Books-Psychology: 2009年1月アーカイブ

私という病

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・私という病
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ライター 中村うさぎ(執筆時、47才)が風俗嬢として働いて考えたことを綴った赤裸々ルポタージュ。自身の"女としての価値"を確認したくなった彼女は、身も蓋もなく性的価値が数字で示される世界としての風俗を選んだ。源氏名 "叶恭子"を名乗り(案の定、本家に訴えられるのだが)、個室で欲情した男たちの相手をする。

「恭子が「カネを払ってでも自分を求めてくれる男」を求めて、己の性的価値の確認のために、ここに来たように、彼らもまた、「自分を全面的に受け容れてくれる女」を求め、己の男性的価値(性的にもジェンダー的にも)を確認したくて、ここに来る。それは「排泄」なのか。いや、違うだろ。それは「コミュニケーション」というものではないか。」
体当たり取材モノかと思いきや風俗嬢としての仕事は訳あって数日で終了する。だがわずかな期間でも強烈な体験は彼女に、男と女とは何か、性的な価値とは何か、自分とは何かを深く考えさせるきっかけとなった。

「今回のデリヘル嬢体験で、もっとも興味深かったのは、デリヘル嬢の仕事そのものではなく、デリヘル嬢をやった私に対する世間の反応であった。露骨に嫌悪を表明し、風俗嬢に対する差別意識を臆面もなく曝け出したのは、女たちではなく男たちだったのである。」

そもそもが女の価値確認という過剰な自意識に始まった彼女の風俗体験だったが、実際にやってみたことでその自意識の揺れはむしろ増大していく。愛されたい、見返してやりたい、主体性を持って生きたいと揺れる。その一方で「私という病」に振り回される自分の姿を冷静にみて、現代人が追い回されやすい強迫観念の正体を分析していく過程はじっくり読ませる内容だ。

著者が服を脱いだだけでは飽きたらず、心までスッポンポンになって「私」を世の中に晒している。エロを期待すると肩すかしを食うが、現代社会の病理を明らかにする体験ルポタージュとしてはかなり面白い。