Books-Misc: 2011年5月アーカイブ

・食卓にあがった放射能
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チェルノブイリ原発の事故に際して書かれた食物の放射能汚染に関するガイドのアップデート新装版。原発事故が起きたら食に対してどのように対応すればいいのか。

著者は高木 仁三郎(タカギ ジンザブロウ)
「1938年生まれ。理学博士。核化学専攻。原子力の研究所、東京大学原子核研究所助手、東京都立大学理学部助教授、マックス・プランク研究所研究員等を経て、1975年「原子力資料情報室」の設立に参加。1997年には、もうひとつのノーベル賞と呼ばれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞。2000年 10月8日に亡くなるまで、脱原発を貫いた市民科学者。」

放射線がどの程度人体に悪い影響を及ぼすのかは、専門家の間でも大きく違う。この本でも紹介されているが、権威ある機関や専門の科学者の出した数字を並べると、

■ガン死の危険率(1万人・シーベルトあたりのガン死数)
国際放射線防護委員会(ICRP)  100
BEIR III 報告         77~226
ロートプラットの評価 800
ゴフマンの評価 3700
放射線影響研究所(1998) 1300

ということで最小と最大では40倍くらいの大きな開きがあるのだ。そして小さな方の数字をベースにして、現在の日本の基準値は設定されているということは覚えておかないといけない。

「ヨウ素-131に関して、日本の防災対策で採用されている制限値は、牛乳1リットルあたり6000ピコキュリー(約222ベクレル)、野菜1キログラムあたり20万ピコキュリー(約7400ベクレル)、飲料水では3000ピコキュリー(約111ベクレル)ときわめて高い(90ページ参照)。 西ドイツ連邦政府がチェルノブイリ事故直後採用したヨウ素-131の制限値は、野菜1キログラム当たり250ベクレル、牛乳1リットルあたり500ベクレル、西ドイツのヘッセン州では、牛乳1リットルあたり20ベクレルを制限値として採用している。」

国際的にみると日本の防災対策で採用されている制限値は高めなのだ。しかも外部被曝については1989年に一般人の年間許容被曝線量を5ミリシーベルトから1ミリシーベルトへと引き下げたのに、なぜか内部被曝の基準値は370ベクレル/キロに据え置いた。本来はこの基準値も5分の1にしないのはおかしいと著者は訴えている。

チェルノブイリ事故の際には食については自衛することが重要だという結論が書かれている。「興味深いのは、食生活に気をつけた人(汚染の高いものを避けた人)と食生活に気をつかわなかった人の汚染度の差が歴然としていることだ。」として西ドイツのハンブルクでの調査結果が示されている。

じゃあ、どういう食べ物に注意すべきなのか、一覧表や対処法が詳細に書かれている。

チェルノブイリ事故の際に、放射能汚染の検査でひっかかった食物は香辛料・ハーブ・きのこがワースト3、そしてヘーゼルナッツ。きのことナッツはセシウムを取り込みやすい。香辛料やハーブは取り込みやすいのに加えて乾燥、濃縮させるから高い汚染値になるという。

動物では最も高く放射能汚染されたのは淡水の魚類であった。スウェーデンの湖に棲むスズキ科の淡水魚バーチからは、チェルノブイリ事故から2年後に最高82000ベクレル/キロが検出されている。湖は雨によって運ばれるセシウムの吹き溜まりになっていた。

チェルノブイリ事故では国境を越えて被害が及んだ。1300キロを超えた地域でも高汚染地域があったくらいだ。当時のヨーロッパは大混乱に陥った。

「国によって、また同じ国内でも地域により汚染状況は大きく異なったが、基準値の設定をめぐる各国政府の放射能への対応は、それぞれの国の体制や原子力政策に対する姿勢が反映された。しかし、ほとんどどの国にも共通していたことは、「人体への影響はたいしたことはない」と国民の不安と混乱をおさえるのに懸命だったことだ。」

蓄積しやすい食材、気をつけなければならない食材はこの本に一覧で紹介されている。最近は食材の宅配サービスなどでは独自に放射線を計測して出荷している業者もある。健康被害も風評被害も最小限にするには、正しい情報をベースに食に対して行動することだ。「危ない」、「いや大丈夫」。書き手の立場によって、現状への判断はどちらもありえるが、専門家の書いた本を複数読んで、消費者が正しいと思うものを選び、自己責任で判断するしかない。

・チェルノブイリの森―事故後20年の自然誌
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ウクライナ系アメリカ人ジャーナリストによる長年のチェルノブイリ訪問取材をまとめた渾身のルポタージュ。ロシア、ウクライナ、ベラルーシにまたがる原発事故の地の意外な真の姿がわかる。

視覚的にはチェルノブイリは死の街などではない。

「ところが事故の十年後の1996年に初めてチェルノブイリ地区を訪れると、驚いたことに、いちばん目につく色は緑色だった。このときの取材記録を見ると、「原野」や「森」や「野生生物か!?」などの語句を下線で強調したり、丸で囲んだりした説明がびっしりと書きつらねられている。通説や想像とうらはらに、チェルノブイリの土地は独特の新しい生態系に生まれ変わっていたのだ。悲愴な予言などものともせず、ヨーロッパ最大の自然の聖域として息を吹き返し、野生の生物で満ちていた。動物は、思いもかけず魅力的な棲みかとなった森や草原や沼と同様に、放射性物質ですっかり汚染されている。しかも、誰もがあっけにとられたことに、繁栄してじもいるのだ。」

かつての原発周辺の地域には、ジブリ・アニメのナウシカの世界のような「不自然な自然」「意図せぬ自然公園」が広がっている。もともと森だった土地だけでなく、放棄された耕作地も、現在は森になっているのだ。車も少ないので空気も新鮮で、放射能汚染地帯と言う事実を知らなければ、素晴らしい自然環境にみえる。高レベルの汚染場所は、枝ぶりのおかしな松の木が生えている「赤い森」でわかる。放射性核種が木に固定された森では、火災が発生すると燃えて舞いあがり、汚染を拡げるので、現在は森林火災に注意をしているという。

高レベルの汚染地域では放射能によって枯れる植物はあるが奇形の動物はいない。遺伝子は丈夫にできているとか、遺伝子を破壊された個体は淘汰されるとか、放射線に強い個体が生き延びたという説がある。理由はともかく動物天国だ。そこらじゅうを野生化した家畜が走り回っている。イノシシに気をつけないといけない。

避難地区は無人ではなくて結構な数の「サマショール」と呼ばれる居住者がいる。元の暮らしを求めて戻ってきてしまった高齢の人たちだ。長期的な被曝の住民への影響はどんなものだったのか?。チェルノブイリ事故ではその影響で数千人が癌になったと考えられるが、同じ時期に癌は同じ地域で別の要因でも増えているために、二十年もたってから特定の癌を事故と関連づけることが難しく、影響はうやむやになっているのが現実だ。

ただひとついえるのは、当初の悲観的な予測ほど白血病や癌は増加しなかったらしいということ。事故直後の子供の甲状腺癌が増えた以外は、80万人を超える除染作業者でも増加がみられていないという。しきい値なし仮説の確率的影響は絶対値としては大きくなかったようなのだ。

もちろん不透明な部分は残される。こうした統計をややこしくする社会的要因がある。数十種類もある"チェルノブイリ手当"を受給するために、実際には作業をしていなかったのに、手当を要求する人が少なくないこと。実際にはそうではないのに、病気になったのは事故のせいだと思い込んでいる人も多いことなど。

要するに犠牲者の数は未だによくわからないのである。

この統計の誤差の向こうにうやむやにされる死者数というのは、日本の原発事故でも同じことが予想される。もともと日本の死因のトップが癌であり、全死因のおよそ3分の1を占めるといわれる。つまり原発事故がなくても33%は癌で死亡する。人口の高齢化が急速に進んでいるので、画期的な治療法が発明されない限り、ベースとしての癌の死亡率は数パーセントは増える。いや下手をすると数十パーセントは上昇するかもしれない。そんな中で原発の影響に起因する死者が1%とか2%増えたとしても、本人も医者も区別ができないのである。原因がわからなければ補償もされないだろう。低レベル放射線の長期被曝に対しては、自衛するしかないということかもしれない。

豊かな自然環境の描写、管理地域(ゾーン)に暮らす人々との交流と和やかな記述が続くが、常に人々は線量計をつけている。原発そのものは依然として強い放射線を出している。20年前に作った石棺は劣化し始めており、目下、新しい防護施設の工事中だという。

COPPELION

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・COPPELION
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時は2036年。20年前のお台場原発事故で東京は放射能汚染され人間が住めなくなっている。封鎖された街の生存者を救助するため、自衛隊は特殊部隊コッペリオン部隊を派遣した。遺伝子操作によって放射能に耐性を持った新人類コッペリオン(女子高生)は、廃墟と化した街の中で、謎の敵対勢力と戦いながら、生存者を救出する。

「シーベルト」「石棺」「セシウム」など原発事故関係のキーワードが頻出する。3.11後の現在では、見方によっては相当に不謹慎な内容だが、連載は2008年開始なので
福島第一とは何の関係もない想像力によるもの。

・COPPELION(2)
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内容は、超能力を持った女子高生が、放射能で汚染された東京で繰り広げるドタバタアクション。現在も漫画は連載中。アニメ化も決定していたそうだが、被曝による悲惨な死も出てくるので、ちょっと難しいかもしれない、か。作者の苦悩は深そうだ。

・COPPELION(3)
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コッペリオンは遺伝子操作で放射能耐性をつけるというが、放射能は遺伝子を破壊してしまうから、現実には難しいのではないの?と思ったが、実は放射能をものともしない生物って現実にいるのですね。

体長0.5ミリから1ミリのクマムシはなんと5700シーベルトを浴びても生存可能。

・クマムシ・ゲノムプロジェクト
http://kumamushi.net/

クマムシは、空気も水もない所で、マイナス150度、プラス150度の高温低温下でも生存可能な脅威の生物で、その遺伝子を解析すれば、何か役立つことがわかるのではないかというのが、ゲノムプロジェクト。


・まんが原発列島
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22年前(1989年)に描かれた漫画の緊急復刻版。

劇画タッチで、当時の原発の光と影というか、光は少し、ひたすら闇を暴く。

若い女性記者が、権力による隠ぺい圧力に抗しながら、原子力発電の闇を明らかにしようと奮闘する物語。原発の危険性や歪んだ利権構造、事故隠しを含む現場の隠ぺい体質など、次から次へと問題がみつかっていく。

ポケット線量計、フィルムバッジ、アラームメーターの三種の神器を渡されて、日給8000円で働く労働者たちの作業風景が、今は少しは改善されているのだろうが、生々しくて恐ろしい。原発→元請け→下請け→孫請け→ひ孫請け→末端。大金が動く。ピンハネで儲かる。末端の人集めでも2,3年やれば家が建つとうそぶく手配師、そして反社会的勢力とのつながり。

作者は1974年から約10年余り新聞記者として日本の原発に向き合ってきた人物。だからこれは主に実話に基づく内容。福島、宮城、福井、静岡の原発を「尾行や脅迫に抗しながら潜入・徘徊・取材を重ねてきた」とまえがきに書いている。

週刊誌の見出し的なショッキングな暴露ネタも多いが、作者いわく「被曝作業、技士の死、原発下請け労働組合の結成、密告、極秘の『原発立地地点計画書』のスクープなども、そのままではありませんが、基本的に事実にもとづいています」とのこと。

復刊にあたって作者らが長文のメッセージを寄せている。

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