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初夜

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・初夜
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喜劇のような悲劇、あるいは、悲劇のような喜劇。イアン。マーキュアン作。

「彼らは若く、教育もあったが、ふたりともこれについては、つまり新婚初夜については、なんの心得もなく、彼らが生きたこの時代には、セックスの悩みについて話し合うことなど不可能だった。いつの時代でも、それは簡単なことではないけれど、彼らはジョージアン様式のホテルの二階の小さな居間で、夕食のテーブルに着いたところだった。隣の部屋には、ひらいたドア越しに四柱式のベッドが見える。幅はやや狭めだが、ベッドカバーは純白で、しわひとつなくピンと張り、人の手で整えたとは思えないくらいだった。」

という出だしから始まる。

1962年、まだ保守の空気が濃厚だった英国で、ある夫婦の結婚初夜の事件について、ゆっくりと語られて、それだけで一冊が終わる。歴史学者志望の夫エドワードとバイオリニストの妻フローレンス。新潮クレストなので終始、上品で優美さは失わないのだけれど、あまりに深刻に童貞と処女の悩みが語られるものだから、吹き出しそうになる。

初体験であるがゆえの焦りや過剰反応のもたらす滑稽さ。それが二人の人生に致命的な結果をもたらしてしまう。若いときの深刻な決断って性に限らず、往々にして、はたから見たら滑稽なのだけれど、それが分かる頃にはもう若くない。青春のままならなさを描いた作品ともいえるわけですが。

純文学×恋愛×官能×喜劇×悲劇×歴史×... ユニークな作風が強く印象に残って、面白かった。ストレートじゃない独特な恋愛小説を読みたい人におすすめ。読みやすい。

横道世之介

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・横道世之介
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読み終わってページを閉じたとき、思わず本を抱きしめたくなる、いい本です。

現在40歳前後で80年代後半に東京で大学生だった人に特におすすめです。

横道世之介はこれといった取り柄のない普通の大学生(おそらく法政大学)。長崎から上京して一人暮らしを始めた1年生の12カ月が毎月1章で語られ、計12章でこの小説は構成されています。

一人暮らし(東久留米)、アルバイト(高級ホテル)、サークル活動(サンバ愛好会)、夏休み、旅行、学園祭、自動車教習所...。友情と恋愛もいくつも経験します。世之介の大学生活はそれなりにユニークなものですが、当時の大学生ならどこか自分の体験に似た懐かしさを感じさせるシーンの連続でもあります。

大人になって学生時代の思い出を振り返るとき、あいつはいい奴だったなあ、でも今どうしているだろうかと、みんなに思われるのが、世之介です。草食系のおひとよし。周りに人は集まってくるし、女の子だって寄ってくるのですが、淡い交わりでよしとしてしまうから、記憶に薄くしか残らない。

横道世之介は、20年前の思い出の中に、忘れものを取りに行くような体験ができる小説です。多くの初体験の不安や期待を思い出させてくれて、懐かしさがこみ上げてきます。そして、当時は自分のことばかりに必死で見逃していた細部にも、きっと多くのドラマがあったのだということを教えてくれる作品です。

いい本読んだなあとしみじみ。

・学問
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1130.html
感動青春小説としてはこの作品が好きな人におすすめ。

・小さいおうち
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古き良き昭和モダンの設定+メタレベルの仕掛けがよく効いている。面白かった。

「わたしが奉公に上がった時代、昭和の初めになれば、東京山の手のサラリーマン家庭では、女中払底の時代になっていたのだから、「タキや」と呼びつけにされるようなことは一切なく、かならず「タキ」さん」と、「さん」づけで呼ばれ、重宝がられていたものだ。東京のいいご家庭なら、だいたいそうであろう。わたしがその仕事についた時代は、「よい女中なくしてよい家庭はない」と、どの奥様だって知っておられたものだ。」

昭和初期、赤い三角屋根の小さなおうちで住み込み女中をしていたタキが、60年後に遠い昔を振り返る回想録がこの作品の大半を占める。とてもお上品な「家政婦は見た」。この家の女中であることに満足し、終の棲家とまで考えていたタキは奉公先で大切にされて、家族同様に暮らす。

だが、美しい奥様、玩具会社常務の旦那様、手のかからないおぼっちゃまと4人で過ごした幸せな日々に、やがて戦争の暗い影が忍び寄る。小さなおうちの一家にも激動の時代が訪れ、そのうねりの中で、やがてタキは、幸せそうな家族が内に秘めていた感情を知ることになる。

女中タキの長い昔話。よく再現された昭和モダンの懐古作品としても非常に味わい深いものがあるのだが、最終章でこの語りの本当の意味が明かされる。最終章がなくても80点の小説だが、メタレベルのラストが作品に奥行きを与えて、見事100点となる。納得の直木賞受賞作。

怪、刺す

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・怪、刺す
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怪談と挿し絵で、「怪、刺す」。

『新耳袋』で有名な怪異蒐集家・木原浩勝と、ホラー漫画の伊藤潤二がタッグを組んだ怪談絵噺。テキスト6,7ページ、数枚の挿し絵があって一話という独特のスタイルで九話。短いがどれもクライマックスがゾクっと怖い。

この二人の組み合わせは相性がいいと思う。伊藤潤二単独のホラー漫画は『うずまき』みたいに、現実離れしていてファンタジーだ。自分の身におきるんじゃないかというリアルな怖さがうすい。この作品では実話を怪談作品に仕立てる名手、木原浩勝の原作を描くことで、本物の怪談になった。

私は怪談が大好きだ。子供の頃、夏休みにお昼のワイドショーで放送していた「あなたの知らない世界」をかかさずに見ていた。身近に起きそうな心霊や呪いの話にびびりながら、絶対安全な自宅の茶の間で、これまた怪談好きだった祖母と一緒に、かき氷なんかを食べながら見ていた。原体験が、そういう実体験ベースの再現映像にあるせいか、実話のクレジットがないと興味がわかない。創作だと全然怖くないし、聴く価値さえ感じないのである。

そういう実話怪談へのこだわりの人におすすめである。新耳袋に視覚要素が加わって一層よいかんじ。静かな深夜にひとりで読もう。騒がしい電車とか、おしゃれなカフェで読むべきではない。もったいない。ふと目をあげたとき暗い窓の向こうになにか見えそうで怖くなる、そんな本だから。

この二人には続編を毎年夏に出してほしい。

スペシャルとして、巻末に伊藤潤二の読切り漫画もついている。

・実話怪談「新耳袋」一ノ章
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/10/post-298.html

通話

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・通話
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「『通話』―スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と"僕"の奇妙な友情を描く『センシニ』、第二次世界大戦を生き延びた売れないフランス人作家の物語『アンリ・シモン・ルプランス』ほか3編。『刑事たち』―メキシコ市の公園のベンチからこの世を凝視する男の思い出を描く『芋虫』、1973年のチリ・クーデターに関わった二人組の会話から成る『刑事たち』ほか3編。『アン・ムーアの人生』―病床から人生最良の日々を振り返るポルノ女優の告白『ジョアンナ・シルヴェストリ』、ヒッピー世代に生まれたあるアメリカ人女性の半生を綴る『アン・ムーアの人生』ほか2編。 」

ラテン・アメリカの知る人ぞ知る小説家ロベルト・ボラーニョの短編集。

ボラーニョという作家を知りたくて読んだが読んだ後の方が、果たしてどういう作家だったのかわからなくなった。作風がバリエーションに富んでいて、どれも濃密。「ウディ・アレンとタランティーノとボルヘスとロートレアモンを合わせたような奇才」と評されたいたそうだが異能の複合体である。

ボラーニョは1949年にチリのサンティアゴで生まれて、メキシコへ移住、その後エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪して過ごした後、1984年小説家デビュー。90年代後半になって文学賞をいくつか受賞して、作家として注目を集めたが、2003年に50歳の若さで亡くなった。

この短編集は作風が雑多な印象があるが、敢えて言えば常にマイノリティの側に立った描き方をするのが特徴だ。無名の売れない作家や迫害される亡命者など、主人公たちはメジャーに対するマイナーの視点ででてくる。だが、彼らは不遇や権力に抵抗するというわけでもなくて、境遇を受け入れたうえで、そこに生きる意味を見出そうとする。マイノリティのしたたかな生きざまの文学である。

・日本のセックス
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色モノだけど大傑作。面白い娯楽小説をお探しならぜひ読むべきです。

それにしてもなタイトルなのでカバーをつけないと外で読めませんが、横着な私はカバーはつけないで、帯をずらすことで背のタイトルを隠しながら(日本の、だけ見える状態にする)、電車で読んでいました。でも、それだとやっぱり、前の人に「のセックス」を読まれちゃうかもしれないですし、卑猥な言葉ばかりの本文が隣からのぞかれちゃうんじゃないかとドキドキで、落ち着きませんから、やっぱりカバーをつけてゆっくり読むしかないですね。あ、ちなみにこれは小説です。

美人の妻を他人に抱かせることに無上の喜びを感じる佐藤と、そんな変態の夫に従って300人以上に抱かれ、マニアの雑誌への投稿にも同意する妻の容子(東大卒)。夫につきあわされているようなそぶりでいながら、実は容子も決してキライではないのだ。二人は週末にはスワッピングマニアのコミュニティに参加して、きわどい複数プレイを楽しんでいる。だが、爛れた複雑な人間関係が、やがてこの夫婦を悪夢のような事件に巻き込んでいく。

前半が強烈な官能小説で、後半がシリアスな法廷サスペンスで、最後は純文学もしているというバラエティ豊かな文体複合作品である。前半の官能部はマニア投稿雑誌の体験記のノリで淫猥描写の連続で読者の劣情を煽る。裁判が中心となる後半では、乱交プレイでオスとメスとして性に溺れた男女が、一転して社会生活を営むしらふの顔で登場する。その大きな落差がこの作品の魅力であり、日本のセックスの抑圧度の強さをあらわすものでもある。

むき出しの欲望が全裸になってリビドーを解き放てば、一瞬のカタルシスはあっても、その後には社会的カタストロフしかないという、滑稽で悲劇的なマニアの愛の宿命小説である。

創世の島

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・創世の島
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やられたー。少々読者を選ぶ気もしますがこれは面白いです。

世にも奇妙な"口頭試問"小説。

2075年、世界は戦争と疫病で壊滅している。世界の片隅にある富豪プラトンがつくった楽園の島には、幸運な生存者たちが集まっていた。彼らは海上にバリアを張り巡らし、武力でよそ者の侵入を拒み、内部には厳格な階級制度を持って秩序ある"共和国"を維持している。滅亡した人類が、再び文明をやり直す、第2の創世の島だ。

あるとき、島の少女アナクシマンドロス、通称アナックスは、島を統治するエリート養成機関"アカデミー"に入学するために、4時間にわたる口頭試問に挑戦する。島の支配階級への登竜門だ。最難関の試験で彼女が選んだテーマは歴史学、島の歴史に大きな影響を与えた人物「アダム・フォード」についての研究だ。アダムフォードは島に漂着した外の世界の少女を助けて、共和国社会にカオスをもたらした事件で知られる。

アナックスは試験官から、共和国の歴史、社会の在り方、アダム・フォードの評価、文明論、存在論など、幅広い知識や思想を試される。この小説は最初から最後までひたすらに、アナックスと3人の試験官との対話だ。緊張感のあるやりとりから、次第に"共和国"や登場人物たちの驚異の背景が明らかになっていく。

明るい表紙だが、中身はかなりハードSF設定。プラトン、アリストテレス、アナクシマンドロスなど登場人物の名前からもわかるように、この本は全体がギリシア哲学のパロディである。そしてテーマは人工知能と存在論であり、マーヴィン・ミンスキー、リチャード・ドーキンスが好きな人におすすめしたい。

ニュージーランドの作家バーナード ベケットは本書でエスター・グレン賞を受賞。

・ソングライン
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1987年にベストセラーとなった紀行文学の名著の復刊。

ソングラインとはアボリジニに伝わる、オーストラリア大陸にはりめぐらされた天地創造の道のこと。彼らの先祖たちは、ドリームタイム(神話の時間)になにもない大地を歩きながら、出会ったあらゆるものに名前を与え、歌に歌うことで世界を創造していった。その道は私たちには見えないが、アボリジニたちにとっては何万年も前から、世界の境界線を引く重要な役割を果たしている。

著者のブルース・チャトウィンは、実際のソングラインの放浪体験をもとにして、フィクションとしてこの紀行作品を書いた。オーストラリアの広大な大地とゆったりと流れる時間の中では、自然と人間にとって本質的なものに思索が向かう。アボリジニの神話や生き方に啓発される内容は多い。

作中には世界中を旅したチャトウィンが残した旅のノートの記述が大量に引用されている。そこには哲学者や作家の名言、旅先の人々の会話、見聞きしたことの考察、各地の伝承が、とりとめもなく集められている。

「人生は橋である。それは渡るべきものであって、家を建てるべきところではない。」インドのことわざ
「我々の本性は動くことにある─全き平静は死である」パスカル
「俺はここで何をしているのだろう」ランボー

流浪の人生に意味を見出そうとする言葉が目立つ。

チャトウィンはこの本を執筆中にエイズを発病しており、死の覚悟を持って書いた遺作だそうだ。文字通り、魂の放浪の記録といっていい大作である。放浪してきた気分になる。

乙女の密告

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・乙女の密告
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最新の芥川賞受賞作。

こんなに娯楽性たっぷりの芥川賞って珍しい。面白い。

京都にある外国語大学のドイツ語の授業。バッハマン教授はバラを口にくわえ人形を抱いて通勤するエキセントリックなドイツ人。教材が『アンネの日記』なので受講する学生は純真な乙女ばかり。

乙女たちはスピーチコンテストに向けて、『アンネの日記』の「1944年4月9日、日曜日の夜」をドイツ語で暗唱するという難しい課題に必死に取り組んでいる。教授は「乙女の皆さん、血を吐いてください」と努力と根性で死ぬ気で頑張れと檄を飛ばす。

乙女たちは「すみれ組」「黒ばら組」の2大派閥に分かれている。主人公のみか子はすみれ組だが、黒ばら組リーダーの麗子様(スピーチの女王で、「おほほほほ」と高笑いする)に密かに憧れている。

女の園は噂の園であり、囁きや密告が人間関係に危機的な影響を及ぼす微妙な緊張関係にあったのだが、コンテストを前に乙女たちの平和を脅かす、ある「黒い噂」が広まっていく。

表面的にはコミカルな表現の連続でテンポよく展開するので娯楽性が高い小説だ。同時に、ユダヤ人アンネ・フランクが生きた疑心暗鬼の隠れ家生活と、現代の乙女たちの閉鎖社会の心理が、ひねった形で重ねられており、悲劇と喜劇が同居する、実に独特な、わけのわからない深さが魅力である。

・オーディンの鴉
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ネットワークセキュリティがテーマのサスペンス小説。

東京地検特捜部が家宅捜索を予定していた朝、疑惑の国会議員が謎のメッセージを残して自殺した。主人公の特捜部検事たちは、ネット上に議員のプライバシーが悪意を持ってばらまかれていたことを知る。それは議員の移動、メール内容、買い物履歴、外出時に盗撮された写真など、異常なほどの詳細さの情報だった。

YouTube、ニコニコ動画、ブログ、検索エンジンなど、インターネットのサービスが実名で出てくるのが面白い。事件の捜査を続けるうちに、闇の勢力は主人公にも脅迫の手紙を送る。エシュロン、カーニヴォーのような巨大監視システムを持つ謎の組織の正体とは何なのか?。検察と犯罪組織の間に、ネットワーク技術を駆使した緊迫した攻防が始まる。

ITの専門家の視点で見れば、技術考証面ではやや甘い面も見られる(おそらく暗号化技術を考慮していないように思える)が、最新のネットワークテクノロジーが構築する監視社会の恐怖をうまく伝えていて、非常に面白い。

・水野真紀登場の作品紹介動画

・運命のボタン
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スピルバーグ、キング、クーンツらがレスペクトするというカリスマ作家リチャード・マシスンの13作品収録の短編集。

表題作の『運命のボタン』は最近映画化された(まだ観ていない)。

突然訪ねてきた男が、夫婦にこんな申し出をする。

「そちらでボタンをお押しになりますと、世界のどこかで、あなたがたのご存じない方が死ぬことになります。その見返りとして、あなたがたには五万ドルが支払われます」

あなたなら押しますか?という究極の選択の結末はいかに、という話。

ネタのユニークさとバリエーションに驚かされる。日本の作家で言えば星新一が近い。星のショートショートをちょっと長くして、寓話性よりも小説性を強くした感じといったらよいだろうか。読みやすさと意外な結末が魅力。

ジャンルとしてはSF、ミステリー、ホラー。

『二万フィートの悪夢』は米TV番組「ミステリーゾーン」と「トワイライトゾーン」(リメイク)の両方で見たことを思いだした。マシスン作品は映画やテレビドラマの原作をいっぱい書いている。読んでおくと語れる蘊蓄になる。

『四角い墓場』が超大作SF映画 Real Steelとして制作が進行中とのこと。公開は2011年クリスマスとのこと。スティーブン・スピルバーグとステイシー・スナイダーが製作総指揮、ナイトミュージアム2」のショーン・レビ監督で期待できそう。

・モノクロSFX作品にハマる アウターリミッツ、ミステリーゾーン、ウルトラQ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/07/sfxq.html

・エレンディラ
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ノーベル賞作家ガルシア・マルケスが書いた"大人のための残酷な童話"6つの短編と表題作の中編を収録。

「大きな翼のある、ひどく年取った男」
「失われた時の海」
「この世でいちばん美しい水死人」
「愛の彼方の変わることなき死」
「幽霊船の最後の航海」
「奇跡の行商人、善人のブラカマン」
「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」

やなぎみわのアート写真がきっかけで、原作を読んでみようと思ったのだけれども、写真家の創作意欲をかき立てた理由がわかった気がした。エレンディラだけでなく、他の6つの作品もイメージ喚起力が衝撃的だった。

特に「大きな翼のある、ひどく年取った男」が強烈。下界に落ちてきた天使が村人たちに監禁虐待されてボロボロにされる悲惨な話。大江健三郎の「飼育」を思いだした。あちらは第二次世界大戦中に日本の山中に米軍の飛行機が墜落して、黒人兵が捕まって、村人たちに"飼育"されてしまう話だった。異質→恐怖→排除。いつでも一番怖いのは無知な人間なのだ。

「この世でいちばん美しい水死人」は、浜辺に流れ着いたハンサムで肉体美の男の水死体があまりに美しかったので村の女も男も群がって弔うという話。「奇跡の行商人、善人のブラカマン」はどんな毒にでも効くという解毒剤を売るイカサマ師の話。死と笑い。ラテン系らしいメメントモリなメッセージがすべての作品に織り込まれている。

短編集だが幻想的、神話的、宗教的なマルケスの魅力がよくでている。

光媒の花

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・光媒の花
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これは抜群に面白い。おすすめ。

「この全六章を書けただけでも作家になってよかったと思います。」と、ベストセラー連発の道尾秀介にとっても、これは会心の作品であるらしい。

ある街を舞台に、表向きは普通に見えながら、心に深い闇を抱えて生きる人たちの連作群像劇。6つの物語の主役たちは年齢性別や職業はさまざまで、同じ街に住んでいるという点をのぞいて深いつながりはない。前の作品の脇役、端役だった人間が続く作品では主役になる。次は誰の視点に飛ぶのかなあと想像しながら読むのが楽しい。

「光媒の花」は、「風媒花」(風が花粉を運ぶ花)や「鳥媒花」(鳥が花粉を運ぶ花)から連想した造語らしい。人生の光と闇を媒介として、6つの物語の花を受粉させていく一匹の蝶の目線で、読者は前の花から次の花へと跳んでいく。

悪い人だと思っていた人にもそれなりの理由があったり、事故だと思っていたことが事件だったり、ひとつの現実を異なる視点から見ることで、世界の重層感が増していく。全体的に殺人、レイプ、虐待、少年犯罪と暗いエピソードがならぶが、希望や救いを必ず描いているのがいい。

山本周五郎賞受賞作。

・千年樹
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/post-1215.html違う作家だが、最近読んだおもしろい連作短編と言えばこれもよかった。

花伽藍

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・花伽藍
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主にレズビアンの恋愛を官能的に描いた短編集。

「たづさんの中で射精したい。二人の赤ちゃんがほしい。ゆずちゃんの代わりにあなたに授けてあげたい」

身体の構造でも結婚という制度でも、結局結ばれることができない宿命の女同士が、激しく愛し合う。排除された者の孤独が精神的なむすびつきを異性以上に強いものにする。そして一度は2人だけの愛の世界を作り上げるけれども、構造と制度の問題は、やがて二人の世界にもひび割れをもたらしてしまう。

とりわけ夏祭りの夜に太鼓をたたく女が自分を熱く見つめる浴衣の人妻と、底なしの穴に落ち込んでいくような恋愛をする『鶴』が鮮烈。

この短編集の5つの作品には年齢の異なる女性がでてくるが、全体として同性愛の女性たちの一生を描いている。最後の作品『燦雨』は高齢のカップルが、それぞれの家族の反対を押し切って、2人で暮らして、互いの最期を看取るという内容。高齢化が進めば、同性愛者の高齢化というのも進むわけで、ここに描かれた物語は現実にも増えるのかもしれない。

切羽へ

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・切羽へ
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先日、ある会議でゲーム「ラブプラス」に抱くバーチャルな恋愛感情は、本質的にプラトニック・ラブであり、本物の感情と何も変わらないと熱く論じたところ、プラトニック・ラブという言葉をわかってもらえなかった。それくらいプラトニック・ラブの概念は死に瀕している。この作品はそんな時代に真正面からプラトニックの価値を追究している。

のどかな離島の小学校で養護教諭をしている主人公セイは、画家の夫と平和で幸福な日々を暮らしていた。ある日、セイは島に新しく赴任してきた新任教員の男と出会う。男にどうしようもなく惹かれてしまう自分にきがつく。何の不満もない夫との愛情生活と、秘めた男への感情が並行しながら、しだいに緊張感を高めていく様子が描かれる。

タイトルの切羽(きりは)とは、トンネル工事の最先端部のこと。両側から掘っていって二つの切羽がつながるとトンネルが開通する。切羽がつながるまで、地の向こう側の、相手の存在を思いながら掘り進むわけである。掘る人は相手の存在と向こうもこちらに向かっていることを闇雲に信じているのである。

恋愛というのは2人でするものとは限らない。男女関係の開通にいたる前は、切羽の先に相手がいることを信じて、1人で思いを高ぶらせているだけだ。心にうかぶ相手の姿はどこまでもバーチャルである。で、それは高嶺 愛花や小早川 凛子や姉ヶ崎 寧々と何が違うのか?という冒頭のラブプラスの話になる。ふたりで燃える前にはひとりで萌える段階があるのだ、必要があるのだ。

この切羽へはプラトニック・ラブでありながら、やたらと官能的で、なまめかしい小説になっている。田舎生活でこれといった事件は何も起きないのにスリリング。文章は読みやすくて美しい。この作家の力量は凄いなあとしみじみ実力を納得させる第139回直木賞受賞作。