Books-Misc: 2012年3月アーカイブ

・エネルギー進化論: 「第4の革命」が日本を変える
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脱原発と自然エネルギーへのシフト。農業革命、産業革命、IT革命に次ぐ第4の革命を提唱する環境エネルギー政策研究所 飯田哲也さんの新書。ご本人の講演を聴く機械があり、会場で感銘して購入。自然エネルギー、小規模分散型システムへの見方が少し変わった。

私はこの本を読む前の考えは、10年くらいかけて徐々に脱原発を進めながら、従来方式の発電方式の効率を高めるのが無難ではないかというものだった。自然エネルギーといっても現状は2%程度であるし、太陽電池にせよ水力、風力にせよ、諸々の障害があって、20%レベルへ持っていくのは不可能と思っていた。その信念が3割くらい、自然エネルギーシフト可能説へと動かされた。

ドイツやデンマークなどエネルギーシフト先進国では、研究開発や初期投資に政府のお金を投じるのではなく、自然エネルギーで発電された電力の固定買取価格制度によって、急速な普及を実現できている。供給プッシュ型から需要プル型へ。これまでの政府のやり方とはまったく違う市場メカニズムを組み込んだエネルギー政策。

環境エネルギー政策研究所の目指すエネルギーシフト計画では今後10年程度で原発を停止し、2050年には石炭・石油と天然ガスもゼロにする。その代わり自然エネルギーを30%に引き上げ、(我慢しない)省エネ節電を20%実現する。これで現状よりも50%増しになるから、もはや10%程度だった原発が消えても問題なしという内容。

「情報、マネー、エネルギー、この3つは、現代社会を構成している重要な媒介(メディア)として考えることができます。その意味で、その3つのあり方は、国や地域の政治のあり方を色濃く表わしています。これまでは、3つすべてが中央集権的な構造のなかで一元管理されていました。しかし、そうした構造は解体を余儀なくされつつあり、新しいうねりが生まれてきています。」

情報はインターネット革命によって、マネーはリーマンショックによって中央集権から分散型へとシフトが起きた。自然エネルギー、小規模分散型の発電システムの普及を実現することは、社会構造、権力構造の革命的な再構築を意味する。著者のビジョンは3.11を起点にして、いままさにその動きが始まるのかもしれないと思わせる。

・世界の運命 - 激動の現代を読む
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米イェール大学歴史学部教授で『大国の興亡』などの著書で知られるポール・ケネディのエッセイ集。

「偉大な指導者は歴史を作るのか、時流に乗っただけなのか」
「地球規模の繁栄に必要なのは正統性と言語と位置である」

「石油と食糧の交換取引に新たな展開も?」

ここ数年に書かれた数ページのエッセイが36本収録されている。国際関係を歴史学の観点から読み解くというのが全体としてのテーマだ。国際時事ニュースの見方が変わるヒントが多数盛り込まれている。

数字から入るネタが特によかった。

たとえばパレスチナでは異常な高出生率が続いており若いアラブ人が激増している。彼らには仕事がなく欲求不満に陥っている。イスラエルの武力にはかなわなくても数の上では圧倒しつつある。この数字はアラブ地域が不可避的に動乱期へ向かうことを示しているという(「数字が物を言う時代」)。国の力を領土の広さと人口と耕地面積の関係から分析したり(「領土と力 常に大きいほど良いわけではない」)

国際関係と言うと複雑な要因が絡み合っていると考えがちだが、賢者はシンプルに考える。公開されている、基本的な数字や事実を見れば、おおまかな未来の予測は可能なのだろうと思わせる。

真面目な大先生的口調が基本だが、冬季オリンピックのメダル数が寒い国に偏っていることに対して、バランスをとるため「ラクダ競走」とか「真珠採りダイビング」とか「長距離唾液飛ばし」なども競技化してはどうかと提案する「なぜ雪国だけに楽しませておくのか」のようなおちゃめな一面もある。

・いるの いないの (怪談えほん3)
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京極夏彦と町田尚子による絵本。

古い日本家屋の暗がりの怖さを子供の心にトラウマのごとく植え付ける怪作。

おばあさんの家にやってきた少年は、ふと天井のはりの闇をみつめた。そこになにかがいるような気配を感じる。本当になにかいるのか、気のせいなのか、心配になる。猫がいっぱいいて、暗がりだらけの古い家で、おばあさんと二人の平穏な生活。常に天井の気配の正体はなかなかわからない。

日本家屋の闇について谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』でこんなことをいっている。

「思うに西洋人のいう「東洋の神秘」とは、かくの如き暗がりが持つ不気味な静かさを指すのであろう。われらといえども少年のころは日の目の届かぬ茶の間や書院の床の間の奥を視つめると、云い知れぬ怖れと寒けを覚えたものである。しかもその神秘の鍵は何処にあるのか。種明かしをすれば、畢竟それは陰翳の魔法であって、もし隅々に作られている蔭を追い除けてしまったら、忽焉としてその床の間はただの空白に帰するのである。われらの祖先の天才は、虚無の空間を任意に遮蔽して自ら生ずる陰翳の世界に、いかなる壁画や装飾にも優る幽玄味を持たせたのである。」

日本の伝統的な暗がりの怖さと味を子供に教える絵本としてよくできている。いつ出るのかと思わせてなかなかでなくて、もう出ないのかと思うとぐわっと出る。びっくり箱的な展開。読み聞かせるには親が演出をよく考えてちゃんと怖がらせてやりましょう。

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