Books-Psychology: 2009年6月アーカイブ

・悪の遺伝子―ヒトはいつ天使から悪魔に変わるのか
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美しかったが性格異常の姉に苦しめられた女性科学者が、私怨をこめまくって書いた悪の遺伝子研究の本。「邪悪な」姉の写真も使いまくりながら、他者を陥れる異常性格が形成される理由を暴こうとする。

「一見して、邪悪としか思えない人物がなぜ存在し、政治や宗教、学問の場、一般の職場やふつうの家庭まで、さまざまな社会構造の中で、いかに「役割」を果たしうるのか、あるいはトップにまで昇りつめることすらありうるのか?」

ヒトラー、ムッソリーニ、ポル・ポト、チャウシェスク、サダムフセインには不気味なほどの対人スキルの高さと感情の乏しさという共通点があった。脳を調べていくと、正常な人と反社会的な人では、「血・下水・地獄・レイプ」などのキーワードを聴いたときの脳の反応の仕方が大きく異なっていた。道徳心は実体のある神経学的プロセスである可能性があるという。

古典的な優生学は非科学的であり社会的にも認められないものとして排除されたが、遺伝子の研究、脳科学は、人間の尊厳に関する新たな問題を提起しようとしている。この本が主張するように、邪悪な人間になる遺伝子があって、破滅的思考を生む脳内回路を作り出しているのだとすれば、遺伝病を防ぐのと同様に治療で消すべきなのか、心をいじるべきなのか、倫理的に難しい問題だ。

邪悪な人間がなぜ「偉大な指導者」にのぼりつめるのか。社会学的な考察もある。毛沢東の主治医は「毛沢東を知れば知るほど、彼を尊敬できなくなる。内輪のサークルを入れ替え、新たな崇拝者の一群を入れることで、こびへつらう人間を確保していたのだ。」と証言している。もともと利己的な遺伝子を持つ人間が、利己的であるが故に社会の階段を上がっていき、大きな権力を手にすることで、その異常さを加速させていく。これは結構普遍的な話だろうと思う。偉い人に性格異常者がいるのは世界共通の真理だろう。たくさんの歴史的英雄の邪悪な一面が挙げられている。

ただし、この本がユニークなのは、著者の邪悪な姉の思い出「姉はこうして狂っていった」で恨み辛みがビジュアル資料つきで繰り返し語られるところのほうである。著者の邪悪な遺伝子の解明に向けての内面的な駆動力となっていることをあからさまにしている。であるが故に、本書の議論の進め方は科学的アプローチからはかなり逸脱している。真面目なサイエンスを期待すると失望するだろう。一人の執念の研究者のゆがんだ半生記として読んだ方が楽しめる。

・人はなぜ怒るのか
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怒りを感じる → 怒りの内容を分析する → 怒りに対処する

どうも人は年をとると怒りっぽくなる。若いときと違うのは自分が怒っているとことを冷静に認識していることだ。心理カウンセラーが著したこの本では怒りの原因を不一致による違和感に求める。

怒りの理由への洞察。期待値と一致せず、裏切られたと感じたときに怒りを感じる。「~べき」「~しなければならない」「~すべきではない」「~してはいけない」という規範意識が根底にある人ほど怒ることが多くなるのが基本原理である、という。

怒りを掘り下げていくと、恐怖や不安、心配や寂しさ、恥や罪の意識などの裏感情が怒りを強化している。それらの負の感情を意識的に軽減する練習をしよう、というのが本書の趣旨。怒りの上手な表現方法(事実、裏感情、欲求と願望を整理する;怒りを表現する ほか)やイライラをワクワクに変える22の方法(違和感を大切にする;自分のココロの声を言葉にする)を解説していく。

「中と大の怒りは練習によってかなり減らすことができます。しかし、日々の小さな違和感は生きていくうえで、ある程度避けようがなく、また、この違和感は、実は日常生活を快適に送るためになくてはならない、ありがたい道しるべにもなるものです。なぜなら、小さな怒りは、日々発生するさまざまな問題を小さな芽のうちに教えてくれる予防のための貴重なサインだからです。」

魔法のように抑え込むことはできないが、怒りとつきあうためのヒントブックである。読んでも全然解消しないじゃないかと怒らないで欲しい。こうした本を読んで怒りについて意識的になること自体が、怒りの制御に現実的で効果があるような気がする。

・いやな気分の整理学―論理療法のすすめ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/post-775.html

・自己評価の心理学―なぜあの人は自分に自信があるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-827.html

・アタマにくる一言へのとっさの対応術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/09/post-632.html

・死ぬまでに知っておきたい 人生の5つの秘密
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/-5.html

・ムーミン谷の名言集―パンケーキにすわりこんでもいいの?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/10/post-475.html

・もうひとつの愛を哲学する―ステイタスの不安
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/12/post-331.html