Books-Psychology: 2007年9月アーカイブ

・超常現象をなぜ信じるのか―思い込みを生む「体験」のあやうさ
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UFOや超能力を信じていなくても、占いやジンクスは信じている日本人が多い。テレビでは毎朝、星座占いが放送されているし、大安吉日には結婚式が多い。60年周期の丙午の年に生まれた女性は夫を食うと言われて出生数が減少する。前回の1966年の丙午は出生数が27%も減少したそうだ。その前の1906年(明治時代)には減少は12%だったそうだから、科学的教育が行き届いた現代の方が迷信を信じてしまったことになる、と著者は述べている。

テレパシーは存在するか、生まれ変わりはあるか、死者の霊は存在するか、という超常現象に関する調査を大学生向けに行うと多くの項目に肯定的な回答が集まった。文系よりも理系の方が超常現象を、科学的推論の帰結として肯定する学生が2割も多かったらしい。不思議現象を信じる心理は、無知や教育の欠如から生まれるとは限らないのである。

「不思議現象を実際に体験することこそが、確信とも言えるほど強力な信じ込みを生みだすことがある」と著者はその超常現象信仰の原因を指摘する。そして、視覚の錯誤、認知の錯誤、記憶の錯誤、推論の誤り、不思議を信じたがる心理など、人間が、何らかの体験から、超常現象を信じ込んでしまう理由を、わかりやすい例をたっぷりと挙げて説明してくれる。

認知バイアスの話が面白かった。

「私たちは、目立ったことが二つ続けて起こると、単にその二つのできごとが目立つという理由だけで、両者の間に関連性があると判断することがよくあるのです。」

「人やできごとなどを集合で考えたときに、多数の要素が備えている特徴に比べ、少数の要素に特有な特徴はより目立って認知されます。」

「治療した、治った、ゆえに治療に効果があった」というロジックで治療を評価することは「三た論法」と呼ばれて厳しく戒められています。」

つまり、私たちは普段は合理的に考えていても、日常体験の中で起こる珍しい出来事があると、起こりやすさの確率の見積もりに失敗しやすいということなのである。たとえば、ある人が夢の中に出てきて翌日にその人が死ぬということは、確率的には大都市では毎晩何件か発生する。たまたま自分がその体験者になると「夢のお告げ」だと信じやすい。夢は見たが何も起こらなかった大多数の事例は、注目されることがないので、なかったことになる。

「しかしもうおわかりのように、幸福グッズを買ったから幸せになれたと言いたいのなら、つまり両社に因果関係を主張するのなら成功した例をいくら並べてもあまり意味はないのです。正しく判断するために必要なのは、買ったけれども幸せにならなかった人、買わないけれども幸せになった人がどれくらいいるのかについての分割表です。残念ながら、こうした情報が掲載されることはまずありません。」

そういった知覚や認知、思考の錯誤は、ありがちなことをすばやく推測することで、日常生活をうまくやるために発達してきたものらしい。日常的な問題は「治療した、治った、ゆえに治療に効果があった」で思ったことが当たりなことが多いわけだ。

で、思うのだが、人間が感じる幸福感というのも、同じような錯誤の一種である可能性もあるのじゃないかと、ふと考えた。運命の人と出会って結ばれた人生、九死に一生を得た人生、稀に見る波瀾万丈の人生。人生のドラマを感じる心は、冷たい確率計算を超えたところにあるし、そう思うことが生きる知恵のような気もする。「ありがたい」ことをたくさん感じるために、こういった欠陥が人間にビルトインされているのかもしれない。

著者は必ずしも超常現象を否定しているわけではなく、「私は体験したのだから、不思議現象(霊でも超能力でも)はたしかに存在するのだ」と考えるとしたら、その考え方が誤りだと」いう。知覚や認知の錯誤、思考バイアスの事例が満載で、面白く読み進められる本である。

・フィールド 響き合う生命・意識・宇宙
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002668.html

・科学を捨て、神秘へと向かう理性
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002634.html

・人類はなぜUFOと遭遇するのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002440.html

・脳はいかにして“神”を見るか―宗教体験のブレイン・サイエンス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000134.html

・霊はあるか―科学の視点から
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002003.html

・科学は臨死体験をどこまで説明できるか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004528.html