Books-Psychology: 2006年4月アーカイブ

・フロー体験 喜びの現象学
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生きる喜び、仕事の楽しさ、とは何か。社会心理学者チクセントミハイが「楽しみの社会学」でフローの概念を発表してから25年後に、研究の集大成として著したのがこの本である。この期間に、フロー体験は仕事の効率性を高めるノウハウではなく、幸福に生きるための一般原理として、壮大な理論に実を結んだ。

・楽しみの社会学
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004302.html
フロー体験の基本的な要約についてはこちら。

一言で言うならフロー体験とは、自己目的的体験に夢中になることだ。ただそれが楽しいと感じるから没頭する瞬間である。そうしたフロー体験が生じる最適経験について、著者らの研究グループは長年、さまざまな研究を行った。


最適経験とは、目標を志向し、ルールがあり、自分が適切に振舞っているかどうかについての明確な手がかりを与えてくれる行為システムの中で、現在立ち向かっている挑戦に自分の能力が適合している時に生じる感覚である。注意が強く集中しているので、その行為と無関係のことを考えたり、あれこれ悩むことに注意を割かれることはない。自意識は消え、時間の感覚は歪められる。このような経験を生む活動は非常に喜ばしいものなので、人々はそれが困難で危険なものであっても、そこから得られる利益についてほとんど考えることがなく、それ自体のためにその活動を自ら進んで行う

フロー体験は人生のあらゆる場面に求められる。


最も単純な身体的行為ですら、それがフローをうむように返還されるならば楽しいものとなる。この変換過程の基本的な段階、(a)全体目標を設定し、現実的に実行可能な多くの下位目標を設定すること、(b)選んだ目標に関して進歩を測る方法をみつけること、(c)していることに対する注意の集中を維持し、その活動に含まれるさまざまな挑戦対象をさらに細かく区分すること、(d)利用し得る挑戦の機会との相互作用に必要な能力を発達させること、(e)その活動に退屈するようになったら、困難の度合いを高め続けること、である。

このやり方で変換できるよう再設計するなら、ただ歩くことでさえ、生きる喜び、関心の尽きない挑戦の連続になる。不安と退屈の間にある適度な挑戦を繰り返し、結果から正のフィードバックを受けながら、能力を向上させていくことに秘訣がある。

フロー体験に通じやすい経験の特徴も研究されている。外的資源の多大な消費を必要とする活動が必ずしもフロー体験をうみやすいとは限らない。たとえばテレビを観る、モーターボートに乗る、ドライブをする、といった経験よりも、ただ互いに話をしている、編み物をしている、庭仕事をしている、趣味に熱中している、という経験のほうが人は幸福を感じやすかった。お金や外的資源よりも心理的エネルギーを投入する活動がフローになりやすいという結論。

だから、思考そのものもフロー体験となる。哲学や科学は思考することが楽しいから繁栄したと著者は述べている。人々の必要、政治や経済における需要が、科学技術を発展させたという唯物論的決定論の歴史観に異議をとなえている。人類の文化文明の多くは、それをするのが楽しかったから発達してきたのだという。

家庭の役割、フロー体験の多い社会のあり方、身体活動のフロー(運動やセックス、日常の行為)、思考のフロー、楽しい人間関係、楽しい仕事、文明論など、各章で詳しく論じられている。そして後半で「意味」について扱われる。フロー体験の本質とは、人生のあらゆる局面が意味に満たされることなのである。

出版後、著者は「日常生活の心理学について今世紀最高の研究者」と評され、本書は13カ国に翻訳されたベストセラーである。研究書というよりは、もっと一般的な人生論として大変な説得力があった。何かに迷っているときにもおすすめの一冊。

私にとっての身近なフロー体験ってなんだろうか。やはり、こうしてブログを書いているとき、かなあ(笑)。おかげで900日以上、続いております。