Books-Science: 2006年9月アーカイブ

・世界でもっとも美しい10の科学実験
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科学史において重要な役割を担った実験のうち、「美しさ」を基準に10個を取り上げて解説する。

・エラトステネスの地球の外周の長さを求める実験
・ガリレオがピサの斜塔で落下の法則を確認した実験
・ガリレオが慣性の法則を確認した実験
・ニュートンがプリズムで確認した光の分散の実験
・キャヴェンディッシュの万有引力定数を求める実験
・ヤングの光の干渉に関する実験
・フーコーの振り子による地球自転を確認する実験
・ミリカンが電気素量を求めた油滴実験
・ラザフォードが原子核を発見したα線の散乱実験
・ファインマンの量子力学に関する2重スリットの思考実験。

著者は雑誌「フィジックス・ワールド」で読者に、一番美しいと思う実験を挙げてくれるように頼んだ。300以上の実験が読者から推薦され、その中でも最も数が多かった10件が上のリストである。

著者は美しい実験が持つ要素を次のように定義した。

・深いこと
 結果が基本的であること
・効率的であること
 各部が経済的に組み合わされていること
・決定的であること
 結果として生じるのは実験にではなく、世界や理論へ、の疑いであること


美しい実験は、自然について深い事柄を明らかにし、しかも世界に関するわれわれの知識を塗り替えるようなかたちでそれを成し遂げる。

19世紀の物理学者マイケル・ファラデーはロウソクは美しいと言った。


ファラデーにとってロウソクが美しいのは、その機能がいくつもの普遍法則の上に、エレガントかつ効率的に成り立っているからだった。炎の熱はロウを溶かすが、その一方で上昇気流を生み出し、縁のほうのロウを冷ます。その結果として、融けたロウを溜めておくカップ状のものができる。そのカップの中で、ロウの表面は水平に保たれる。なぜなら、そこには「地球をひとまとまりにしているのと同じ重力」が働いているからだ。融けたロウは毛管現象によって、芯の根元のところにあるカップから上部の炎のところまで引き上げられる。一方、炎の熱のためにロウの中で化学反応が起こり、炎が燃え続ける。ロウソクの美しさは、ロウソクが依って立つ科学法則の入り組んだ働きと、法則同士を結び合わせる効率の高さにこそある、とファラデーは言うのである。

影の長さを測る、重いものと軽いものを同時に落として同時に落ちることを確認する、長いロープの先に錘をつけて垂らす。そんな簡単な実験をするだけで、地球の大きさや、物体の運動法則、地球の自転といった根源的なことがわかってしまう。

数式の美しさはよく言われることだが、一方、失敗や誤差も生じる実験は、美しくないものとされてきたと思う。著者はこうした風潮に対して、優れた実験は本当は美しいのだと、歴史上の傑作を例示して、説明して見せた。

・世界の終焉へのいくつものシナリオ
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核戦争、巨大隕石の衝突、インフルエンザ・パンデミック、気候の大変動、環境破壊、ナノテクノロジーの暴走など世界の終焉を科学する本。

「地球最後の日」を29通りのシナリオで描いている。

それぞれのシナリオで、
・いったい何が起きるか?
・それは過去に発生したことがあるか?
・それは現実に起こりうるか?
を分析する。

そして、発生する可能性、起きた場合のダメージ、危険度を10段階で評価している。29のシナリオは、科学技術の叛乱、戦火の火種、生態系の断末魔、気候の大変動、不測の天変地異の5つの章に分類されている。

この本の「世界の終焉」とは現代文明や、人類という種が回復不能なダメージを受けて、滅亡してしまう全滅状態を指す。新型インフルエンザの大流行や核戦争が起きる可能性はそれなりに高いし、数千万人や数億人の犠牲が発生するかもしれないのだが、全滅とまではいかないようだ。

これに対して、小惑星の衝突や、粒子加速器の実験の暴走によるブラックホールの生成などは全滅の可能性が高いが、発生する確率が極めて低い。また起きてしまった場合の対策手段もほとんどないに等しい。あまり心配しても意味がなさそうである。

世界の終焉シナリオには、自然が引き起こすものと、人間が引き起こすものがあるが、前者で危険性が高いのは「超火山の爆発」であった。地球の歴史上、最後の超火山の噴火は7万3500年前に起きており、3000〜6000立方キロメートルの噴出物が大気圏に吹き上げられ、太陽光の99%を6年間に渡って遮断した。この時期の人類はほとんどが死亡して、わずか数千人が生き延びることができたらしい。有名な場所としては、米国イエローストーン国立公園の火山が超火山にあたり、65万年周期で爆発している。そしてちょうど我々の生きている時代が前回から数えて65万年後にあたるという。

人為的な終焉として危険性が高いのは、環境汚染と生態系の破壊による、いくつかのシナリオである。実際、人類の歴史上、多数の文明がこうした原因で滅亡してきた。「大量消費と資本主義的な生活様式」が地球規模の持続可能性を破壊する最大の脅威であり、それに対しては、できることがあるはずだと著者は結論している。

世界の終わりを現実的に、科学的に考えるユニークな内容。

・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004210.html

・文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004218.html

・感染症は世界史を動かす
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004403.html

・インフルエンザ危機(クライシス)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004247.html

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