Books-Science: 2010年10月アーカイブ

・群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法
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動物の群れがみせる知的な振る舞いを研究することで、人間の集団行動の原理をも解明しようとする、群衆の叡智の研究書。

アリ フェロモンの痕跡で巣から食物までの最短経路を探す
ミツバチ 8の字ダンスで偵察結果を伝えあい最適条件の家を探す
シロアリ スティグマジーで高度に複雑な建築を実現する
鳥 適応的模倣で群れが瞬時に最適の形で飛行する
バッタ 大量発生すると破壊と死の暴走現象を引き起こす

動物たちの達成は見事で、まるで群れに頭脳があるかのように思える。だが個体の動きを見ていくと極めて単純なルールでしかない。動物たちの群れは個々のルールを知っていても全体を予想できないという点が共通している。この本はオバカな個体の集団がすごい成果を生みだす秘密を探る旅である。

たとえばシロアリは個体同士がコミュニケーションをするのではなく、造っている構造物を通じて互いの行動に影響を与えている。他のアリが土くれをつみあげているのを見ると周囲のアリもそれに倣う。ある高さにまで柱のように積まれると、近くにある柱とつなぐような動きに変わり、結果としてアーチ構造の建築が実現される。動物たちの行動パターンにはこうした間接的協働が多くみられる。

人間の組織でいえば、全体のプロセスがうまくできていれば、会議などしなくてもうまくいくということだろう。組織の生産性を考える時、我々は直接コミュニケーションだけでなく、他のメンバーのやっていることへの反応も見直すべきなのだろう。だらだら残業する人がいるとみんなそうなるというのはよくある会社のパターンだ。

動物の群れが群衆の叡智を発言する時の条件が整理されている。

1 ローカルな知識を重視すること(情報の多様性を維持する)
2 単純なルールを適用すること(複雑な計算の必要性をなくす)
3 メンバー間で相互作用を繰り返すこと(ささやかだが重要なシグナルを増幅し、意思決定を迅速化する)
4 定足数を設定する(意思決定の精度を高める)
5 個々のメンバーの行動に適度なでたらめさを残す(集団が常に型どおりに解決策を選ぶのを防ぐ)

俗に"頭脳集団"という言葉があるが、現実には全員が頭脳だと組織としてのアウトプットは期待されるほどのものにならないことが多いように思う。むしろ天才がいなくても、全体として天才が指揮しているかのような組織を設計することが重要なのだ。群れの科学はネットワークとも親和性が高い。これから面白くなりそうな分野である。気になる人は、まずこれを読んでおくといいのでは。