Books-Scienceの最近のブログ記事

・太陽系はここまでわかった
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太陽系についての一般向け科学読み物。太陽、水星、金星、地球と月、小惑星、木星、土星、天王星と海王星、冥王星とカイパーベルトについて一章ずつをあてて研究史と最新の知識がまとめられている。子供の頃、学研「宇宙のひみつ」に夢中になったが、これは大人向けの宇宙の秘密本。

・宇宙のひみつ(旧版)
http://arch-type.net/Himitsu/review/rev001od.html
私が読んだ旧版についての紹介ページ。現在は中身はまるごと改訂されている。

ここ30年の衛星による探査の成功によって、私の子供時代とは比べものにならないほど、太陽系の惑星や衛星については解明が進んでいた。そして宇宙を研究する新しい意義がみつかった。

たとえば太陽の黒点について興味深いデータが紹介されている。

「1861年から1989年までの気象観測所におけるデータから、黒点数と地球の北半球の年間平均気温との間に極めて高い関連性があることが分かっている。奇妙なことに、黒点サイクルの長さ(現在の測定値は平均10.8年だが、9.5年と11年のあいだで突発的に変動する)と年間平均気温のあいだにはさらに密接な関連性がある。サイクルが短いときは気温が低く、長いときには気温が高いのである。」

そして過去1万年間を通じて、70年前から今日までの期間が黒点活動が異常に強い時期であることも発見されている。つまり、地球温暖化は人類の活動によるCO2増加が原因などではなくて、ただ地球の気候変動がたまたまそういう時期だったからに過ぎない可能性がある。

もうひとつ重大な問題だと思ったのは地球に接近する小惑星の研究である。大きな小惑星が衝突すれば人類絶滅の危機になる。これ以上の大問題はないというくらい大きな問題だが、観察ネットワークの整備や研究は始まったばかり。衝突が不可避となったときの危機回避の手段が挙げられている。

・核爆弾で爆破する
・電磁誘導装置で軌道から押し出す
・アルミ箔でくるみ太陽風で軌道を変える
・小惑星の片側を黒く塗って熱エネルギーの効果で軌道を変える

どれもまるでSFのように思えるが、もしも高速に接近する小惑星が発見されたら、人類はこんな離れ業も実現しなくてはいけないわけである。できなければ滅びてしまう。

宇宙研究の予算は縮小傾向にあるが、こんなふうに宇宙を研究することで、地球温暖化の真の原因がわかったり、小惑星の衝突を回避することができるとしたら、いくらお金をつぎ込んだってよいではないか、と思った。

探査船や望遠鏡の技術の進歩によって天体の姿が明らかになってきている。本書の冒頭にもたくさんのカラー写真があったが、ここ数年で素晴らしい宇宙関連のビジュアル書籍も生まれている。以下の3つは秀逸だった。

・NHK VIDEO月周回衛星「かぐや」が見た月と地球 地球の出そして地球の入
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・火星からのメッセージ
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・惑星
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非線形科学

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・非線形科学
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非線形科学の国内第一人者による分野総括。プリゴジンの散逸構造に始まり、カオス、集団同期、引き込み現象、パターン形成、ゆらぎ、スケールフリーなどこの分野のキーワードを網羅している。一般向けに書かれているが難易度は高め。著者は分野を概観しただけでなく、非線形科学を「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」としてとらえる新しい科学的世界観を提示する。

私が学生だった90年代中頃に、非線形科学が自然と密接な関わりがあることを直感した瞬間があった。景観自動生成ソフトBryceの初期バージョンをいじったときだった。このソフトウェアは自然の壮大な景観をカオス・フラクタル理論を応用して緻密に描画する。高精細でレンダリングすると実写と見紛うほどのリアリティがある。それまでCGは自然描写が苦手と思っていたのに、人間の絵描き以上に本物っぽい景観や樹木が描けてしまうのだ。

・Bryce
http://www.daz3d.com/i.x/software/bryce/

神は細部に宿るというが、この種のCGにおいてはカオス、フラクタル理論こそ神の正体なのであった。こんな風に自然の見かけが二次元で再現できるなら、三次元の構造や仕組みだって近似に再現できるのではないかと直感したのを覚えている。同時になぜ陸地、海、雲、樹木など自然景観のいたるところにフラクタル構造があるのであろうか?と疑問に思った。

著者は非線形科学を、根本原理の根から経験世界の枝葉が伸びていく樹木状の体系としてとらえてはならないという。そうした通常科学の演繹的アプローチでは細部に宿る神を見失ってしまうからである。一見、無関係な事象の背景に、共通の非線形方程式が隠れているからだ。

「本書をここまでお読みになった方々はすでにおわかりかと思いますが、要素的実体にさかのぼることをしないで複雑な現象世界の中に踏みとどまり、まさにそのレベルで不変な構造の数々を見出すことは優に可能です。」

非線形科学では自然の多様な現象を述語としてとらえよという。

「「愛犬が走る」「マラソンランナーが走る」「新幹線が走る」というように「走る」ものの実体はさまざまです。「走る」という述語面にさまざまな主語が包まれるといってもよいでしょう。さまざまな実体が一つの述語的不変性によって互いにつながること、これはまさに非線形科学がカオスやフラクタルという概念を通じて、モノ的にはまったく異質なものを急接近させるという構造に酷似しています。たとえば、同期という現象は数理的に表現可能ですが、それは振り子時計にも、サーカディアン・リズムにも、ホタルの集団にも、心拍にも実現される不変の数理構造です。物質的な成り立ちを不問に付したまま、そこに進化発展の契機をもつ科学の一領域が成立するのです。」

実測の計算が不可能な非線形領域では、物質的な成り立ちを検証していては埒があかない。同じ述語を持つ主語を発見していくアプローチが必要になる。必然的に非線形の研究者は専門のたこつぼを出て、領域横断の視野を持たなければならなくなった。第一人者である著者の領域横断の視野の広さにこの本では圧倒された。

潜在的には線形科学よりも非線形の方が扱える対象は広いと考えられる。実験環境だけではなくて日常の現象をカバーできる。著者のいう述語的なアプローチは、将来的には科学の主流になることだってありえるかもしれない。「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」の総括と展望を新書一冊で得ることができる。

・蔵本由紀教授 最終講義録
「非線形科学の形成 - その一断面」
http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/nonlinear/kuramoto-finallecture.pdf

・創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/04/post-70.html

・「複雑系」とは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/05/post-92.html

・SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003279.html

・解読! アルキメデス写本
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1998年10月29日にニューヨークのクリスティーズで、アルキメデスの論文が収められた貴重な写本が競売にかけられた。220万ドルという高額で落札されたこの写本には『方法』『ストマキオン』『浮体について』という他のアルキメデス写本には含まれていない重要論文が含まれていた。これは写本「アルキメデス・パリンプセスト」の保存と解読にあたった研究者チームが、最先端の解析技術者や時代考証の専門家らの力を集めて、困難な解読プロジェクトを成功させるまでを描いたドキュメンタリである。

著者らは「ひるがえって、ヨーロッパの科学の歴史をいちばん無難に総括すると、アルキメデスに対する一連の脚注からなると言える。」とし、ガリレオ、ライプニッツ、ホイヘンス、フェルマー、デカルト、ニュートンなど後世の偉大な科学者たちの仕事は、アルキメデスの方法論を一般化したものであるという。

解読プロジェクトには大富豪のパトロンがいたため資金面では問題がなかったが、作業には長期間を費やした。最初の3年半を過ぎてもまだ写本の「綴じ」がほどけなかったくらいだ。実はこの写本は厳密に言うとアルキメデス論文の写本ではなかったからである。後世のキリスト教の学徒が当時貴重だった羊皮紙を再利用するために、元の写本を再利用して祈祷書に作り直したもの、なのだ。

複数の古本のページをばらして、文字をこすって消し、新しい一冊の本に仕立て直した上で、祈祷文を書いてある。しかも幾度か接着剤を使った中途半端な修復が試みられており状況を悪化させていた。まずはページをばらしてアルキメデス写本の順番に再構成する。そして最新の光学技術とコンピュータを使って消えた文字を浮かび上がらせる。そのようにしてかろうじて判別できる文字と図像を専門の研究者が読み取る。当時の数学と物理学に照らして時代考証にかけて、論文の意味、重要性を検証するのである。

この本は写本の中身、アルキメデスの発見した数学について、全体の3分の1程度を使ってとても詳しく解説されている。円周率、順列組み合わせ、微積分、実無限...アルキメデス自身の論文がどのようなものであったかを知っている人は歴史的にもかなり少なかったらしい。「実は、アルキメデスは伝説的な存在ながら、ほとんど読まれていなかったからだ、<中略>アルキメデスは基本というにはむずかしすぎて、理解できる人はごく少なかった。」からだそうだ。

実際、ここには二千数百年前(日本の弥生時代!)とは思えない高度な数学が展開されている。長い間、私のアルキメデスのイメージといえば、お風呂に物体を入れて溢れた水でその体積をはかった「エウレカ!」の人であった。だが、この逸話は後世の作り話らしい。本当のアルキメデスの発見はそのような単純なレベルの発見ではなかったことがよくわかる。

アルキメデスは、科学的な観察装置を持たず、純粋に思考の積み重ねによって、数学の基本原理を次々に発見している。その意味を理解できる数学者は、当時の地中海に数十人しかいなかったのではないかといわれる。

「アルキメデスにとって、物理学と数学の組み合わせが重要だったのは、物理学のためではなく、数学そのもののためだった。アルキメデスの大望は、天体の運動を解き明かすことではなく、曲線図形や局面図形を求積することだった。たまたま、わたしたちの宇宙では数学と物理学と無限とが密接に結びついているために、高度な純粋数学に目を向けたアルキメデスは、結果としてさらに近代科学の礎を築くことになったのではないだろうか。」

二人の専門家によってアルキメデス論文を直接読む科学史研究の章と、最新テクノロジーと地道な努力によって解読を少しずつ進めていく古文書研究の実態ドキュメンタリの章が交互に書かれている。科学史の教科書にはまだ書かれていない、最新の視点を与えてくれる興味深い一冊。

・アルキメデス・パリンプセスト公式サイト
http://www.archimedespalimpsest.org/


・ヴォイニッチ写本の謎
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004123.html

・ユダの福音書を追え
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004582.html

・疑似科学入門
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疑似科学情報の氾濫する状況に科学評論家の池内了が警鐘を鳴らす一般向けの啓蒙書。

わかりやすい説明で定評のある著者だけあって、疑似科学が流行る構造を平易に語っている。たとえば「幸運グッズ」はなぜ売れるのか。

「それが売れるのには理由がある。幸運グッズを買いたい心境になるのは落ち込んだとき、つまり(大げさに言えば)人生の逆境のときである。そこで、藁にも縋り付きたい思いで幸運を呼ぶというグッズに手を出してしまう。ところが、人生は山あり谷ありだから、逆境の時期はそのうち去って好調の時期が必ず訪れる。幸運グッズを買おうが買うまいが、いずれ時期が来れば不調を脱することができるのである。しかし、本人は幸運グッズを買ったおかげだと思い込んでしまう。」

疑似科学の特徴は反証ができないこと。哲学者のバートランド・ラッセルが出したティーポットの例え話を使って疑似科学のやり口をこう説明する。

「ある人が地球と火星の間に楕円軌道を描いて公転しているティーポットが存在している、という説を唱えたとしよう。ところが、そのティーポットは余りに小さいので最も強力な望遠鏡を使っても見ることができず、重力が小さいので地球や火星に及ぼす影響も検出することができない。そのため誰も反証することができない。」

詐欺師は専門家の意見や統計データを我田引水してティーポットの存在を信じ込ませる。相関があるからといって因果関係があるとは限らないのにあるように思わせる。地震予知、電磁波、健康食品、ガン特効薬、頭の良くなる式の脳科学など、専門家の世界でも意見が分かれる科学の最先端領域(未成熟科学)に、そうした疑似科学が多く発生する。

人間は認知に際して、たくさんのインプットを効率よく取り込むために、様々な近道をつかう。生物としては何かを信じないと生きていけないわけだから、できるだけ何かを信じるように人間の頭はできているわけだ。

たとえばそうした近道は、この本には

・認知的節約の原理
・認知的保守性の原理
・主観的確証の原理

などが紹介されているが、詐欺師はこうした信じやすい人間心理を巧みに利用する。
そもそも「人間には心のゆらぎがあり、非合理ではあってもそれを選びたい心理になってしまう。」だと著者は諦め気味に言う。そして「まだ理論や手法が確立せずデータの集積も不十分であるような科学」をどう見守るかが重要として、未成熟科学の見守り方を論じている。

疑似科学を擁護するつもりはないが、私が思うに人間は根本的に不合理が好きなのだ、と思う。非合理にはロマンがあるからだ。科学を進歩させてきたのもそのロマンを追求する情熱だったのだろうと思う。

・あなたはなぜあの人の「におい」に魅かれるのか
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嗅覚心理学の第一人者が語るにおいの心理と行動の関係。

大学生たちに脇の下にガーゼをあてた状態でハッピーな映画と恐怖映画を見てもらう。その後ガーゼを回収して、若い男女に「幸せな汗」「恐怖の汗」をかぎ分けてもらった。すると、女性は幸せのにおいを判断するのが上手だったが、男女ともに男性の恐怖の汗のおいをよく認知したという。一般的に快いとされる体臭は健康な人のもので、不快とされる体臭は不健康な人のものでもある。人間の嗅覚には人の感情や体調を嗅ぎ取る能力があるのだ。

不安なときには一親等の家族のにおいで安心する人が多いという研究もある。祖父母やおじでは半分に低下し、曾祖父母やいとこでは落ち着く効果はゼロになる。逆に性的な興奮を誘うという点では自分と遺伝特性(MHC遺伝子群)が異なる異性のにおいに人は強く反応する。だから万能の媚薬は存在しないが、人によってカスタマイズした媚薬は作れる可能性があるらしい。

最近まで研究価値がないと思われてきた嗅覚。視覚や聴覚、錯覚に比べると研究者も事例が少ない。一般人のアンケートでも失われたら困ると思われるからだの機能のランキングで最下位だったそうだが、実際には人間は嗅覚を失うと悲惨な状態に陥る。嗅覚障害者の事例が出ているが、食べ物の風味がわからなくなるだけでなく、世界との結びつきの感覚を奪われて、他者との関わりも薄くなってしまう。

「ヒトの情動系は、動物の嗅覚系が引き起こす基本的な動機が高度に進化し、抽象化した認識の解釈であると私は思います。動物仲間たちにとってのにおいはヒトには感情を生じさせますが、動物にとってのにおいとは、直接かつ明確な手段で敵の攻撃から身を守る必要性を伝えているのです。一方、私たちにとっての第一のサバイバルコードは変換され、感情の体験となります。それを「嗅覚・情動翻訳」と呼んでいます。」

ときとして、においが強烈に私たちの感情をゆさぶることがあるのは、根の深いレベルで情動と結びついているからなのだ。しかし、言語学において言葉と意味が恣意的な関係であるのと同じように、「におい」と「感じ」はほぼ完全に後天的な学習による恣意的な結びつきによるものであることが明かされる。

「におい関連学習の要点は、あなたが最初にある特定のにおいに出会ったときに、どのように「感じた」かが将来の快楽的な知覚を決定することにあります。私たちが好むにおいは最初に遭遇したときの状況が幸せであれば、肯定的な意味合いと結びつくものであり、嫌いなにおいは初めて嗅いだときに否定的な感情があったり、不愉快ななにかと結びついています。」

バニラが世界中で人を魅了する理由は、バニラが人間の母乳のフレーバー成分であり、多くのミルクに調合されているから、だそうだ。日常的に死体が燃やされているインドの川辺で幸福に生活を送る人であれば、死体のにおいが幸福な日常と結びつくことさえありえる。ひとつのにおいが複数の感覚を想起させることもある。たとえば実験でこれはなんのにおいかというラベルを張り替えて提示すると「パルメザンチーズ」のにおいが、あるときは「嘔吐」のにおいとして認知されるという例が出ていた。

人間は生まれてくる環境によって危険なにおいは変わるから、嗅覚は真っ白な状態で生まれて後天的に学習するように進化してきたようだ。だから、においは基本的に思い出のにおいなのだ。

プルーストの小説ではないが、においが強烈な過去のフラッシュバック体験を引き起こすのは私にもときどき体験する。青い草のにおいだとか、洗濯物のにおいなどがきっかけで幼児期のある瞬間がありありと再現される。そのフラッシュバックは強烈で正確である。著者曰くにおい「思い出の最良の鍵」なのだ。においの科学を追究していくと、超臨場感を持った思い出体感メディアが作れるのかもしれないと思った。

この本には、ガンをにおいで発見するイヌがいる、嗅覚を察知する電子的なセンサーの「電子鼻」が実用化されている、ハチの嗅覚で地雷探知ができる、など嗅覚に関する驚きのエピソードが満載である。

・対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで
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ノーベル賞物理学者レオン・レーダーマンが「対称性」を切り口に、ビッグバン理論や相対性理論から量子力学や最新宇宙論までを語る科学読み物。

宇宙は対称性で満ちている。

「物理系とは原子のような単一の粒子、あるいは分子、岩石、人体、惑星、全宇宙のような粒子の複雑な集まりであって、物理学のいろいろな法則にしたがって運動したり行動したりするものである。物理学というプリズムを通して見れば、本質的にすべてのものは物理系となる。もしある物理系にある変化を起こさせ、変化の後でもその物理系が変化の前とまったく同じであれば、その物理系は対称性をもつという。われわれが物理系に起こさせるそのような変化を対称操作または対称変換という。ある変換を加えても物理系が同じであれば、系はその変換に対して不変であるという。」

たとえば完全な球体があるとする。球体はその中心を通るどんな軸に沿って回転させても外観は変わらない。このとき球体は回転という変換に対して対称性を持っているという。そして、ちょっと動かしてもたくさん動かしても対称性は変わらないので連続対称性を持つともいう。(これに対して三角形や四角形は正確に120度や90度回転させたときだけ対称性を持つので離散的対称性をもつ。)。

本書はほとんどネーターの定理の本である。ネーターの定理とは「物理法則の何か一つの連続的対称性があれば、それにともなって一つの保存則が存在するはずである。何か一つの保存則があれば、それにともなって一つの連続的対称性が存在するはずである。」というものだ。対称性があるところには必ず保存則があり、保存則があるということは対称性があることを意味する。

たとえば、さきほどの球体の回転対称性には角運動量保存の法則が働いている。フィギュアスケートの選手が回転するとき、手を大きく伸ばしていれば回転はゆっくりだが、縮めると速くなる。角運動量が一定に保存されているからだ。

対称性は回転という変換に限らない。ビリヤードの二つの玉が衝突するとき、二つの玉は相互作用して別々に転がる。別の空間でまったく同じ状態を再現して衝突させれば、同じように転がる。そして全運動量は2回ともまったく同じである。空間の並進に対して運動量は対称である。空間に対する対称性には運動量保存の法則が対応しているのだ。

そして物理法則は時間における並進に対して不変である。厳密な環境で行うならば今日の実験結果が明日には変わるということはない。物理法則は時間という変換に対して対称性を持っているということだ。時間が進もうが戻ろうが宇宙という系全体ではエネルギーは増えもしないし減りもしないということを意味する。ネーターの定理の示すとおり、物理法則にはエネルギー保存の法則という対応を見出すことができる。

レーダーマンはさらに電荷の保存法則、バリオン総数の保存法則、クォークのカラー保存法則など、ミクロの世界、量子力学の世界における対称性と保存則について言及していく。ゲージ変換、ゲージ対称性、対称性の破れや超対称性など、変換や対称性の抽象度、複雑度が後半になるにしたがって次第に上がっていく。一般向けの本だが、後半の難易度は高めで要予備知識だ。

相対性原理、不確定性原理、量子力学、統一場理論など古典物理学と現代物理学の主要理論における対称性の役割が論じられている。こうして科学史を振り返ると、対称性を発見してそれに対応する保存則を見出すということが、科学の革新のパターンになってきたように見える。だから現代のノーベル物理学者である著者は、歴史に埋もれがちな女性科学者エミー・ネーターがいかに偉大であったか、を大いに讃えている。先にも書いたが本書はほとんどネーターの定理の本なのである。

幸運な宇宙 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-761.html

・多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/11/post-670.html

・ビッグバンの父の真実
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004784.html

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての"超ひも理論"―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html

・人類が消えた世界
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Amazon.comベストブック2007の第1位、Times誌が選ぶ2007年ノンフィクション第1位に選ばれ200万部を突破した米国の大ベストセラー。

人類がある日突然地球上からいなくなったとしたら、世界はどう変わっていくかをシミュレーションされている。数日後にはメンテナンスを失った排水機能が麻痺して、ニューヨークの地下鉄は水没する。2,3年後には下水道やガス管が破裂する。5から20年後にはボルトが劣化して木造住宅やオフィスビルが崩れ始める。200年や300年もすればブルックリン橋のような建築も崩落する。世界は野生動植物のものに戻るが1万5千年後には氷河期ですべては凍りつく。そこには人類が不在の未来史10万年、100万年、数億年先になにが起こるかが描写されている。

この本はサイエンスフィクションではなくて、ドキュメンタリであり、人類が地球環境に与えている負荷の大きさを知ることが本筋にある。今人類が消えたとしても、排出済みのCO2や破壊したオゾン層、ダイオキシンなどの化学物質の影響は数万年から数百万年は持続する。地下に埋めた放射性廃棄物に至っては数億年先の生物をも脅かすかもしれない。人類はすでに容易に取り返しのつかない爪痕を幾つも残している。

たとえ人類が滅亡しなくても、廃棄物の垂れ流しや地下に埋めて隠す方式では、同じ環境を使う予定の我々の子孫に影響を及ぼすことになる。コロラド州の防衛施設ロッキーフラッツの放射性廃棄物の処理については、遠い未来にどう危険を伝えるか、という問題が具体的に議論されている。

「アメリカのエネルギー省は、向こう1万年にわたり、ロッキーフラッツの廃棄物の大半が送り込まれたWIPPに人が近づくのを防ぐ法的義務を負っている。人間の言語の変化は速く、500年から600年後にはほとんど理解不能になるという問題が議論されたあげく、ともかく7カ国語で警告を掲示したうえに図を加えることになった。警告と図を刻んだ高さ7.5メートル、重さ20トンの花崗岩の碑がいくつも建てられ、同じ内容の直径23センチの焼いた粘土板と酸化アルミニウムの銘板が敷地全体に無作為に埋め込まれることになっている。まったく同じ三つの部屋の壁に地下に潜む危険性についてより詳しい情報を刻み、そのうちの二室も埋める予定だ。施設全体を、高さ10メートル、四方800メートルの土手で囲み、そこに磁石トレーダー反射器を埋め込む。あらゆる可能な手段を用いて、なにかが下に潜んでいるという合図を未来に伝えるためだ。」

ピラミッドやスフィンクスのような遺跡も、数千年が経過すると何のための建造物なのかさえ、私たちは読み取ることができなくなっている。放射能やバイオハザードの危険性を確実に未来に伝える方法は宇宙人のコミュニケーション並に難しい問題だ。

それから、人類が消えるシミュレーションからは必然的に、人類が消えた後の世界に人類は責任感を持つべきか、という哲学的な問題を考えさせられる。これから人類が繁栄したとしても種としてはせいぜい数十万年程度だろう。遅かれ早かれ私たちは地球を次の生物に明け渡す。

最終章にロマンチックな記述があった。この本で一番好きな一節だ。脳の活動は微弱な電波を生じる。この電波が私たちの情報を宇宙に発信していることになる。だから「電波と同じく、私たちの脳が発した信号は進みつづけるはずだ。だが、どこへ向かって?宇宙の構造は膨張する泡のようなものだといまは言われているが、それはまだ一つの理論にすぎない。ひどく謎めいた宇宙のひずみのことを思えば、私たちの思考の波がやがて元の場所に戻ってくる道を見つけると考えても、あながち不合理ではないかも知れない。」

人類の、いや生命の本質は情報なのである。そして情報は永遠に不滅かもしれないのである。

・+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/6-4.html

・成長の限界 人類の選択
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003701.html

・地球のなおし方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003752.html

・世界の終焉へのいくつものシナリオ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004729.html

・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004210.html

・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004218.html

・感染症は世界史を動かす
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004403.html

・インフルエンザ危機(クライシス)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004247.html

・したたかな生命
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本書のテーマのロバストネスを「システムが、いろいろな擾乱に対してその機能を維持する能力」と著者は定義している。ロバストネスを持つシステムの代表例が生物だ。生物は温度や湿度が多少変動してお体内の状態を一定に保つように調節が働く。病気になっても自然治癒する。怪我をして身体機能の一部を失っても、残りの機能を総動員して、生きていくことができる。

インターネットのシステムや優れた会社組織もまたロバストネスを持っていると考えられる。外部環境の変化や局所的な問題に対して、柔軟に対応する仕組みは、変化の時代のキーワードだ。生物学とシステム論を総合しながら、北野宏明と竹内薫という著名な二人の研究者が、その「しなやかな強さ」の秘密を探る。

「複雑なシステムのロバストネスを向上させる方法には、大きく四つの方法があります。それはシステム制御、耐故障性、モジュール化、デカップリング(バッファリングとも呼ぶ)です。」

システム制御とは、フィードバック機構によってシステムの現状と望ましい状態とのずれを修正していく仕組みのこと。耐故障性とは冗長性と多様性で故障に対応する機構。モジュール化は、システムが細かく区分けされていて、内部要素は強く結びつき、他のユニットとはゆるく結ぶ機構。部分故障の全体への波及を防ぐ。デカップリングは重要な機能を、ノイズや変動にさらされるレベルから切り離すということ。

システムを安定状態に保つという点ではロバストネスはホメオスタシスと似た概念だ。ホメオスタシスは、ある状態を維持することが本質だが、ロバストネスは機能を維持することに重点がある。ロバストネスは、必要に応じてあらたな安定状態へ移行する可能性を含む。ロバストネスのほうが、したたかに強靱な生命らしさがある。

しかし、完璧なロバストネスは存在しない。

「それは、すべての擾乱にロバストなシステムは存在しないということです。結局、ロバストネスとフラジリティの関係というのは表裏一体で、どこかをロバストにすれば、必ずどこかにフラジリティが出てくるものなのです。」

F1レースカーや戦車のような特定環境に最適化した車は、ある環境では無敵でも、一般道を走る乗用車としては弱点だらけだ。ロバストネスとフラジリティはトレードオフになる宿命にある。システムレベルでのこの性質が、どんな環境でも最強の生物がいない理由なのだろう。

本書のロバストネスのカバーする範囲は幅広い。大腸菌、癌細胞、ジャンボジェット機、ルイ・ヴィトン、吉野屋、糖尿病など、自然界と人間界のさまざまな現象の基本原理として、ロバストネスがあることを紹介している。生命のしなやかな強靱さを、システム科学の言葉でとらえようとする興味深い思考。

幸運な宇宙

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・幸運な宇宙
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ビッグバンによって生じた膨大なエネルギーから、物質が生成され、銀河や惑星ができて、太陽のほどよく近くに地球できた。最初のエネルギーの大きさや分布、物質の割合、太陽と地球の距離などが、ほんの少しでも違っていたら、地球や人間の存在の可能性はなかった。確率論的に考えると、人間の誕生は奇跡に等しい出来事である。この宇宙の奇跡的な幸運をどう考えるべきか、現代の最先端の宇宙論の視点からじっくり考察する内容。500ページの大作。

前半はビッグバン理論の解説から始まって、万物理論構築の経緯と最新状況、インフレーション理論、超弦理論、M理論、マルチバース論、ダークマター、ダークエネルギーなどキーワードを整理し、これまでにわかっている宇宙の姿が要約されている。宇宙は何でできているのか?、どうやって始まったのか?、果てはあるのか?などの疑問に明快に答える。科学読み物として楽しい。

そして後半では、なぜ奇跡的な確率で今の宇宙と私たちが存在しているのか?という根源的なテーマに挑む。そのありえない確率は、神が創造に介在したからだと宗教者やインテリジェントデザイン論者は、目的や意味を見いだす。

著者は「福引の当選者の多くが思い違いをするように、わたしたちも、自分が当選したことに、間違って何か深い意味(幸運の女神に微笑まれて、などの)を認めてしまうかもしれない。ほんとうは、偶然の結果で幸運だったに過ぎないにもかかわらず。」とし、目的や意味を見出すことはナンセンスであると斬る。

そして科学的態度としての数種類の既存の人間原理説を分類し、それぞれの説の長短を明確にする。宇宙や人間がなぜ存在するのかを突き詰めて考えていくならば、本当の問題は「何が存在するかを決めるのは何か?」ということだと著者は問題を絞り込む。そして、著者独自の人間原理説を展開する。

著者の結論は、人間と宇宙と心を総合する理論。量子力学における観察者の必要性と同じように、宇宙論に心を必要物として持ち込む。要約抜粋すると「宇宙は自らを意識しているという状態を、量子論的後戻り因果関係もしくは、未発見の何らかの別の物理的メカニズムによって自ら作り上げたのだ」「自らを理解することができる自己一貫性を持ったループだけが、自らを作り出すことができるので、生命と心(少なくとも、その可能性)を持った宇宙だけが実際に存在するのではないか」というもの。

人間原理説の拡張である。何かが存在することを認識するものがいるから存在ということがありえる。宇宙に生命や心が現れるのは、幸運であると同時に必然でもあるということになる。宇宙論は存在の哲学そのものになる。

宇宙論のアップデートと存在の哲学のふたつが一冊で味わえる実にお得な内容。読み応えたっぷり。

・多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/11/post-670.html

・ビッグバンの父の真実
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004784.html

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての"超ひも理論"―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html

・迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
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これは抜群に面白い。

ガンや糖尿病など遺伝が関係する病気は数多い。なぜ人類は進化の過程でこうした病気をなくすことができなかったのか。進化とは有害な遺伝子を淘汰して、役に立つ遺伝子だけを残すという取捨選択のプロセスではなかったのか?。気鋭の進化医学者が進化の仕組みについての最新の科学的見解を披露する。

「ある時代での「進化による解決」は別の時代の「進化による問題」となりうる。とりわけ、進化によって体を適応させようとしてきた環境に、もはや住まなくなったという場合には。」

氷河期を生きた人類は寒さに対応するため水分を排除し糖分を蓄積する必要があった。高血糖ならば血が凍りにくいから厳寒期でも生存率が高まった。ところが気候が温暖化し、食料も豊富になると高血糖は生命に危険を及ぼす糖尿病として人類を悩ませることになった。現在の人類の遺伝が原因の疾病の多くが、ある時代を生き延びるための進化的解決の残存だったことが明かされる。

そして、人は病につぎつぎに侵されることで進化の早送りを行ってきたと著者は持論を展開している。

「人類のゲノムは、ある特定のレトロウィルスによって、別のレトロウィルスに感染しやすいように変えられた。ヴィラリアルによれば、アフリカの霊長類に「別のウィルスに延々と感染する」能力がついたことで、人類は進化の「早送り」ボタンを手に入れたのだという。他のレトロウィルスにさらされることで高速変異を可能にする機能だ。この能力のおかげで、僕たちはサルから人間へと一気に進化することができたというのだ。」

病気のウィルスと宿主の人間は相互に影響しあいながら共に高速に進化することができた。それは老化という現象でさえも同じである。人類は老化がプログラムされた寿命のある製品であると著者は市場にたとえている。製品寿命が有限だから、新商品が普及できるというたとえだ。

「第一に、この方法は新製品や改善版を市場に出す余地を生む。第二に、この方法はあなたに改善版を買わせることになる。アップル社は数年前にiPodを開発したとき、計画された旧式化の考え方を全面的に採用した。取替え不可能な内蔵電池の寿命を一年半ほどに設定しておいて、その電池が切れたら消費者に改善版の新モデルを買わせるというやり方だ。」

つまり、生物の寿命は自然淘汰による進化の速度を決定する。種の進化としては、古い世代が死んで新しい世代に入れ替わることこそ重要なのだ。人間が2倍長生きすると、進化は2倍遅くなる。だから進化によって不死身になることは、まったく期待できない話なのである。

病気の存在理由というユニークな観点から、人類の進化を斬新な切り口で語る。話題は横道も含めて好奇心を刺激するキーワードがたっぷりある。よくできた科学読み物。

・+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ
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+1℃ 2100年には地上の水の3分の1が失われる。
+2℃ グリーンランドが融けだし、ロンドンの中心部が水に浸かる。
+3℃ 北極の氷は80%失われ、ニューヨークは浸水し、オランダは島に。
+4℃ 永久凍土の融解により二酸化炭素5000億トンが大気中に排出。
+5℃ メキシコが砂漠化。深海のメタンガスが大気中に放出。

第1章が「1℃上昇」、第2章が「2℃上昇」というように各章がそれぞれの温度上昇時の変化を語っている。平均気温がたった1度上がっただけで、新たな由々しき事態が発生する。

「世界の平均気温が5℃上昇すると、まったく別の惑星が登場することになる。われわれが知っている地球とは似ても似つかぬ星だ。氷床は両極から完全に姿を消し、熱帯雨林は焼失。海面が上昇して沿岸の都市をのみ込み、内陸部まで海水が押し寄せる。人類は旱魃と洪水のために、縮小していく居住可能な地域へ集まる。内陸部の気温は今よりも10℃以上も高くなる。」

そして+6℃ではさらに大きな変化が起きる。地球はかつての白亜紀にも同様の急激な気温上昇を経験している。そのとき、海は無酸素になって生物は激減する。海底からメタンガスが空に向かって噴き上がり大爆発を起こす。人類を含む地球の生態系は壊滅するというのが、科学的な予想であるらしい。

気温上昇は現在よりも2℃を超えると不可逆的な変化とになってしまい修復不能になる。それよりも前に温暖化現象を止めないと人類に明るい未来はないのだ。困ったことに明日二酸化炭素の排出をゼロにしても、これまでの排出の効果で1度上昇までは避けられないらしい。つまり、残る猶予はあと1℃であり既に瀬戸際なのである。

政治経済的にはともかく技術的には豊かな国での二酸化炭素排出量の90%削減は不可能ではないそうである。その上で排出権の国際取引市場を設立し、豊かな国が貧しい国の排出量を買い取ることに合意することが極めて重要な温暖化回避策であると著者は述べている。

昨年、シリコンバレーに出かけたら、最近のベンチャーキャピタルはITではなくてクリーンテクノロジー分野のベンチャーに注目していると聞いた。ベンチャー投資による技術革新に期待したいところである(本書は夢のような技術の出現に期待してはいけないという論調だが...)。排出権取引市場に加えて投資家の市場も使って、市場が引き起こした問題を市場で解決するというのは賢いと思うのだが。

・成長の限界 人類の選択
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003701.html

・地球のなおし方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003752.html

・世界の終焉へのいくつものシナリオ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004729.html

・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004210.html

・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004218.html

・感染症は世界史を動かす
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004403.html

・インフルエンザ危機(クライシス)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004247.html

・量子暗号 絶対に盗聴されない暗号をつくる
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これまでに使われている暗号技術は、どんなに高度なものであっても、原理的には第三者が解読することができる暗号である。現在、インターネットなどでも使われている暗号技術は、非常に高度なものであるとはいえ、コンピュータを使って天文学的な時間の計算ができるなら、いつか解読できる。人間にとって意味のある時間で解読できないから、安心というだけである。

量子暗号は原理的に解読や盗聴することができない暗号である。電子や光子のような超微細な粒子のレベルでは、なにか観測するということは、対象に対して光子などをぶつけることである。必然的に観測するということは対象の状態に影響を与えてしまうことになる。この不確定性原理を通信に応用するのが量子暗号である。

「量子の状態にある信号は、測定すると必ず痕跡が残る。それを利用して盗聴があったかどうかを検知し、安全に暗号の鍵を配布できていることを確認する。これを繰り返し実行すれば、いくらでも鍵を安全に配布することができる。そうすれば絶対安全であることが唯一証明されているバーナム暗号を実現できる。」

究極の暗号である量子暗号だが安定した通信の実用化には技術上の壁があって時間がかかっている、と聞いていた。この本は今日の段階で量子暗号の実用化の取り組みがどこまで実を結んだか、普及にはどんな問題があるかを詳細に紹介している。

量子暗号とは何かについて、最初に比喩を使ったおおまかな説明があって、その後詳細な解説がある。それにつづいて究極の暗号にかかわった科学者たちの業績ドキュメンタリが読み応えがある。ひとくちに量子暗号といっても細かな仕組みにはいくつかの種類があること、量子コンピュータが普及した場合に量子暗号はどう進化していくか、など量子暗号について過去現在未来を総括する。

ひとつの技術の最前線を知ることができてワクワクした本だ。

・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html

・眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎
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なんじゃこりゃ、おもしろすぎる。年末になってこんな傑作と出会うとは!ノンフィクションだがミステリー小説のような趣もある第一級の医療ドキュメンタリ。

イタリアの高貴な一族が18世紀から現在まで原因不明の奇病に悩まされていた。50歳を過ぎたくらいになると、一族の中の何人かが異常な発汗と瞳孔縮小という症状を発症し、重度の不眠症になって死んでしまうのだ。遺伝性がある病気だったが、医師たちは長い間、ウィルスや遺伝子などの原因を特定することができなかった。

実はこの致死性の不眠症の正体は、ウィルスでも遺伝子でもなく、自己増殖する悪性のタンパク質が正体であった。ある形状を持ったタンパク質は”鋳型”を使って自己を複製して増えていき、やがて宿主の脳細胞を侵食して殺してしまう。殺人タンパク質の発見は「遺伝子が生物の形質を決定する」「生物だけが感染を引き起こす」という生物学の根本を揺るがす大発見であった。

そして、この一族の病は、18世紀に流行した羊の病気「スクレイピー」、20世紀前半に発見されたクロイツフェルト・ヤコブ病、20世紀後半にパプアニューギニアで発見された「クールー」、そして1980年代英国に始まり現代も続くプリオン病(狂牛病)と同じタンパク質の異常が原因であることが判明する。

ノーベル賞受賞の研究者たちの努力によって、プリオン病の発生の経緯が次第に解明されていく本書のスリリングな部分はつい最近の話である。プリオン病の原因は牛の飼料の原料であった「肉骨粉」を食べたこと、つまり牛の共食いが原因であった。パプアニューギニアの一部族にみられた「クールー」病は数十年前の人肉食が原因であった。「まるで生物のように増殖して感染を引き起こす非生物の分子」=殺人タンパク質は、煮たり焼いたりしても容易には壊れず、感染性を維持する。肉食が媒介した可能性が高いのである。

牛肉食が原因のプリオン病(狂牛病)は世界的な大騒動になったが、実は患者数は極めて少ない珍しい病気である。遺伝的に感染しやすい人とそうでない人がいるのだ。そうでない人が多数を占めるから広がらない。本書ではその原因は原始人類が八十万年前に行った人肉食にあったのではないかという仮説が提示される。

プリオン病(狂牛病)といっても吉野家で牛丼が食べられなくなった事件を連想するくらいで普通の日本人にはあまりピンとこないものだろう。だが、この本を読むとプリオン病の潜在的な恐ろしさを科学的に理解できる。現在のところ有効な治療法はない。患者が少数なので特効薬をつくる製薬会社もない。致死性の殺人タンパク質がさらに突然の進化を遂げて感染力を拡大した場合、人類壊滅の脅威にもなりうるのではないかと想像すると、産地がどこであれTボーンステーキは当面やめておこうと思った。

・多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて
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「無からの宇宙創生」理論、「永久インフレーション」モデルの提唱者である物理学者アレックス・ビレンケンが書いた現代宇宙論。一般向けの本だが、ビッグバン、インフレーション理論、超ひも理論、人間原理、宇宙定数、暗黒物質など基礎的な事項は予備知識として知っていて、知識のアップデートを望む読者に特におすすめ。

「インフレーション理論では、内部的な視点から見ると島宇宙は無限に大きいので、それぞれの島宇宙はO領域を無限にたくさん含んでいます。また量子力学により、どんなO領域もそこで展開されるはずだという結論が避けようもなく出てきます。量子力学によれば、保存則によって厳密に禁止されないものはすべて、ゼロでない確率で起こります。そしてゼロでない確率を持っている歴史はすべて、無限個のO領域の中で起こるーあるいはもうすでに起こっているーのです。」(O領域は800億光年の巨大な球状の空間)

この多世界モデルは、条件分岐で世界が増殖していく平行世界モデルとは異なる。多世界モデルでは、あらゆる可能な世界が同じ大宇宙に実在している。観測可能なO領域としての世界同士が、あまりに遠いので互いにアクセスができないだけである。

まったく同じやほとんど同じ世界が二つあることもありえる。故に「永久インフレーションから導かれる世界観では、地球と私たちの文明は決して唯一無二のものではありません。そうではなく、無数の同一の文明が宇宙の無限の広がりの中に散在しているのです。人類の宇宙的な重要性といったものが微塵も認められなくなり、私たち人間の世界の中心からの退場は完了しました。」と、著者はなんだか嬉しそうに唯一性という価値を否定している。

つまり、人間はひとりではないどころか、あなたもひとりじゃないのである。

宇宙の観測データによる仮説の裏づけや量子力学寄りの新理論の登場によって、この10年という短い期間でも、宇宙論の論点や結論は変化していることがわかる。神話が宇宙を定義していた時代は何百年や何千年も不変だった宇宙論が、いまは世代ごとに科学の最前線としてコロコロと変わっているのだ。宇宙論は科学であると同時には哲学でもある。人間とは何なのか、私は誰なのかという存在論に、科学が常に揺さぶりをかけている時代だといえる。

そして宇宙論は科学であり、哲学であると同時に、フィクションの面白さがあるとこの本を読んで改めて思った。科学者たちは、それぞれが妄想したフィクションのリアリティを競い合っているようにも見える。宇宙論では最初は突飛で荒唐無稽と思われたアイデアが、古い仮説を覆してきた。

人間はまだ宇宙のほんの一部しか観測することができないので、宇宙論の仮説を検証し理論化するに当たっては、ローカルな宇宙で得られるデータから統計的に推論していくしかない。宇宙論には観測にもとづいた数値を代入する26もの定数があるため、純粋な理論からの演繹モデルはつくることができない。科学者たちが議論して、ローカル情報とすりあわせ、最もありがちな宇宙の姿として妥当ということに落ち着いた暫定モデルを更新していく。

理論的な矛盾がなく、いくら権威付けが行われても、今後の観測で、宇宙の果てにガムテープで補強の跡が見つかりましたなんてことにでもなれば、すべてのモデルは総崩れになる。ガムテープはないだろうが、ブラックホールやら暗黒物質など、ありそうにないものが実際に発見されてきた。この本のいう多世界モデルの、隣の世界がみつかっちゃいました、なんてこともあるかもしれない。

・ビッグバンの父の真実
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004784.html

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての“超ひも理論”―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html

・闘う物理学者 天才たちの華麗なる喧嘩
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歴史上の偉大な物理学者をめぐるで喧嘩や論争に焦点を当てて、現代物理学の歴史の一面を面白く、わかりやすく描いた一般向けの科学読み物。取りあげられたのは以下の大物物理学者(ではないのもあるが...)。

・ファインマン VS ゲルマン
・ガリレオ VS ローマ法王
・アインシュタイン VS ボーア
・ノーベル賞 VS フランクリンメダル
・ボーム VS アメリカ「帝国」
・ランダウ VS スターリン
・マリー・キュリー VS 差別
・湯川秀樹 VS 朝永振一郎
・ホーキング VS ペンローズ

意外な事実の紹介で読者に関心を持たせていく。

たとえば350年にわたったガリレオとバチカンの戦いの章はあれ?と思った。史料をちゃんと調べるとガリレオは、そういったと言われる有名なセリフ「それでも地球は周っている」などとは言っていないそうなのである。

「ガリレオ裁判は、通常流布されているような「科学と宗教の争い」という次元の話ではなく、老練な政治家(ローマ法王)が自分の保身のために親友であったガリレオを生贄にしたという次元の話なのである。意外と単純な話だったのである。だから本当は、後世に語り継がれるほどの大事件ではないのだ。」

ガリレオは法王とツーカーだったらしく、現実は内輪揉めに近い状況だったという。科学のために戦った孤高のガリレオのイメージが崩されて、政争に敗れたエリート科学者という実態が明かされている。

こうした天才たちの現実の姿を伝えるエピソードを紹介しながら、天動説と地動説、相対性理論と量子論、実在論と実証論など、当時彼らが対立した論点を、わかりやすく解説してくれる。どれも上質なエッセイで科学への興味をかきたててくれる良書だと思う。

それにしても天才科学者たちには極端でこどもっぽい振る舞いが目立つ。天才であるが故に、横暴も奇行も仕方がないとして許されたということなのだろう。また、こどもの純粋さ、飽くなき好奇心、無謀な行動力などがあったからこそ、天才だったのだろうなあとも思える。

周囲が「天才だからしょうがない」と大目に見ること=本人の能力といえるのかもしれない。だとしたら、奇行の量で科学者たちの行動を測れば、次の大天才を発見できるのかもしれないと思ったりした。

・タイムマシン開発競争に挑んだ物理学者たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005061.html

・ビッグバンの父の真実
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004784.html

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての“超ひも理論”―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html