Books-Scienceの最近のブログ記事

・代替医療のトリック
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現代のタブーに真っ向勝負。

『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『ビッグバン宇宙論』を著した現代最高の科学ライター サイモン・シンが、次はどんな定理に挑むかと思ったら、意表をついて「代替医療」を斬る本を出してきた。ドイツの代替医療研究の大学教授と組んでの共著。翻訳はサイモン・シンの名訳を生み続けてきた青木薫氏。

まだ「代替医療」という言葉が一般にわかりにくい気がするのだけれど、要は、鍼、ホメオパシー、カイロプラティック、ハーブ治療などを指す。代替医療のほとんどは科学的にはインチキで治療効果はまったくないという事実を科学的に明らかにした本だ。それらを職業や商売にしている人たち(国内でも何十万人もいるだろう)に死刑宣告をしたようなもので、かなりヤバイ本かもしれない。今後、論争が起きそうだ。

やり玉に挙げられるのは、ホメオパシー、鍼、カイロプラティック、ハーブ療法、アロマセラピー、イヤーキャンドル、オステオパシー、結腸洗浄、指圧、スピリチュアル・ヒーリング、デトックス、伝統中国医学、ヒル療法、マグネットセラピー、マッサージ療法、瞑想、リフレクソロジーなど30種類以上。それぞれに科学的な根拠の有無が明らかにされる。わずかに効果を認められたものもあるが、著者らの結論では、ほとんどが科学的には"アウト"だ。

「人びとが代替医療に心惹かれるきっかけは、多くの代替医療の基礎となっている三つの中心原理であることが多い。代替医療は、「自然」で、「伝統的」で、「全体論的」な医療へのアプローチだといわれる。代替医療を擁護する人たちは、代替医療を選択する大きな理由としてこれら三つの中心原理を繰り返し挙げるが、実は良くできたマーケティング戦略にすぎないことが容易に示される。」

自然、伝統的、全体論的であること自体には何の意味もないのに、そう書いてあると人は騙される。

確かに鍼やカイロや指圧で病気が治る人はいる。治療行為や薬に効果はなくても、心理的な効果=プラセボ効果が伴うからだ。しかしプラセボ効果は科学的な医療にも伴うわけで、代替医療の専売特許ではない。代替医療には科学的な医療と比較して多くの危険性があるし、代替医療に切り替えた結果、通常の医療を受けない患者が出てくる。プラセボ効果のみの代替医療では、多くの患者の病気は悪化していくのみである。だから代替医療の酷い実態を世の中に広く知らしめなければならないという使命感で著者らはこの本を書いている。

なぜ人は信じてしまうのか、なぜ効果があるように見えるのか、なぜ代替医療に注意すべきなのか?。サイモン・シンは本書でも、数学の証明の本のときのように、極めて論理的で明解な説明をしている。現代人の多くが多少は代替医療の情報に騙されている。代替医療にかかるのは個人の自由だが、前提として多くの国民が科学的な根拠の有無を知っておくべきだろう。

というわけで、かなり説得力のある本なのだが、代替医療側から論理的な反論の書が出てきたら面白くなるなあ。

・ビッグバン宇宙論 
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-412.html

・フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/01/post-340.html

・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html

・フィールド情報学入門 ―自然観察,社会参加,イノベーションのための情報学
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「本書では、フィールドを「分析的、工学的アプローチが困難で、統制できず、多様なものが共存並立し、予測できない偶発的な出来事が生起し、常に関与することが求められる場(片井 修)と定義する。フィールド情報学はこうしたフィールドで用いられる起源の異なるさまざまな方法を、記述、予測、伝達という情報の視点から集約することを目指している。本書はフィールド情報学を志す初めての教科書である。」

社会科科学のアプローチを使って情報学的に、社会や自然というフィールドを科学する。
・リモートセンシングや地理情報システムで、広域から人々の行動情報を集める
・バイオロギングによって生物の活動を長期的に記録する
・社会をシステムダイナミックスとして記述する
・マルチエージェントシミュレーション
・参加型の観察による分析 エスノグラフィー

など、社会や自然をどう情報としてとらえていくかの研究が多数紹介されています。

ところで私の会社は先週、こんな研究成果のビジネス化の発表をしました。

・Twitter上の「つぶやき」や「プロフィール」からオピニオンリーダーを検知する 『Twitterオピニオンレーダー』を開始
http://www.datasection.co.jp/news/twitter_20100304.pdf

・Twitter上のオピニオンリーダー分析サービス、データセクションが発売(日経ネットマーケティング)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmg/20100304/213157/?ST=nmg_page

今年の私の会社としては、従来の統計と自然言語処理による定量的な分析から、定性的で創造的な「デジタルエスノグラフィー」に取り組むのがテーマです。具体的にはブログやツイッターを分析して、商品開発やプロモーション企画に活かすためのコンサルティングソリューションを展開しています。

こういったテーマに関しての論者として3月9日(火)

情報処理学会創立50周年記念(第72回)全国大会 フィールド情報学セミナー
http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/taikai/72kai/event/17.html
フィールド情報学とは?
http://www.ai.soc.i.kyoto-u.ac.jp/field/

にパネルとして出演することになりました。

橋本 大也(データセクション株式会社 取締役会長)

【パネルにおけるポジション】

データセクションではBlogosphere(ブログ生態系)というフィールドから、データを大規模に収集し、書き手の行動パターンやプロファイルを分析するビジネスインテリジェンスシステムを開発した。日々の書き込みを深く読むことで、消費者のマイクロトレンドを発見したり、オピニオンリーダーの行動を予測することができる。大手広告代理店と連携した"流行創出"事業、保険会社と共同で上場企業の風評リスクを早期に察知する"風評リスク事業"など、フィールド情報分析の事業化に取り組んでいる。

略 歴 1970年生まれ。起業家。データセクション株式会社取締役会長。大学時代にインターネットの可能性に目覚め技術ベンチャーを創業。主な著書に『情報力』『情報考学--WEB時代の羅針盤213冊』『新・データベースメディア戦略。』『アクセスを増やすホームページ革命術』等。(株)早稲田情報技術研究所取締役、(株)日本技芸
取締役、株式会社メタキャスト 取締役、デジタルハリウッド大学准教授、多摩大学大学院経営情報学研究科客員教授等を兼任。

フィールド情報学セミナーではビジネスにおける事例や展望をご紹介する予定です。

・ロボットとは何か――人の心を映す鏡
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「生きている天才100人」で日本人最高位に選ばれたロボット研究者 石黒浩氏。どきっとするくらいリアルな女性と子供アンドロイド、自身にそっくりな遠隔操作の"ジェミノイド"を制作したり、ロボットと人間が演じるロボット演劇をプロデュースしたり、「先にまずロボットやアンドロイドを作ってみて、そこから人間を知る」構成論的アプローチで、人間の脳や心のしくみ解明に迫る。

人間のように心をもったロボットを作ることはできるのか?という問題に対して、著者は「人に心はなく、人は互いに心を持っていると信じているだけである」と言い、心を持っていると信じさせるための条件を探す。

自律型ロボットのロボビーの展示では、

「このロボビーと遊んでみた人は全員一様に、ロボビーには感情があると言う。むろん、我々開発側としては、感情生成機能は一切実装していない。しかし、たとえば、しばらく遊んだ後でロボビーが突然「バイバイ」と言って離れていくと、「ロボビーは冷たい」とか「ロボビーは怒ったのかな」と言う。あるいは、ロボピーが部屋の隅で「誰か遊んでね」とつぶやいていると、「ロボビー、寂しそう」と言う。さらにおもしろかったのは、研究所に来た客が、あるロボビーと遊んでいると、部屋の隅にいたもう一台のロボビーがやってきて、その二人の間に割ってはいり、「遊んでね」と言って別の遊びを始めた。その様子は、本当にそのロボビーが嫉妬しているように見えた。」

ロボット演劇においても、演劇のプロの指導で設計された動作をするロボットを見た観客たちは、ロボット役者に心を感じた。これは「役者に心はいらない」のと同じである。本物の役者だって演技中は何を考えていようが、観客に見える動作が決まっていれば、情動を表現できる。

ロボットが人間にそっくりであればあるほど、そうした力が強くなる(不気味の谷という例外はあるが)という仮説のもとで、著者はひたすら人間にそっくりのアンドロイド制作を続けてきた。

よく雑誌やテレビで取り上げられている自身とそっくりの"ジェミノイド"は、遠隔操作で動かすロボットだ。リモートで人間が操作する、訪問者とジェミノイドとの対話が五分ほど続くと、操作する者は、ジェミノイドの体が自分の体であるかのような錯覚を覚える。ジェミノイドの頬を突っつかれると、本当に自分が頬を突っつかれた気分になるらしい。不意に触られると不快感を覚えもするという。人の心は容易に憑依する性質があるということか。

ロボット工学の技術論はほとんど出てこなくて、人間らしさ、人間とは何かをひたすら追究していく著者の姿勢は、哲学者のよう。人間と同等の常識や高度な推論系を持つ人工知能なんていつまで待っても完成しないだろうが、このアプローチだったら案外に近い将来、人間と見分けがつかないアンドロイド、出来てしまうかもしれない。生きている天才に期待。


・自分そっくりのコピーロボット開発に世界仰天!石黒浩/Tech総研
http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/rnc/docs/ct_s03600.jsp?p=000923

・大阪大学でロボット演劇「働く私」が上演
~「エンターテインメント型実証実験」で近未来を疑似体験
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/27/1468.html

・ロボット
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-714.html「ヘレナ、人間はいくらか気違いであるくらいでなければ。それが人間の一番いいところなのです。」

・パラダイムとは何か クーンの科学史革命
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「パラダイム」概念の創始者トーマス・クーンの研究。

一般にパラダイムという言葉は「考え方の枠組み」や「新しい物の見方」という程度の意味で使われているが、クーンの原義は「その領域の研究活動を特徴づける模範例となる科学的業績」を指す。枠組みや見方ではないのである。この誤解はクーン自身の乱用も原因だったらしい。クーンは文献の中で21通りもの異なる意味で使っていると他の研究者から指摘されている。そこで「専門母型」という厳密な概念も生み出したが、こちらは流行らなかった。

クーンによると科学の歴史的展開は「前科学→パラダイムの形成→通常科学→変則事例の出現→危機→科学革命→新パラダイムの形成→通常科学」というサイクルを繰り返す。器官として長いのは知識を累積させて連続的に進歩を重ねる通常科学の時代だ。だが、地動説、重力、相対性原理の発見のような新たなパラダイムが形成されると世界観は革新される。クーンはその模範例の出現に科学の断続的で飛躍的発展のきっかけをみた。

同時にふたつのパラダイムを信じることはできない。しかし、通約不能な新旧パラダイムを奉じる科学者同士は、まったくコミュニケーションができないわけではないとクーンは考えた。「あるパラダイムから別のパラダイムへの移行は、それゆえ論理学の問題ではなく、クーンによればそれは社会学や心理学が解明すべき問題なのである。」ともいう。

「コミュニケーションの途絶状態にある参加者たちにできることは、お互いを異なる言語共同体のメンバーと認めた上で、翻訳者となることである」。

その時、翻訳者は常に「唯一の正しい翻訳」を確定できないことを前提としいる。"トンデモ"とか"異端"に対して寛容であることが一流のイノベーターの条件ということになるのだろう。(寛容度を極限まで高めるファイヤアーベントの「知のアナーキズム」も後半でパラダイム論と絡めて論じられている。)

・雌と雄のある世界
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分子細胞生物学、分子遺伝学、発生生物学の最先端で、生物の生殖について解明されてきたことが、一般向けに整理されている。

「雌と雄のある生物では二種類の細胞、体細胞と生殖細胞がある。体細胞はひたすら同じ遺伝情報を分かち合いながら分裂増殖し、生殖細胞は遺伝情報の多様性をつくり出す。」という基本原則がある。

実は雌だけでもどうにかなるそうで、クローン技術を使えば雄がいなくても子供をつくることができてしまう。細胞が増えるというレベルではふたつの性は不要なのだ。しかも男性を決定するY染色体は、かなりの速さで衰えていて、これから10万年から20万年後には消えてしまう可能性があるらしい。

プラナリアという面白い生き物の特異な生殖が紹介されている。この生物は温度によって有性生殖と無性生殖を切り替える。餌によっても切り替わる。栄養条件がよいときは無性生殖でどんどん増え、栄養状態が悪くなると有性生殖で多様性のある個体を増やして、生き残る率を高める。

無性生殖のプラナリア個体に、有性生殖の個体を食べさせると有性化する。獲得形質が遺伝している例と見なす説もあるようだ。プラナリアはいわゆる下等生物なわけだけれど、こういうフレキシブルな性に人間も進化していくこともあるのかもしれない。男女がいつでも入れ替われるなら、かなり生き方も変わるだろうな。

結局、生物の世界で雄と雌の二つの性があるのは、その方がゲノムの多様性が生じやすく、進化の速度がより大きいということに尽きるようである。どのような経緯でそうなったのかはまだ解明されていない。多様性ということであれば200くらいの性があってもよかった気もするが。同じゲームをしている人同士がNintendoDSの"すれ違い通信"の如くちゃんとすれ違える確率みたいなものが影響しているのかもしれない。

・長寿を科学する
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長寿の科学的探究と超高齢化社会時代への提言。

長寿大国日本は人生80年時代から90年時代に移り変わりつつあり、100歳を超える"センテナリアン"が目下急増しているそうだ。1963年には153人しかいなかった百歳超の老人が、2008年には3万6276人もいる。45年間で200倍以上に増えている。

高齢化社会というが、2050年には2.5人から3人が65歳以上になる。高齢者の内部にもグループ分けが必要になってくる。65歳から74歳までの前期高齢者は2015年まで増加するが、そこから逆に75歳以上の後期高齢者が増え始め、2017年には後期高齢者13.8%となり、前期高齢者13.1%をを上回ることが予測されている。日本はもうすぐ高齢化社会から超高齢化社会の時代へと突入するのだ。

センテナリアンについての研究が多数紹介されている。100歳を超えられる人はどんな人なのか、本書の記述を拾ってリストにしてみた。

・4分の3は女性。ただし元気なのは男性。
・体格は平均的で太った人はいない。60歳以上は標準体重のまま。
・農村が多い。
・沖縄県がトップ。
・長男・長女が比較的多い
・学歴は高い傾向がある
・アルコールは飲む人はいるが喫煙はしない
・家系に長寿者が多い
・体温が低い
・経済的には多くは恵まれている

面白いのはこんなプロファイリングもあること。

「仕事のことでは、若いころから比較的重労働に従事した人が多い。仕事好きで、芯の通ったところがあり、苦難な道をたどり、苦痛に打ち勝ってきた経験者が多い。そうした苦悩を克服してきた粘り強さが目立つ。さらに、順応性が高いことも特徴で、こうした特性があるから逆境をも乗り越え、切り抜けてきたのではないかと思われる。」

苦労人が長生きできるというのは、なんだか良い話ではないか。のほほんと生きているだけではボケてしまうのだろう。積極的に社会と関わりを持つことが高齢者の生きがいとなり、長寿の秘訣でもあるという「プロダクティブ・エイジング」という言葉が何度も出てくる。生き生きとしていることが、長生きにつながる。ただ長生きするというのは無為であると思うが、案外に難しいことのようだ。

100歳からの1年間の死亡率は64.4%。100歳になった人の3分の2は翌年にはこの世にいないそうである。身近に100歳のお祝いがあったら、これが最後かもしれないと思って、会うべきなのだなあ。

・ヒトが永遠に生きる方法―世界一やさしい身体の科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/07/post-108.html

・死ぬまでに知っておきたい 人生の5つの秘密
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/-5.html

・100歳まで生きてしまった
http://www.ringolab.com/note/daiya/2003/09/100.html

・セックスと科学のイケない関係
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気鋭の女性科学ジャーナリストによる性科学の最先端レポート。読み応えあり。

テクノロジーで人間のセックスを探究する真面目な科学者達の話だが、実験観察の現場を想像すると可笑しくなる。

「"ドライ・ペニス・スキャン"では、被験者はベッドにうつぶせになり、別途に開いた穴から人工ヴァギナにペニスを挿入します。"ヴァギナ"は(人体に無害な)澱粉のゲルでできています」。

他にも登場する科学者は、セックスしている男女をMRI装置に入れて性器の状態を調べるとか、膣にペニス型カメラを挿入する。形状の異なる男性器と女性器を使い「男性器の亀頭の張り出しは自分の精液を放出する前にライバルの精液を掻き出すためにある」ことを証明する。男性被験者の禁欲的協力で精子は5日ごとに"在庫一掃"が望ましい(1週間で劣化する。毎日では薄くなる)ことがわかったり。

だがそうした苦労の甲斐あってさまざまな事実が判明する。

イカせやすい女性とそうでない女性がいるという研究がある。膣口とクリトリスの距離が近いと男性のピストン運動から快楽が得られやすく、遠いと得られにくいことが実験調査で分かった。身長と外陰部各部位の距離は相関があるので、背の高い女性は「イカせにくい」ことになるらしい。

古典的なパブロフ型条件付けで「ブーツフェチ」を誕生させることに成功した話も凄い。男性の性的嗜好はつくることができるという話だ。

「五人の男性にペニス外径測定装置を着けてもらい、ヌードの女性や挑発的な衣装を次々と見せる合間に、ファーの内張りのついた膝丈の婦人物ブーツの写真も見せた。結果は上場だった。五人の内三人のペニスは、ブーツの写真を目にしただけで、女性の写真を見たときと同じように怒張したのだ。」

ちなみに女性の性器は性行為の映像全般に無差別に反応するが、男性の性器は自分の性的嗜好や興味に沿った映像にのみ反応するそうである。オタクは男性に多いが、性的な部分でも男性はマニアックにできているのだ。

他にも著者が取材した研究事例は、バイアグラの効用や処方箋が必要なバイブレーターの開発、オーガズムの正体の探究、自慰など幅広い。性のあらゆる側面に対する科学的アプローチを紹介している。

定期的オーガズムの経験が寿命を延ばすのだという。週に二度オーガズムを味わう男は一ヶ月に一度の男よりも10年以内死亡率が50%低いそうだ。生命を生むだけでなく死なないためにも性の科学は重要なのである。

・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html

・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html

・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html

・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html

・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html

・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html

・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html

・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html

・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html

・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html

・となりの車線はなぜスイスイ進むのか?――交通の科学
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車を中心にした交通の科学研究。

興味深いデータが満載。

「交通については、おもしろい法則がある。世界中で移動に費やす時間は、ほぼ同じであることだ。アフリカの村でもアメリカの都市でも、一日あたりの往復通勤時間は1.1時間程度である。」

「カーネギーメロン大学の調査によると、走行距離1億マイルあたり、男性は1.3億人死ぬが、女性は0.73人である。男性は1億回走行あたり14.51人死ぬが、女性の場合は6.55人である。そして男性は1億分あたり0.7人死ぬが、女性の場合は0.36人である。」

「通勤時間が延びている地域は最も所得格差が広がっている地域である」(アスペン効果)

「おもしろいのは、『慎重ぐるぐる派』は時間をかけて駐車スペースを探したあげく、距離の点でも歩く時間の点でも『無頓着派』より店に近いところに停めているわけではないことだ」

「統計的に離婚歴のある人の運転は危険」


交通はしばしば水の流れに例えられるが、隘路の交通のモデルは水ではなく米だという話がある。じょうごに大量の米粒を通す場合、いっぺんに入れるより少しずつの方が同じ時間に多くの米粒を通すことができる。「注ぎ入れる米の量を減らせば、よりスペースの余裕ができて、粒同士の干渉も減る。流れが速くなるのだ。このことは直感的にわかりやすいが、しかし路上のドライバーにとっては、必ずしも受け容れやすいものではない。」

しかし、こうした物理的なロジックだけは交通の謎は解明できない。性別、階級、運転経験などが交通に強く影響しているからだ。たとえばクラクションの使われ方は

・女性運転や初心者マークの車は後続車からクラクションを鳴らされやすい。
・メルセデスのような高級車は鳴らされにくい。
・男性より女性の方がクラクションを鳴らしやすい
・大都市に住む人の方が田舎に住む人よりも鳴らしやすい

という特徴があるという。水や米粒の動きには還元できない、極めて人間的で曖昧な要素がそこには含まれている。社会学も関係がある。現代の渋滞の原因は女性だ。アメリカで女性が労働力に占める割合は28%だったが、現在は48%である。移動距離自体は男性の方が長いが、女性は送り迎えのような短距離で頻繁な移動が多いため、女性は渋滞の原因と考えられるのだ。

交通の研究は心理学、社会学、物理学など実に異なる側面、奥行きを持つことがよくわかる本だ。

全体を見渡すことができない交通の中の人間は、これで十分という限界合理性で行動している。ネットワーク技術による交通情報の共有は、皆がそれを知ってしまえば、新たな渋滞を招く。結局、個別の経路誘導システムやインテリジェントに変動する有料課金のシステムが有効なのではないかと思った。

ところで私は車は運転しないので、次は歩行者の「徒歩」戦略の本が読みたいなあ。

・渋滞学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-480.html

・次元とは何か―「0次元の世界」から「高次元宇宙」まで (ニュートンムック Newton別冊サイエンステキストシリーズ)
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次元の考え方から最新宇宙論までをビジュアル解説。ニュートン別冊。

デカルトは次元を「1点の位置を決めるために必要な数値の個数」と定義した。1次元(線)なら距離Xだし、2次元なら座標X、Y、3次元なら座標X、Y、Zで、1点の位置を決定することができる。

ユークリッドの『原論』は、次元を

立体(3次元)の端は面(2次元)である。
面(2次元)の端は線(1次元)である
線(1次元)の端は点(0次元)である

と定義した。しかし、こうした定義では3次元を超える次元を説明できない。アリストテレスは「立体は"完全"であり、3次元をこえる次元は存在しない」とまで論じていたという。

19世紀の数学者アンリ・ポアンカレは、ユークリッドを逆手にとって、次元を次のように定義し直した。

端が0次元になるものを1次元(線)とよぶ
端が1次元になるものを2次元(面)とよぶ
端が2次元になるものを3次元(立体)とよぶ
端が3次元になるものを4次元(超立体)とよぶ

この調子で5次元、6次元、無限次元までを定義することが出来るようになった。これは「点を動かすと線ができ、線を動かすと面ができる。このように、ある次元の図形を、その次元に含まれない方向へ動かすことで、もとの次元より一つ高い次元の図形をつくることができる。」ということでもある。よって立方体を動かせば4次元の超立方体ができるのだ。ただし3次元空間に含まれない方向へ動かす必要がある。

こうした次元の考え方の基礎から始まって、アインシュタインによる4次元時空論、力の統一、超ひも理論、ブレーン理論、巨大加速器LHCの実験の話までを、美しい概念図やイラストたっぷりに、かみ砕いて教えてくれる内容。

これを読み終わると、この世界は4次元(3次元+時間)ではなくて、実は10次元なのだという最新物理学の仮説の意味が理解できる。残り6つの次元は極小レベルで折りたたまれているのだ。ワープする余剰次元モデルを提唱するリサ・ランドールの長文インタビューを巻末に収録している。

わかったふりをしてきた部分が、要点整理とビジュアルで本当にわかる本だった。宇宙論の本の副読書としておすすめ。

・動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか
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「生物と無生物のあいだ」の分子生物学者 福岡伸一氏の科学読み物。「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という主題周辺でエッセイが8章。

人は毎日カツ丼ばかり食べているとカツ丼になってしまう、わけではない。だがカツ丼を構成している分子は、身体の構成分子と交換されてしばらく一部となり、やがて外へ抜けていく。分子は入れ替わるがシステムは維持される。こうした分子の流れ、動的な平衡状態こそ生命の本質なのだということをルドルフ・シェーンハイマーという科学者が1930年代に突き止めていた。

「個体は感覚としては外界と隔てられた実体として存在するように思える。しかし、ミクロのレベルでは、たまたまそこに密度が高まっている分子のゆるい「淀み」でしかないのである。」

流れであり平衡状態であるという見方は、東洋医学的な見方でもあるなと思う。患部を部分的に治療するのではなく全体を整えることで、治る。生物の構造はDNA設計図をもとに複製された大量のミクロ部品から構成される複雑な機械という側面もあるが、生きている生命にはそうした構造に還元できない現象も多い。

「ここで私たちは改めて「生命とは何か?」という問いに答えることができる。「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という回答である。 そして、ここにはもう一つの重要な啓示がある。それは可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。生命現象とは構造ではなく「効果」なのである。」

つまり生命とは絶え間ない水流が作り出す渦巻きみたいなものということだ。水が勢いよく流れている間は実体であるかのように立ち現れるが、基盤は流れる水分子に過ぎない。こうした生命の動的平衡の特徴的な性質について面白い説明が続く。たとえばシグモイド・カーブの話。

「生命現象を含む自然界の仕組みの多くは、比例関係=線形性を保っていない。非線形性を取っている。自然界のインプットとアウトプットの関係は多くの場合、Sの字を左右に引き伸ばしたような、シグモイド・カーブという非線形性をとるのである。」

音量ボリュームのダイヤルを回すと最初は音がいきなり大きくなったように聞こえるが、あるレベルを超えるとさらに回しても大きな音は大きな音に過ぎなくなる。インプットとアウトプットの関係が比例関係でなく鈍ー敏ー鈍という変化をするものだそうだ。インプットが小さい領域では立ち上がりが低い。高い領域では高い。これなどはビジネスマンがサービスやインタフェースの設計に何か応用できそうな話である。

最新の分子生物学の成果を一般人向けのわかりやすいエッセイとして読めて楽しい。

・生物と無生物のあいだ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/post-598.html
2007年サントリー学芸賞受賞。

・数学で犯罪を解決する
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このドラマは何度かみて注目していたのだが、こんな本が出ていたのだな。

・天才数学者の事件ファイル
http://tv.foxjapan.com/fox/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/8
シーズン2を放送中

海外人気ドラマ 「NUMB3RS:天才数学者の事件ファイル」は天才数学者がその知識を使って兄のFBI捜査官を助けて難事件を次々に解決していくという内容。この本はそのドラマの各話に登場する最新数学の手法を一般向けにわかりやすく解説している。

たとえば第1話では連続する複数の事件の発生場所をプロットし、その座標をある数式で分析することで、犯人の住処を特定した。ドラマの内容の総括の後、こうした地理的プロファイリング手法は現実の犯罪捜査でも効果を発揮しているという話が事例を挙げて紹介される。

データマイニング、ニューラルネット、変化点検出、ベイズ理論、暗号理論、ゲーム理論、指紋とDNA、画像解析などたくさんの数学的な分析手法が取り上げられている。ドラマでは簡略化されたり誇張された部分も、現実にはどの程度まで実現されているかがよくわかる。

大量の過去データを分析して変化の予兆を発見する「変化点検出」が個人的には一番興味を持った。たとえば野球の試合データを「シルヤエフ・ロバーツ変化点検出方式」で分析すると、選手のドーピングがわかるなどという話。

「選手が能力向上ドラッグを使いはじめた時期がわかるのだ。野球史上でステロイド剤を使っていた選手の成績や行動を慎重に調べることで、キットナーはステロイド剤を使っていた選手の成績や行動を慎重に調べることで、キットナーはステロイド利用の指標として使える統計がどれかを見極めたのだった。───長打数、攻撃的なプレー(死球など)、かんしゃく(口論、退場処分など)だ。そして数学的な監視システムを作って興味ある選手すべてに関する詳細な統計を見張り、だれかがステロイド剤を使っているかどうか、世間に知られるずっと前に信頼できる形で判定できる。」

薬物疑惑がある日本の相撲やオリンピックでもやったらどうだろうか。発見に成功したら話題になりそうだ(少なくともブログネタにはなるだろう、笑)。変化点検出の現実問題への応用は次のような分野に適用されているという。数学者とビジネスマンの接点には大きなビジネスチャンスがありそうだ。ITビジネスマンにおすすめ。

・医療モニタリング
・軍での利用(通信チャンネルの監視)
・環境保護
・電子観察システム
・犯罪活動容疑の監視
・公衆衛生監視(たとえばバイオテロ防衛)
・テロ防止

どれも人間には監視できないような圧倒的大量のデータの中に隠れた相関を発見して重大なカタストロフを事前に予測するものだ。そして数学者はこうした変化点の検出方法を発明するだけでなく、同時にその限界も数学的に証明したりしている。コンピュータが神の如くすべてを予見できる日は論理的に来ないようで、ほっとする。

巻末の訳者(代表は山形浩生氏)によるあとがきは、単なる訳者の立場を超えた本書の評論であり参考情報もたっぷりで、翻訳本に付加価値を高めている。

・NUMBERS 天才数学者の事件ファイル シーズン1 [DVD]
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・グラウンデッド・セオリー・アプローチ―理論を生みだすまで
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本来はフィールドワーク研究手法の本だがビジネスマンが読んでも学べる部分が多い。分析の方法がわからない現象をどうひも解いていくかの考え方が見えてくる。

質的研究とは現象に関しての先行研究の蓄積が少なく変数が把握されていないときに用いられる研究手法のこと。対象へのインタビューや参加観察、手記や自伝、手紙、カルテなどの資料の読み込みを通じて、背後にある概念を抽出し、概念同士の関係を解明して理論にする。内容分析、KJ法、現象学、マイクロ・エスノグラフィー、ナラティブ・アプローチなど質的研究手法と並んで有力な手法が本書のテーマ「グラウンデッド・セオリー」である。

「グラウンデッド・セオリー・アプローチは、データに基づいて(grounded)分析を進め、データから概念を抽出し、概念同士の関係づけによって研究領域に密着した理論を生成しようとする研究方法です。」

グラウンデッド・セオリー・アプローチには、データの読み込み → コーディング → 理論的飽和という3段階のプロセスがある。

1 データの読み込み
データをひとつずつじっくりと読む。文脈を重視する読みをまず試みる。そして切り分ける。文脈と切り離した切片化を行い客観的に眺めることも大切。

2 コーディング
まずオープン・コーディングで切り分けられたデータにその内容を表現する簡潔な名前(ラベル)をつける。このときラベルにはプロパティとディメンションという属性とその値の情報も付記する。たとえば「置物」というラベルに「重さ」というプロパティに23グラムというディメンション。「色」というプロパティに「赤」というディメンションがあるという具合。そして似たラベル同士をまとめてカテゴリーをつくる。ディメンション → プロパティ → ラベル → カテゴリーの順で抽象度が高くなっていく。

次のアクシャル・コーディングでは、カテゴリとサブカテゴリー(いつ、どこで、どんなふうに、なぜ、など)を関係づけて現象をあらわす。そしてセレクティブ・コーディングでは現象を幾つも集めてより大きい現象を説明する理論をつくる。パラダイムの構造抽出やカテゴリー関連図という技法が紹介されている。

3 理論的飽和
そしてすべての現象に説明がつくようになった状態が理論的飽和であり、研究の完成段階を意味する。

という流れで研究を進めていく。

この本はこうしたプロセスについての詳しい説明書である。各段階での考え方や工夫が照会されている。たとえば理論的サンプリングという方法がある。

「たとえば、経験の長いC医師の分析の後に、経験の浅い医師からデータを収集して両者を比較したり、C医師とアメリカの医師のデータを比較したり、成人のがん専門医からデータを収集して小児科医であるC医師のデータと比較するとおもしろそうだなどと考えて、データ収集をおこなうわけです。」

量的な研究ではタブーとも考えられる方法だが、事例が少なく分析の枠組みが定まっていないような分野ではこれが有効なわけだ。まずは仮説をうみだすことが理論化に向けて重要な一歩になる。

データを集めたけど次にこれどう分析しよう?というときに読む本である。ビジネスやマーケティングの分野でも有効な気がする。

「声」の秘密

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・「声」の秘密
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「現代は誰もが個人情報に過敏になっている。ハッカーやクッキーに神経をとがらせ、データを保護する対策を講じる。そのくせ、個人情報が声から漏れだしていることには驚くほど無頓着だ。口を開いてしゃべりはじめた瞬間から、声は怖いほどに私たちの情報を漏らしている。何を話すかは関係ない。下水処理に関する法律の条文を読みあげているだけでも、体や心がどういう状態にあるか、さらに社会的地位までが暴かれる。服のサイズ、身長、体重、体格、性別、年齢、職業。こうした情報はすべて声から読み取とることが可能だ。性的嗜好が見抜ける場合も少なくない。」

イギリス人ジャーナリストが、人間の声を生物学、心理学、社会学、文化人類学、ジェンダー学などの多彩な切り口から分析していく。声には全人類が共有する普遍的な部分もあれば、所属する社会や個性で大きく違う部分がある。

世界的な比較を行うと日本人女性ほど高い声で話す女性はまずいないそうだ。日本人女性が丁寧にしゃべる時の声は450ヘルツで、イギリス人女性の最高値320ヘルツと比べて異常なまでに高い。国際的には 日本人女性 > アメリカ人女性 > スウェーデン女性 > オランダ人女性という順だそうだ。理想の男性像と理想の女性像の差がないオランダ社会の女性たちは高い声を使わない。

日本女性は身体が小さいということもあるが、それ以上に最近まで女性には女性らしさが求められてきたからではないかと分析されている。男女の身体構造の違いに起因する高低差以上に、実際に男女が使っている声の差は大きい。男も女も文化的な理由で高い声や低い声を出しているのだ。

確かに私たち日本人は、若い女性が電話に出る時、はじめて同士で自己紹介するときなどは高い声を期待してしまう。女性が低い声だと不機嫌なのかなあと勘ぐってしまうくらいだ。男性の気をひく女性の声も、やはり高い声である必要がある、だろう。

楽器と同じように大きい構造からは低い音がでる。だから、攻撃的な男性は自分の体が大きいことを相手に知らせるために低い声を選ぶ。逆に服従する人間は高い声を出して自分を小さく見せる。「高い声イコール服従、低い声イコール攻撃」の生物進化論的な図式が文化にも反映されたのではないかと考えられている。

一方、幼児の話すリズムは「人間メトロノーム」があるのかと思えるくらい共通部分が多い。赤ん坊がバブバブ言う時は一つの音の長さが約0.35秒でどんな文化でも変わらない。子守唄のリズムやメロディは世界中で似ている。赤ん坊と母親が互いに注意を向けあうサイクル(赤ん坊が乳首を吸う長さなど)は世界中どこでも3秒から6秒である。

「母と子が言葉によらない声のやりとりをするとき、そのタイミングは大人同士の会話のタイミングと非常によく似ている。こういうやりとりが「原会話」と呼ばれるのも無理はない。赤ん坊は、言葉で話すようになるはるか前からリズムで話すのを覚える。」

そして、子どもが大きくなるにつれて次第に文化の影響を受けて声のコミュニケーション様式は各文化仕様に変化していく。声から個人情報が怖いほど読み取れるというのは、先天的な部分の共通度が高く、こうした後天的な部分で差が大きいからなのだろう。

この本ではこうした生物的な声、社会的な声の基本を論じた後、大統領、首相、独裁者の声の分析や、音声合成テクノロジーの進歩で声が盗まれる話とか、映画やテレビやパワーポイントが変えた声など、声に対していろいろな角度から迫っている。

・奇跡のハイトーンボイストレーニング―プログラムCD付き 高い声を手に入れる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/post-861.html

・日本人の声
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-839.html

・声のふしぎ百科 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/12/post-322.html

・7秒のイメージ・マジックであなたの声はもっとよくなる―相手を説得する、声の印象が変わる、気持ちが伝わる
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003015.html

・太陽系はここまでわかった
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太陽系についての一般向け科学読み物。太陽、水星、金星、地球と月、小惑星、木星、土星、天王星と海王星、冥王星とカイパーベルトについて一章ずつをあてて研究史と最新の知識がまとめられている。子供の頃、学研「宇宙のひみつ」に夢中になったが、これは大人向けの宇宙の秘密本。

・宇宙のひみつ(旧版)
http://arch-type.net/Himitsu/review/rev001od.html
私が読んだ旧版についての紹介ページ。現在は中身はまるごと改訂されている。

ここ30年の衛星による探査の成功によって、私の子供時代とは比べものにならないほど、太陽系の惑星や衛星については解明が進んでいた。そして宇宙を研究する新しい意義がみつかった。

たとえば太陽の黒点について興味深いデータが紹介されている。

「1861年から1989年までの気象観測所におけるデータから、黒点数と地球の北半球の年間平均気温との間に極めて高い関連性があることが分かっている。奇妙なことに、黒点サイクルの長さ(現在の測定値は平均10.8年だが、9.5年と11年のあいだで突発的に変動する)と年間平均気温のあいだにはさらに密接な関連性がある。サイクルが短いときは気温が低く、長いときには気温が高いのである。」

そして過去1万年間を通じて、70年前から今日までの期間が黒点活動が異常に強い時期であることも発見されている。つまり、地球温暖化は人類の活動によるCO2増加が原因などではなくて、ただ地球の気候変動がたまたまそういう時期だったからに過ぎない可能性がある。

もうひとつ重大な問題だと思ったのは地球に接近する小惑星の研究である。大きな小惑星が衝突すれば人類絶滅の危機になる。これ以上の大問題はないというくらい大きな問題だが、観察ネットワークの整備や研究は始まったばかり。衝突が不可避となったときの危機回避の手段が挙げられている。

・核爆弾で爆破する
・電磁誘導装置で軌道から押し出す
・アルミ箔でくるみ太陽風で軌道を変える
・小惑星の片側を黒く塗って熱エネルギーの効果で軌道を変える

どれもまるでSFのように思えるが、もしも高速に接近する小惑星が発見されたら、人類はこんな離れ業も実現しなくてはいけないわけである。できなければ滅びてしまう。

宇宙研究の予算は縮小傾向にあるが、こんなふうに宇宙を研究することで、地球温暖化の真の原因がわかったり、小惑星の衝突を回避することができるとしたら、いくらお金をつぎ込んだってよいではないか、と思った。

探査船や望遠鏡の技術の進歩によって天体の姿が明らかになってきている。本書の冒頭にもたくさんのカラー写真があったが、ここ数年で素晴らしい宇宙関連のビジュアル書籍も生まれている。以下の3つは秀逸だった。

・NHK VIDEO月周回衛星「かぐや」が見た月と地球 地球の出そして地球の入
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・火星からのメッセージ
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・惑星
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非線形科学

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・非線形科学
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非線形科学の国内第一人者による分野総括。プリゴジンの散逸構造に始まり、カオス、集団同期、引き込み現象、パターン形成、ゆらぎ、スケールフリーなどこの分野のキーワードを網羅している。一般向けに書かれているが難易度は高め。著者は分野を概観しただけでなく、非線形科学を「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」としてとらえる新しい科学的世界観を提示する。

私が学生だった90年代中頃に、非線形科学が自然と密接な関わりがあることを直感した瞬間があった。景観自動生成ソフトBryceの初期バージョンをいじったときだった。このソフトウェアは自然の壮大な景観をカオス・フラクタル理論を応用して緻密に描画する。高精細でレンダリングすると実写と見紛うほどのリアリティがある。それまでCGは自然描写が苦手と思っていたのに、人間の絵描き以上に本物っぽい景観や樹木が描けてしまうのだ。

・Bryce
http://www.daz3d.com/i.x/software/bryce/

神は細部に宿るというが、この種のCGにおいてはカオス、フラクタル理論こそ神の正体なのであった。こんな風に自然の見かけが二次元で再現できるなら、三次元の構造や仕組みだって近似に再現できるのではないかと直感したのを覚えている。同時になぜ陸地、海、雲、樹木など自然景観のいたるところにフラクタル構造があるのであろうか?と疑問に思った。

著者は非線形科学を、根本原理の根から経験世界の枝葉が伸びていく樹木状の体系としてとらえてはならないという。そうした通常科学の演繹的アプローチでは細部に宿る神を見失ってしまうからである。一見、無関係な事象の背景に、共通の非線形方程式が隠れているからだ。

「本書をここまでお読みになった方々はすでにおわかりかと思いますが、要素的実体にさかのぼることをしないで複雑な現象世界の中に踏みとどまり、まさにそのレベルで不変な構造の数々を見出すことは優に可能です。」

非線形科学では自然の多様な現象を述語としてとらえよという。

「「愛犬が走る」「マラソンランナーが走る」「新幹線が走る」というように「走る」ものの実体はさまざまです。「走る」という述語面にさまざまな主語が包まれるといってもよいでしょう。さまざまな実体が一つの述語的不変性によって互いにつながること、これはまさに非線形科学がカオスやフラクタルという概念を通じて、モノ的にはまったく異質なものを急接近させるという構造に酷似しています。たとえば、同期という現象は数理的に表現可能ですが、それは振り子時計にも、サーカディアン・リズムにも、ホタルの集団にも、心拍にも実現される不変の数理構造です。物質的な成り立ちを不問に付したまま、そこに進化発展の契機をもつ科学の一領域が成立するのです。」

実測の計算が不可能な非線形領域では、物質的な成り立ちを検証していては埒があかない。同じ述語を持つ主語を発見していくアプローチが必要になる。必然的に非線形の研究者は専門のたこつぼを出て、領域横断の視野を持たなければならなくなった。第一人者である著者の領域横断の視野の広さにこの本では圧倒された。

潜在的には線形科学よりも非線形の方が扱える対象は広いと考えられる。実験環境だけではなくて日常の現象をカバーできる。著者のいう述語的なアプローチは、将来的には科学の主流になることだってありえるかもしれない。「生きた自然に格別の関心を寄せる数理的な科学」の総括と展望を新書一冊で得ることができる。

・蔵本由紀教授 最終講義録
「非線形科学の形成 - その一断面」
http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/nonlinear/kuramoto-finallecture.pdf

・創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/04/post-70.html

・「複雑系」とは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/05/post-92.html

・SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003279.html