Books-Science: 2012年3月アーカイブ

・ざっくりわかる宇宙論
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前半はコペルニクス、ガリレオからアインシュタインまでの古典的宇宙論、後半は超ひも理論、ブレーン宇宙までの現代の宇宙論。数式はなしで、科学好きの一般読者のために書かれた入門書。

ビッグバンは宇宙のはじまりではなく、その前には量子宇宙があり、インフレーションが起きてビッグバンに至ったというのが定説になろうとしている。量子宇宙のはじまりにおいては時間が存在しないので、その「前」はない。こんな風に宇宙のはじまりを明解に説明してくれる。

著者は古典的宇宙論から現代の宇宙論への流れを「モノからコトへ」ととらえている。

「思想という側面から忘れてはならないのが、モノからコトへ、という大きな流れでしょう。コペルニクスの「天球」にあらわれているようなモノとしての時空は、まるで触って固さを確かめられそうな気がします。それに対して、光でさえ曲げてしまう、時空のゆがみというアインシュタインの発想は、完全にコト的だといえるでしょう。」

宇宙論は数学であると同時にほとんど哲学である。特に現代宇宙論はコトばかりで話が進んでいく。運がよけえれば何十年もしてからモノとして検証される。そしてコトの想像力の次元はどんどん高くなっていく。超ひもやブレーン(膜)理論は、その命名からして、ひもや膜というモノとしてとらえようという意図があるわけだが、その正体はメタファーではとらえきれない高次の概念である。だからこそ、本書みたいに、ざっくりわかる解説は大切だ。

「この宇宙にたくさんあるブラックホールが、じつは、すべて小さな宇宙の始まりではないか?」「ブラックホールを裏側から見ると、それはどんどん広がっていく宇宙なのではないか」という仮説が紹介されていた。実は超ひももブラックホールだという学者もいるらしい。私の子供時代にはなんでも飲み込んでしまう大穴として、閑話休題的に教えられた存在が、実は宇宙の本質かもしれないということになっている。20年とか30年で宇宙論は書き換えられていく。おもいのほか動きが速い。

・ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか
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NHKの同名の番組がとても素晴らしかった。全4回で人間が人間的である理由について探究するドキュメンタリ。考古学・人類学・動物学・脳科学・心理学などの最新成果を総合して、人間性や社会性の起源を明らかにしていく内容だった。近日DVDでも出るだろう。

・ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか
http://www.nhk.or.jp/special/onair/human.html

これはその書籍版。4部構成の番組の流れはほぼそのままに、研究の詳細、取材過程でのエピソードを加えて、文字で深く知ることができる内容になっている。

脳の進化が心の進化につながり、心の進化が社会の進化へと影響を及ぼしていく。キーワードは交換、飛び道具、農業、貨幣。どれも人間にしか見られない事象であり、複雑な心が発達していないと成立しないものであるということを、毎回、少し意外な展開を交えて明らかにしていくプロセスが面白い。

人間社会の複雑さは心の複雑さの反映なのだ。研究によるとチンパンジーにも喜怒哀楽があるが、うらむ、ねたむ、恥じる、ひがむ、のろうといった自他の差の認識に起因する感情はないのだそうだ。人間はやたらと自分と他者の違いに対し感受性が強い。良い面も悪い面も屈折する心から生じている。

ちょっと意外だったのが信頼に基づく協力の起源である。人類の狩猟採集時代は平等な社会であり、分かち合いが当然である時代が何万年もあったらしい。原始時代というと弱肉強食をイメージしてしまうが、逆であり、助け合わなければ非力な人間は生きていくことがままならなかったのだ。農業が発達し、富の畜性が始まり、貨幣制度ができたからこそ、利己的な人間が存在できるようになった。人間と言うのは本来的には人間的なのだ。進化することで非人間的になってしまったのだ。

衣食足りて礼を知るという言葉は疑ってみる必要がる言葉なのかもしれないなと、この番組を見ていて思った。