Books-Psychology: 2010年11月アーカイブ

・幻聴の世界―ヒアリング・ヴォイシズ
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私は体験したことがないが『神々の沈黙』『奇跡の生還へ導く人』を読んで、内なる声というテーマは気になっていた。この本は幻聴について日本臨床心理学会の研究者たちが、様々な観点から考察した本。幻聴の実態は解明されておらず謎が多い。それを精神疾患の症状ととらえるのではなく、耳を傾けることで人生にとってプラスととらえていくヒアリング・ヴォイシズという新たな考え方が提示される。

幻聴あるいは空耳。統合失調症に多いが、精神疾患がない一般人でも6%が声を聞いた経験があるという。日本で660万人が幻聴、空耳の体験者なのだ。その内容が統合失調症では94%が批判的な内容だが一般人ではその比率が13%と大きく減る。そして統合失調症患者は頻繁に声を聞くが、一般人はめったに聞かない。

幻聴は人生に大きな影響を与えることがある。イスラム教のマホメット、天理教の中山みきなど神の声を聴いて宗教の教祖となった例は多い。ノーベル賞受賞者の益川敏英氏は頭の中で声と対話をしているという。幻聴を障害としてとらえるだけでは、プラス面を見逃していることになる。前述の本の「神の信託」「サードマン現象」だってそうだ。

脳科学的には、幻聴は脳のある部分に障害が起きることで、自分の心の中の言葉(=内語)が、内語として認識されずに、声として体験されてしまう現象と考えられるそうだ。これってメカニズムが解明されて制御可能になれば、イヤホン不要のテレパシー通話を実現できたりするかもしれない。

この本には幻聴に悩まされる人の体験談、幻聴の病理学、幻聴を受け入れながら自分らしく暮らす方法など、幻聴の研究成果が8本の小論で語られている。医療関係者が医療関係者に向けて書いている本なのかもしれないが、記述レベルは十分に一般の読者向きである。幻聴や幻覚というのは、知覚や脳のメカニズム解明の可能性として突破口になるのではないか、と思わせる興味深い内容。

・奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/10/post-1319.html

・神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/08/post-258.html