Books-Science: 2007年11月アーカイブ

・多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて
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「無からの宇宙創生」理論、「永久インフレーション」モデルの提唱者である物理学者アレックス・ビレンケンが書いた現代宇宙論。一般向けの本だが、ビッグバン、インフレーション理論、超ひも理論、人間原理、宇宙定数、暗黒物質など基礎的な事項は予備知識として知っていて、知識のアップデートを望む読者に特におすすめ。

「インフレーション理論では、内部的な視点から見ると島宇宙は無限に大きいので、それぞれの島宇宙はO領域を無限にたくさん含んでいます。また量子力学により、どんなO領域もそこで展開されるはずだという結論が避けようもなく出てきます。量子力学によれば、保存則によって厳密に禁止されないものはすべて、ゼロでない確率で起こります。そしてゼロでない確率を持っている歴史はすべて、無限個のO領域の中で起こるーあるいはもうすでに起こっているーのです。」(O領域は800億光年の巨大な球状の空間)

この多世界モデルは、条件分岐で世界が増殖していく平行世界モデルとは異なる。多世界モデルでは、あらゆる可能な世界が同じ大宇宙に実在している。観測可能なO領域としての世界同士が、あまりに遠いので互いにアクセスができないだけである。

まったく同じやほとんど同じ世界が二つあることもありえる。故に「永久インフレーションから導かれる世界観では、地球と私たちの文明は決して唯一無二のものではありません。そうではなく、無数の同一の文明が宇宙の無限の広がりの中に散在しているのです。人類の宇宙的な重要性といったものが微塵も認められなくなり、私たち人間の世界の中心からの退場は完了しました。」と、著者はなんだか嬉しそうに唯一性という価値を否定している。

つまり、人間はひとりではないどころか、あなたもひとりじゃないのである。

宇宙の観測データによる仮説の裏づけや量子力学寄りの新理論の登場によって、この10年という短い期間でも、宇宙論の論点や結論は変化していることがわかる。神話が宇宙を定義していた時代は何百年や何千年も不変だった宇宙論が、いまは世代ごとに科学の最前線としてコロコロと変わっているのだ。宇宙論は科学であると同時には哲学でもある。人間とは何なのか、私は誰なのかという存在論に、科学が常に揺さぶりをかけている時代だといえる。

そして宇宙論は科学であり、哲学であると同時に、フィクションの面白さがあるとこの本を読んで改めて思った。科学者たちは、それぞれが妄想したフィクションのリアリティを競い合っているようにも見える。宇宙論では最初は突飛で荒唐無稽と思われたアイデアが、古い仮説を覆してきた。

人間はまだ宇宙のほんの一部しか観測することができないので、宇宙論の仮説を検証し理論化するに当たっては、ローカルな宇宙で得られるデータから統計的に推論していくしかない。宇宙論には観測にもとづいた数値を代入する26もの定数があるため、純粋な理論からの演繹モデルはつくることができない。科学者たちが議論して、ローカル情報とすりあわせ、最もありがちな宇宙の姿として妥当ということに落ち着いた暫定モデルを更新していく。

理論的な矛盾がなく、いくら権威付けが行われても、今後の観測で、宇宙の果てにガムテープで補強の跡が見つかりましたなんてことにでもなれば、すべてのモデルは総崩れになる。ガムテープはないだろうが、ブラックホールやら暗黒物質など、ありそうにないものが実際に発見されてきた。この本のいう多世界モデルの、隣の世界がみつかっちゃいました、なんてこともあるかもしれない。

・ビッグバンの父の真実
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004784.html

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての“超ひも理論”―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html