Books-Sociology: 2005年12月アーカイブ

・もうひとつの愛を哲学する―ステイタスの不安
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ドイツのフィナンシャルタイムス紙 年間最優秀経済書受賞作品。

大人の人生はすべて、二つのラブストーリーで決まる。第一は性的な愛の探求の物語。もうひとつは世間からの愛=ステイタスの物語。他者に認められたいという思いは、組織中心の時代になって、一層、一般的で、切実なものになってきた。

米国の労働者のうち、他人に雇われている人間の比率は、1800年には20%だったものが、1900年までに50%になり、2000年までに90%に達したという。500人以上の組織に所属する人間の比率は1900年には1%だったのに対して、2000年には55%に達した。大きな会社組織の中で、一定のステイタスを得たい人間が過半数を占めることになった。それは希望の裏返しとしての、ステイタスの不安に悩む人々の社会になったということでもある。

「勝ち組」「負け組」という言葉もステイタスの不安が生んだ言葉だろう。能力主義社会は、富めるものは役に立つものであり、貧しいものは愚かで役に立たないものだという価値観を人々に押しつける。古代では腕力が強い人間が勝ち組で、弱い人間は負け組であった。いかにキリストの正統な教えに近いかが社会的地位を決めた時代もあった。

ステイタスの不安の根源は、そうした時代状況や権力関係がつくりだす画一的な価値観にある。この本では、近代以降の社会における、ステイタスの不安と超越の歴史が語られる。世間からの愛を感じる、その感受性を変えることで、人はもっと自由に生きることができると説く。


ステイタスの不安の成熟した解決は、ステイタスとはさまざまに異なる観衆から受け取ることができるものだと認識するところから始まるーーー産業資本家からも、ボヘミアンからも、家族からも、哲学者からも。そして誰を観衆に選ぶかは、わたしたちの自由だし、わたしたちが欲するままだと認識するところから始まる。

哲学、芸術、政治、宗教、ボヘミアの5つの分野で、人々がいかにオルタナティブな価値観や生活経済の基盤をつくり、ステイタスの不安を超越してきたかが、後半の主要テーマとなっている。これらの分野では大衆に認められずとも、既成の価値観に対して、批判的価値観のヒエラルキーを打ちたて、独自の社会的ピラミッドの中に生きることを選んだ人たちがいる。

プライドを持って生きること、少数でも尊敬しあえる人間関係を築くこと、金銭的報酬以外の報酬で豊かなライフスタイルを形成すること。愛を求める観衆を誰にするか、理想とする価値観は何か、を自分なりにとらえなおすことで、人はもっと幸福で満ち足りた社会関係をつくりだせるはずだというのが著者の結論である。

たとえばその「観衆」がブログやメールマガジンの読者だっていいはずだ、と思う。インターネットで個人の情報発信が盛んな理由、オープンソースプロジェクトに腕のあるプログラマが好き好んで参加する理由、ソーシャルネットワークで日記を書くのが楽しい理由。そうした行為の多くは、この本が語るもうひとつの愛の物語と関係が深そうな気がしている。

・世間の目
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002046.html

・人に言えない仕事はなぜ儲かるのか?
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裏稼業の暴露本のようなタイトルだが、内容は税制、税金対策についての本である。つまり、税金を払わない、ごまかせる、水面下のビジネスはとにかく儲かるという話につながる。

一般にはあまり知られていない商売の裏側もでてくる。


なぜソープランドの経営は違法なのに堂々と営業できるのだろうか?じつはソープランド業界には、売春防止法をクリアするための巧妙な建前がある。

その建前とは、自分たちが営業しているのは、高級感あふれる「お風呂屋さん」で、店にくるお客さんは入浴料を払って、ゴージャスな入浴を楽しんでいるだけという理屈だ。

個室のなかで、何かいかがわしい行為があっても、それは自分たちの知らないお姉さんがお店の中に勝手に入ってきて、お客さんと自由恋愛をしているのであって、自分たちの営業とはなんら関わりがない。

ソープランドは自由恋愛の場であると言う建前を知って衝撃である。

風俗にせよ、違法ドラッグにせよ、ニセモノ販売にせよ、多くのアンダーグラウンドビジネスは、禁止する法律があるから市場が形成されているのだと著者は指摘している。麻薬が合法化されているオランダでは、日本では闇市場で価格が高騰している薬が、お小遣い程度の価格で買えるそうだ。禁止する法がなければ需要と供給の市場メカニズムに従って生産と流通が増え、価格は安くなる。禁止が背後で誰かを儲けさせている。

裏稼業の中で、私が気になっていると同時に迷惑を蒙っているのは、毎日何百通も受けとるスパムメールのビジネスである。この内情については、オライリーがドキュメンタリ本を出している。

・スパマーを追いかけろ―スパムメールビジネスの裏側
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メールは送るのはタダなので、1万通に1通、10万通に1通でも反応があれば、広告ビジネスとして成り立ってしまう、と言われていた。だが、スパム業者の数も増えてきた。そろそろ反応率も100万分の1だとかになってしまうのではないか。スパム業者も採算割れを起こしてはいないだろうか。これに対して、カタギには、アンチスパムソフトの市場があってスパム増大に伴い、大きくなっている。

すると、ふとこんなことを考える。

スパム業者とアンチスパム業者、どちらが儲かっているのだろうか?

もしかして既に、後者ではないか?

税金対策にせよ、裏稼業にせよ、対策ビジネスにせよ、立ち回り方の才覚一つで儲けが決まる。人に言えない仕事も、言える仕事も、儲けるには創意工夫なんだよという妙な教訓を得た一冊であった。