Books-Fiction: 2013年3月アーカイブ

・いってミヨーン やってミヨーン 1
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なんじゃこりゃあ。面白いぞ。シュールなドタバタ漫画。

主人公は大学ででてからデータ入力のアルバイトで働く普通の青年。週末には行きたい場所もなく、映画を観ても何の感想もない。面倒なことにならないように、人と目を合わせないように過ごす毎日。このままつまらない人生を終わりにしちゃうのもありかもなと訪れた山の中で、「いっしょに死んでミヨーン」とグラマラスな美女と死体のような男の二重人格的なヒロイン 減込ツイン子(メリコミツインコ)に声をかけられる。

この死んでミヨーンというツイン子の言葉が、

第1話 死んでミヨーン
第2話 乗ってミヨーン
第3話 着てミヨーン
第4話 食べてミヨーン
第5話 住んでミヨーン
第6話 入ってミヨーン(前)
第6話 入ってミヨーン(後)
第7話 ノってミヨーン(前)

各話のテーマになっている。

行動力がありあまっているツイン子が何かをやらかし、面倒な事態に主人公は巻き込まれる。過激なドラマ展開がかなり面白いのだけれど、1巻全部読み終わっても、これが何の漫画なのか、テーマや方向性がまったく分からない。帯によると3.11後の「普通」と「愛」を問う漫画らしいのだが、今のところ、深遠なテーマ性はみえてこない。しかし現代の空気を何か絶妙にとらえている気もして、今後が気になる漫画だ。

・古事記 壱: 創業90周年企画 (マンガ古典文学シリーズ)
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小学館創業90周年企画として始まったマンガ古典文学シリーズ。第一回配本は里中 満智子による古事記。2巻組の前半として古事記上巻と中巻の一部、「この世の始まり」「天の岩屋戸」「八俣大蛇」「大穴牟遅」「根之堅州国」「大国主神」「国譲り」「天孫降臨」「木花之佐久夜毘売」「山幸彦と海幸彦」「豊玉毘売」「神武東征」「天皇誕生」「欠史八代」などが収録されている。

古事記はエロチックなシーンや猟奇的なシーンも多いので、漫画にするときは解釈と表現が問題なのだが、里中古事記は抑え気味で、小学生が読んでもまあ問題なさそう。序文で「物語としての古事記」のつもりで描くと宣言されているが、解釈解説系も充実しているので、神話と古代史の教材にもなる。

通読して思うのは、女性の少女漫画家だから当たり前かもしれないが、女性の心理の描き方がうまいなということ。イザナキ、スサノオ、オオクニヌシ、カミヤマトイワレヒコと古事記の中心人物は男性が多く、複数の女性を娶ることが多いが、妻である女性たちの複雑な心理が描かれて神話がドラマチックになっている。

巻末の解説は明治天皇の玄孫で慶応で先生をしている竹田恒泰氏。「十二、三歳くらいまでに民族に神話を学ばなかった民族は、例外なく滅んでいる」という歴史学者トインビーの言葉を引用して、「古事記が日本を救う論」を強引に展開していて、読み物として面白かった。

ヤマトタケル (1)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2013/03/-1-6.html

ぼおるぺん 古事記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/06/post-1669.html

水木しげるの古代出雲
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/06/post-1661.html

図説 地図とあらすじでわかる! 古事記と日本の神々
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/05/post-1640.html

iPadで古事記の傑作漫画を読む 「まんがで読む古事記」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/11/ipad-1.html

日本の神々
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1063.html

・アマテラスの誕生―古代王権の源流を探る
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1057.html

・日本語に探る古代信仰―フェティシズムから神道まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-959.html

・日本人の原罪
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-946.html

・[オーディオブックCD] 世界一おもしろい日本神話の物語 (CD)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/cd-cd.html

・日本史の誕生
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/post-799.html

・読み替えられた日本神話
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/post-700.html

・日本神話のなりたち
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-573.html

・日本古代文学入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004835.html

・ユングでわかる日本神話
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004178.html

・日本の聖地―日本宗教とは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004661.html

・劇画古事記-神々の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004800.html

・日本人の神
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003868.html

・日本人はなぜ無宗教なのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001937.html

・「精霊の王」、「古事記の原風景」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000981.html

・古代日本人・心の宇宙
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001432.html

・日本人の禁忌―忌み言葉、鬼門、縁起かつぎ...人は何を恐れたのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000809.html

・神道の逆襲
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003844.html

・古事記講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003755.html

・日本の古代語を探る―詩学への道
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003206.html

・新装版 ネオデビルマン(上)
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有名漫画家によるデビルマンのトリビュート作品集。

アニメと違って漫画原作のデビルマンというのは少年漫画史上最凶最悪ともいえるほどダークな最終回で知られる。まず主人公の友人たちの多くはデーモンに惨殺され、地球は完全破壊され、人類は滅亡してしまう。デビルマンとデーモン族の最終決戦となり、デビルマンは微妙な愛人関係でもあるサタンに身体を真っ二つにされてしまう。虫の息のデビルマンに、サタンが謝罪するシーンは神も仏もない(悪魔だから笑)、救いようがないトラウマエンディング。

原作の持つアナーキズムとエロティシズムに魅了された有名作家は大勢いて、上巻収録作品は、 永井豪とダイナミックプロ, 萩原 玲二, 江川 達也, 寺田 克也, 石川 賢, ヒロモト 森一, 永野 のりこ, 安彦 良和, 三山 のぼる, とり みき, 永井 豪らによるもの。どれもこれも、妖艶なハダカと、凶悪な悪魔のイメージを使って、遊びたい放題で、危なくとんがった作品ばかり。

デビルマン原作の設定を引き継ぐ外伝的なものも多いのだが完全に換骨奪胎してオリジナルストーリーをつくった作家の作品が面白かった。悪魔界に落ちた代議士のサバイバルを描いた三山のぼる作品、化け死に病という奇病が流行る世界の女教師を主役にした作品が特に気に入った。

一番期待した安彦良和は、なんとシリアスタッチのギャグ漫画という超絶作品を投稿しており、ハダカやアクマの描き込みは素晴らしいのだけれども、いくらなんでも遊びすぎでしょう、デビルマンと趣旨が違うでしょうという色物を出してきた。ここまでの遊びは安彦良和作品の中でも珍しいから、ある意味ではファン必読。

・ヤマトタケル (1)
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ガンダム ORIGINを完結させた安彦良和が『ナムジ』『神武』の続きを20年ぶりに描き始めた漫画。当初から3部作の構想だと聞いていたが、まさか3作目が実現するとは嬉しくて仕方がない。個人的に、これほど夢中になった漫画はないというくらい偏愛していたシリーズ。

古事記や日本書紀の荒唐無稽な物語が、現実の歴史ではこういうことだったのではないかと大胆な解釈をして、それを生々しい感情をもつ男女の群像劇に仕立てていくのがシリーズの特徴。ある意味ではガンダムという神話を翻案して、よりリアルで整合性の高いORIGINに昇華した創作プロセスと似ている。

前2作のベースとなった安彦氏の日本古代史観は、原田常治の『古代日本正史』に大きく影響を受けている。しかし、この20年間で原田史観はトンデモという評価が確定してしまった。続編を出す場合に、ヤマトタケルの時代の理論構築をどうするかが重要になる。長年のファンも注目していたはず。だから第1巻の「序章」は物語の整合性を合わせるための「言い訳」と、今後の舞台設定の解釈説明という異例の始まり方をする。詳細まで明かされないが、土台となる理論構想がしっかり固まったということなのだろう。

第1巻はヤマトタケルが女装して川上タケルを刺殺する話。ここだけでも十分に3作目が前2作に劣らぬ傑作になりそうな期待感を持たせてくれる。タケルの娘の鹿文というキャラクターを登場させているが、歴史上では鹿文は川上タケルの別名であるらしい。架空キャラであるから、物語の中では自由度が高そうで、今後どんな重要な役割を担っていくのか大変気になる。

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