Books-Internet: 2004年6月アーカイブ

・ウェブログ超入門!
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このブログを読んでくださる方の中にも、同じようにブログを始めてみようかなと思っている方もいるはず。これはブログの入門本。出版社から献本を頂いたので読んでみた。

ブログの入門書なのだが、すでにブログを始めているユーザにとっても再確認や発見がたくさんある。最近、IT雑誌にブログ特集が多いが、雑誌記事のメインはホスティングサービスの比較や、技術解説。この本は視点が違っていて、サービス選びや技術の話はほとんどない。ブログを使って情報発信を行っているとぶつかる疑問に、自らどっぷりとブログ文化にはまった著者が、分かりやすい回答をしている。

ウェブログは始めるのはやさしいが、続けるのが難しい。継続するためにはどうしたらよいのか、著者自身が悩んだ末の最終結論なのだろうなと感じる意見が多い。どれも共感できる。

・ウェブログのネーミングは、どんなものが効果的か?
・読んでもらいやすい書き方にはコツがある?
・「無断引用禁止」と書かれたサイトから引用をするのは法律違反?
・どのくらいの文字量までなら引用してもいい? 写真やイラストは引用できる?
・新聞社サイトのニュースの見出しを引用すると訴えられる?

など、始めてみると考えざるを得ない話題ばかり。

すでにブログを始めている中級以上の人にも、後半の

「ウェブログの歴史から見えてくるもの」
「ウェブログの未来についてとことん語ろう」

という章はブログコミュニティの発達の歴史、大きな事件、問題意識などが総括されていて、頭の中が整理される。この1年でコミュニティで議論されてきた事柄は、私もなんとなく知っているのだが、議論する場所が分散していて、完全に理解するのが面倒だった。この本、一冊でそのすべての概要把握ができた。欄外に紹介されるURLも、厳選されていて濃い。

それで著者の松永さんの意見はどれも納得がいくものなのだが、2点ほど、私と意見が異なる部分があった。

反論1:
「ウェブログをはじめたもののなかなか書くネタがみつからない」というテーマに対して
松永さんの答え「書くことがなければ休めばいい」「無理をして書かない」
私の答え「休まず無理して書かないといけません。運動と一緒です。」

反論2:

「読んでもらいやすい書き方にはコツがある?」に対して

松永さんの答え:「長々と書いた文章は読んでもらえない」
私の答え:「長々と書かないと満足できないじゃないか、そもそもアナタが長文派ブログの筆頭ではないのか、ゴラア

と、まあこういう見解の相違(冗談ですよ...)はあるのですが、次々にブログの企画を成功させてきた著者の体験ベースのノウハウは、他の、どのブログ本よりも活き活きとしている。ブログをこれから始めようとしている人には、イチオシでおすすめの本。

・『ウェブログ超入門!』内容紹介
http://kotonoha.main.jp/weblog/000827_super-introduction.html

・はじめてのウェブログ [weblog for beginners]
http://kotonoha.main.jp/weblog/

・ヒューメイン・インタフェース―人に優しいシステムへの新たな指針
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何年か前に読んだ本なのだけれど。

日本を代表するユーザインタフェースの研究者、増井俊之先生と、百式田口さん、出版社のT部長の4人の飲み会が実現。私にとって、増井先生は憧れの天才で、いつかゆっくりお話させていただきたいなあと思っていたので、夢のような数時間でした。Wiki、LensBar近傍検索を中心にした情報システムで完全武装した増井先生のノートパソコンとPDAを、じーっと覗き込みながら、延々とユーザインタフェースについて語り合いました、というか、教えて頂きました。

・百式田口さんのレポート、ビデオつき
http://bag.100shiki.com/archives/000025.html
増井先生は、携帯電話の予測入力システムPOBOXの開発者でもあり、私もソニーの携帯ユーザなので毎日、その研究成果を使わせてもらっています。技術者の方には、アスキーのUNIX MAGAZINEの名物連載「インタフェースの街角」の著者として知られていると思います。その他、数多くの研究と開発物が、先生のサイトで公開されていて、たっぷり1日楽しめます。

・増井俊之先生のサイト
http://pitecan.com/

・Unix Magazine 関連資料(PDFで過去記事全文が読めます)
http://pitecan.com/UnixMagazine/

会話の中で、私はずっと自分の中で、その価値評価が決められずに、書評できずにいた一冊「ヒューメイン・インタフェース」について、ずばり、どう思われますか?と聞いてみた。「あれはいい本だ」と評価されていた。

この本は、アップルのMacintoshインターフェースの実質上の生みの親であるジェフ・ラスキンが書いたユーザインタフェース論の本。人間中心、ユーザ中心(ヒューメイン)のインタフェースとは何か、著者の知見が展開される。

・Jef Raskin - Welcome to JefRaskin.com
http://humane.sourceforge.net/home/

専門的な言葉も多く使われるので、読みやすくはないのだが、目から鱗が落ちるような知識が大量にある。習慣形成、自動化、注意の所在はひとつ、モードの排除などがラスキンのインタフェース論のキーワードだと思う。

ラスキンは、


理想的なヒューメイン・インタフェースとは、ユーザの作業におけるインタフェース要素を良性の習慣に変えるものなのです。製品を複雑かつ使いづらいものにしている問題の多くは、習慣形成における有用な属性と有害な属性を配慮していないマン・マシン・インタフェース・デザインによって引き起こされているのです。

この習慣形成というのは、たとえば隣り合う一連の続き作業の自動化であり、うまく働けば自然な流れで複雑な操作が可能になるが、


繰り返して行うことになる一連の動作は、最終的には自動化されます。また一連の動作は、統合された単独の動作になります。

ということは、弊害もあり、


(実行してよろしいですか?などのダイアログについて)
固定された回答を要求するすべての確認手順はすぐ使い物にならなくなってしまう

ということだったりする。私たちが誤操作一般や、大切なファイルを上書きや削除で失う前後の作業を考えてみると上記の自動化の弊害によるケースが多いものだと思う。諸刃の剣である。

また、人間の注意の所在はひとつしかなく、同時に複数の注意を払うことができないことを実験から証明し、気をそらすことなく作業に没頭させることが大切だという。


私たちのユーザの作業自身を注意の所在とし続けることなのです

そして、モードである。


あるジェスチャの解釈が一定である場合、そのインタフェースは特定のモードにあるといえる


モード(modes)とは、インタフェースにおける間違い、混乱、不必要な制限、複雑さの温床となる重要なものです。モードによってさまざまな問題が引き起こされるということは世の中で広く認識されているにもかかわらず、完全にモードのないシステムを作るという戦略がほとんど採用されていないのです。

モードとともにカスタマイズにも否定的で、


カスタマイズ機能の学習と操作に費やされる時間は、実際の作業のうちでもっとも無駄な作業と言えるのです。

この本では、こうした前提から始まって、多数の実験や試作物による評価データ、認知心理学の知見を引用して、ラスキンの理想とするユーザインタフェースが語られる。目から鱗の指摘も多いのだが、一方で、すべてこうあるべきだという「べき」論も多く、読者によって、評価は分かれるようだ。常に正しいかどうかは分からないのだが、とにかく面白い本である。

モードの排除、モードレスという方向は、ラスキンの理想であるようだが、増井先生にも共通する要素があると思っていた。

増井先生の論文は大抵読んでいるつもりなのだが、一番感動したのが、「なめらかなユーザインタフェース」という概念を提唱したシャープ在籍時代の、この論文だった。少し長く定義を引用させていただくと、

・なめらかなユーザインタフェース
http://pitecan.com/papers/ProSym96/ProSym96.pdf


2.1 なめらかなインタフェースの定義

「なめらかなインタフェース」とは、直接操作/動的検索/視覚化のような各種のインタラクション技術を統合したものである。我々は以下のような性質をもつインタラクショ
ン手法を「なめらかなインタフェース」と定義する。

連続性 

ユーザの操作に対しシステムがリアルタイムに連続的に反応する。ユーザが小さな操作を行なったときはシステムの状態も大きく変化しない。アイコンをクリックすると突然ウィンドウが出現したり、メニュー操作により突然項目が出現したり消えたりするようなインタフェースは非連続的であるためなめらかではない。また処理の実行を指令するキーやボタンを持つインタフェースは、その前後の状態が連続的でないためなめらかではない。

可逆性

ユーザが逆の操作を行なったときシステムが前の状態に戻る。ウィンドウやアイコンなどのドラッグ操作は可逆的であることが多いが、ウィンドウを開く操作と閉じる操作が異なるインタフェースは非可逆的であるためなめらかではない。

直接性

ファイルを指定する場合やヘルプ機能を使う場合、キーボードから文字列を入力するのが一般的であるが、このような指定は間接的でありなめらかではない。

直感性

多数の機能のあるアプリケーションでは、何を意味するのか簡単には判別できないアイコンが多用されていることがあるが、このようなものは直感的でないためなめらかではない。

増井先生のその後の研究のほとんどは、まさにこのなめらか指向である。LenzBarやインクリメンタル検索、スナッピングなどがその例である。モードから別のモードへの変化を連続的にすることも、「なめらか」なのかもしれない。

私は専門家ではないけれど、インタフェースにひとつ持論があって、「熟練による上達」が可能なインタフェースが最良なのではないかと考えている。たとえば楽器である。人間の学習と熟練のキャパシティは無限大に近いと思う。芸術家のピアノやヴァイオリンを扱う指先の動きのように、練習すれば練習するほど、上手に複雑な動きが可能になる。これに対して、現在のマウス、キーボード操作の多くは、練習したところで「ダブルクリックができるようになりました」「キータイプが速くなりました」どまりである。熟練による上達の幅が狭く、効用の限界が小さすぎると思う。現在のPCのインタフェースの多くは、熟達の余地が少なく、熟達しても効用が小さいということ。

なめらかなインタフェースは熟練による上達の可能性を感じる。今日、増井先生が、自作のなめらかなインタフェースを扱う指先を見て確信した。何万件ものデータから、すばやく必要なデータを連続的ズームイン/アウトで探すツールなのだが、増井先生はノートPCのマウスパッド上で、それを数秒で行う。ギタリストでいうならまさに「スローハンド」状態。この種のツールは私も使ったことがあるけれど、結構最初は操作が難しいものである。

なめらかインタフェースの連続性や直接性は、熟練による上達の幅を広げていると思う。そして、大量の情報から”最適”な情報を”なるべく早く”探すという目的が、効用の上限を拡げているような気がする。熟練することで、初心者の数千倍、数万倍の効用(特に生産性)が期待できるような、インタフェースと用途のセットがあったら、もっとコンピューティングは面白くなる気がする。

熟達の幅が大きく、効用が無限の用途を持つ、なめらかインタフェースというと、奇才ニコラ・テスラらと並んで「3大トンデモ科学者」と呼ばれるテルミン博士が発明した電子楽器テルミンがそれに近い事例かなあと思うのだが、増井先生に今度お会いしたら、「テルミンどう思われますか?」と聞いてみようかなと思っている。

「なめらかすぎると何もないのと同じ」なのかもしれないのだが。

・『テルミン』〜THEREMIN,AN ELECTRONIC ODYSSEY〜
http://theremin.asmik-ace.co.jp/


関連情報:

・ダメなユーザインタフェイス講座
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/8192/

・使いやすさ研究所 ホームページ
http://usability.novas.co.jp/

・Jakob Nielsen博士のAlertbox
http://www.usability.gr.jp/alertbox/

Spidering hacks―ウェブ情報ラクラク取得テクニック101選
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■スパイダリングのハック本

これはGoogleHack以来の技術本で大ヒット!。素晴らしい。

クロウラーとかスパイダーと呼ばれるWeb巡回自動ロボットの作り方が実際のコードとともに101個も紹介されている。

スパイダーは、Webのリンクをたどりながら、HTMLを取得、解析して、データを取得していく。特定のキーワードがニュース見出しに登場していたら、本文を取得して一覧を作る、だとか、検索エンジンの検索結果数の変化をグラフにするとか、携帯にニュース更新状況をメールするなど、便利なパーソナルエージェントを作ることができるわけだ。

目次から、わかりやすい応用例をいくつか紹介すると、

・Yahoo! JAPANの新着情報を追跡する
・米Yahoo!とGoogleを組み合わせた拡散検索
・Yahoo!テレビを使って番組の検索を行う
・Yahoo!ブックスから、自分の好みにあった新刊書籍情報を取得する
・Yahoo!ショッピングから売上ランキングの高い商品の情報を調べる
・気になるニュースをケータイに送信する

などなど、どれも楽しそうでしょう?海外の翻訳本でありながら、日本語対応もきちんと考慮されているので安心。

この本で紹介される多くのスクリプトはPerlで記述されている。WWW::Mechanize(及び日本語化されたMechanizeJHack)モジュールは、スパイダー開発の心強い味方だ。URLからHTMLを読み込み、タイトルと本文、リンクに分割したり、特定のキーワード文字列の入ったURLやリンクアンカーをクリックして移動する、フォームに文字列を埋めて送信するといった、一連のWebサーフィンの動作を、簡単な記述で、開発できる。

Mechanizeの応用例 Asamasid
http://nais.to/hiki/hiki.cgi?asamasid

認証が必要なアマゾンアフィリエイトの確認画面へログインし、結果データを取得してメールするプログラム。(あれ?、いつのまにかWindowsに対応している!)

■ThumbWeb ビジュアルリンク集の自動生成プログラム

私も早速ひとつ作ってみたので公開する。WindowsXP、ActivePerlの環境で動作する。

・ThumbWeb ビジュアルリンク集の自動生成プログラム
URLのリストを与えると、スクリーンショット一覧のアルバムを自動生成するプログラム。
ソース一式はここからダウンロードできます

なおサムネイル作成には、

url2bmp
http://www.pixel-technology.com/freeware/url2bmp/english/
url2bmp01.gif

を利用している。こちらも別途ダウンロードが必要。

インストール等詳細は、ZIPファイル内のREADME.TXTを参照のこと。

これを使うとたとえば、こんなリストから、こんなサムネイル一覧をつくることができる。YAHOO!のカテゴリ一覧などから、URLを持ってくればビジュアルなリンク集を作成できる。初期設定では、10ページおきにページ切り替えが行われる。(サンプルは5ページに設定)

・URLのリスト
Download filehttp://www.ringolab.com/note/daiya/archives/sampleurls.txt

・生成されたページのサンプル
サンプルはMHT形式なので、MS Internet Explorerオンリーです。Download file

■富豪的ネタ探しでブログネタを発見する

私の使い方としてはブログのネタ探しに利用している。

具体的には海外のITニュースサイトやコミュニティを別のスパイダーで巡回させ、記事本文に登場する、外部へのリンクのURLを一覧取得する。話題になったURLリストがこうして得られる。ここまでは夜間にマシンにやらせておくのがポイント。

・某海外ITニュースサイトから抽出したURL一覧(4000件、130キロバイト)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/urls.txt

これを、ThumbWebに与えると、1ページあたり10サイト、400ページのレポートが生成される。あとはひたすら、ビジュアルでチェックしていく。いい絵を探すのだ。面白いネタ探しなら、厳密に漏れがないかチェックするよりも、多くのサイトをザッピングした方が効率が良い。なにしろ何千サイトも候補はあるのだから、富豪的に太っ腹に考える。見落としてもいい、たくましく育って欲しい。

・関連:富豪的プログラミング
http://pitecan.com/articles/Bit/Fugo/fugo.html

■余談 パーソナルエージェントの自作ブーム到来か

実はこのURLリストからスクリーンショットのアルバムを自動生成するツールは、昨年末の忘年会議で使い「近日公開します」と約束していたもの。あれから半年が過ぎ、私の予感では、3人くらいが律儀にも覚えていて、「橋本のやつはいつ公開するつもりなんだゴラア」と思われているような気がしているので、これを機に、必要部分を切り出し、アップデートし、公開することにしました。

私はこれにさらにキーワードフィルタリング機能のついた上位バージョンを調査の実務に使っています。こうしたプログラム群を使うと、経験では1日に8000ページ程度の海外のWebから、探しているテーマの情報サービスや、記事を、ほぼ完璧に洗い出すことができます。

他にも集めた英語のページを夜間にまとめて翻訳させ、ローカルで日本語全文検索をかけられるようにしておくのも、なかなか便利です。個人的には、次は音声化や、モバイルへのアラート機能を作りこんでいこうと計画中です。

スパイダリング技術は、常時接続ブロードバンドの時代に、個人の調べる技術を大幅に拡張する強力なテクノロジーだと思います。面倒なのは対象とするサイトの技術仕様が変化すると、スパイダーのロジックもアップデートしなければならないことです。それが頭の痛いところなのですが、RSSなどXMLメタデータの標準化によって、状況はかなり改善されてきました。

今が旬なテーマでしょう。パーソナルエージェントを自作したい人に、この本はマストバイです。

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