Books-Religion: 2005年12月アーカイブ

・グノーシス―古代キリスト教の“異端思想”
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面白い。

「人間は<偽りの神>が創造した偽りの世界に墜とされている。われわれはこの汚れた土地を去り、真の故郷である<天上界>に還らなければならない」

最初に至高神と女性的な「エンノイア」という神がペアをなして存在した。そこから順次「アイオーンと呼ばれる神々が男女のペアで流出し、最後のペア「テレートス」と「ソフィア(知恵)」に至るまでに30人の神々が成立した。この上位世界は「プレーローマ」と呼ばれる。

プレーローマには厳密な階列関係があり、至高神を直接見る、知ることができるのは、至高神から直接生まれた「ヌース」という一組のアイオーンだけであった。しかし、あるとき、序列で最下位のアイオーンのソフィアが、直接至高神を見たいと欲した。この企ては失敗し、ソフィアはプレーローマから転落しそうになる。

そこで「ホロス」という神がソフィアの過ちを思いとどまらせることに成功する。ソフィアは心に抱いていた「情念」を下界に捨てることで、プレーローマにとどまった。この事件の再発を防ぐため「ヌース」から「キリスト」と「精霊」のペアが生まれて、神の不可知性をプレーローマ全体に通達した。

一方で、キリストは下界に捨てられたソフィアの「情念」を哀れみ、それに形を与えた。これが私たちの人間界の天地創造であり、創造神の起源であった。こうした経緯故に、私たちには、プレーローマの構成員であるソフィアの情念という、至高神につらなる要素が内在していることになる。

キリストは、人間の肉体に閉じ込められている「霊魂」「本来的自己」「光の粒子」の存在を人間に認識(グノーシス)させ、覚醒させ、プレーローマへ帰還させるために、下界に派遣された。呼びかけに応えた人間は、偽りの神「創造神」に与えられた肉体を捨て、真の神である至高神のいる上位世界へと戻っていく。この過程が完了したとき、物質世界は燃え尽きて消滅する。


以上が、2世紀に誕生したキリスト教異端のグノーシスの教義の一パターンである。グノーシスというキーワードは、宗教史だけでなく、さまざまな思想やフィクションにも題材として登場する。オカルト心霊が好きな人にもおなじみのキーワードだろう。曖昧にしか理解していなかった私としては、歴史に厳密でありながらもやさしく解説するこの本はとても参考になった。

この本は、グノーシス思想の登場した2世紀当時の、原初形態についてのみ語る内容である。ウァレンティノス派プトレマイオス、バシレイデース、マルキオンという3人のグノーシス派の教師の思想を解説している。この3者の間でも教義が微妙に異なるのだが、共通する点として3つが挙げられている。

1 反宇宙的二元論
「まずこの世界、この宇宙は劣悪な創造神が造ったもので、この創造神は善なる至高神と対立的な関係にある」

2 人間の内部に「神的火花」「本来的自己」が存在するという確信
「人間は創造神の造ったものであるが、その中に、至高神に由来する要素がわずかだけ閉じこめられている」

3 人間に自己の本質を認識させる救済啓示者の存在
「人間はそのことに気付かないでいるが、至高神から使いがやってきて、人間に自分の本質を認識せよと促す」

正統派のキリスト教では人間は知恵の果実を食べたから楽園から追放されたことになっている。グノーシスでは逆に知恵の果実を食べて覚醒することで上位世界へ帰還することを薦めているように思えた。グノーシス研究上、重要な古文書ナグ・ハマディ写本には、プラトンの「国家」も収録されているそうだ。理性重視のギリシア哲学やプラトン思想に影響を受けていることが強く感じられる。

そういえば、最近、まさにグノーシス的な映画を観た。私が崇拝する諸星大二郎先生の作品の映画化「奇談」は、隠れキリシタンがテーマなのだが、内容がとてもグノーシス的だと思う。

・『奇談』 公式サイト
http://www.kidan.jp/index2.html

この映画は諸星ファンか民俗エンタメファンなら必見。

・妖怪ハンター 地の巻集英社文庫
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原作「生命の木」はこの本に収録されている。

・私の好きな漫画家たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000741.html
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