「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち
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嫌消費とは、1979年から83年までに生まれた(現在20代後半)バブル後世代に強く現れた消費行動パターンのこと。彼らの生活を調べると、収入が十分にあって、さらに増えても、消費を増やさない傾向が顕著に出ている、という。独自の大規模調査により、欲しがらない若者たちの実態を明らかにし、企業が彼らに物を買わせるにはどうすべきか有効な戦略を分析する。

嫌消費世代の62%は独身社会人で、22%は子育て中、14%は既婚子なし、全体の58%は親と同居している。正規雇用は48%。平均年収は300万円未満が62%を占める。ただし、嫌消費傾向が強いのは、中でも300万円~400万円の常時雇用層であり、必ずしもお金がないから物を買えないというロジックでの消費抑制ではない。むしろ彼らは買い物好き、みせびらかし好きという傾向が認められるそうだ。

嫌消費世代が買わないのは3K(自動車、家電、海外旅行)。逆にゲーム、ファッション、食、家具インテリアなど日常性、必需性、ローリスク性の高いモノを積極的に求める。衣・食・住が3種の神器だ。本書後半では彼らの停滞した消費意識に対して需要刺激の方法論を著者は提案している。

劣等感と、上昇志向、他者指向、競走施行が彼らの世代意識だと著者はいう。14歳で阪神大震災、地下鉄サリン、17歳で金融ビッグバンと相次ぐ金融機関の破たん、大学卒業時に就職氷河期を迎えた彼らは、未来に明るい希望を持てない。10歳以降インフレ体験がなかったため、物価はゆるやかに下降するもの、発売後すぐ買うより待った方が得という経験知を体得してしまった。物を売りたい企業にとっては難敵であり、こうした層がさらに拡大していけば、日本経済の発展に影響する。

「嫌消費は、企業や産業に市場の量的な縮小をもたらすが、変革の機会ももたらす。そして製品革新、売り方やマーケティング革新、産業イノベーションによって、過少消費を最適消費へと変えることができる」と著者は前向きなとらえ方も示している。

嫌消費は恋愛市場における「草食男子」に通じるものを感じる。良い悪いというよりは、もはやそういうものなのであり、がんばって肉食を売るのでなくて、洗練された草食食品をつくってうるべきなのだ。彼らに売れるものは外の世界でも通用するものかもしれない。

ところで本屋でこの本をみたとき、嫌消費というネーミングは、著者やこの本の想定読者層(おじさん、おばさん)の消費は美徳という価値意識を表しているなあと思った。「堅消費」とか「賢消費」だったらだいぶ印象が異なっただろう。余暇と浪費の世代と比較したら、彼らのほうが道徳的に(地球環境的にも)まっとうなのだから。