Books-Misc: 2008年11月アーカイブ

・白鳥の湖 華麗なるバレエ 1 (小学館DVD BOOK)
51f9yj9xrdL__SL500_AA240_.jpg

クラシック・バレエの代表作の舞台を収録したDVDとカラー図版たっぷりの解説。シリーズ第一巻はバレエの代名詞「白鳥の湖」。ロシアのキーロフ・バレエの公演。チャイコフスキーの名曲でよく知られているが、そのストーリーというものは初めて知った。

悪魔ロートバルトの呪いで白鳥に変えられたオデット姫は夜の間だけ人間の姿に戻ることができる。彼女を元の姿に戻すには、誰も愛したことがない男の真実の愛の誓いが必要だった。

ある日、白鳥たちがすむ湖にやってきたジークフリート王子は人間の姿のオデット姫に一目惚れする。白鳥の湖のテーマとして広く知られるメロディや、4人が横一列に手をつないで踊る小さな白鳥の踊りの印象的なシーンは、この部分にある。

しかし、翌日、悪魔はオデット姫そっくりの娘オディールを宮廷の舞踏会に使わして、王子の心を惑わす。オディールを湖で会ったオデット姫と思いこんだ王子は策略にはまって、悪魔の娘にうっかり愛を誓ってしまう。その様子を窓から見ていたオデット姫は絶望にうちひしがれて湖へもどっていく。

間違いに気づいた王子は湖へ行き姫と抱き合う。悪魔がやってきてオデットを翻弄するが、王子は悪魔に戦いを挑み、激しい攻防の末に、ついに打ち負かす、というのがこの舞台のストーリー。

え?じゃあ呪いの話や誓いの意味はどうなってしまうの?最初から悪魔をやっつければよかったのでは?と疑問も残るわけだが...。

解説を読むと、この白鳥の湖は本来は悲劇で、二人は入水自殺して天国で結ばれるというストーリーだった。ロシアでは社会主義リアリズムの観点から男女が協力して悪を打ち負かす筋に変えられたという。いまも悲劇版とハッピーエンディング版の2種類が演じられているそうだ。

世界の一流バレエ団のひとつということもあって、姿勢を完璧に制御したバレリーナたちの動きが凄い。プリマバレリーナはその場で30回転以上しても乱れない。一糸乱れぬ群舞のシンクロぶりにも驚かされる。

解説のQ&Aでなぜバレリーナはトゥ・シューズを履くのか?という質問に対して、

「爪先で立つことは、地に足のつかない状態、浮遊感やはかなさの表現へとつながり、当時流行したロマン主義的物語に登場する妖精や精霊など、この世のものではない幻想的な存在を表現するのにふさわしいものだったからです。」

とあるが、まさに白鳥の湖は、薄暗いシーンが多く、白鳥の動きがモチーフであるがゆえに、幻想的で浮遊感たっぷりの作品。

・機密指定解除 歴史を変えた極秘文書
51fwVqURFnL__SL500_AA240_.jpg

「文書や記録そのものは、もちろん紙の上の単なる言葉のら列だ。しかしそれは、革命や戦争、暗殺など、歴史の流れを変えた重大な事件で、大きな役割を演じた人物や政策、さらにその背景に潜む陰謀などを知る格好の「のぞき窓」となっている。」

古くは15世紀から現代まで、事件から長い時間を経て一般に開示された機密文書50本を写真で見せながら解説するドキュメンタリ。スパイの書いたメモや報告書、国家レベルの密約、盗聴記録など。米国を原爆開発へと進めたアインシュタインの手紙、ナチスがつくった各国ユダヤ人の人数推計、大統領がつかまされた偽文書などもある。

第二次世界大戦中と冷戦時代の米ソの諜報合戦は特にすさまじい。二重スパイや偽文書、など手の込んだものが多い。敵の暗号通信を解読できても当面は敢えてアクションを起こさない。相手が安心して通信している様子を傍受し続けたいからだ。だまされているフリをしてだます。裏切り者を裏切らせる。

諜報機関はスパイや協力者をつくるため裏切らせる秘訣を研究していることがよくわかる。裏切りの動機は4つというのは興味深い。この4つの弱みをつけば敵の幹部をも寝返らせることができるというもの。

M Money  お金
I Ideology イデオロギー
C Coercion 抑圧
E Ego   エゴ

歴史上の二重スパイたちはだいたいこのどれかで転んでいること事例解説からわかる。

本書は監修者で元外務省のラスプーチンこと佐藤優が、早稲田大学大学院でインテリジェンスを教える事例研究のテキストに使ったらしい。本物である。

・栞と紙魚子の百物語
51PX54lrBgL__SL500_AA240_.jpg

「奇々怪々な事件が次々に起きる胃の頭町を舞台に、女子高生コンビの栞と紙魚子が大活躍!! 雑誌「ネムキ」好評連載の、諸星大二郎の人気シリーズの単行本最新刊。「妖怪司書」「弁財天怒る!」「百物語」ほか計7編を収録。 」

私が神様と仰ぐ漫画家 諸星大二郎の近刊。心酔している諸星先生に誤謬はありえないから諸星漫画は盲目的に受け入れる心境にある私だが「栞と紙魚子」シリーズ連載初期には、どうも読むときのノリが悪かった。この怪奇コメディという独特の作風は素直に受け入れがたいジャンルなのである。怖がらせるのか、笑わせるのか、両立なんてありえるのかと疑問に思ったのだ。

ところが、長期連載で少しずつ魅力が強まってきて、今は心待ちにしている。怪奇漫画のはずなのだが、最近は登場人物の人間と妖怪・物の怪・魑魅魍魎どもが、すっかりなれあいの関係を暖めてしまって、ずいぶんほのぼのとしてきた。マンネリ安定感はほとんどサザエさんである。いつまでもこの味を楽しんでいたいと思える長寿番組の魅力と風格がでてきた感じだ。

そして恐るべきことにこの作品は日テレの深夜番組としてアイドル(AKB48)起用で映像化されてしまったのである。いっぱい作品はあるのに、よりによってなぜ栞と紙魚子の百物語なのか、現実は漫画より複雑怪奇なりである。

・栞と紙魚子の怪奇事件簿
51NuhORWMvL__SL500_AA240_.jpg

壁男も地味に映画化されていた。

・映画DVD 壁男
511aeqaXTaL__SL500_AA240_.jpg

さて、映像の出来はというと...正直なところ「諸星ファンならば見よう」かなあ(笑)。

・私の好きな漫画家たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/2003/12/post-46.html

・トゥルーデおばさん眠れぬ夜の奇妙な話
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/04/post-377.html

・「私家版魚類図譜」「私家版鳥類図譜」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/04/post-554.html

以下は関連情報として諸星大二郎作品がでてくるエントリ

・日本の聖地―日本宗教とは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-424.html

・安徳天皇漂海記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/09/post-445.html


そして最後に充実した情報サイト発見。

・諸星大二郎博物館
http://book.geocities.jp/yasukenyan/
作品の網羅リストに感動。私は現在販売されている物は全部所有していて今はレアものを中心に買い集めている。ここは大いに参考になる。

刑務所の前

| | トラックバック(0)

・刑務所の前 (第1集)
510TXY8Y0GL__SL500_AA240_.jpg

猟奇的にして耽美的な作風で知られる異才の漫画家 花輪和一。私はこの人の漫画はほとんど保有している。花輪氏は90年代、モデルガンの趣味が高じて改造銃や実銃の所持で逮捕されたことはよく知られている。出所後に懲役3年の体験を漫画「刑務所の中」として描いたら、ヒットして映画にまでなったから。

「刑務所の中」は私も読んでいたのだが...。「中」でお腹いっぱいになり、「刑務所の前」という作品はもういいやと思って、買い忘れていた。ところが、むしろ、こちらの方がずっと花輪らしくて面白いのである。

・刑務所の前 (第2集)
keimushonomae02.jpg

もともと花輪作品の真骨頂は時代モノ。刑務所体験漫画などではない。江戸時代とか平安時代を舞台に、陰惨でドロドロした男と女の因縁や怨念を描くことにかけて、日本有数の凄い人なのだ。自分を主人公に獄中生活を綴った「刑務所の中」のようなドキュメント漫画は飽くまで余技のはずなのだ。

「刑務所の前」は、なぜ自分が銃刀法違反で捕まり懲役3年で投獄されたのかを説明する漫画である。それなのに、どういうわけか主な舞台は江戸時代である。主役は花輪ではなくて、鉄砲鍛冶の生真面目な父のもとで暮らす娘や、良家に生まれながら己の両親の浅ましさに宗教に救いを求める少女とかの話だ。長大な時代劇の幕間に、現代に戻って逮捕に至った状況説明が挟まる。

・刑務所の前 (第3集)
418AhgA2OHL__SL500_AA204_.jpg

ひと言で片付けると、逮捕は銃に魅入られるフェチシズムや規範意識の薄さが理由なわけだが、それを直接に言わずに、得意の時代劇ドラマに作品化した。要は世の中に対しての、物凄く迂回した言い訳作品なのだ。この方がなぜ刑務所に入るはめになったのかのわかりやすい説明になっている。業の深い作品を描けるのは花輪自身がドロドロの業を抱えているからなんだなあと納得させられるわけである。

「刑務所の中」は大ヒットだったが、本来の花輪作品らしい、こちらは一般人には受けないだろう。でも、こっちのほうがずっと面白いと思う。私も業が深いのか。ただの悪趣味なのか。

・「失踪日記」 「刑務所の中」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004916.html

・究極版 逆引き頭引き日本語辞典 名詞と動詞で引く17万文例
kodanshagyakubikiatamabikijiten01.gif

便利だと実感して使っている逸品の紹介。

動詞には名詞、名詞には動詞の組み合わせ例が見つかる文例辞典。

たとえば「趣味」という名詞でひくと、

「しゅみ【趣味】生かす。抱く。受け継ぐ。疑う。打ち明ける。重んじる。解する。超える。誇示する。探り出す。示す。高める。楽しむ。反映する。深める。【趣味と実益】兼ねる。」

という動詞が出てくる。「話し合う」という動詞でひくと、

「噂。思いつき。思い出。可能性。感想。境遇。近況。心。心の奥。事情。損害。手立て。とっちめ方。復縁。プラン。問題。話題。」

という名詞が出てくる。

これらの用例は文芸作品など300冊の文庫本で約350人の著者が実際に使ったもののうち、文章を書く上で参考になりそうなもの17万例を中心に編纂されている。

まえがきにはこの本の効能として、

・ピタッとする言葉を探す
・忘れていた言葉を思い出す
・使い方を確かめたり、別の適切な言い回しを探す
・似たような意味あいの言葉を探す

などが挙げられている。

私は普段、筆が止まってしまったときに、漠然と手遊び的にこの辞典をめくる。言葉のつながりが誘い水になって、また書き出せることがある。調べるというより、文章を書くテンポづくりに案外使える辞典だと思う。

・奇跡のハイトーンボイストレーニング―プログラムCD付き 高い声を手に入れる
51DEGCJ0JNL__SL500_AA240_.jpg

現在の流行歌は1960年代と比較すると半音で6つもキーが上がっている。高音域の声はCM音楽やドラマBGMなどでよくきこえて有利という供給側の事情もあるらしい。携帯音楽プレイヤーが流行して、雑音の中でも聴き取りやすい音域でもあるからだろう。これは平井堅やMISIAのようなハイトーンボイスを出すためのヴォイストレーニング本である。

地声(オモテ声)で音程を高くしていくと、声が裏返ってしまうところがある。これを換声点を呼ぶそうである。この前後ではガラッと声の印象が変わるし、音程もはずれがちだ。この換声点を目立たなくして、ウラ声からオモテ声までが違和感なく、つながって歌えるようにするのが、このYUBAメソッドである。

「ウラ声が出ているときには、ノドの中で輪状甲状筋という筋肉が中心となって働いています。またオモテ声が出ているときには、閉鎖筋群という筋肉群が中心となって働いています。換声点では、これらウラ声とオモテ声を作る主役となる筋肉の働きが交代しています。」

トレーニングはまずウラ声とオモテ声をはっきり分けて出すことから始まる。両方でいろいろな高さの音を出せるようにする。両方で簡単なメロディを歌う。そして遂に、両方を行き来するメロディを挑戦し、混ぜて歌う完成形へ至る。

とはいっても、理屈だけでは難しい。そこで、この本にはわかりやすいレッスンCDが付属している。

付録CDには音域にあわせてそれぞれに7つのプログラムが収録されている。まずは最初のプログラム「あなたの音域はどれ?」を使って、男声・女声のどの音域なのかを確定させる。以後は該当する音域のプログラムのみを使う。

1セットは次の5種のレッスンで合計7分。

1 声の高さのチェック
2 ウラ声を出す
3 ウラ声とオモテ声を出し分ける
4 ウラ声とオモテ声を混ぜる
5 メロディーを歌う。

ウラ声で高い音程を取るのはかなり難しい。レッスンでは、わざと離れた音程が選ばれていたりするからなおさらだ。これを毎日少しずつということだが、なかなかこれだけのために時間が取れない。レッスンメロディは覚えてしまって、お風呂で練習すると良さそうである。

最近、徳永英明をカラオケで歌いたいものよ、と思っていて密かに練習中(って書いちゃったら全然密かじゃないですけど)。この練習方法は理論的に説得力があるし、レッスンに無理がないので、効果があるかも。

・VOCALIST & SONGS ~通算1000回メモリアル・ライヴ (Blu-ray Disc)
41JnrojyopL__SL500_AA240_.jpg

Blue-rayで初めて買ったのはなぜかこれでした。雪の華の最高音部の歌唱法がCDと違うのが印象的でした。ライブではさすがにあのファルセットで歌いきるのは徳永でも無理だったか?。

<収録内容>
1ハナミズキ
2桃色吐息
3恋人よ
4いい日旅立ち
5別れのブルース
6恋におちて-fall in love-
7僕のそばに
8最後の言い訳
9迷い道
10わかれうた
11ENDLESS LOVE
12レイニー ブルー
13壊れかけのRadio
14オリビアを聴きながら
15雪の華
16翼をください
17もう一度あの日のように

正直書評。

| | トラックバック(0)

・正直書評。
413ZQ36L33L__SL500_AA240_.jpg

2004年から2008年までの日本文学・海外文学を中心とした書評集。

この秋に最高に楽しかったイベントはデジハリ大学の学園祭だ。「本のプロが語る、クリエイターのための読書術セミナー」というパネルディスカッションに出演した。そこで『文学賞メッタ斬り!』などで有名な書評家 豊﨑由美さんに、とうとうお会いできたことが感激であった。

・豊崎さんのBlog : 書評王の島
http://d.hatena.ne.jp/bookreviewking/

豊崎さんの歯に衣着せぬメッタ斬り書評を、私はずっと小説を読む際の参考にしてきた。だが、豊崎さんの書評本について書評を書くなどという危険な行為は避けていた。今回びびりながら書くわけだが(先方もブログをやっていらっしゃる...ゾゾゾ)、実物は想像通り、キレのある発言連発のかっこいい人であった。

当日、控室で対面するまではワクワクと同時にガクガクブルブルしていたのである。もともと私は強い女性に弱いので...、いやいや、今回はそういう性格的なことではなくて、トヨザキ社長の名前で私が強烈に連想するのが「ガター&スタンプ」だからである。トヨザキ社長が連載コラムの中で堕落した書評を表す言葉として使った言葉だ。

「ガター&スタンプ」はヴァージニア・ウルフの批評文にでてくる。「書評家は要約を抜き取り(ガター)、可の場合は*、不可の場合は別の印を押す(スタンプ)程度の仕事でもしてりゃあいいんじゃないの」という意味である。

そう。書評家の仕事というのは「要約+評価」という最低レベルからどれだけ上を目指すかという勝負なのだ。私のブログの記事は「ガター&スタンプ」に堕ちているものが多いと自覚している。書評を味わって読んでもらうというよりは、良い本との出会いを演出するナビゲーターとして、機能的に働きたいという思いもあって、ほどほどにしているんだという言い訳も、そこにはあるのだれども。

ブログを書くたびにトヨサキ社長の脳内アバターに「ほら、オマエ、またガター&スタンプを量産するな」と責め立てられている気分なのだ。

本書「正直書評。」の評価基準は3つ。

金の斧 親を質に入れても買って読め!
銀の斧 図書館で借りられたら読めばー?
鉄の斧 ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!

面白い本はベタ褒め、つまらぬ本はメッタ斬りという、いつもの姿勢は本書でも変わらない。巻末袋とじ部では6ページも使ってあの有名な大物作家を殺気満々にぶったぎっている。レベルの低い作品を容赦なく吊るしあげるが、毒舌の背後には、伸びてほしい作家への愛が感じられるのがトヨザキ節。だから読んでいて楽しい。

この本の評価を定量的に見てみると、意外な事実もわかった。この本には100冊の紹介があるのだが実は「鉄」は15冊くらいにすぎない。「銀」もほとんどない。圧倒的に「金」が多いのである。メディアでの印象に反してトヨザキ社長は辛口の批評家ではなくて、実は大甘な批評家だったのである。

ちなみに私とトヨザキ社長の小説作品の好みは類似度70%くらいだと思う。見識は3倍くらいあちらのほうが上である。よって、このブログの読者の皆さんにおすすめである。とりあえず、これから読む本が「金」かどうか(そもそもリストアップされているかどうか)確認してから読むと失敗が減らせるはずと思う。

日本の色辞典

| | トラックバック(0)

・日本の色辞典
41P0D83ZC4L__SL500_AA240_.jpg

まず色見本の美しさに感動する。歴史や文化の背景を綴った個別の解説も充実している。
「三百七十九色のうち、本文で解説した二百九色の伝統色については、一部をのぞき、すべて天然の染料で絹布を染め、もしくは天然の顔料(岩絵の具)を和紙に塗って再現した色見本を付した。」

と、注でさらっと書かれているが、大変な手間暇をかけて丁寧に作られた出版物だ。本来の色を再現するため「延喜式」の資料までさかのぼり、染色材料の処方を調べ尽くした上で作られている。書籍の限界に挑戦している。

日本の伝統色は布や和紙に使われテクスチャの質感を伴ってこそ美しいのだ。写真ベースの色見本はこれだけで鑑賞に値する。伝統色は決してRGBのような単純な情報に還元できないことを思い知らされる。なかには女郎花色(おみなえしいろ)のように、薄い藍色と黄色の色糸を緯と経に織りなした布の襲でしか再現できないパターンもある。

赤、紫、青、緑、黄、茶、黒・白、金・銀の8グループに466色が分類されている。たとえば赤グループは、

【赤】 代赭色、茜色、緋、唐紅、今様色、一斤染、朱華、赤香色、赤朽葉、蘇芳色、黄櫨染、臙脂色、猩々色など104色。

冠位十二階で最高位の深紫、黒紫を含む紫グループは、

【紫】深紫、帝王紫、京紫、紫鈍、藤色、江戸紫、滅紫、杜若色、棟色、葡萄色、紫苑色、二藍、似紫、茄子紺など46色

などがある。(数の上では茶色(107色)が多い。)

古典文学や風雅な世界で使われる色名が、実際にはどんなに美しい色なのかがよくわかる。色見本にならべて、その色が主体の文物や風景、代表的な芸術作品もカラー写真で収録されているからイメージしやすい。

読み物部分が充実しているため、実用のリファレンスというだけでなく、鑑賞して楽しむ図鑑として、一家に一冊あってよさそう。日本図書協会選定図書。

異常快楽殺人

| | トラックバック(0)

・異常快楽殺人
51RRK9Q0P9L__SL500_AA240_.jpg

親友とメールをしていると、本の話になり「平山夢明の「異常快楽殺人」というドキュメンタリーは、ありとあらゆるホラーを凌駕する名作です。彼女はあまりのこわさに本当に泣き出してしまいました。それ以来その作家の名前を口にすると本気になって怒ります。そのぐらいこわいです。」という。

いや、でもさ、そりゃいくらなんでも大げさだろうよ、悲しい内容で泣くことはあっても、大人が怖くて泣くなんてあるかね、文章だろ?というのが素直な私の感想だった。

「昼はピエロに扮装して子供たちを喜ばせながら、夜は少年を次々に襲う青年実業家。殺した中年女性の人体を弄び、厳しかった母への愛憎を募らせる男。抑えがたい欲望のままに360人を殺し、現在厳戒棟の中で神に祈り続ける死刑囚...。無意識の深淵を覗き込み、果てることない欲望を膨らませ、永遠に満たされぬままその闇に飲み込まれてしまった男たち。実在の大量殺人者七人の究極の欲望を暴き、その姿を通して人間の精神に刻み込まれた禁断の領域を探った、衝撃のノンフィクション。」アマゾンの説明より。

読んでみた。

結論。ああ、これじゃあ確かに泣くかも。

あとがきにこの作品に関わった編集者達が情緒不安定になったり体調を崩したりしたと書かれている。これは十分にありえる話だ。著者曰く「もしも、ごく短期間に、この物語のなかに突入し無事に帰還、現在に至るも何の変調もきたさないとするなら、あなたの精神は自覚しているいないにかかわらず、相当のものであるといえる。」とあとがきで読者に警告している。

もともと平山夢明はホラーの名手であり、特に人を切り刻んだりする凄惨な修羅場をリアルに描くことを得意とする作家だ。これは、こんな筆力を持った作家が書いてはいけないテーマだっ。事件の再現描写に臨場感がありすぎて怖すぎるのだ。衝撃のノンフィクションという、うたい文句に偽りはない。

一人で何百人も殺した大量殺人鬼たちの人物像と事件の克明な描写が7本。背筋凍る。

映像より怖い文章を読んでみたい人向け。

・独白するユニバーサル横メルカトル
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004775.html
「日本推理作家協会賞を受賞した表題作含めて、最初から最後まで、人肉を喰らったり、切り刻んだり、拷問したり、洗脳したり、虐殺したりされたりの短編が8本。死体や血しぶきが飛ばない作品は収録されていないので、グロテスク、スプラッター大嫌いの人は手にとってはいけない。人間のあらゆる狂気の濃縮ジュースみたいな内容である。」

・治療をためらうあなたは 案外正しい EBMに学ぶ医者にかかる決断、かからない決断
41mFFC8ZiaL._SL500_AA240.jpg

統計的に分析すると、病気の治療や検診は受けなくても結果にたいした差はないことが多いというショッキングな内容。医学教育の専門家がEvidence-Based Medicine(根拠に基づく医療)という新しい医療の考え方で書いている。

まず数字の見方を教えられる。脳卒中の高血圧を抑える薬の効果は次のように表記できる。実は全部同じ事実を述べているわけだが印象がずいぶん変わる。私たちは医者の説明によって医療や薬の効果を過大評価(あるいは過小評価)しているかもしれない可能性に気づかされる。

・10%の脳卒中を6%に減らす
・40%脳卒中を減らす(相対危険減少でみた場合)
・4%脳卒中を減らす(絶対危険減少でみた場合)
・25人治療すると1人脳卒中を予防できる(治療必要数でみた場合)
・薬を飲んでも6%が脳卒中になる
・薬を飲まなくても90%は脳卒中にならない

EBMは徹底的に事実と数字から医療の効果を検証する。取り上げられた病気は、高血圧、高コレステロール血症、風邪、腰痛、糖尿病、風邪、インフルエンザ、花粉症、アトピー性皮膚炎、ぜんそく、胃潰瘍、虫垂炎、ガン検診、うつ病。どの病気でも、治療や検診の効果を疑問視せざるをえない、もうひとつの合理的な見方が提示される。

たとえば乳ガン検診は1039人が検診を受けると1人ガン死亡を減らすという結果が出ている。この数字はかなり小さい。検診群と非検診群での乳ガン死亡率は、50歳未満なら共に0.3%、50歳以上でも共に0.5%と、検診・非検診で"ほぼ同じ"である。

集団検診は少ない数字とはいえ母数に比例して確実に死亡数を減らせるので、実施側はやる意義がある事業だが、個人にとっては、ガン検診はほとんど効果がないのだともいえてしまう(逆にレントゲン検査がガンを増やしているという研究さえある)。受けなくても、よほど運が悪くない限り、9割9分5厘まで、死ぬことはないのだから。非検診グループで大腸ガンで死亡しない率=99.41%という数字もある。

「集団検診の目的は、正確に言うと個人個人のガン予防のためでなく、集団としてのガン死亡率を減らすことなのです。」と著者は結論する。

早期発見にデメリットもあるという。考えさせられたのは、著者が持ち出した老人のガンの話だ。

65歳で検診を受けて胃を切除したグループは「検診のおかげで10年経った今も元気だ」と考えている。一方、検診を受けずガンであることを知らず過ごしたグループも「私はこの10年元気だった」と考えている。数字的には早期ガン患者が5年後にも早期のままである確率は36%と意外に高いので、後者グループの生存者は結構多いのだ。

苦しい治療と再発の危険に怯えながら再検査を繰り返す前者のグループと比べて、完全な胃のある状態で5年を過ごした後者のグループの方が幸せな人生だったのではないかと、著者は読者に問いかける。治療や検診にかかる時間や費用のコストも両者の生活の質に影響するはずである。

統計的には病気を「放っておく」のは案外、賢い個人の選択肢である、ということがいえる。健康に異常に気をつかいストレスを溜め込んでしまう人と比べて、検診や治療を受けない人というのは、それほど愚かな決定をしているわけではないのだ。

でも、私は検診や治療を受け続けるだろうなあとも思った。人間は合理的ではないからだ。確かに統計的には深刻な病気になる人は少数なのだが、それが私ではないとは誰にも言えない。1000人に1人救われる人になる可能性があるのなら、後悔しないために治療や検診を受けるという選択肢も、それほど愚かな選択ではないだろう。

このアーカイブについて

このページには、2008年11月以降に書かれたブログ記事のうちBooks-Miscカテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブはBooks-Misc: 2008年10月です。

次のアーカイブはBooks-Misc: 2008年12月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1