Books-Media: 2008年7月アーカイブ

・テレビ進化論 映像ビジネス覇権のゆくえ
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経産省メディアコンテンツ課課長補佐出身で、早稲田大学准教授としてコンテンツ産業理論、情報経済論、産業政策論などを教える境真良氏の放送と通信の融合論。新書一冊で放送と通信の融合の現状が俯瞰できる良書。

メディア・コンテンツ産業が未来の日本の基幹産業だと言われる割に、旧態依然とした体制がなかなか変わらないのはなぜか。著者は元官僚としての正直な感想を吐露している。
「しかし、経験者の実感と言えば、最大の問題は、メディア・コンテンツ産業が本質的に娯楽産業だという点にあるのではないだろうか。メディア・コンテンツ産業は、国の興亡や国民の生死に直結しないし、伝統技術や舶来の芸術のような権威とも距離がある。だから、いくらGDPを増やすから、情報通信産業の発展に資するからといっても本気で取り組む気になれない。「娯楽の価値」を認められない官僚の心理傾向が、問題の奥底には潜んでいるようにも思える。」

新しい価値は中心ではなくて周縁から生まれる。サブカルチャーからカルチャーが育つ。むしろ中央の官僚が認められない価値だからこそ、これは本物なのかもしれないと思う。
この本にも紹介されているようにかつて映像の世界には実験市場があった。二本立て映画、ピンク映画、深夜番組という傍流とみられた市場から、後の名監督や名プロデューサーが生まれてきた。ゲームやアニメからヒットコンテンツが誕生してきたのも、新しい才能が生まれる実験的な市場だったからだろう。今ならニコニコ動画やYouTubeがそうした傍流の実験市場になるのだろう。

当面の課題はそれらをマネタイズする方法を考えることだが、情報の価値についてこんな記述があった。

「慶應大学の坪田知己は、情報そのものは無価値であり、情報はその情報を利用できる人間に出会ったときに初めて価値を生むと説明する。 これにしたがえば、情報のビジネスで最大の課題は、その情報を受け取って価値を見出す人間をいかに抽出するかということになる。だからこそ、ウェブ2.0系事業者はどん欲に消費者に関するあらゆる情報を集めようとする。」

つまり大勢を楽しませるコンテンツを作る時代から、それを面白がる人を大勢探す時代になるということかなあと考える。年頃の娘は箸が転がるのを見ても笑い転げるというが、転がる箸と年頃の娘をデータベース上で結婚させるのが、新しいコンテンツビジネスの可能性として考えられる(もちろんこれまで通り大勢を楽しませるものと並行して)。

グーグルや楽天などのプラットフォーム型ビジネスの特徴として「ずらし」の技法があると著者は指摘している。グーグルが広告で収益を上げながら無償でサービスを提供するような例のこと。

「つまり、直接収益のように単一の受益者に金銭対価を要求するのではなく、複数の受益者を想定し、ある受益者には無償で利益を与え、そこから、獲得した情報と引き換えに別の受益者から金銭を回収するというやり方であり、「情報の三角貿易」とでもいうべき技法だ。」

この本は、映像ビジネス世界で、テレビ業界、制作者・権利者、IT業界などのプレイヤーが新しい「情報の三角貿易」の組み合わせを模索している様子を、元官僚で研究者である著者が、一般人にも分かりやすいように平易に、でも斬り口は大胆に分析している。

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