Books-Fiction: 2008年1月アーカイブ

最近、はまっている漫画家のひとりが浅野 いにお。まだ20代らしいが将来の大物登場の予感。

おもに現代の若者たちの明るくない青春を描く。

多くの作品では、先行きが見えない日本の社会や、人間関係が希薄な都市生活、機能不全に陥っている学校などが舞台になっていて、格差やニートやいじめや自殺など、あらゆる日本の諸問題が背景にでてくる。社会のゆがみやひずみに翻弄されつつも懸命に生きる人たちが主役である。

多面的、多元的に世界を描くことで、陥りがちな「説教臭さ」を回避している。たとえば「ひかりのまち」「素晴らしい世界」はひとつの世界を舞台にした連作短編で、話ごとに主人公が変わる。前回のわき役が次回の主役になったりする。前回に主役を襲った通り魔やストーカーが、次の主役になったりするのだが、どちらの視点にもリアルな諸事情があって、いつのまにか対立する価値観の双方に感情移入してしまった。

物語を語る技法も凝っている。伏線張りまくりの群像劇が多いのだが、表現でも大胆な挑戦をして成功している。たとえば「おやすみプンプン」は主人公がぺらぺらの紙として描かれる。名前だって「プンプン」だから匿名みたいなものだ。第1話を読んだとき、こんなに主役の姿を記号化してしまったら厚みが出ずに長編は厳しいのでは?と思ったが、顔がないことで、いつのまにか昔の自分=プンプンという風な想いで読むようになっている。技巧派なのだけれども、技がいきていて、読者はすっと世界観に入りやすいのだ。

浅野 いにおが描く漫画の内容は、時に絶望的であったり猟奇的であったりするのだが、、バッドエンドでも救いを残す終わり方をする、というか、ぼんやりと明るい方向で終わるものが多い。だから安心して読めるのが、私がはまった理由でもあるなあ。

以下、代表的な作品をおすすめの順で並べてみた。

・おやすみプンプン 1
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実験的表現技法が成功した印象的な作品。小学生のプンプンが現代にありがちな家庭の不和や学校の事件に巻き込まれながら成長していく姿を描く。まだ連載中だが既刊の2巻で小学生編が一区切り終わる。

・素晴らしい世界  1
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浅野いにおの基本スタイルが一番典型的にでているのがこの連作短編かなあと思う。複眼的に現代社会に生きる人々を描いた群像劇。全2巻。

ひかりのまち
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新興住宅地で自殺したい人をネットで見つけてはその幇助をするのが趣味の子どもと、それを取り巻く不気味な大人たちの人間模様。

・ソラニン 1
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映画化決定。バンドの成功を目指して挫折した若者と、彼を応援して同棲中の彼女が、なんとか将来に希望を持って生きようとするのだけれど...。全2巻。

・臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ
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「臈たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ」

まずタイトルをどう読むんだという話である。

「臈たし」は「らふたし」で、意味は大辞林によると、

[1] (女性が)洗練されて美しくなる。優美である。
[2] その道の経験を積む。年功を積む。

という意味である。

わからない人は辞書をひけばいいし、辞書を引きたくない人は読まなければいいのである。そういうスタンスで書かれているのだから。

素直な感想として、これはノーベル賞作家大江健三郎の到達点とその限界を同時にあらわすような作品だなあと思った。この人は数十年間同じものを書いている。この作品も偉大なマンネリである。いつものパターンである。

例によって大作家としての自分と障害を持つ息子が登場する。ふたりの穏やかな生活のかく乱者として旧友が登場する。自分と旧友は過去に痛ましい暴力事件を経験して、強烈なルサンチマンをも共有している。自分らの出自である四国の森の、神話的な伝承と現実が二重写しになって、象徴的なイメージを結ぶ。そのイメージに喚起されてコトを起こしたり、癒されたりする。そして物語の通低音のように繰り返される欧米文学の引用がある。今回はそれが「臈たし」云々なのであった。

まるで新しい挑戦がないのは、ノーベル文学者として正しい戦略なのかもしれない。大江健三郎の文学とは水戸黄門なのだ。もはや読者は期待を裏切る新展開を求めてはいない。編曲、変奏のバリエーションをみて満足したいのである。読者は数十年間も大江健三郎の作品につきあううちに年齢を重ねている。対象はマンネリとはいえ感じ方が違ってくるし発見もある。そこで勝手に深みを発見して感慨深くなったりするのである。

そういう意味で、長年の読者としては水戸黄門的に結構面白かった。今回もひきこまれた、というのが素直な感想だが、日本を代表する大文学者なのだから、「治療塔」くらいまで戻って、新しい形式に挑戦してくれてもいいのではないか、と思ったりもする。

・さようなら、私の本よ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003990.html

・日本語と日本人の心
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004782.html

・「伝える言葉」プラス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004794.html

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ミノタウロス

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・ミノタウロス
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20世紀初頭のロシアを舞台にした大河小説。田舎の地主の家に生まれた若者が、戦争と革命の波に飲まれてすべてを失い、悪党として獣のごとく生き抜いていくようになる様子を描いている。

ロシアの文豪の作品を一流の翻訳者が訳したかのような格調高い文体にまず驚かされる。佐藤亜紀という著者名を隠して、ロシア作家の遺稿の翻訳物として売り出したら、これが国産だと見破れる読者は少ない気がする。日本人が書いた外国文学といえる。

翻訳物を模倣した文体の技だけでなく、リアリティを持った登場人物の時代設定と描写、骨太で破たんなく展開していく歴史小説としての完成度も一級品である。特に後半の無政府状態の混沌とした状況の中で、前半で張られた伏線の収束効果で加速して、クライマックスへと向かっていくスピード感がよかった。

疾走感こそこの作品の本質だと思う。本物のロシアの大河小説というと、名前が覚えにくい登場人物が多数登場して、何本もの筋が錯綜しがちであるが、ミノタウロスは日本人が書いたせいか、その点がやけに読みやすくできているように思う。重厚なのだが、ページをめくりやすい。

「本の雑誌」で年間ベストに選ばれるなど、本好きや評論家にかなり高く評価されている一冊。