Books-Science: 2010年11月アーカイブ

・生命壱号 おそろしく単純な生命モデル
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この本の「おそろしく単純な生命モデル」という副題は一般向けの書籍としてはウソである。概念の発明者である著者にとっては単純なのかもしれないが、多くの読者にとっては相当に難解なモデルだと感じられるはずだ。しかし、難解であっても生命の本質を探る探究は面白い。

「自動掃除ロボットがプログラム上想定外だった猫を、一個の対象として記号化し、対処できるかということだ。世界の事物を適宜、カテゴリー化し、分類して名づけ、記号をつくる営為は、極めて知的な活動の賜物であり、言語的な創造を意味するものだ。外部環境と入出力を通してやりとりできる計算機であり、自ら運動して様々な外部刺激を受け取れる機能をもつと想定される機械、人工的エージェントに、果たしてここまで知的な活動が可能なのか。」

外部から刺激を受けて状態を変える機械=オートマトンのコンピュータ・シミュレーションとしてモデルは示される。生命壱号とはあるパターンで運動するアメーバみたいなものである。

「境界と内部状態、外部の空状態、この三つの状態のみから構成される格子空間において、境界格子から「空」侵入点を選び、「空」を通過させる。境界と内部状態から構成される集合体は、「空」の通過を通して、変形と移動を繰り返す。このとき「空」は、自らの経路を記憶し、それを避けながら、集合体を通過する。生命壱号の基本的機構はこれだけだ。」

生命活動には認知と知覚、進化、運動、個体発生など説明しなければならない事象が多くあるが、これらをタイプ(一般的概念)とトークン(個別的具体例)の両義性というアイデアで突破していくのが生命壱号モデルである。ライフゲームの格子の境界線に魔法をかけたようなイメージ。ラフ集合理論を使った数学的な検証部分は私にはちょっと難しかった。

認識と存在の哲学に強い関心があって、かつ、創発、オートポイエーシス、アフォーダンス、ライフゲームなどのキーワードがヒットする人向け。