Books-Managementの最近のブログ記事

・「苦労話」はすればするほど職場がよくなる
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成果主義とIT導入により職場から雑談が消えている?。

「不機嫌な職場」をよくするには「苦労話」が効く。その効用は、

1 自己理解と相互理解を深める力
2 問題と向き合い、相手や原因を客観視し、本質的な解決策に近づける力
3 心のなかにある思いを紡ぎ出し、重ね合わせ、組織の思いに変える力

の3つがあるとされる。

苦労話をするときには、不満だけをぶつけない、互いの話を聞く、持論を押し付けない、何を感じ学んだのかを大切にする、明るく前向きに話す、共通点を重ね合わせるといったルール&マナーを守りましょう、というアドバイスがある。

苦労話を自慢話、愚痴話にせずに、発展的コミュニケーションの肴に使うというのは、
やってみると案外、難しい。

この本にも「苦労話と聞くと、単に昔話をして、昔のほうがもっと大変だった。今の若い奴らは甘いという話をする上司や大ベテラン社員を想像する人もいるかもしれません。苦労話といいながらも、結局は自分を正当化し、周囲を否定するような言動をしてしまうと、その人の話をこれ以上、聞きたいとは思えなくなります。」という解説がある。

そうそう、確かにそうなってしまう。直近の苦労話よりも子供の頃の苦労話を選んだ方がうまくいくようだ。転校してきて友達ができなくて困った、とか、英語のLRの発音ができないで困ったとか、憲法前文の暗記が苦手で最後まで残ったとか。

上手に苦労話をするノウハウも紹介されている。自分の人生の転機図を描くというのは楽しそうだ。10歳ごろから現在までの、自分の気分を天気模様として折れ線グラフに描いてみる。上がっているときと下がっているとき。それぞれに元気話、苦労話をするという手法だ。

仕事の提案書、企画書を持ち寄って語るという手法も職場でうまく使えそうだ。自分で書いた提案書や企画書には、思いがいっぱい詰まっているし、当時の問題点も生々しく思い出されるものだ。失敗を素直に語るツールとして、埋もれがちな過去の提案書を使うのはアイデアだと思った。

・不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-966.html

・とっさのひと言で心に刺さるコメント術
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おちまさと氏によるコメント術。とっさのコメントがうまいと評価があがる。まずいことをいわないというのもポイントだし、これは年齢が上がるにつれて求められる力でもあるよなあ、どんな内容なんだろと思ったら、なんと、まず「コメントは事前に用意するな」である。

「○○さんになりきる」などコンセプトを決めておけばいかにもその人がいいそうなセリフが出てくるはずだとか、頭の中の検索エンジンにコンセプトを入力すると自動的にいい言葉がズラリと出てくる「自分グーグル」をつくっておけという指南が続く。

確かに必ずしも準備しておけばいいコメントができるわけではないし、十分な準備をすると時間がかかる。みんなにコメントを求められる立場の人は忙しいわけで、このアドバイスは確かにすごく正しい。そして即興で的確なコメントを返すためのトレーニング方法がいくつも挙げられている。

フェイスブックで、人の記事にいいね!を押すだけでなく必ずコメントをする感想力のトレーニングをすることが重要と説いている。「どんな些細な出来事にも、まずは「ちゃんと感想を言ってやるぞ」と意識して向かうこと。その積み重ねが「コメント脳」をつくるのです。」。フェイスブックの使い方を意識するだけでだいぶ変わりそうだ。

ほかに私が取り入れようと思ったのは、

・本や映画のストーリーの要約をしよう
・相手の話に「いまのお話は、○○ということですね」
・「いまバタバタで」を言い訳に使わない。
・「びっくり」「おいしい」「きれい」と言わず内容を表現

など。

こういうトレーニングの先に著者が理想とする「みんながうすうす気づいていて、でも言葉にできなかったことを言語化したもの」がとっさに出る状態がある。個別に準備するなということだが、備えとしてかなりの訓練は必要だと思った。

・ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
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働き方は今、旬な話題だ。長引く不況による雇用の流動化や、スマホやクラウドの普及によって、日本人の働き方は多様化している。ノマドワークやシェアオフィス、フューチャーセンターなど、新たらしいキーワードもメディアにしばしば取り上げられている。

これはロンドン・ビジネススクールを中心とした「働き方コンソーシアム」がまとめた2025年のグローバル視点の未来ビジョンの本。仕事に必要な3つの資本を、

1 知的資本 (知識と思考能力)
2 人間関係資本 (つながりの強さ、広さ)
3 情緒的資本 (やりがい、幸福、楽しさ)

と簡潔に定義した上で、

働き方を変える 〈3つのシフト〉として

●ゼネラリスト→連続スペシャリスト
●孤独な競争→みんなでイノベーション
●金儲けと消費→価値ある経験

という大きな変化を予言している。

連続スペシャリストというのは新しいキャリアのイメージだ。ちょっと極端だがわかりやすくいうと、たとえば文章を書く専門能力とその隣接能力を伸ばすことで、企業広報から新聞記者に転職したのち、大統領のスピーチライターを経て人気小説家に転身する、というように進化していくキャリアが「連続スペシャリスト」だ。そこでは競争力よりも共創力が成功のカギになっており、アイデアを広く集める"ビッグクラウド"や、信頼できる数人の参謀"ポッセ"というソーシャルネットワークを持つものが強い。カネを稼ぐことだけではなく、楽しさややりがいの追求が今より大きな意味を持つ。

そして働き方が変わる 〈5つのトレンド〉として、

●テクノロジーの発展
●グローバル化
●人口構成の変化と長寿化
●個人、家族、社会の変化
●エネルギーと環境問題

という大きな潮流を分析していく。

ビッグアイデアクラウドとポッセ
ホットスポット
同僚との気軽な関係の消滅と幸福感
自己アピールの時代
ダイバシティ(多様性)はモノカルチャー(単一文化)を凌駕する
コ・クリエーションの時代

などなど、数多くの啓蒙的なキーワードとコンセプトが提示されている。それらが3つのシフト、5つのトレンドという枠組みで構造的に示されていて、いま世界で働く人々の間で何が起きているかを整理するのに最適な内容になっている。

・スピーチの奥義
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「寺澤 芳男
1931年、栃木県佐野市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。野村證券副社長、MIGA初代長官を経て、'92年、日本新党の細川護煕代表の要請により参議院議員に立候補、当選。以後、経済企画庁長官、参議院外務委員長、東京スター銀行会長などを歴任する」という経歴の著者。

これだけの肩書を持っていれば、スピーチなんて何をしゃべってもいいだろうと思ってしまうのだが、

「しかし選挙演説やビジネススピーチの場合、ときとして聴衆の「あなた誰?」的な猜疑心を一身に受けながら話さなくてはならないこともある。これは難しい。自分自身がどういう人物であるかを語りながら聴衆の猜疑心を解いていく文脈が求められる。でないと聴衆は耳を傾けてくれないのだ。」

という苦労も語っており、肩書のある人も、ない人もスピーチの苦労には似たところがあるのだなと感心。講演者としても人気を誇る著者が語るノウハウは、品が良くて無理がなくて、実践しやすい。

たとえばサクセスストーリーは人気があるが、自慢話は敬遠される。さてどうするか。著者は「3人の恩人」の話として、自分の華やかな経歴を、恩人への感謝の話として、再構成した。結局、同じ事実を語っているようであるが、聴衆に受け入れられやすくなるし、何より印象がよくなる。

「聴衆の緊張をうまくほぐせたら、スピーチは八割方成功」「自分が言いたいことより相手が聞きたいことを話す」「「よく聞こえるささやき」がスピーチ力を高める」など、スピーチに臨む姿勢や、技術を自身の経験談にからめて紹介している。

一部にはやはりそれはあなたがVIPだからでしょ?と突っ込みたくなる部分もあるが、要するにある程度の社会的地位を持っている人向けに、特に役立つ本といえる。寺澤 芳男氏の自伝として読んでも面白い。

・「有名人になる」ということ
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勝間和代氏による"有名人になるプロジェクト"やってみた報告書。これ面白いです。紅白歌合戦審査員を務めた頃の、勝間女史の絶頂期の体験談と、少しは落ち着いた現在の心境がつづられています。

「有名人になること」の金銭的メリットは思ったほどではなかったしデメリットも多かったが、「いろいろな人とつながり、その人たちと信頼関係をもつチャンスである」と総括しています。

日本にはパーソナルブランディング、セルフブランディングが受け入れられにくい空気があるなと思います。有名になるのは結果であって目的にすべきではない、そういう人は五月蠅いという人が多い。しかし、労働市場も流動化して、個人ブランドで生きる人が増えてきた今、勝間和代さんがやったことって、学ぶところも多いなと思います。

お金になる才能があることは大前提だと思いますが、世の中、才能がある人って案外、いっぱいいるのですよね。たとえば歌がうまい、美人だとか、楽器が弾けるとか。テレビで活躍している人より私の方がうまいのに、と陰で嘆いていても、道が開けようはずもない。

「もっとも重要なことは、羞恥心を捨てることです。ここまでやるか、ということまでやらないと、市場ではとんがれません。ビジネス書で自転車に乗って表紙になったり、妙な断る手の格好をした表紙をつくったり、自宅の様子をテレビで公開する、ダイエットの進行状況をテレビなどで公開する、そういうことにためらいがあってはいけないのです。」

と勝間さんは書いていますが、まあ、ここまで開き直れないにしても、アピールしない人にはチャンスがこない世界になってきているよなあと思います。私がブログを毎日書いているのも、ネット社会の中で一定のポジションをつくりたいと思っているパーソナルブランディングの一環です、はい。

ベストセラー連発してテレビで活躍するくらいの有名人になるとどうなるか。

「その1 日本人の場合、情報取得→解釈のサイクルが二年間でおおよそ、レイトマジョリティまで普及する
その2 当の本人は忙しくなるうえ、人気を背景に仕事が「Easy」になるため、アウトプットの質が下がる
その3 おおむね、一人のコンテンツを三~五くらい手に入れると、「大ファン」でない限り、お腹いっぱいになる」

であるがゆえにブームはせいぜい1,2年しか続かないと述べています。それ以上の長い期間、メディアの寵児でいつづける人は、芸能人以外では、なかなかいない。

まあ、勝間さんぐらい頂点に登りつめられれば、それはそれでいいじゃないか、とも思うわけですが、オワコン(終わったコンテンツ)と言われるのもつらいようで、有名人化のなまなましい後日談も読めて、人間的で面白い本です。カツマーではまったくない私でしたが、楽しめました。

・いますぐ書け、の文章法

論理的で立派な文章ではなく、読者を楽しませカネになる文章を書くにはどうしたらいいかを指南する本。堀井憲一郎。この人には、ディズニーが絶対に公認しないであろう超濃密ディズニーランドガイドにまず魅了され、話芸の本質をとらえた『落語論』でまともに感動し、タイムリーにでた『いつだって大変な時代』にはその通りと膝を打った。真面目で不真面目、粋な文章を書く、私がレスペクトしているライターの一人。

自分の言いたいことをいったん曲げてでも、読者に楽しんでもらう精神をもて。極めて不親切な読者、不熱心な読者を指定せよ。とにかく読者本位になれと何度も主張している。プロの書き手になれるかどうかの資質は「さほど熱心でない読者をこちらに振り向かせる工夫が好きかどうか」。ライターはサービス業なのだ。

小難しいことを語る面白くない文章は著者が一番嫌いなものだ。こんな辛辣な、しかし的を射た指摘をしている。ブログによくあるんだ、こういうのが。私もときどきやっちゃうけど。壁に貼っておこうかと思うくらい素晴らしいアドバイス。

「「社会的発言」こそが、文章を書くときの大きな敵である。もちろん政治経済社会教育について発言するな、ということではない。ただ、いきなり現政府よりも上の立場に立って、悪いところを指摘して、改善する方向を指し示せば、それで事足れり、一丁あがり、と言ってるのは、たぶん言ってる本人はすごく高いところから発言していて気持ちいいんだろうけれど、でもそんなところからは人を動かす何かは絶対に生まれてこない、ということである。意味がなさすぎる。」

そしてこの本で最も斬新だと思ったのは「立って書く」「踊りながら書く」というノウハウである。これは考えたことがなかった。著者は一冊丸ごと立って、踊って書き上げたことがあるそうだが、腰を落ち着けずに書くことで、自然に書きながら考えるようになるという。退屈な文章を書かない秘訣でもあるらしい。

書きながら考えることで、自分自身の自然体が出てくる。才能を信じて自分なりの文体をつくっていけということなのだろう。だからいますぐ書け、である。

・いつだって大変な時代
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/post-1488.html

・落語論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1050.html

・東京ディズニーリゾート便利帖
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/ix.html

・理系のためのクラウド知的生産術
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レスペクトしているブロガーの堀さんが本を出した。堀さんは独立行政法人海洋研究開発機構所属の科学者で、デジタルツールをばりばり使いこなすことでも知られる。お話しするたび、彼の情報分析の確かさに感心してしまう。

・LifeHackong.jp
http://lifehacking.jp/
堀さんのブログ。このブログと内容的に相性がいいのでご存じの読者も多いかも。

目標を明確にして、毎日ToDoリストを更新して、というGTD的なノウハウは苦手だが、この本のクラウド知的生産術には惹かれるところがあった。整理が下手、ものぐさでもいいのだ。

「たとえば、本人が手を動かさなくとも自動的に電子メールを整理するフィルターをつくるのに必要な時間はほんの数分です。それが毎日のメール処理の手間を10分ずつ軽くしてくれるだけでも、年間で60時間、8時間労働の出勤日7日分の時間を生み出すことが可能になるのです。」

この考え方に深く共感した。自動化できる処理は極力自動化しておく。それでうまれる自由時間を人間にしかできない作業に使う。そういうことが世間よりも少し先にできている人が、ツールを"使いこなしている人"なのだと思う。

・自動的にキーワードにマッチする論文が手元に届くしくみ
・アイデアをなくさない情報整理法(エバーノート&リメンバーザミルクなど)
・テンプレート準備で時間の節約
・ちょっとずつ論文を仕上げていくクラウド活用の論文作成法

などなど、最新のクラウドサービスとスマートフォンを、研究に活用するノウハウがいっぱいある。

理系の研究者のための情報処理環境をつくることが主眼だが、論文を企画書や報告書と読み変えれば、ビジネスマンでも情報収集と整理の効率化に役立つ知識が多い。

基本的にはやさしく書かれた入門書なのだが、中級者以上でも参考になる内容がある。私は多くのクラウドサービスを使っていたが、

・Dropboxは使っているけどファイル共有のやり方を知らなかった
・Gmailは使っているけど詳細な検索オプションがあることを知らなかった
・MP3の音声ファイルとPPTをあわせて音声付プレゼンをスライドシェアでできるとは驚き・いくつかの未発見のサービス

などたくさん発見があった。

・「IT断食」のすすめ
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IT中毒に陥った組織に、ITを断つ時間を強制的に設けて、良質なアナログ時間を取り戻す「IT断食」を推奨する本。「ノーPCデー」「ノー電子メールデー」を実施して、ITとアナログの最適なバランスを見出そうという話。

情報の肥大化と行動の弱体化。メールするより電話や対面で話す方がよいのではないかと疑ってみた方がいい。ウェブで延々と検索するより、専門家に話を聞いたり、専門書を一冊じっくり読んだ方がよい結果になることは多い。

なかでも会議の日程調整にメールは向かないという指摘は、本当にその通りだ。メールで複数の候補予定をやりとりしていると、調整が完了するまで、その時間帯がロックされてしまう。そしていつ調整が完了するかも読めない。それで著者は対面や電話でアポをとりなさいとアドバイスしている。現状ではそれが確かにベストなのだが....

スケジュール調整。確かにメールは向かないのだが、本来はITが活躍してしかるべき用途であると思う。スケジュール調整ツールというのはいくつもある。カレンダーを見ながら参加者が空いている時間を登録して探す。飲み会などの予定調整で私はしばしば使っている。

・調整さん
http://chouseisan.com/schedule
・伝助
http://www.densuke.biz/
・調整くん
http://www.hotpepper.jp/doc/chousei/

こういうツールは便利だなあ、みんなが仕事使えばいいのにと思うのだが、一向にそうはならない。多くの企業で社内のスケジュールはデジタルで共有されているのに、企業間ではなかなか難しいことになっている。日本の場合、大企業が率先して使えば広まっていくのではないかと思うのだが、なかなか始まらない。IT経営の研究者が、メールによるスケジュール調整を専用ツールで行った場合の損得計算を数字で弾いてくれるといいのではないかと思うのだが。

・戦略力を高める ―最高の戦略を実現するために
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著名な経営コンサルタントが書いた「戦略力」=「あるべき姿に至る海図を描きつづける力」の指南書。実際の企業例、ケース演習つき。コンパクトに明解に戦略の基本がまとめられている。「戦略上の○○といえばこの○つです」のような整理がわかりやすい。

たとえば「戦略力」は4つの素力から構成される。

1 環境を読む
2 あるべき姿を描く
3 自分を見つめ直す
4 道筋をつくる

あるべき姿ってなんだろう?と気になるが、それはずばり

1 自社が世界一になれる部分
2 情熱をもって取り組めるもの
3 経済的原動力になるもの

の3つの要素を同時に満たすものと定義されていた。そして

「何のために何を成すのか、Whatを実現することの意味の中に、企業の営利を超えた何か大切なものを含んでいるか否かは、後のち、そのWhat実現に向けた遂行力を大きく左右するかもしれない。近年の「環境に優しい」「社会への貢献」などはそのあらわれといえるのではないだろうか。」。

大義名分のWhyがあるべき姿に命を吹き込むのだと著者は教えている。

後半では現代経営学における戦略論の変遷を4つの学派のアプローチで整理している。

1 「計画」 アンゾフ流、戦略計画立案作業を中心とする学派
2 「創発」 ミンツバーグ流、意図せざる行動と学習の過程から生まれるパターン形成を重視する学派
3 「ポジション」 ポーター流、自社を外部環境の中でどうポジションさせるかを重視する学
4 「資源」 バーニー流、自社が保有する独自の経営資源が競争優位を築くと考える学派

経営学のさまざまな要素が盛り込まれている全部いりの印象の本だが、戦略を実践的に考える上で必要なエッセンスに濃縮されていて、ビジネスパースンが読むのにちょうどよい教科書になっている。

・人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ
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永世棋聖 米長邦雄の勝負論。気ったはったの世界の心得を説く内容だが、趣味人で遊び人の勝負師だから、ユーモアも交えた楽しい内容になっている。

まず有名な米長理論だ。相手は負けるとプロ資格剥奪だが、自分は勝っても負けても昇降格に関係なしの消化試合。そういうときにこそ、手心加えずびしっと負かさなければならない。一生のツキを呼ぶ「この一番」とは「でかい勝負」ではなく「その勝敗が自分の進退には直接影響がないけれども、相手にとっては大変な意味を持っている勝負」なのだという理論。

でかい勝負で全力を出すのは当たり前で、そういう勝負は負けても実力があればいつか勝てる。むしろ消化試合に全力を投入して相手を潰せるかどうかこそ勝負の運を呼ぶ重要なポイントになるということのようだ。深い。

そして決断は長考に妙手なし。「大事なことだからこそ、簡単に決めるべきだと私は思います。悩み、考えあぐねてから答えを出す場合よりも、だいたいにおいて間違いが少ないものなのです。」。そしてそういうときのカンは好きで取り組んでいないと働かないもの。好きであることが大事である、と。これは逆にいうと、第一感で最善手をさせる力がなければプロとしてはやっていけないという事実でもある。

強い人と対戦する時は、短期決戦と局面の単純化で勝負するという鉄則は万事に通じていそうだ。では負けたらどうするか。そこもフォローしている。「男が勝負に負けた時は、何を言われても、じっとしているに限る。これはもう鉄則です。」と。負けた時は遊び呆けて頭の中を一度ゼロに、勝っているときはじっとして調子を持続させよというのが米長流だ。

この本、前半は比較的真面目でうなずける内容なのだが、後半の強烈な亭主関白論とか才能を前提にした人生論は、ちょっと偏っていて、実はそれが面白い、本質なのだろう。

・ビジネスマンのための「行動観察」入門
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大阪ガス行動観察研究所所長 松波晴人氏による実践的なビジネスエスノグラフィー。

企業が顧客のニーズを知るには、アンケートやグループインタビューという一般的な手法がある。

「しかしいま、こうした従来の方法だけでは画期的な製品やサービスを提供するのに限界が見えてきた。それはアンケートやインタビューだけでわかるニーズは、顧客が自分で言語化した「顕在ニーズ」だけだからだ。そこで、実際に顧客の行動(経験)を観察して、まだ顧客自身も言語化できていない「潜在ニーズ」にいち早く気付き、顧客に価値のある「経験」を提供することが重要となってくるのである。」

行動観察では観察、分析、改善の3ステップを踏みなさいという。

この本が抜群に面白いのは、理論ではなくて第2章「これが行動観察だ」である。実際に著者らが実施した企業の行動観察による改善プロジェクトが、ドキュメンタリタッチで紹介されていく。現場で試行錯誤しながら、見事に毎回、洞察をつかんでいく。ドラマみたいだ。1社当たり1作の漫画にしたら面白そう。事例は多岐にわたる。

まずはワーキングマザーの潜在ニーズを知るために、協力者の家に入って数時間の観察をする事例。企業の人間が家庭に入り込めば、行動が行儀よく変わってしまう可能性がある。だから観察者は調査の意図を誠実に伝えた上で、主婦に「晩ご飯を食べていってください」といわれるくらい信頼関係が築くよう心がける。すると主婦の隠れた願望が明らかになっていく。

展示会のイベント会場にでかけてブースを観察し、説明者の立ち位置の変更を提案することで、売り上げが3倍にしたケース。優秀な営業マンと普通の営業マンに同行して、できる営業マンのノウハウを発見するケース。オフィスで働く人々を1日中映像で観察して詳細な行動ログを書き出し、分析するケース。調理場を観察して付加価値の高い作業を判別することで料理人の生産性を飛躍的に高めたケース。工場の労働者の生産性と創造性を高めるケース。そして5000人のお客様の名前を記憶するホテルのドアマンを観察し、驚異的な記憶能力の秘密を探るケースなどなど。

多くのケースでわかりやすいノウハウ抽出と具体的な成果がでていて、現場のコメントもある。潜在的なニーズの発見、インサイト創発につながっている様子がうかがえる。「イノベーションを可能にするのは観察に触発された洞察である。」IDEOのトム・ケリー氏の言葉が引用されているがまさにそのとおりの成功例ばかり。

実際には観察から得られたデータに意味のある構造を見出すには、人類学で言うならクロード・レヴィストロースのような熟練した分析者が必要とされるような気はする。対象に棲みこんで長時間の観察をするには、人材や仕組みづくりに、コストもそれなりにかかるだろうが、やってみる価値がありそうな中身を感じた。対象に棲みこんで洞察を得るプロセスは、観察者自身を成長させる教育効果も高そうだ。

・アイデアの99% ―― 「1%のひらめき」を形にする3つの力
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「産業を進歩させるアイデアは、とてつもなく斬新なひらめきから生まれるものではなく、むしろ熟練した管理努力のたまものです。」。当てにならない創造性開発ではなく、作品を次々に世に出し、アイデアを実行し続ける能力にスポットライトをあてた本。

この本の公式は、

アイデア実現力= (アイデア)+整理力+仲間力+統率力

まずアイデアはカッコにいれてしまって、おもいついたアイデアを最後は必ず「送り出す」に集中せよと説く。実践するには最高のものだけを送り出そうと思わない割り切りも必要だ。

トーマス・キンケイドの絵とジェームズ・パターソンの小説を例にを挙げて、似たような作品ばかりで創造的とはいえないが、多作で売れておりビジネス面では成功している作家を参考にせよというユニークな指摘をしている。

創造性×整理力で作品が実現されるとするならば、私たちはついつい創造性100や120の作品を作ろうとして、結果的にひとつの作品も完成させることができない。100×0=0である。50×2=100でもいい。創造性がなくても非凡な整理力があれば、整理力に欠ける天才クリエイターよりもアウトプットが出せるという。

この割り切った考え方には異論も多そうであるが、クリエイターも生計をたてて生きていかねばならない。いつか120の作品を出すために、50や80の日常的なアウトプットで凌ぐことだって必要な日々もあるだろう。

ベストセラー作家には1日のうちに執筆に充てる時間を決めている人が多くいる。生産のための日課を守り続けること、行動を習慣化することが大事。自分はチャンスに恵まれないと嘆くより、コツコツと地道に成果を出していくことが、ビジネス面では成功の近道ということ。

・コクヨの1分間プレゼンテーション
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この本凄くいいな。

私は先日、社内の新人研修で「プレゼンテーション」の講師をつとめた。私が社内で一番講演やスピーチの数をこなしているだろうということで選ばれたわけだが、自分だけが体得した暗黙知を、他人に伝達可能な形式知にまとめるのは大変な作業だった。あの研修の前にこの本を読んでいれば相当参考になったなあ、共感できる内容が多い。カリスマではなくても聴く人にちゃんと伝わり、そして動かすプレゼン術の基本が解説されている。

プレゼンで大事なのはだらだら話さないこと。情報を圧縮すること。取捨選択能力、文章構成力、キーワード力をフル活用して、長い話も1分にまとめる。具体的な時間配分も推奨されている。

疑問を投げる (15秒) 興味 何だろう?
結論を述べる (10秒) 驚き へぇ~
理由を説明する(35秒) 納得 なるほど!

これがコクヨの1分間プレゼンテーションだ。1分間で話せるのはおよそ原稿用紙一枚分の400字。1つの文章が30~50字だとすると5秒の文章が12個言える。だから12の文章を考えればいい。わかりやすいノウハウだ。

「困難・キッカケ・劣等感」で共感を呼ぶ」「ゆっくり話すのではなく、間を入れて話す」「1センテンス1人を見て話す」「お得意のジェスチャーを決めておく」など、声の出し方、話し方のテクニック、トレーニング法と応用が、1ステップについき見開き図解つきで解説されている。

プレゼンテーションはプレゼンターの個性、人柄がでることも大切だと思うが、まずは情報伝達の基本がないとだめである。ビジネスの現場で通じる最大公約数的なノウハウをまずは身につける必要がある。コクヨの研修で活用されているノウハウの書籍化だそうで、実践的な社員教育用のこなれたテキストブックになっている。

・アナロジー思考
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「地頭力」「フェルミ推定」の仕掛け人 細谷功氏著。

すべての思考は「類推」から始まる。いわれてみればそのとおりか。

アナロジー(類推)思考とは、著者の言葉によれば、二つの世界の比例関係を利用した思考法のこと。既知の領域と何らかの類似性を有する未知の領域に対して、既知の知識を応用して、未知の領域の知識を新たに得るということ。アナロジーには「自分の理解」「他人への説明」「アイデア創出」という目的が考えられるという。

どこから借りてきてどこへ持っていくかの一般的パターンが例示されている。

1 よく知っている世界 → 知らない世界
2 進んでいる世界 → 遅れている世界
3 身近な世界 → 縁遠い世界
4 極端な世界 → 「角が丸い」世界

1は理解のためのアナロジー。「欧米ではすでにこうなっている(日本ではいまだにこうだ)」というのは2のパターン。3は「たとえ話」。4は子供のストレートな感情表現を大人の世界の読みときに利用するようなパターンだ。適切なアナロジーを用いることで、複雑な事柄を、わかりやすく印象的に伝達することができるわけである。この本にリスト化されている、よくある類推パターンをあらかじめ覚えておくと思考のスピードアップになりそうだ。

そしてアナロジーによるアイデア創出は、遠いところから借りてきて組み合わせる、ことが重要だという。単なる真似やパクリではなく、まったく違う世界からの借用が、ブレークスルーのアイデアになる。表面的類似(オヤジギャグ)ではなく、より深い構造的類似のアナロジーこそ重要であるとして、その発見方法や訓練法を教える。

「「構造的」類似とは、複数の事象の「関係性」に関する類似のことであり、表面的類似に比べて見つけるのが難しい分、その価値も大きい。」

ビジネスの世界では、「一見違うが実は構造的に似ている業界」を探すことが重要だが、そのためには「事業特性」に注目して探すとこんなふうにみつかるとして、アナロジー思考の実践がある。

会社における新人とベテランの能力差は、主にアナロジー思考能力の違いなのではないかと思う。新人は個々の具体的な事象にこだわってしまうが、ベテランは慌てず、過去の経験や他の領域の経験と、目の前の事態を結び付けて、解決や突破法をみつける。アナロジー思考を意識することはデキル人への第一歩となるはず。新入社員にも、おすすめ。

・本はどう読むか
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昭和の社会学者 清水幾太郎の体験的読書論。

第一次世界大戦の頃、少年だった著者は青少年向けの時代活劇「立川文庫」に夢中になる。忍術、殺人、遊郭、拷問、強姦が随所に出てくるのがよかったと率直にはまったきっかけを書いている。やがて、それに飽きると、詩集や哲学書など、より高いレベルの面白さを求めて、難しい本を読むようになる。その読書遍歴の動機を「虚栄心に駆り立てられて」だとか自分だけの「秘密」の読書などという、わかりやすい説明で明かす。

著者は本を3つに分類する。

実用書 生活が強制する本
娯楽書 生活から連れ出す本
教養書 生活を高める本

実用書は読まざるを得ないから読むのだし、娯楽書は好きに読めばいいのだから、として主にこの読書論は教養書の読み方に重点を置いている。教養を高めていくための読書術、メモのとり方、選び方、整理のしかた、外国書の読み方が主な内容だ。

読書や探究には、いくばくかの不純な動機や刺激、悪徳があったほうが向上しやすいのではないかという意見が面白い。清水幾太郎といえば東大を出て、読売新聞論説委員から、学習院大学教授になった人である。

「哲学の歴史や諸科学の歴史を調べてみると、真理への愛だけが学者たちを動かしていたのでないことに気づく。もちろん、真理への愛がなかったら、何事も始まりはしないが、それと相混じて、虚栄心を初めとする醜い悪徳が彼らを駆り立て、しかも、そこから思わぬ業績が生まれていることがある。同僚を蹴落とそうとして、その学説に反対したり、有名になろうとして、極端な学説を編み出したり......、それがはからずも、立派な成果を生むことがある。」

欲望に駆られて知的探求をする。それがこの人流の読書術、探究術ということの基本みたいだ。

初版が1972年なので、「マスコミ時代の読書」では、活字メディアに対して、テレビという映像メディアが現れてきたとして、ふたつを比較しているところは時代を感じる。知識のカード・システムによる整理というのも、いまなら主にパソコンで管理するものだろう。一部記述が古くなった部分はあるものの、紙の読書論としてはいまもなお学べる記述が多い古典である。

・読書術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/post-1103.html


・読書論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-932.html

・読書について
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-913.html

・読書という体験
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-569.html

読書の歴史―あるいは読者の歴史
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1047.html

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