Books-Religion: 2007年2月アーカイブ

黄泉の犬

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・黄泉の犬
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この本には「入魂の」という表現がふさわしい傑作。

著者の藤原新也は60年代にインドを放浪し、処女作「印度放浪」で作家として世に出た。バックパッカーの元祖みたいな人である。この本は、その34年後に、著者が取材したオウム真理教事件への考察にむすびつけ、かつてのインド放浪を総括する形になっている。

「近頃の若者」と「熱く生きてきた俺様」を比べるのがオヤジの悪いところである。人生観、価値観は各世代や各人に固有のもので、評価軸が違うものを並べて、どちらが凄いと比較することは無意味だと思う。そういう話は時代錯誤で退屈なのが普通だ。

しかし、それぞれの評価軸で高い、低い、ホンモノ、ニセモノは歴然としてあると思う。この60代の著者の俺様論は、その評価軸上では圧倒的ホンモノだと思う。内容的には、近頃の若者はバーチャルで軟弱だ、俺様がこの目で見てきたリアルはこうだ、参ったか、と著者は言うのである。そのリアルは、私のリアルとは違うのだけれど、正に熱くてリアルである。

藤原新也は、自分で見てきたものしか信じない偏狭者だが、その代わり、人の何倍もよく見ている。インドでは人間がモノみたいにバラバラにされて火葬され、イヌに食われる様子をみつめる。火葬を手伝ってみたりもするし、自身がイヌに食われそうにもなる。経験を通して、人間は燃やすと60ワットくらいの光を出す、あれは黄泉の犬だぜ、なんてことをいう。そして、それが自分や時代にとってどんな意味や価値を持つかを考えている。

現代はネットで調べれば世界中の情報が簡単に手に入ってしまうバーチャルの時代だ。インドを放浪するより、アメリカへMBAを取得しに行く時代である。この本の中で藤原新也は、そういう近頃の若者ツトムと直接対決する。情報と感性の時代のツトムと、世界や人生に意味と価値を追い求めた著者の世代の対比が鮮やか。

藤原新也の世界は劇画的だなと思う。世界を描く線の数が多いのだ。あらゆることを意味や価値に結びつけて、自分の哲学の完成を追及している。いちいち深いのだ。反発を感じつつも、魅了される。

・錬金術と神秘主義―ヘルメス学の陳列室
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オカルト好きにはたまらないビジュアル資料集。

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(この画像はパブリックドメイン、ウィキメディアより)

これは有名なセフィロトの樹(生命の樹)である。10のパーツが22本の線で結ばれた幾何学的な模様をいう。この意味は、どういうものかというと、

「生命の樹(せいめいのき、Tree of Life)は、旧約聖書の創世記(2章9節以降)にエデンの園の中央に植えられた木。命の木とも訳される。カバラではセフィロトの木(Sephirothic tree)という。「禁止命令を無視して」知恵の樹の実を食べた人間が、生命の樹の実も食べるのではないか、と 日本では主なる神と訳されているヤハウェ・エロヒム(エールの複数形)が恐れてアダムとイヴを追放することに決めたとされる。」(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

というものである。雑誌「ムー」にはよく登場するし、その手の本ではおなじみである。10のパーツにはそれぞれ象徴的な意味があって、天上と地上のすべての事物の創造の計画を表しているとされるわけで、凄いことである。

・生命の樹 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E5%91%BD%E3%81%AE%E6%A8%B9
詳しい解説。

だからどうした?という人はこの本は向かない。

このビジュアル本にはこうした神秘主義や錬金術師たちが描いた中世の図画がカラーで多数収録されている。どれもこれも実に怪しげであるが、もしかして何か神秘の意味が隠されているかもしれないと思うと、見入ってしまう。こうした怪しい作品ばかりを大きなカラーの図でじっくり鑑賞してみたかった私は、毎晩帰宅してから、深夜ににじーっと見ている。変かもしれないが、疲れを忘れる。

これを描いた古代から中世の人たちは、真剣に世界の真理をこうした図に見ていたわけである。当時の先端科学者であった錬金術師たちは、ネズミのシッポやら水銀や処女の生き血やらを、焼いてみたり、煮込んでみたりしながら、分かった秘密をこうした図に隠したのだ。ひとつの絵を10分くらいじっと見ていると、当時の人たちの精神構造が垣間見えてくる。いや見えないが、わかったような気になる。そうした瞬間が楽しい。

中世ファンタジーやロールプレイングゲームの元ネタになっている画像も多い。詩人ウィリアム・ブレイクの絵も何枚かある。フリーメイソンものももちろんある。これだけ集めて、カラーで、良質の紙で、1500円は、好事家にはお買い得である。

この本はタッシェン社のアートブックのシリーズの一冊だ。近所の書店にコーナーがあってよくみる。美術史やデザインに興味のある人は楽しめるものが多い。中でもこの「錬金術と神秘主義―ヘルメス学の陳列室」は独特である。

・TASCHEN Books: All Titles
http://www.taschen.com/

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