Books-Management: 2011年11月アーカイブ

・戦略力を高める ―最高の戦略を実現するために
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著名な経営コンサルタントが書いた「戦略力」=「あるべき姿に至る海図を描きつづける力」の指南書。実際の企業例、ケース演習つき。コンパクトに明解に戦略の基本がまとめられている。「戦略上の○○といえばこの○つです」のような整理がわかりやすい。

たとえば「戦略力」は4つの素力から構成される。

1 環境を読む
2 あるべき姿を描く
3 自分を見つめ直す
4 道筋をつくる

あるべき姿ってなんだろう?と気になるが、それはずばり

1 自社が世界一になれる部分
2 情熱をもって取り組めるもの
3 経済的原動力になるもの

の3つの要素を同時に満たすものと定義されていた。そして

「何のために何を成すのか、Whatを実現することの意味の中に、企業の営利を超えた何か大切なものを含んでいるか否かは、後のち、そのWhat実現に向けた遂行力を大きく左右するかもしれない。近年の「環境に優しい」「社会への貢献」などはそのあらわれといえるのではないだろうか。」。

大義名分のWhyがあるべき姿に命を吹き込むのだと著者は教えている。

後半では現代経営学における戦略論の変遷を4つの学派のアプローチで整理している。

1 「計画」 アンゾフ流、戦略計画立案作業を中心とする学派
2 「創発」 ミンツバーグ流、意図せざる行動と学習の過程から生まれるパターン形成を重視する学派
3 「ポジション」 ポーター流、自社を外部環境の中でどうポジションさせるかを重視する学
4 「資源」 バーニー流、自社が保有する独自の経営資源が競争優位を築くと考える学派

経営学のさまざまな要素が盛り込まれている全部いりの印象の本だが、戦略を実践的に考える上で必要なエッセンスに濃縮されていて、ビジネスパースンが読むのにちょうどよい教科書になっている。

・人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ
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永世棋聖 米長邦雄の勝負論。気ったはったの世界の心得を説く内容だが、趣味人で遊び人の勝負師だから、ユーモアも交えた楽しい内容になっている。

まず有名な米長理論だ。相手は負けるとプロ資格剥奪だが、自分は勝っても負けても昇降格に関係なしの消化試合。そういうときにこそ、手心加えずびしっと負かさなければならない。一生のツキを呼ぶ「この一番」とは「でかい勝負」ではなく「その勝敗が自分の進退には直接影響がないけれども、相手にとっては大変な意味を持っている勝負」なのだという理論。

でかい勝負で全力を出すのは当たり前で、そういう勝負は負けても実力があればいつか勝てる。むしろ消化試合に全力を投入して相手を潰せるかどうかこそ勝負の運を呼ぶ重要なポイントになるということのようだ。深い。

そして決断は長考に妙手なし。「大事なことだからこそ、簡単に決めるべきだと私は思います。悩み、考えあぐねてから答えを出す場合よりも、だいたいにおいて間違いが少ないものなのです。」。そしてそういうときのカンは好きで取り組んでいないと働かないもの。好きであることが大事である、と。これは逆にいうと、第一感で最善手をさせる力がなければプロとしてはやっていけないという事実でもある。

強い人と対戦する時は、短期決戦と局面の単純化で勝負するという鉄則は万事に通じていそうだ。では負けたらどうするか。そこもフォローしている。「男が勝負に負けた時は、何を言われても、じっとしているに限る。これはもう鉄則です。」と。負けた時は遊び呆けて頭の中を一度ゼロに、勝っているときはじっとして調子を持続させよというのが米長流だ。

この本、前半は比較的真面目でうなずける内容なのだが、後半の強烈な亭主関白論とか才能を前提にした人生論は、ちょっと偏っていて、実はそれが面白い、本質なのだろう。

・ビジネスマンのための「行動観察」入門
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大阪ガス行動観察研究所所長 松波晴人氏による実践的なビジネスエスノグラフィー。

企業が顧客のニーズを知るには、アンケートやグループインタビューという一般的な手法がある。

「しかしいま、こうした従来の方法だけでは画期的な製品やサービスを提供するのに限界が見えてきた。それはアンケートやインタビューだけでわかるニーズは、顧客が自分で言語化した「顕在ニーズ」だけだからだ。そこで、実際に顧客の行動(経験)を観察して、まだ顧客自身も言語化できていない「潜在ニーズ」にいち早く気付き、顧客に価値のある「経験」を提供することが重要となってくるのである。」

行動観察では観察、分析、改善の3ステップを踏みなさいという。

この本が抜群に面白いのは、理論ではなくて第2章「これが行動観察だ」である。実際に著者らが実施した企業の行動観察による改善プロジェクトが、ドキュメンタリタッチで紹介されていく。現場で試行錯誤しながら、見事に毎回、洞察をつかんでいく。ドラマみたいだ。1社当たり1作の漫画にしたら面白そう。事例は多岐にわたる。

まずはワーキングマザーの潜在ニーズを知るために、協力者の家に入って数時間の観察をする事例。企業の人間が家庭に入り込めば、行動が行儀よく変わってしまう可能性がある。だから観察者は調査の意図を誠実に伝えた上で、主婦に「晩ご飯を食べていってください」といわれるくらい信頼関係が築くよう心がける。すると主婦の隠れた願望が明らかになっていく。

展示会のイベント会場にでかけてブースを観察し、説明者の立ち位置の変更を提案することで、売り上げが3倍にしたケース。優秀な営業マンと普通の営業マンに同行して、できる営業マンのノウハウを発見するケース。オフィスで働く人々を1日中映像で観察して詳細な行動ログを書き出し、分析するケース。調理場を観察して付加価値の高い作業を判別することで料理人の生産性を飛躍的に高めたケース。工場の労働者の生産性と創造性を高めるケース。そして5000人のお客様の名前を記憶するホテルのドアマンを観察し、驚異的な記憶能力の秘密を探るケースなどなど。

多くのケースでわかりやすいノウハウ抽出と具体的な成果がでていて、現場のコメントもある。潜在的なニーズの発見、インサイト創発につながっている様子がうかがえる。「イノベーションを可能にするのは観察に触発された洞察である。」IDEOのトム・ケリー氏の言葉が引用されているがまさにそのとおりの成功例ばかり。

実際には観察から得られたデータに意味のある構造を見出すには、人類学で言うならクロード・レヴィストロースのような熟練した分析者が必要とされるような気はする。対象に棲みこんで長時間の観察をするには、人材や仕組みづくりに、コストもそれなりにかかるだろうが、やってみる価値がありそうな中身を感じた。対象に棲みこんで洞察を得るプロセスは、観察者自身を成長させる教育効果も高そうだ。

・アイデアの99% ―― 「1%のひらめき」を形にする3つの力
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「産業を進歩させるアイデアは、とてつもなく斬新なひらめきから生まれるものではなく、むしろ熟練した管理努力のたまものです。」。当てにならない創造性開発ではなく、作品を次々に世に出し、アイデアを実行し続ける能力にスポットライトをあてた本。

この本の公式は、

アイデア実現力= (アイデア)+整理力+仲間力+統率力

まずアイデアはカッコにいれてしまって、おもいついたアイデアを最後は必ず「送り出す」に集中せよと説く。実践するには最高のものだけを送り出そうと思わない割り切りも必要だ。

トーマス・キンケイドの絵とジェームズ・パターソンの小説を例にを挙げて、似たような作品ばかりで創造的とはいえないが、多作で売れておりビジネス面では成功している作家を参考にせよというユニークな指摘をしている。

創造性×整理力で作品が実現されるとするならば、私たちはついつい創造性100や120の作品を作ろうとして、結果的にひとつの作品も完成させることができない。100×0=0である。50×2=100でもいい。創造性がなくても非凡な整理力があれば、整理力に欠ける天才クリエイターよりもアウトプットが出せるという。

この割り切った考え方には異論も多そうであるが、クリエイターも生計をたてて生きていかねばならない。いつか120の作品を出すために、50や80の日常的なアウトプットで凌ぐことだって必要な日々もあるだろう。

ベストセラー作家には1日のうちに執筆に充てる時間を決めている人が多くいる。生産のための日課を守り続けること、行動を習慣化することが大事。自分はチャンスに恵まれないと嘆くより、コツコツと地道に成果を出していくことが、ビジネス面では成功の近道ということ。

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