Books-Internet: 2009年12月アーカイブ

・クリック!「指先」が引き寄せるメガ・チャンス
51WG2WwYP1L__SL500_AA240_.jpg

Webマーケッターは一読の価値あり。

著者のビル・ダンサーが所属するHitwise社はISPのアクセスログなど1000万人のWebアクセスデータを収集して、インターネットユーザーのクリック動向を解析している。このデータを使うと、どんなプロフィールのユーザーが、どのようなサイトに、どれくらいの頻度でアクセスしているかが把握できる。またどのページからどのページへと移動しているのかも丸見えになる。

・HItwise
http://www.hitwise.com/us

海外中心のデータだが、現在のWebのトラフィック動向がよくわかる。たとえばCGMサイトに書き込みをする人と閲覧をする人の比率について、こんなデータが明かされている。

「ウェブ2.0的なサイトへの全アクセス数の1パーセント未満が、ユーチューブに自ら作成した動画を投稿するなど積極的に参加している人たち、9パーセント(この数字はそのサイトのオペレーションの「複雑さ」)によって、3パーセントから9パーセントの幅で変動する)が、項目を編集するかコメントを書き込みながら、消費者の生み出したコンテンツと相互に関わり合っている人たち、そして90パーセントが潜伏者であり、反応はせずに黙ってコンテンツをながめているだけ」

90%のマジョリティの気持ちはわかっても、1%や9%のの常連投稿者たちとコメント投稿者の気持ちが分かる人は少ないと思う。多くの企業によるCGMサイトが投稿者の不足で苦しむのは、広告経由で来訪するようなマジョリティ向けに作りこんでしまう結果なのではないか。個人やベンチャー発のCGMサイト(ミクシイもグリーも)は開発者がコア層の人間だったから成功したように思える。

もちろんマジョリティもいつまでもネット初心者ではなく、検索エンジンにおいて3語以上での検索が2003年では全検索数の14%にだったが2007年には23%にまで増加したという底上げ現象も起きているそうではあるが。

層と層のインタラクションという分析も興味深い。たとえばウィキペディアにアクセスする人は18歳から24歳の層が大きな割合を占めているが、書き込みをする人は45歳以上が41%を占めていて18歳から24歳は17%に過ぎない。年長者が若年層に教えているという図式になっているという。

そして大変面白かったのが、知られざるアダルトサイトの現状である。アダルトサイトへのアクセス数は72.6%が男性だが、テキスト主体の「エロ文学」サイトでは女性が65.5%を占める。( たとえば http://www.adultfanfiction.net/ だそうだが、英語力が相当ないと興奮できない(笑)。)

2007年頃から若年層でアダルトサイトの視聴時間が減って、SNSの視聴時間が上がった。異性の裸より友達との会話に時間を費やすようになったという。Twitterブームはその延長線上にあるのだろう。「フェイスブックで生身の人と接触できるチャンスが得られるのに、どうしてポルノが必要なのか」という利用者の声まで紹介されているが、実に健全なリテラシーの向上と言えそう。

本書はこうしたデータとその分析の話がひたすら続く。米国での出版は2008年度であるため、2009年の状況は入っていないのだが、Web2.0、3.0世界のトラフィックサマリーとしてはだまだ有効であろう。

日本のトラフィックに特化した本を誰か書いてくれないかなあ。Internet Survey MLの萩原代表が適任者だと思うのですが。

・Internet Survey Reference Room
http://masashi.typepad.jp/surveyml/

・デジタルネイティブが世界を変える
51veSZ26toL__AA240_.jpg

ボブ・ディランの名曲に「The Times They Are A-Changin'(時代は変わる)」という歌があった。子供の世代が古い価値観の親の世代に交代を迫る社会派の歌詞は時代は変われど普遍的なものだ。21世紀初頭の社会のChangin'とは、PCやネットを自在に使いこなす"デジタルネイティブ"と、旧世代の"デジタルイミグラント"の交代劇である。ネイティブ層1万人へのインタビューをもとに、8つのキーワードが浮かび上がる。

ネット世代は何をする場合でも自由を好む。選択の自由や表現の自由だ。
ネット世代はカスタマイズ、パーソナライズを好む。
ネット世代は情報の操作に長けている。
ネット世代は商品を購入したり、就職先を決めたりする際に、企業の誠実性とオープン性を求める。
ネット世代は、職場、学校、そして、社会生活において、娯楽を求める。
ネット世代はコラボレーションとリレーションの世代である。
ネット世代はスピードを求めている。
ネット世代はイノベーターである。

「テクノロジーは発明される前に生まれた人にとってのみテクノロジーとして意識される。」とアラン・ケイは言った。デジタルイミグラントの私の世代はテクノロジーそのものが好きだが、ネイティブにとってはテクノロジーは無意識のうちに使っているものであって、評価する対象でない。無理して使うことはしない。必要最小限のテクノロジーを、最大の効果で自然に使える世代が誕生しようとしているようだ。

日本では平成元年(1989年)生まれくらいが、デジタルネイティブ層に当たる。本書は米国の話が多いので、イメージを持ちやすくするために、1989年生まれの人生を、IT業界史とともに振り返ってみた。

95 小学校1年でウィンドウズ95が発売
96 小学校2年でヤフー株式会社設立
97 小学校3年まぐまぐメルマガブーム
98 小学校4年でウィンドウズ98が発売
99 小学校5年で携帯i-Modeが登場
00 小学校6年でビットバレーが話題に
01 中学校1年でYahoo! BB開始
02 中学校2年でWinnyが誕生 P2P全盛に
03 中学校3年でGoogleがBlogger.com買収
04 高校1年でミクシィがスタート
05 高校2年でライブドアがフジテレビ株式取得
06 高校3年でライブドアショック
07 大学1年でウィンドウズ Vistaが発売
08 大学2年でサブプライム崩壊大不況へ
09 大学3年でiPhone新型発売
10 大学4年で就職活動

いままさにデジタルネイティブが社会に出てくる元年なのである。この本は豊富なデータと深い洞察で、この新世代のイメージを明確に浮かび上がる。名著だと思う。

・iPhone情報整理術
513Bau8Dq1L__SL500_AA240_.jpg

デジタルツールを使った仕事術は私も一応専門家なので、一般向けの本で満足することは滅多にないのだが、この本は例外で大満足。iPhoneを仕事にフル活用したいという人はいますぐ読むべき。よくあるiPhoneムック本とは格が違う。iPhoneを徹底活用したデジタルノマドのノウハウの要点と、何万本もあるアプリから精選された本当に役立つものだけを知ることができる。

デジタルノマドというのはこの本によると「簡単にいえば、最先端のITツールを駆使して、物理的制約にとらわれずに仕事をする、新しいワークスタイルのことです。手元の超小型コンピューターやオンライン上に、バーチャルオフィスをそのまま持ち出し、それを使ってもっとも都合のよい時間帯に、一番便利なところで仕事をこなす」というもの。特にワークスタイルが比較的自由なフリーランスやベンチャーのビジネスマンに最適な内容になっている。

iPhoneアプリの世界は日々進化している。だからこの本も今が旬だと思う。思えば私自身のiPhone利用も2週間くらいで変化している。今最も利用頻度が高い仕事系アプリベスト3は、

1位 Read It Later
PCのWebブラウザーでページを「後で読む」指定しておくと、iPhoneでダウンロードして読むことができる。

2位 ByLine
GoogleReaderの専用クライアント。Googleリーダーに登録したブログやニュースサイトを一括ダウンロードして読むことができる。

3位 Evernote
PCで便利な多機能メモ帳と連動するiPhoneクライアント。iPhoneからメモを取る時には必ずこれを利用して、PC版のメモと統合管理している。書類読み取りアプリのDocScannerとの連携もスムーズ。

といった感じ。より詳しい話は、このイベントでプレゼンしようと準備中。

エバンジェリストとiPhoneについて語ろう!
http://www.feedpath.co.jp/topics/seminar/000543.html

・Learning to love you more
515fXcPmK2BL__SL500_AA240_.jpg

『Learning to love you more』という洋書を買いました。膨大な量の投稿写真とテキストからなるこの本は、同名の人気Webサイトのログを書籍化したものです。

・Learning to love you more
http://www.learningtoloveyoumore.com/index.php

このサイトには70の実行命令があります。読者はこれを実際に行った結果を報告します。命令と報告によってコンテンツがジェネレートされていくわけです。「あなたの両親がキスをしている写真を撮影しなさい」(書籍の表紙になりました)「幼い子供のドキュメンタリ映像を投稿しなさい」「直近の論争を書き起こしなさい」など、ちょっと気力や手間がかかるものが多いです。この結果が、なかなか味わい深い内容になっていまして、人気コンテンツになりました。(残念ながら7年半でこのサイトは命令と報告の受付を終了したようです。)。

CGMでコンテンツをプロデュースしていく事例をいくつかまとめてみました。
#これはあるイベント用に用意したメモの再構成です。

・43Things
http://www.43things.com/

同志と励まし合うブロガーたちのコミュニティがコンテンツを増殖させるサイトです。まずユーザーは「10キロ痩せたい」「本を書きたい」「恋人を作りたい」「可愛くなりたい」などの目標センテンスを宣言します。そして、そのテーマでブログを書きます。すると同じ目標を持つ他のブロガーたちの更新が、自分のブログの横に表示されます。それを何日続けている、だとか、応援を送る、とか、コメントを寄せ合うことができます。同志が励まし合うことで、行動意欲が増進され、ブログコンテンツが増殖するのです。

コンテンツを生み出す関係性は、協調だけではありません。競争が共同創造に結びつくこともあります。iBeatyouは名前からして挑発的です。「俺凄いだろ」と見せびらかす映像を誰かが投稿すると、世界は広いので、それを上回る凄い映像を投稿してくる者が現れるという、ムキになる気持ちを逆手に取ったプロダクションシステムです。どっちが凄いかは視聴者投票で民主的に決定されます。

・iBeatYou
http://www.ibeatyou.com/

・10秒間に何度ウィンクできるか?勝負映像
http://www.ibeatyou.com/competition/434848/most-winks-in-10-seconds

こういうくだらない勝負も加熱するわけです。

協調と競争、そして残るは闘争。闘争もまたコンテンツを生み出すことがあります。SideTrackerはケンカをする二人が、自分の言い分を投稿します。視聴者に投票してもらって、どちらの言い分が正しいかを決めてもらうサイトです。

・SideTracker
http://www.sidetaker.com/

たとえば夫婦問題。この夫は28歳Bカップの妻が8000ドルもする豊胸手術をしたいと言っておりけしからんと思う、と言い、妻は私はおっぱいをもっと大きくしたいのよ、だって二人の子供を産んでからBカップがAカップになってがっかりしたんだもの、何が悪いの?と怒っております。さあ、どっちに投票しましょうか。

・Breast Implants Are Not A Family Priority
http://www.sidetaker.com/story/1149/breast-implants-are-not-a-family-priority

CGMはコンテンツを生み出す原理で

1 協調生成
2 競争生成
3 闘争生成
4 投票生成
5 ....
6 ....

のように分類することもできそうだなあ。